“し”のいろいろな漢字の書き方と例文
カタカナ:シ
語句割合
知12.4%
強10.9%
死7.5%
沁6.4%
如4.6%
識4.3%
布3.1%
閉2.9%
染2.7%
為2.7%
占2.6%
浸2.4%
緊2.3%
敷2.2%
締2.0%
滲1.9%
若1.5%
叱1.4%
仕1.4%
報1.3%
泌1.1%
絞1.0%
痴0.9%
子0.9%
誣0.8%
爲0.8%
凍0.8%
〆0.8%
詩0.7%
然0.7%
而0.7%
士0.6%
氏0.5%
肢0.5%
刺0.5%
尻0.5%
確0.5%
矢0.4%
藉0.4%
師0.4%
湿0.4%
資0.4%
市0.3%
盲0.3%
四0.3%
縊0.3%
枝0.3%
爾0.2%
入0.2%
鋪0.2%
著0.2%
梓0.2%
聾0.2%
使0.1%
轢0.1%
舗0.1%
施0.1%
治0.1%
做0.1%
貲0.1%
史0.1%
演0.1%
下0.1%
領0.1%
食0.1%
繁0.1%
私0.1%
紙0.1%
志0.1%
駟0.1%
屍0.1%
自0.1%
己0.1%
白0.1%
糸0.1%
衆0.1%
指0.1%
執0.1%
搾0.1%
紫0.1%
賜0.1%
殺0.1%
支0.1%
贄0.1%
嗣0.1%
尸0.1%
及0.1%
濕0.1%
其0.1%
詞0.1%
之0.1%
尿0.1%
撓0.1%
致0.1%
荒0.1%
記0.1%
試0.1%
重0.0%
併0.0%
好0.0%
悟0.0%
癡0.0%
祠0.0%
了0.0%
暴0.0%
静0.0%
司0.0%
吝0.0%
垂0.0%
姉0.0%
扼0.0%
標0.0%
汚0.0%
泗0.0%
渋0.0%
濡0.0%
肆0.0%
脂0.0%
萎0.0%
視0.0%
豕0.0%
靜0.0%
頻0.0%
旨0.0%
暫0.0%
告0.0%
幟0.0%
彊0.0%
摯0.0%
獅0.0%
退0.0%
す0.0%
せ0.0%
ヶ敷0.0%
一詩0.0%
令0.0%
似0.0%
作0.0%
侈0.0%
信0.0%
兆0.0%
凋0.0%
凌0.0%
加0.0%
勤0.0%
咫0.0%
嗜0.0%
嘴0.0%
巳0.0%
延0.0%
弑0.0%
引0.0%
弛0.0%
後0.0%
思0.0%
恣0.0%
惘0.0%
成0.0%
抱0.0%
拖0.0%
掌0.0%
擁0.0%
攄0.0%
數0.0%
斯0.0%
時0.0%
森0.0%
検0.0%
此0.0%
歯0.0%
沈0.0%
沾0.0%
泓0.0%
消0.0%
淄0.0%
渗0.0%
溺0.0%
滲染0.0%
獅子0.0%
甃0.0%
疵0.0%
痺0.0%
瞽0.0%
知道0.0%
示0.0%
祗0.0%
祝0.0%
禁0.0%
窄0.0%
籍0.0%
粛0.0%
結0.0%
縛0.0%
羊蹄0.0%
股0.0%
至0.0%
茂0.0%
蓍0.0%
虒0.0%
行0.0%
覺0.0%
誌0.0%
諡0.0%
起0.0%
趾0.0%
(注) 作品の中でふりがなが振られた語句のみを対象としているため、一般的な用法や使用頻度とは異なる場合があります。
なんでも夜中(よなか)すぎになると、天子(てんし)さまのおやすみになる紫宸殿(ししいでん)のお屋根(やね)の上になんとも知(し)れない気味(きみ)の悪(わる)い声(こえ)で鳴(な)くものがあります。
鵺 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
そのうえ強(し)いることはあるまいと思っていると、そのけったいな男が、突然きょろきょろと四方(あたり)を見廻して、落着かないこと夥(おびただ)しい。
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
けれども、グレーテルはどんどんかけていきました。こうして、ばちあたりの魔法使(まほうつか)いは、むごたらしく焼(や)け死(し)んでしまったのです。
と停車場(ステエション)の後(うしろ)は、突然(いきなり)荒寺の裏へ入った形で、芬(ぷん)と身に沁(し)みる木(こ)の葉の匂(におい)、鳥の羽で撫(な)でられるように、さらさらと——袖が鳴った。
唄立山心中一曲 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ここに於て佐志木作右衛門は、千束島の山善左衛門等と図(はか)ったが、結局坐(い)ながら藩兵に攻められるより兵を挙ぐるに如(し)かずとなった。
島原の乱 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
一撃に敵を打ち倒すことには何の痛痒(つうよう)も感じない代りに、知(し)らず識(し)らず友人を傷つけることには児女に似た恐怖を感ずるものである。
侏儒の言葉 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
嫡男信忠(年十九)は河尻秀隆を従えて、矢部村勅養寺附近の天神山に、次男北畠信雄は稲葉一徹属して御堂山に、夫々陣を布(し)いた。
長篠合戦 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
「いつのまに、こんなに早(はや)く時間(じかん)がたったろう。」と、つぶやきながら、例(れい)のレストランの前(まえ)へくると、もう店(みせ)は閉(し)まっていました。
世の中へ出る子供たち (新字新仮名) / 小川未明(著)
春は水嵩(みずかさ)も豊(ゆたか)で、両岸に咲く一重桜の花の反映の薄べに色に淵は染(し)んでも、瀬々の白波(しらなみ)はます/\冴(さ)えて、こまかい荒波を立てゝゐる。
川 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
此の婚礼に就いて在所の者が、先住の例(ためし)を引いて不吉(ふきつ)な噂を立てるので、豪気(がうき)な新住(しんじう)は境内(けいだい)の暗い竹籔(たけやぶ)を切払(きりはら)つて桑畑に為(し)て了(しま)つた。
蓬生 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
つまり河流(かりゆう)と上汐(あげしほ)とが河口(かこう)で暫時(ざんじ)戰(たゝか)つて、遂(つひ)に上汐(あげしほ)が勝(かち)を占(し)め、海水(かいすい)の壁(かべ)を築(きづ)きながらそれが上流(じようりゆう)に向(むか)つて勢(いきほひ)よく進行(しんこう)するのである。
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
繃帶(ほうたい)が乾(かわ)いて居(を)れば五六日(にち)は棄(す)てゝ置(お)いても好(い)いが、液汁(みづ)が浸(し)み出(だ)すやうならば明日(あす)にも直(すぐ)に來(く)るやうにと醫者(いしや)はいつたのであるが
土 (旧字旧仮名) / 長塚節(著)
ところが案外、いい加減に聞いていられないことをいい出しそうなので、急に女のような優しくて厚い唇が、難しく大きく緊(し)まった。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
油断(ゆだん)をしているうちに、達二(たつじ)はいきなり山男に足を捉(つか)まいて倒(たお)されました。山男は達二を組み敷(し)いて、刀を取(と)り上げてしまいました。
種山ヶ原 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
其跡(そのあと)へ入違(いれちが)つて来(き)たのは、織色(おりいろ)の羽織(はおり)、結城博多(ゆうきはかた)の五本手(ほんて)の衣服(きもの)に茶博多(ちやはかた)の帯(おび)を締(し)めました人物、年齢四十五六になる品(ひん)の好(よ)い男(をとこ)。客
世辞屋 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
今までの怖ろしかった心が、だんだんに消えて行って、水の肌に滲(し)み込む気持が何とも言えぬ清々(すがすが)しさになってゆくのでありました。
大菩薩峠:05 龍神の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
今(いま)ぞ廿日(はつか)の月(つき)面(おも)かげ霞(かす)んで、さし昇(のぼ)る庭(には)に木立(こだち)おぼろおぼろと暗(くら)く、似(に)たりや孤徽殿(こきでん)の細殿口(ほそどのぐち)、敏(さとし)が爲(ため)には若(し)くものもなき時(とき)ぞかし。
暁月夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
あゝ何(なに)も御存(ごぞん)じなしに彼(あ)のやうに喜(よろこ)んでお出遊(いであそ)ばす物(もの)を、何(ど)の顏(かほ)さげて離縁状(りゑんじよう)もらふて下(くだ)されと言(い)はれた物(もの)か、叱(し)かられるは必定(ひつぢよう)
十三夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
吾々三人馬車に乗り頓(やが)て其ビヽエン街に達しますと藻西太郎は丁度夕飯を初める所で妻と共に店の次の間で席に就(つこ)うと仕(し)て居ました
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
これを tick-tack といって、その場になって刻々移る一般の人気によって激しく上下する馬金率を報(し)らせあっているのだ。
いい芳香(におい)が臓腑(はらわた)のドン底まで泌(し)み渡りましたよ。そうなると香水だか肌の香(におい)だか解かれあしません。おまけにハッキリした日本語で
人間腸詰 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「わが夫の神よ、それではこのしかえしに、日本じゅうの人を一日に千人ずつ絞(し)め殺してゆきますから、そう思っていらっしゃいまし」
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
彼女は、二つの世界の境界を、はっきりとまたぎ越えて、やがて訪れるであろう恋愛の世界に、身も世もなく酔い痴(し)れるのだった。
紅毛傾城 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
殘念(ざんねん)でならぬので、自分(じぶん)の持場(もちば)を一生懸命(しやうけんめい)に掘(ほ)つたけれど、何(なに)も出(で)ない。幻子(げんし)の大成功(だいせいかう)に引替(ひきか)へて大失敗(だいしつぱい)。活(くわつ)望(ぼう)二子(し)も茫然(ばうぜん)として了(しま)つた。
「罪ありと我を誣(し)いるか。何をあかしに、何の罪を数えんとはする。詐(いつわ)りは天も照覧あれ」と繊(ほそ)き手を抜け出でよと空高く挙げる。
薤露行 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
『もう爲(し)ないから、萬望(どうぞ)話(はな)して頂戴(ちやうだい)な』と愛(あい)ちやんは極(ご)く謙遜(けんそん)して、『二度(ど)と喙(くち)を容(い)れないわ。屹度(きつと)そんな井戸(ゐど)が一(ひと)つ位(くらゐ)あつてよ』
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
初枝は十二の冬、村の小学校への行きがけに、凍(し)みついた雪の上に誰かに突き転がされて、それがもとで今の脊髄炎(せきずいえん)を患ったのだった。
菜穂子 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
先刻グロテスクだと思った彼の手を堅く握り〆(し)めて、今更のように肩幅の広い、厳丈なこの山人の体を頼もしげに見詰めたのであります。
案内人風景 (新字新仮名) / 百瀬慎太郎、黒部溯郎(著)
丘(おか)の上に立って、うつくしい村をながめては、歌にうたい、牧場(まきば)にいって、やさしいひつじのむれをながめては、詩(し)をかくのがつねでした。
丘の銅像 (新字新仮名) / 新美南吉(著)
これも何者かに命ぜられて然(し)かく寐(ね)入つて居るらしい、起してはならないやうに思はれ、アヽ復(また)横になつて、足を屈(かが)めて、目を塞(ふさ)いだ。
処方秘箋 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
問の漠然たるが如くに答もまた漠然たるを失わぬけれども、而(し)かも漠然たる大掴みの語の中に皭然(しゃくぜん)として滓(くろな)すべからざる真理が存する。
永久平和の先決問題 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
(七九)閭巷(りよかう)の人(ひと)、行(おこなひ)を砥(と)ぎ名(な)を立(た)てんと欲(ほつ)する者(もの)は、(八〇)青雲(せいうん)の士(し)に附(つ)くに非(あら)ずんば、惡(いづく)んぞ能(よ)く(名ヲ)後世(こうせい)に施(し)かん哉(や)。
然(しか)しその時(とき)の周圍(しうゐ)の事情(じじやう)は、病人(びやうにん)をK氏(し)の家(うち)に臥(ね)かして置(お)く事(こと)を許(ゆる)さないので、直(す)ぐに何處(どこ)へか入院(にふゐん)させなければならなかつた。
彼女こゝに眠る (旧字旧仮名) / 若杉鳥子(著)
ふっくら豊頬(ほうきょう)な面だちであるが、やはり父義朝に似て、長面(ながおもて)のほうであった。一体に源家の人々は、四肢(し)逞(たくま)しく、尖(とが)り骨で顔が長い。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
刺(し)を通(つう)じると、田舎(いなか)者らしい小女(こおんな)の取次で、洋館の方の応接間へ案内されたが、そこには静子が、ただならぬ様子で待構えていた。
陰獣 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「くそうッ、切支丹族のやつなんかに、高麗村の者がおそれていてたまるものか。ちゃんは臆病だから、尻(し)ッ尾(ぽ)をまいて逃げて来たんだろう」
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
碧色の瞳は何処と信って確(し)っかり見詰めないような平静な光りを漾(ただ)よわせて居る。が、時折り突き入るように尖(とが)ってきらめくこともある。
決闘場 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
「貴公の一矢(し)がなければ、鄧賢(とうけん)のために討たれていたかも知れない。つつしんで高恩を謝します」と、ひざまずいて頓首した。
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼は倚凭(よりかか)って眺め入っていた田圃(たんぼ)の側(わき)だの、藉(し)いていた草だの、それから岡を過(よぎ)る旅人の群などを胸に浮べながら帰って来た。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
司馬穰苴(しばじやうしよ)は田完(でんくわん)の(一)苗裔(べうえい)也(なり)。齊(せい)の景公(けいこう)の時(とき)、晉(しん)は(二)阿(あ)・甄(けん)を伐(う)ち、而(しかう)して燕(えん)は(三)河上(かじやう)を侵(をか)し、齊(せい)の師(し)敗績(はいせき)せり。景公(けいこう)之(これ)を患(うれ)ふ。
そうしている間も、ちょっと油断すると、秋草のしとどな露に、火縄は消してしまうし、弾薬は湿(し)めらしてしまう。
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
其(そ)の愛(あい)する所(ところ)((ノ人))を論(ろん)ずれば則(すなは)ち以(もつ)て(七五)資(し)を借(か)るとせられ、其(そ)の憎(にく)む所(ところ)((ノ人))を論(ろん)ずれば、則(すなは)ち以(もつ)て己(おのれ)を嘗(こころ)むとせらる。
然(しか)し今日(こんにち)の所(ところ)では病院(びやうゐん)は、確(たしか)に市(し)の資力(ちから)以上(いじやう)の贅澤(ぜいたく)に爲(な)つてゐるので、餘計(よけい)な建物(たてもの)、餘計(よけい)な役(やく)などで隨分(ずゐぶん)費用(ひよう)も多(おほ)く費(つか)つてゐるのです。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
彼等が人々を折檻(せつかん)する時に、人々は無上の快楽を感ずるなり、我眼(わがめ)曇れるか、彼等の眼盲(し)ひたる乎(か)、之を断ずる者は誰ぞ。
我牢獄 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
そうして、越中守がよろめきながら、とうとう、四(し)の間(ま)の縁に仆(たお)れてしまうと、脇差(わきざし)をそこへ捨てたなり、慌ててどこか見えなくなってしまった。
忠義 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
洋傘(かうもりがさ)は二本あつても、一本を高田氏に呉れてやつたら事は済む。「真理」が二つあつたら、博士は首を縊(し)めなければならなかつたらう。
僕はつねに思う、一枝(し)の花のなかに千種の花を見えぬ者は花を語るに足らぬと。すなわち理想を論ずる者は一の中に千万の数を読むを要する。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
当時政治の局に当りし人々は皆旧思想を有するもののみで、爾(し)かもその企つるところの事業はことごとく皆新智識を要する事業のみであった。
東洋学人を懐う (新字新仮名) / 大隈重信(著)
いつも置いているのでありますが、その素焼のよごれた壺は、五月雨の降る暗い日などことに心に入(し)みて眺められます。
俳句の作りよう (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
下には黄金色(きんいろ)をした磚(かわら)を鋪(し)いてすこしの塵もなかった。老嫗は青年を伴れて遊廊(かいろう)を通って往った。遊廊の欄干も皆宝石であった。
賈后と小吏 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
此春より引きも切らぬ文の、此の二十日計りはそよとだに音なきは、言はでも著(し)るき、空(あだ)なる戀と思ひ絶えしにあんなれ。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
彼の高厳荘重なるミルトンまでも一度は此轍(このてつ)を履(ふま)んとし、嶢※(げうかく)豪逸なるカーライルさへ死後に遺筆を梓(し)するに至りて、合歓団欒(だんらん)ならざりし醜を発見せられぬ。
厭世詩家と女性 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
今われわれの喚問(コール)に最初に答えたこの愛すべき先覚者、国民全体の触覚ともいうべき聡明叡知(そうめいえいち)なる青年の哀願に、聾(し)いたる耳を向けるということは
船医の立場 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
大戦いらいの出費に次ぐ出費から、幕府としてもムリは承知で諸国へ苛烈な追徴の使(し)をのべつ派遣していたところなのだった。
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「これは迷子札よ。いつどこでぶッくらけえっても、死骸だけはジープにも轢(し)かれずに戻って来るようにというわけ。人間もこうなっちゃおしまいだ。おい、なにか出さないか」
三界万霊塔 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
「大名同盟」の右派綱領にことごとく反対して福沢のいわゆる「モナルキ」のために着々道を舗(し)きつつあった。
福沢諭吉 (新字新仮名) / 服部之総(著)
(七九)閭巷(りよかう)の人(ひと)、行(おこなひ)を砥(と)ぎ名(な)を立(た)てんと欲(ほつ)する者(もの)は、(八〇)青雲(せいうん)の士(し)に附(つ)くに非(あら)ずんば、惡(いづく)んぞ能(よ)く(名ヲ)後世(こうせい)に施(し)かん哉(や)。
八絃(やつを)の琴を調(しら)べたるごと六、天の下治(し)らし給(た)びし、伊耶本和氣(いざほわけ)の天皇七の御子、市の邊の押齒の王(みこ)の、奴(やつこ)、御末(みすゑ)八。
「フフンそんなに宜きゃア慈母(おッか)さんお做(し)なさいな。人が厭だというものを好々(いいいい)ッて、可笑しな慈母さんだよ」
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
義侠の巴山人奮然意を決してまづわれら木曜会の気勢を揚げしめんがために貲(し)を投じ美育社なるものを興し月刊雑誌『饒舌(じょうぜつ)』を発行したり。
書かでもの記 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
史(し)には、文武天皇の大宝元年(西暦七〇一年)が始めとみえる。禁廷(きんてい)で、左右の衛府(えふ)の人びとだけでやったものらしい。それも五月の節会(せちえ)だけに。
……処が中日(なかび)を過ぎた或る日のこと、そのキツカケが来ても「浪子」から「伯母」を呼ぶ声がしない、何か新狂言をするのか? と、「加藤夫人」を演(し)て居たものは
癖 (新字旧仮名) / 喜多村緑郎(著)
甥(おい)に代筆を頼もうと思ったが、せっかくあげるのに自分でかかなくっちゃ、坊っちゃんに済まないと思って、わざわざ下(し)たがきを一返して、それから清書をした。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
さうさうと空揺りとよむ走り火の炎の幅は山を領(し)らせり
風隠集 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
時に兄の利吒(りた)は托鉢(たくはつ)なして食(し)を得んと城中(まち)に入りしが、生憎(あやにく)布施するものもなかりければ空鉢(くうはつ)をもて還(かえ)らんとしけるが、途(みち)にて弟に行遇(ゆきあ)ひたり。
印度の古話 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
蝉時雨ながらふ聽けば母の手の冷(つめ)たき手觸(たふ)り繁(し)みにおもほゆ
白南風 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
私(し)に於ても誠実が物を言う。僕は同僚との折合(おりあい)が好い。喧嘩をして却(かえ)って別懇(べっこん)になったのもある。一杯飲んで胸襟(きょうきん)を開くと皆うい奴(やつ)だ。渡る世間に鬼はないという諺は豪(えら)い。
ロマンスと縁談 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
ところが、そのとき、兄(にい)さんの三之助(さんのすけ)が、ほご紙(し)(ものをかきそこなって、不用(ふよう)になった紙(かみ))を部屋(へや)いっぱいにひろげて、整理(せいり)をしていました。
木下君も来た、金子さんや真鍋さんも来てくれた。杉浦さんが学校の毛布を持って来てくれてその上へねかされた。そのうちに志(し)んがやって来た。
病中記 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
沈黙を守るに若(し)かず、無用の言を吐くと駟(し)も舌に及ばずで、忽(たちま)ち不測の害をかもすことになる、注意すべきは言葉であるという道徳の箴言(しんげん)に類した句である。
俳句はかく解しかく味う (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
半日の合戦に八百八屍(し)の死骸を積み、張飛のことを、八百八屍将軍と綽名(あだな)して、黄匪(こうひ)を戦慄させたという勇名のある漢だ。
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
読みさしてゆとりあるまのうら和(な)ぎや自(し)が楽しみと書(ふみ)は読みける
黒檜 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
寒鴉己(し)が影の上におりたちぬ
不器男句集:02 不器男句集 (新字旧仮名) / 芝不器男(著)
あわあわしい白(し)ら雲が空(そ)ら一面に棚引(たなび)くかと思うと、フトまたあちこち瞬(またた)く間雲切れがして
武蔵野 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
頭髪(かみ)を振(ふ)り乱(みだ)しているもの、身(み)に一糸(し)を纏(まと)わない裸体(はだか)のもの、血(ち)みどろに傷(きずつ)いて居(い)るもの……ただの一人(ひとり)として満足(まんぞく)の姿(すがた)をしたものは居(お)りませぬ。
「へいな、銭のある衆(し)はよろしいけんど、うちらのような貧乏人にゃ、たまらんぞな。」
大根の葉 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
演奏会は数千の人を集めて、数千の人はことごとく双手(そうしゅ)を挙(あ)げながらこの二人を歓迎している。同じ数千の人はことごとく五指(し)を弾(はじ)いて、われ一人を排斥している。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それが此通り消え細る迄にやお上の仕打ちも随分と思ひ切つて酷(む)ごいには酷ごかつたが、片つ方も、亦執(し)つこいとも執つこいもんぢやつた。
世界は次第に狭くなつて、やがては私を搾(し)め殺しさうだつた。だが私は生きたかつた。生きたかつた! ——然るに、自己をなくしてゐた、即ち私は唖だつた。
我が生活 (新字旧仮名) / 中原中也(著)
そこで、紫(し)たんざおの値をきいて、欲しそうになでてはいたが、それは買わないで、買ったのは蒔絵(まきえ)の爪箱(つめばこ)と、糸を七かけ。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
子、子貢に謂(かた)って曰く、汝回と孰(いず)れか愈(まさ)れる。対(こた)えて曰く、賜(し)は何を敢(あ)えて回を望まん、回は一を聞いて以て十を知る、賜は一を聞いて以て二を知るのみ。
孔子 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
「若菜は拳銃(ピストル)で撃たれて殺(し)んだと言うのに、長島博士は、音波で殺したと言い張るのだ」
音波の殺人 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
上半身に十二支(し)の内、子(ね)、丑、寅、卯(う)、辰、巳(み)、午(うま)の七つまで、墨と朱の二色で、いとも鮮(あざや)かに彫つてあるのでした。
わたくしは此記の誰が手に成れるかを知らぬが、其人は既に錦橋の門人録を閲(けみ)してゐる。贄(し)を執るものに血判せしめた錦橋の門人録は、或は珍奇なる文書ではなからうか。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
 ——王、太子(将軍の世子)ヲ喪(ウシナ)ウテ、後宮、マタ子ヲ産ムナシ。僧隆光、進言シテ云フ、人ノ嗣(し)ニ乏シキ者、ミナ生前多ク殺生ノ報(ムク)イナリ。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
睡(ねむ)れば三尸(し)という虫が人間の身から抜け出して、天に昇って隠し事を密告するなどともいっていたが、我国ではそういう後ろ暗いことは言わなかった。
年中行事覚書 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
信玄死しては天(あめ)が下に一四三対(つゐ)なし。不幸にして一四四遽(はや)く死(みまか)りぬ。信長の器量人にすぐれたれども、信玄の智に及(し)かず、謙信の勇に劣れり。
雨落(あまおち)に敷詰(しきつ)めた礫(こいし)には苔(こけ)が生(は)えて、蛞蝓(なめくぢ)が這(は)ふ、濕(し)けてじと/\する、内(うち)の細君(さいくん)が元結(もとゆひ)をこゝに棄(す)てると、三七(さんしち)二十一日(にじふいちにち)にして化(くわ)して足卷(あしまき)と名(な)づける蟷螂(かまきり)の腹(はら)の寄生蟲(きせいちう)となるといつて塾生(じゆくせい)は罵(のゝし)つた。
怪談女の輪 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
実に甲斐のない、まことにつまらないという程の語である。「わらは」は童男童女いずれにもいい、「老人(おいびと)も女童児(をみなわらは)も、其(し)が願ふ心足(だら)ひに」(巻十八・四〇九四)の例がある。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
孝孺は終(つい)に聚宝門外(しゅうほうもんがい)に磔殺(たくさつ)せられぬ。孝孺慨然(がいぜん)、絶命の詞(し)を為(つく)りて戮に就(つ)く。時に年四十六、詞に曰く
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
雅頌(がしょう)よりして各国の国風まで収録した詩集であるが、詩は之(し)なり、志の之(ゆ)く所なりとも称し、孟子にも詩三百一言以てこれを掩(おお)えば思い邪なしともいい
婦人問題解決の急務 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
「お尿(し)ッこを、しちまいやがった」
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
船の帆も撓(し)わりにけりな、時津風(ときつかぜ)
海潮音 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
と種々(さま/″\)に意見を加えましたが、一方(かた/\)が頑固な老爺(じい)さんで肯きませんから、そんならば暇をやろうと万事行届(ゆきとゞ)いた茂木佐平治さんだから多分の手当を致(し)てくれ
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
眠るは春の凪日和(なぎびより)、沖の凩(こがらし)吹っ立って、鞺鞳(どうどう)の浪凄(すさ)まじき此処は堺の港まち、荒(し)けの空とぶ綿雲の切間を、覗(のぞ)く冬月の、影物凄き真夜中ごろ、廓(くるわ)に近き裏町を黒羽二重(くろはぶたえ)に朱色の下着
艶容万年若衆 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
「ここに医学士、と記(し)てあるですな。」
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
其の前を礼拝(らいはい)して過ぐるのを見た、と云われたほど時人(じじん)に尊崇(そんそう)された菅三品の門に遊んで、才識日に長じて、声名世に布(し)いた保胤は、試(し)に応じて及第し、官も進んで大内記(だいないき)にまでなった。
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
不二ヶ嶺にいや重(し)きつもる堅雪(かたゆき)のゆふべはあかく天(あめ)に燃えつつ
海阪 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
根は山帰来という漢方薬ですが、併(し)かし本当のサンキライではありません。これが誰でも知っているナズナ(ペンペン草)この実が三味線のバチに似ているでしょう。
好(し)いた男となりや、あぎやんとこれ行(い)たて、暮すこツたい。吝気しうてしたてちや出来(でけ)んし……丸一年、自分の国の言葉ば使はでん居つて見ろな、あんた、どぎやんあつて思ふ。
牛山ホテル(五場) (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
悟(し)りそめし生命(いのち)愛(いと)しむ日日なりき紅ばらが獄庭(には)に群れて咲きたり
遺愛集:02 遺愛集 (新字新仮名) / 島秋人(著)
時さらず、癡(し)れがましさや、醜草(しこぐさ)の
有明集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
(劇場の徒の多く相嫉視するを諷するにや。)我等は海神(ポセイドン)祠(し)の前に立てり。世にはこれを「バジリカ」とぞいふ。
『僕は先に逃げて了(し)まひますよ。』
道 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
何うも大洋へ押し出してすこし暴(し)けて来ると、何となく船の安定が悪いように感じて、この第二回の、そして最後の航海に出航する際も、船長は始終ちょっとそれを気にしていたという。
沈黙の水平線 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
「でも、己の書くものは普通の奴には分りゃしないよ。しかし、静(し)いちゃん、あたりまえのことを書いただけなんだよ」
地上:地に潜むもの (新字新仮名) / 島田清次郎(著)
是(これ)を以(もっ)て九天邪(きゅうてんじゃ)を斬(き)るの使(つかい)を設(もう)け、十地(ち)悪を罰するの司(し)を列(つら)ね、魑魅魍魎(ちみもうりょう)をして以て其奸(そのかん)を容(い)るる無く、夜叉羅刹(やしゃらせつ)をして其暴(そのぼう)を肆(ほしいまま)にするを得ざらしむ。矧(いわ)んや此(こ)の清平(せいへい)の世坦蕩(たんとう)のときにおいてをや。
牡丹灯籠 牡丹灯記 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
ささげて愛する仕方とだ。俺(おれ)は後者のような吝(し)みったれた心をもちたくないものだ!
上枝(ほつえ)に八尺の勾璁の五百津の御統の玉を取り著(つ)け、中つ枝に八尺(やた)の鏡を取り繋(か)け、下枝(しづえ)に白和幣(しろにぎて)青和幣(あをにぎて)を取り垂(し)でて一五、この種種(くさぐさ)の物は、布刀玉の命太御幣(ふとみてぐら)と取り持ちて
ゆく秋つごもりの夕野辺(のべ)のわかれおくれる。積信院姉(し)へよする。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「死骸を仰向(あふむ)きにして見ると、首筋にも指の跡がある。——匕首が突つ立つてゐるから、うつかり騙(だま)されたが、あれは刺される前に、男の強い力で扼(し)め殺されてゐたんだ」
あすよりは 春菜(はるな)摘(つ)まむと標(し)めし野(ぬ)に、きのふも 今日(けふ)も 雪(ゆき)は降(ふ)りつゝ
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
水薬(すゐやく)の汚(し)みし卓(つくゑ)に
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
(十二) 孔子は死後、魯の城北の泗(し)のほとりに葬られた。弟子皆喪(も)に服すること三年、相訣(あいわか)れて去ろうとする時に非常に悲しんで、また留まる者もあった。
孔子 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
少年はまた空気銃をとり上げ、今度は熱心に的(まと)を狙う。三発、四発、五発、——しかし的は一つも落ちない。少年は渋(し)ぶ渋(し)ぶ銀貨を出し、店の外へ行ってしまう。
浅草公園:或シナリオ (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
余は湯壺(ゆつぼ)の傍(わき)に立ちながら、身体(からだ)を濡(し)めす前に、まずこの異様の広告めいたものを読む気になった。真中に素人(しろうと)落語大会と書いて、その下に催主(さいしゅ)裸連(はだかれん)と記してある。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
明眸絳脣(めいぼうかうしん)、香肌(かうき)白き事脂(し)の如し。女王マリア・ルイザ、その美を妬(ねた)み、遂に之を鴆殺(ちんさつ)せしむ。人間(じんかん)止(とど)め得たり一香嚢の長恨ある、かの楊太真(やうたいしん)と何(いづ)れぞや。侯爵夫人に情郎(じやうらう)あり。
深みと 落ち激(たぎ)つ 清き河内に 朝去らず 霧立ち渡り 夕されば 雲居棚引き 雲居なす 心も萎(し)ぬに 立つ霧の 思ひ過さず 行く水の 音も清けく 万代に 言ひ続ぎ行かむ 河し絶えずは
二、三の山名について (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
では書肆と契約なしに手を着(つ)けたのかと聞(き)くと、全く左様(さう)でもないらしい。と云つて、本屋の方が丸で約束を無視(し)した様にも云はない。要するに曖昧であつた。たゞ困つてゐる事丈は事実らしかつた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
その彼が、結局自分も彼らと同じ能力の所有者だったということを、そうしてさらに厭(いと)うべき遼東(りょうとう)の豕(し)だったということは、どうしてやすやすと認められよう。
戯作三昧 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「何だ、お靜(し)い坊(ばう)か。親分てえ奴があるかい」
また頻(し)きて倭建(やまとたける)の命に、「東の方十二道(とをまりふたみち)一の荒ぶる神、また伏(まつろ)はぬ人どもを、言向け和(やは)せ」と詔りたまひて、吉備(きび)の臣(おみ)等が祖、名は御鉏友耳建日子(みすきともみみたけひこ)を副へて遣す時に、比比羅木(ひひらぎ)の八尋矛(やひろぼこ)二を給ひき。
珙(こう)と道衍とは本(もと)より互(たがい)に知己たり。道衍又嘗(かつ)て道士席応真(せきおうしん)を師として陰陽術数(いんようじゅっすう)の学を受く。因(よ)って道家の旨(し)を知り、仙趣の微に通ず。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
一日太孫をして詞句(しく)の属対(ぞくたい)をなさしめしに、大(おおい)に旨(し)に称(かな)わず、復(ふたた)び以て燕王(えんおう)棣(てい)に命ぜられけるに、燕王の語は乃(すなわ)ち佳なりけり。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
吾妻は暫(し)ばし川地の面(おもて)ながめ居りしが、忽如(たちまち)、蒼(あを)く化(な)りて声ひそめつ「——ぢや、又た肺病の黴菌(ばいきん)でも呑(の)まさうと云(いふ)んですか——」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
ワツと泣き洩(も)る声を無理に制せる梅子は、ヒシとばかり銀子を抱(いだ)きつ、燃え立つ二人の花の唇、一つに合して、暫(し)ばし人生の憂(う)きを逃れぬ
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
昨夜チラとその悪相談を小耳に挟んだので、どうかしてお前さんに告(し)らせて上げたいと、種々手を廻して、やっと尋ねあてたのが紀州屋敷。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「ああそうでござんしたか。今笊組の連中が、この先の小桜屋へ五、六人連れで来ているところ……であの首尾を告(し)らせに、こッそり一座を抜けて来たものですよ」
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
翌日、李陵(りりょう)韓延年(かんえんねん)速(すみや)かに降(くだ)れと疾呼(しっこ)しつつ、胡軍の最精鋭は、黄白の幟(し)を目ざして襲いかかった。その勢いに漢軍は、しだいに平地から西方の山地へと押されて行く。
李陵 (新字新仮名) / 中島敦(著)
李(り)将軍および成安侯韓延年の率いる各八百人だが、それぞれ黄と白との幟(し)をもって印としているゆえ、明日胡騎(こき)の精鋭をしてそこに攻撃を集中せしめてこれを破ったなら
李陵 (新字新仮名) / 中島敦(著)
(七一)之(これ)に彊(し)ふるに其(そ)の必(かなら)ず爲(な)さざる所(ところ)を以(もつ)てし、之(これ)を止(とど)むるに其(そ)の已(や)む能(あた)はざる所(ところ)を以(もつ)てする者(もの)は身(み)危(あやふ)し。
(一三)關令(くわんれい)尹喜(ゐんき)曰(いは)く、『子(し)將(まさ)に隱(かく)れんとす、彊(し)ひて我(わ)が爲(た)めに書(しよ)を著(あら)はせ』と。是(ここ)に於(おい)て老子(らうし)廼(すなは)ち書上下篇(しよしやうかへん)を著(あら)はし、道徳(だうとく)の意(い)を言(い)ふこと五千餘言(よげん)にして去(さ)れり。其(そ)の終(をは)る所(ところ)を知(し)る莫(な)し。
「楽師の摯(し)がはじめて演奏した時にきいた関雎(かんしょ)の終曲は、洋々として耳にみちあふれる感があったのだが——」
現代訳論語 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
楽長の摯(し)は斉に去った。亜飯(あはん)の干(かん)は楚(そ)に去った。三飯の繚(りょう)は蔡(さい)に去った。四飯の欠(けつ)は秦(しん)に去った。鼓師(つづみし)の方叔(ほうしゅく)は河内に逃げた。振(ふ)り鼓師(つづみし)の武(ぶ)は漢に逃げた。
現代訳論語 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
五銭玉と引換えに一袋の餡(あん)パンをツカむと、イキナリ自分の口へもっていったその顔! 泣き叫ぶ背の子や、両手に争(あらそ)って獅(し)がみつく子供達を振りもぎって
冬枯れ (新字新仮名) / 徳永直(著)
女房は相変らず力無い眼をうッすらと開けたまま窓に獅(し)がみついていて、子供達は窮屈(きゅうくつ)そうに眠っていた。
冬枯れ (新字新仮名) / 徳永直(著)
旅の侍はこれを聞くと、パッと二、三歩飛び退(し)ざって、刀の柄(つか)へ手を掛けた。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
右門は思わず飛び退(し)さった。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
だから私ね、私は無駄でもやらずには居られないというと其ならおやりなさるもよいが、効はありますまいとはっきり云いなさるんです(し)もの、私悲しくてね、泣いたわ
吾背子(わがせこ)をなこせ(し)の山の喚子鳥君喚びかへせ夜の更けぬと(ま)に (巻十、雑)
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
「はアて?」と帆村は頤(あご)を指先で強く圧(お)した。これは彼の癖で、なにか六(むず)ヶ敷(し)いことにぶつかったとき、それを解くためには是非これをやらないと智慧袋の口が開かない。
流線間諜 (新字新仮名) / 海野十三(著)
此日(このひ)の会(くわい)の雅(みやび)なりしを思(おも)ひ出(だ)して、詩を作らう、詩を作らう、和韻(わゐん)に人を驚(おどろ)かしたいものと悶(もだ)へしが、一心(いつしん)凝(こ)つては不思議(ふしぎ)の感応(かんおう)もあるものにて、近日(きんじつ)突然(とつぜん)として左(さ)の一詩(し)を得(え)たり
隅田の春 (新字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
宜(よろ)しく京及び諸国をして天神地祇(てんしんちぎ)名山大川には自(みづか)ら幣帛(へいはく)を致さ令(し)むべし。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
紅蓮(こうれん)は白蓮(はくれん)の香(かぐわ)しきに似(し)かず
愛卿伝 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
蜥蜴類は長尾驢(カンガルー)のごとく、尾と後の二脚のみで跳(は)ね歩き、跂(は)い行くもの少なからず、従(よ)ってスプールスが南米で見た古土人の彫画(ほりえ)に、四脚の蜥蜴イグアナを二脚に作(し)たもあった由。
鄱銀(はぎん) 侈(し)をを免(まぬか)れ難く、莱石(らいせき) 虧(き)を成(な)し易し。
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
信(し)太郎木原へ、吉田と名のつて乘込んだ天狗は二千兩ほど掻き集めた處へ、水戸領田伏の浪人宿から呼出しあり、吉田は似せ者と分つた。
天狗塚 (旧字旧仮名) / 横瀬夜雨(著)
と、後になっては、かずかずの兆(し)らせを思い当るのだ。
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
(と従者、凋(し)おれし一枝の鈴蘭の花を女子に渡す、女子無音に受け取り、唇にあつ)
レモンの花の咲く丘へ (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
奥山(おくやま)の菅(すが)の葉(は)凌(し)ぬぎふる雪(ゆき)の消(け)なば惜(を)しけむ雨(あめ)なふりそね
植物記 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
真綱はこれを憤慨して、「塵(ちり)起るの路は行人(こうじん)目を掩(おお)う、枉法(おうほう)の場、孤直(こちょく)何の益かあらん、職を去りて早く冥々(めいめい)に入るに加(し)かず」
法窓夜話:02 法窓夜話 (新字新仮名) / 穂積陳重(著)
思ったよりは高名で、現に、この頃も藤屋に泊った、何某侯(なにがしこう)の御隠居の御召に因って、上下(かみしも)で座敷を勤(し)た時、(さてもな、鼓ヶ嶽が近いせいか、これほどの松風は、東京でも聞けぬ、)
歌行灯 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
得手吉とは男勢の綽号(あだな)だが猴よくこれを露出するからの名らしく、「神代巻」に猿田彦の鼻長さ七咫(し)、『参宮名所図会』に猿丸太夫は道鏡の事と見え
衣服、玩好(がんこう)、遊戯、一も彼の嗜(し)を惹(ひ)くものなし。机上一硯(いっけん)、一筆、蕭然(しょうぜん)たる書生のみ。最も読書を好み手に巻を釈(す)てず、その抄録(しょうろく)したるもの四十余巻ありという。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
しばらくありて、右の小鳥は嘴(し)辺および咽(いん)部に爪牙の跡を得、血を垂れ、来たりて小生に向かい哀を請うがごとし。
妖怪報告 (新字新仮名) / 井上円了(著)
かく蛇を霊怪(ふしぎ)視した号(な)なるミヅチを、十二支の巳(し)に当て略してミと呼んだは同じく十二支の子(し)をネズミの略ネ、卯(ぼう)を兎の略ウで呼ぶに等し。
風の暴頻(あれしき)る響動(どよみ)に紛れて、寝耳にこれを聞着(ききつく)る者も無かりければ、誰一人出(いで)て噪(さわ)がざる間に、火は烈々(めらめら)と下屋(げや)に延(し)きて、厨(くりや)の燃立つ底より一声叫喚(きようかん)せるは誰(たれ)、狂女は嘻々(きき)として高く笑ひぬ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
... 臣(しん)を以(もつ)て君(きみ)を弑(し)す、仁(じん)と謂(い)ふ可(べ)けんや』と。(三〇)左右(さいう)(三一)之(これ)を兵(へい)せんと欲(ほつ)す。(三二)太公(たいこう)曰(いは)く、『此(こ)れ義人(ぎじん)也(なり)』と。扶(たす)けて去(さ)らしむ。武王(ぶわう)已(すで)に殷(いん)の亂(らん)を平(たひら)げ、天下(てんか)、周(しう)を(三三)宗(そう)とす。
ちょうど北の方の千島、カムサツカ、北海道の山奥あたりから引(し)き上げて来る熊の皮屋から皮を仕入れて、あと月の半ばに東京へ着いたんです……。
糸が一張(ちょう)一弛(し)するたびに、みなはハッときもをひやした。
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
いつも席順は後(し)りである。教師等も教員会議の時に時々は清吉の身の上に話が及ぶと、あれは、天性(てんせい)足らないから仕方がないと、殆(ほとん)ど問題にもしない人がある。
蝋人形 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「凡百ノ技、巧(こう)ニ始マリ、拙ニ終ル、思(し)ニ出デテ不思(ふし)ニ入ル、故ニ巧思極マル時ハ則(すなは)チ神妙ナリ。神妙ナル時ハ則チ自然ナリ。自然ナルモノハ巧思ヲ以テ得ベカラズ、歳月ヲ以テ到ルベカラズ……」
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
……その時田沼は感激して、涙を流したということだ。……それだのに私のお父上が、この世を辞してからというものは、千恣(し)百怠(たい)沙汰の限りの態だ。
十二神貝十郎手柄話 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
一時の豪気(ごうき)は以て懦夫(だふ)の胆(たん)を驚(おどろ)かすに足り、一場の詭言(きげん)は以て少年輩の心を籠絡(ろうらく)するに足るといえども、具眼卓識(ぐがんたくしき)の君子(くんし)は終(つい)に欺(あざむ)くべからず惘(し)うべからざるなり。
瘠我慢の説:02 瘠我慢の説 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
言葉さへ訳(わか)らねえ様な役人が来て、御維新(ごいしん)は己(おれ)が成(し)たと言はぬばかりに威張り散らす、税は年増しに殖える、働き盛を兵隊に取られる、一つでも可(い)いことは無(ね)えので
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
肩を抱(し)めむと喘(あへ)ぎゆく。
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
小野さんの靴は、湿(しめ)っぽい光を憚(はば)かるごとく、地に落す踵(かかと)を洋袴(ズボン)の裾(すそ)に隠して、小路(こうじ)を蕎麦屋(そばや)の行灯(あんどん)まで抜け出して左へ折れた。往来は人の香(におい)がする。地に拖(し)く影は長くはない。丸まって動いて来る。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
然してその兄高田(あげだ)を作らば、汝が命は下田(くぼだ)を營(つく)りたまへ。その兄下田を作らば、汝が命は高田を營りたまへ一七。然したまはば、吾水を掌(し)れば、三年の間にかならずその兄貧しくなりなむ。
ますます、却(かえ)って、抱き擁(し)める手に、力がはいるばかり——
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
ことにその題目が風月の虚飾を貴ばずして、ただちに自己の胸臆(きょうおく)を攄(し)くもの、もって識見高邁(こうまい)、凡俗に超越するところあるを見るに足る。
曙覧の歌 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
竹(たけ)の床(とこ)へ數(し)く筵(むしろ)が三四枚(まい)、此(これ)も近所(きんじよ)で古(ふる)いのを一枚(まい)位(ぐらゐ)づつ呉(く)れた。さうしてから漸(やうや)く蒲團(ふとん)が運(はこ)ばれた。それは彼(かれ)がぎつしりと腰(こし)に括(くゝ)つた財布(さいふ)の力(ちから)であつた。
土 (旧字旧仮名) / 長塚節(著)
斯(し)自(みづか)ら以爲(おも)へらく、非(ひ)に如(し)かずと。非(ひ)、韓(かん)の削弱(さくじやく)せらるるを見(み)、數〻(しばしば)書(しよ)を以(もつ)て韓王(かんわう)を諫(いさ)む、韓王(かんわう)用(もち)ふること能(あた)はず。
時(し)立留(たちとゞま)つて四方(しはう)を屹(きつ)と見(み)てあ
鬼桃太郎 (旧字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
それでいて、あたりは森(し)ーんとしているのです。そこを通る車はひとりでにすっかり速力をおとして、殆ど止る位にして通る。いかにも大きい都会の出来事の感じです。
事務室のまん中の大机には白い大掛児(タアクワル)を着た支那人(シナじん)が二人、差し向かいに帳簿を検(し)らべている。一人(ひとり)はまだ二十(はたち)前後であろう。もう一人はやや黄ばみかけた、長い口髭(くちひげ)をはやしている。
馬の脚 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
いずれにしろ稚純な心には非情有情の界を越え、彼(ひ)と此(し)の区別を無(な)みする単直なものが残っているであろう。
富士 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
材能(さいのう)伎芸(ぎげい)を以て奉承するは男芸者の職分である。廉恥を棄てて金銭を貪るものと歯(し)するは、その敢(あえ)てせざる所である。紫玉が花山を排したのは曲が花山にあったのである。
細木香以 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
我(わ)れ聞(き)きたり辛苦(しんく)さこそなるべけれど奉公大切(ほうこうだいじ)に勉(つと)め給(たま)へと仰(おほ)せられしが耳(みゝ)に殘(のこ)りて忘(わす)られぬなり彼(あ)れほどにお優(やさ)しからずば是(こ)れほどまでにも歎(なげ)かじと斷(た)ち難(がた)き絆(きづな)つらしとて人(ひと)見(み)ぬ暇(ひま)には部屋(へや)のうちに伏(ふ)し沈(し)づみぬ何(いづ)れ劣(おと)らぬ双美人(そうびじん)に慕(した)はるゝ身(み)嬉(うれ)しかるべきを
五月雨 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
それから二十年ばかりたつた後(のち)、彼は雪国(ゆきぐに)の汽車の中に偶然、彼女とめぐり合つた。窓の外が暗くなるのにつれ、沾(し)めつた靴(くつ)や外套(ぐわいたう)の匀ひが急に身にしみる時分だつた。
鬼ごつこ (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
ヒソヒソと匐(は)い進んで行くのであったが、そのうちに闇夜の草花の水っぽい、清新な芳香(におい)が、生娘(きむすめ)の体臭のように、彼の空腹に泓(し)み透って来た。
白菊 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「怪我でもすると詰まらねえ。もういい加減にしましょうよ。伊豆屋の見舞なら、これから家(うち)へ引っ返して握り飯の支度でもさせた方がようござんす。どうせ消(し)めった後でなけりゃあ行かれやしません」
半七捕物帳:29 熊の死骸 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
山東省淄(し)川の某山村の街路にある涼亭(りゃんちん)。それは街路の真中に屋根をこしらえ、左右の柱に添えて石台を置いて腰掛けとしたもので、その中を抜けて往来する者が勝手に休んでいけるようになっている。
帰舟(かえり)は客なかりき。醍醐(だいご)の入江の口を出(いず)る時彦岳嵐(ひこだけあらし)身(み)に渗(し)み、顧(かえり)みれば大白(たいはく)の光漣(さざなみ)に砕(くだ)け、こなたには大入島(おおにゅうじま)の火影早(はや)きらめきそめぬ。静かに櫓こぐ翁の影黒く水に映れり。
源おじ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
と、熱くささやいて、そして、自分の言葉に、酔い溺(し)れるかのように、もたれかかったが、千世は身をすくめたまま、答えられぬ。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
その底から滲染(し)み出る狂おしい希(ねが)いが
原爆詩集 (新字新仮名) / 峠三吉(著)
朱を刷いたような艶々した赭ら顔は年がら年中高麗狛(こまいぬ)のように獅子(し)噛み、これが、生れてからまだ一度もほころびたことがない。
顎十郎捕物帳:02 稲荷の使 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
車は平坦な甃石路(いししきみち)を走りだした。石を甃(し)いた平坦な路は郊外にはあまりないので、城内だろうかと思ったが何しろ扉が締っているので解らなかった。
賈后と小吏 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
且述作の事たる、功あれば又過(あやまち)がある。言(こと)一たび口より発し、文一たび筆に上るときは、いかなる博聞達識を以てしても、醇中(じゆんちゆう)に疵(し)を交ふることを免れない。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
戦災にかかってからは、いや更に荒されたまま、痺(し)びらされたままになっていた頭脳が、ここに漸(ようや)く本然の調子を取り戻す機会を得たことになる。
頼春の瞽(し)いた両眼から、喜びの涙が降るようにこぼれた。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
誰か知道(し)らん恩情永く隔(へだた)り
愛卿伝 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
我(わ)が養家(やうか)は大藤村(おほふぢむら)の中萩原(なかはぎはら)とて、見(み)わたす限(かぎ)りは天目山(てんもくざん)、大菩薩峠(だいぼさつたうげ)の山〻(やま/\)峰〻(みね/\)垣(かき)をつくりて、西南(せいなん)にそびゆる白妙(しろたへ)の富士(ふじ)の嶺(ね)は、をしみて面(おも)かげを示(し)めさねども
ゆく雲 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
神※の※の字は音「ぎ」にして示扁(しめすへん)に氏の字を書く。普通に祗(し)(氏の下に一を引く者)の字を書くは誤なり。祗は音「し」にして祗候(しこう)などの祗なり。
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
今祝(し)めて出て行ッたばかりのところで、小万を始め此糸(このいと)初紫(はつむらさき)初緑名山千鳥などいずれも七八分の酔(え)いを催し、新造(しんぞ)のお梅まで人と汁粉(しるこ)とに酔ッて、頬から耳朶(みみたぶ)を真赤にしていた。
今戸心中 (新字新仮名) / 広津柳浪(著)
二五近衛院(このゑのゐん)に禅(ゆづ)りましても、二六藐姑射(はこや)の山(やま)の瓊(たま)の林(はやし)に禁(し)めさせ給ふを、思ひきや、二七麋鹿(びろく)のかよふ跡のみ見えて、詣(まう)でつかふる人もなき深山(みやま)の二八荊(おどろ)の下に神がくれ給はんとは。
狭心症ノ発作ニ似タ痛ミガ激シク胸ヲ窄(し)メツケタ。………アレカラ既ニ二時間以上経ッテイル筈ダガ、マダ血壓ガ下ラナイト見エル。
瘋癲老人日記 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
私は纔かに残つてゐる封建時代の石垣のところに来て、誰にも見られぬやうにそこに草を籍(し)いて坐した。
あさぢ沼 (新字旧仮名) / 田山花袋、田山録弥(著)
その冴え冴えと振り翳(かざ)す白無垢衣(しろむくえ)の、皺(しわ)の折れ方までが、わけもなく魂を織り込もうとするのに魅せられるであろう、水を打ったように粛(し)んみりとした街道の樹も顫(ふる)え、田の面の水も
雪の白峰 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
『御覽(ごらん)なさい、眞紅(まつか)な帶(おび)を結(し)めて居(ゐ)る娘(むすめ)も居(ゐ)ますよ。』
湯ヶ原ゆき (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
心魂(こころ)も今は空になり、其処(そこ)か此処(ここ)かと求食(あさ)るほどに、小笹(おざさ)一叢(ひとむら)茂れる中に、漸(ようや)く見当る鼠の天麩羅(てんぷら)。得たりと飛び付き咬(く)はんとすれば、忽ち発止(ぱっし)と物音して、その身の頸(くび)は物に縛(し)められぬ。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
「毎年(としのはは)、梅者(うめは)開友(さけども)、空蝉之(うつせみの)、世人君(よのひときみ)羊蹄(し)、春無有来(はるなかりけり)」の歌のシの仮名にやはり羊蹄の字が用いてあるのを指したものでしょう。
植物記 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
均斉(きんせい)のとれた四股(し)、筋肉(きんにく)の見事さ。春とは見ちがえるばかり上(う)わ背丈(ぜい)も育っている。
それが大概(がい)一局(きよく)に一時間乃至(し)一時間半、一二度は三時間餘にも及んだことがあるのだが
小石だも掃(はら)ひし三五福田(ふくでん)ながら、さすがにここは寺院遠く、三六陀羅尼(だらに)三七鈴錫(れいしやく)の音(こゑ)も聞えず。木(こ)立は三八雲をしのぎて茂(し)みさび、三九道に界(さか)ふ水の音ほそぼそと清(す)みわたりて物がなしき。
蓍(し)を取って占い、われは隗生に借金した覚えなし、隗生自分の金を隠しおき、わが易占を善くするを知って、われがここに来るを俟(ま)ってその在り処を妻子に告げしむるよう謀らい置いたのだ
虎に似て角あるを虒(し)というと言って、むつかしい文字ばかり列(なら)べ居る。
「しかしわずかに五年ばかりの間にこのような建物を押し立てたり、このように信者を集めたり、よく行(し)たものでございますな」
生死卍巴 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
天皇ここに畏みて白したまはく、「恐し、我が大神、現(うつ)しおみまさむとは、覺(し)らざりき七」と白して、大御刀また弓矢を始めて、百官の人どもの服(け)せる衣服(きもの)を脱がしめて、拜み獻りき。
「不良(ふりやう)少女(せうぢよ)の沒落(ぼつらく)」といふ標題(みだし)の下(もと)に、私達(わたしたち)が前後(ぜんご)しての結婚(けつこん)を×誌(し)あたりに落書(らくがき)されてから、みなもう丸(まる)三年(ねん)を過(すご)しました。Kさんがまづ母となり、あなたも間もなく母となりました。
冬を迎へようとして (旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
保寿院殿浄如貞松大姉は直温の妻にして瑞仙の家第四世の女主啓、窪田氏である。以上の六諡(し)は正面に彫(ゑ)つてある。梅嶽真英童子は直温の子洪之助である。此一諡だけは左側面に彫つてある。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
非局部性(ひきよくぶせい)の大地震(だいぢしん)は多(おほ)く太平洋側(たいへいようがは)の海底(かいてい)に起(し)り、地震(ぢしん)の規模(きぼ)廣大(こうだい)なると陸地(りくち)が震原(しんげん)から遠(とほ)いために、はたまた海底地震(かいていぢしん)の性質(せいしつ)として震動(しんどう)は大搖(おほゆ)れであるが、然(しか)しながら緩漫(かんまん)である。
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
獏は哺乳類のうちの奇蹄目(きていもく)で獏科の動物だ。形は犀(さい)に似て、全身短毛をもって掩(おお)われ、尾は短く、鼻及び上唇は合して短き象鼻(ぞうび)の如くサ。前肢(まえあし)に四趾(し)、後肢に三趾を有す。
獏鸚 (新字新仮名) / 海野十三(著)