“湿”のいろいろな読み方と例文
旧字:濕
読み方割合
しめ46.4%
ぬ12.3%
うる10.8%
うるお9.0%
し5.3%
うるほ3.0%
しっ2.0%
じ2.0%
しめり1.5%
しと1.3%
じめ1.0%
しめっ0.8%
うるおい0.5%
うるみ0.5%
しけ0.5%
しつ0.5%
ひ0.5%
ぬれ0.3%
う0.3%
うるほひ0.3%
しつと0.3%
しめし0.3%
しめつ0.3%
しめや0.3%
にじ0.3%
ぬら0.3%
(注) 作品の中でふりがなが振られた語句のみを対象としているため、一般的な用法や使用頻度とは異なる場合があります。
「灰が湿(しめ)っているのか知らん」と女が蚊遣筒を引き寄せて蓋(ふた)をとると、赤い絹糸で括(くく)りつけた蚊遣灰が燻(いぶ)りながらふらふらと揺れる。
一夜 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
きょうもまた無数の小猫の毛を吹いたような細かい雨が、磯部(いそべ)の若葉を音もなしに湿(ぬ)らしている。家々の湯の烟りも低く迷っている。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
平常(いつも)は死んだ源五郎鮒の目の様に鈍い眼(まなこ)も、此時だけは激戦の火花の影を猶留めて、極度の恐縮と嘆願の情にやゝ湿(うる)みを持つて居る。
雲は天才である (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
而(しか)るに形躯(けいく)を変幻(へんげん)し、草(そう)に依附(いふ)し、天(てん)陰(くも)り雨湿(うるお)うの夜(よ)、月落ち参(しん)横たわるの晨(あした)、梁(うつばり)に嘯(うそぶ)いて声あり。其の室(しつ)を窺(うかが)えども睹(み)ることなし。
牡丹灯籠 牡丹灯記 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
足下のジクジクと湿(し)けた大地は、湯のように温くなって、ぐんなりとした草の葉が吐く生温いいきれが、息苦しいほど立てこめていた。
恨なき殺人 (新字新仮名) / 宮島資夫(著)
嬉しさは言(ことば)に尽し難し。水なるかな、水ありて緑あり、水は咽(のんど)を湿(うるほ)し、緑は眼を潤す。水ありて、人あり、獣あり、村をなす。
シットリと湿(しっ)けた枝差しだしている傍らの柘榴の股になっているところへのせて置いたお線香二本、つづいて圓朝は左右の線香立てへ供えた。
小説 円朝 (新字新仮名) / 正岡容(著)
かれらは、吉原に近い土手裏の湿(じ)め湿めした掘立小屋のような木賃に、蛆(うじ)のように蠢(うごめ)きながら、朝から晩まで唄いつづけていたのであった。
幻影の都市 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
や、老人(としより)の早打肩。危いと思った時、幕あきの鳴ものが、チャンと入って、下座(げざ)の三味線(さみせん)が、ト手首を口へ取って、湿(しめり)をくれたのが、ちらりと見える。
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
時雨(しぐれ)らしく照ったり降ったりしていた雨の脚(あし)も、やがてじめじめと降り続いて、煮しめたようなきたない部屋(へや)の中は、ことさら湿(しと)りが強く来るように思えた。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
本堂は桐紋(きりもん)の幕に囲まれていた。それも、廻廊も、階(さぎはし)も、梅雨湿(じめ)りで水気を含んでいないものはない。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
見上げると四面の高い山の巓(いただき)が赤く禿げて、日暮方の秋の日が当っているが、もう谷底は日蔭となって湿(しめっ)ぽい気が満ち満ちていた。恐らく一日中この谷底には、日の光が落ちぬのであろう。
捕われ人 (新字新仮名) / 小川未明(著)
しっとりとした湿(うるおい)と温かい情味とに富んだ、心地よき散歩街ともなるようなものにならないだろうか、ということである。
早稲田神楽坂 (新字新仮名) / 加能作次郎(著)
何か知らず無性に悲しくなつてぢつと湿(うるみ)のさしくる眼、自分で自分を叱るやうに、ゑゝと図らず声を出し、煙草を捻つて何気なくもてなすことはもてなすものゝ言葉も無し。
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
僕は変に不愉快な悪寒(さむけ)がしたので、これは空気がしめっているせいであろうと思った。諸君は海水で湿(しけ)ている船室(キャビン)の一種特別な臭(にお)いを知っているであろう。
「元々、わが殿には、瘧(おこり)と申すご持病があったのです。とは申せ、鎌倉どののお下知(げじ)でした。そのムリを押してのご出陣でしたので、この山間の冷えやら湿(しつ)やらの不養生には耐え難く」
私本太平記:07 千早帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「吾妹子が赤裳(あかも)の裾の染(し)め湿(ひ)ぢむ今日の小雨(こさめ)に吾さへ沾(ぬ)れな」(巻七・一〇九〇)は男の歌だが同じような内容である。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
しかしその女が湿(ぬれ)しおたれて居ると云うのを見れば、或は水死した者ではあるまいか、とてもの事に池を探して見ろと隼人が云う。
お住の霊 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
老畸人も亦たむかしの豪遊の夢をや繰り返しけむ、くさめ一つして起き上(あがり)たれば、冷水(ひやみづ)に喉(のんど)を湿(う)るほし、眺めあかぬ玄境にいとま乞して山を降れり。
三日幻境 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
貫一は唯不思議の為体(ていたらく)に呆(あき)れ惑ひて言(ことば)も出(い)でず、漸(やうや)く泣ゐる彼を推斥(おしの)けんと為たれど、膠(にかは)の附きたるやうに取縋りつつ、益す泣いて泣いて止まず。涙の湿(うるほひ)は単衣(ひとへ)を透(とほ)して、この難面(つれな)き人の膚(はだへ)に沁(し)みぬ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
で、静子は下女に手伝はして、兄を寝せ、座敷を片付けてから、一人離室(はなれ)に入つた。夜気が湿(しつと)りと籠つて、人なき室(へや)に洋燈が明るく点(つ)いてゐる。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
ペロンと舌を出して、下唇に湿(しめし)をくれると
顎十郎捕物帳:07 紙凧 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
むら/\と途中(とちゆう)で消(き)える……と髪(かみ)も衣(きもの)も濡(ぬ)れもしないで、湿(しめつ)ぽい。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花、泉鏡太郎(著)
と団さんはいつになく湿(しめや)かだった。三十年近くも勤めていた会社だ。やめるとなると、自発的でも矢張り気が滅入(めい)るのだろう。
冠婚葬祭博士 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
眼尻には涙さえ湿(にじ)んでいる。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
熱い涙は思はず知らず流れ落ちて、零落(おちぶ)れた袖を湿(ぬら)したのである。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)