“知(し)” の例文
南洋(なんよう)のあまり世界(せかい)の人(ひと)たちには知(し)られていない島(しま)に住(す)んでいる二人(ふたり)の土人(どじん)が、難船(なんせん)から救(すく)われて、ある港(みなと)に着(つ)いたときでありました。
幸福に暮らした二人 (新字新仮名) / 小川未明(著)
なんでも夜中(よなか)すぎになると、天子(てんし)さまのおやすみになる紫宸殿(ししいでん)のお屋根(やね)の上になんとも知(し)れない気味(きみ)の悪(わる)い声(こえ)で鳴(な)くものがあります。
鵺 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
私(わたし)は其時分(そのじぶん)は何(なん)にも知(し)らないで居(ゐ)たけれども、母様(おつかさん)と二人(ふたり)ぐらしは、この橋銭(はしせん)で立(た)つて行(い)つたので、一人前(ひとりまへ)幾于宛(いくらかづゝ)取(と)つて渡(わた)しました。
化鳥 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
したか知(し)らないが、かわいそうに……。だけど、ほうたいだらけのまっ白(しろ)なあの顔(かお)には、ぞっとするわ。まるで化(ば)けものみたいだもの
内山君(うちやまくん)足下(そくか)、先(ま)づ此位(このくらゐ)にして置(お)かう。さて斯(かく)の如(ごと)くに僕(ぼく)は戀(こひ)其物(そのもの)に隨喜(ずゐき)した。これは失戀(しつれん)の賜(たまもの)かも知(し)れない。明後日(みやうごにち)は僕(ぼく)は歸京(きゝやう)する。
湯ヶ原より (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
一撃に敵を打ち倒すことには何の痛痒(つうよう)も感じない代りに、知(し)らず識(し)らず友人を傷つけることには児女に似た恐怖を感ずるものである。
侏儒の言葉 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
愛(あい)ちやんは直(たゞ)ちに此(こ)れが扇子(せんす)を持(も)つて居(ゐ)た所爲(せい)だと云(い)ふ事(こと)を知(し)つて急(いそ)いで其扇子(そのせんす)を捨(す)てました、恰(あだか)も縮(ちゞ)むのを全(まつた)く恐(おそ)れるものゝ如(ごと)く。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
そも/\熊(くま)は和獣(わじう)の王、猛(たけ)くして義(ぎ)を知(し)る。菓木(このみ)の皮虫(かはむし)のるゐを食(しよく)として同類(どうるゐ)の獣(けもの)を喰(くらは)ず、田圃(たはた)を荒(あらさ)ず、稀(まれ)に荒(あら)すは食(しよく)の尽(つき)たる時也。
で、貴方(あなた)は好(よ)い時代(じだい)が來(こ)やうと濟(すま)してもゐられるでせうが、いや、私(わたくし)の言(い)ふことは卑(いやし)いかも知(し)れません、笑止(をか)しければお笑(わら)ひ下(くだ)さい。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
ある學者(がくしや)のごときは、土器(どき)を知(し)らない人間生活(にんげんせいかつ)を野蠻的生活(やばんてきせいかつ)、土器(どき)をもつ人間(にんげん)の生活(せいかつ)を半開生活(はんかいせいかつ)と稱(しよう)して區別(くべつ)するくらゐであります。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
「知(し)らねえでどうするもんか。重(しげ)さん、おめえの夜(よ)あかしの仕事(しごと)は、銭(ぜに)のたまる稼(かせ)ぎじゃなくッて、色気(いろけ)のたまる楽(たの)しみじゃねえか」
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
しかしそれなら尚更(なおさら)私(わたくし)の申上(もうしあ)げる事(こと)がよくお判(わか)りの筈(はず)で、神社(じんじゃ)の装置(そうち)もラジオとやらの装置(そうち)も、理窟(りくつ)は大体(だいたい)似(に)たものかも知(し)れぬ……。
「文庫(ぶんこ)は御宅(おたく)のでせうね。可(い)いんでせうね」と念(ねん)を押(お)して、何(な)にも知(し)らない下女(げぢよ)を氣(き)の毒(どく)がらしてゐる所(ところ)へ、最前(さいぜん)の仲働(なかばたらき)が出(で)て來(き)て
門 (旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
品(ひん)よしと喜(よろ)こぶ人(ひと)ありけり十九といへど深窓(しんそう)の育(そだ)ちは室咲(むろざ)きも同(おな)じこと世(よ)の風(かぜ)知(し)らねど松風(まつ ぜ)の響(ひゞ)きは通(かよ)ふ瓜琴(つまごと)のしらべに長(なが)き春日(はるび)を
五月雨 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
十一文づゝ二年半餘(はんあま)りも滯(とゞこふ)らば大抵(たいてい)三十文計(ばか)りの引負(ひきおひ)となるべし。閏月(しゆんげつ)は即(すなは)ちこの三十文の引負(ひきおひ)を一月にまとめて拂(はら)ふことゝ知(し)るべし。
改暦弁 (旧字旧仮名) / 福沢諭吉(著)
ナーニ美男子じゃァありませんでした。薄っ穢ない存在でした。何か取柄がありましたか知(し)ら? あッ、そうそう一つありました。
奥さんの家出 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
おとうさんとおかあさんとは、そんなことがあったのは少しも知(し)らないように相変らず本棚と箪笥とをいじくっていらっしゃいました。
僕の帽子のお話 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
無論(むろん)です、けれど本船(ほんせん)の當番(たうばん)水夫(すゐふ)は眼(め)の無(な)い奴(やつ)に、情(こゝろ)の無(な)い奴(やつ)です、一人(ひとり)は茫然(ぼんやり)して居(ゐ)ます、一人(ひとり)は知(し)つて知(し)らぬ顏(かほ)をして居(ゐ)ます。
ぢゃによって、お恕(ゆる)しなされ、斯(か)う速(はや)う靡(なび)いたをば浮氣(うはき)ゆゑと思(おも)うて下(くだ)さるな、夜(よる)の暗(やみ)に油斷(ゆだん)して、つい下心(したごゝろ)を知(し)られたゝめぢゃ。
殊(こと)にわれながらといふのは、いかにも常識的(じようしきてき)で、自分(じぶん)で知(し)つてゐて、わざとそんなことをいつたゞけだといふことを見(み)せてゐます。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
そこで父(とう)さんはお墓參(はかまゐ)りに行(ゆ)く道(みち)の方(はう)から、成(な)るべく知(し)つた人(ひと)に逢(あ)はない田圃(たんぼ)の側(わき)を通(とほ)りまして、こつそりと出掛(でか)けて行(ゆ)きました。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
實(じつ)は博士(はかせ)をわざ/\勞(ろう)するまでも無(な)かつたので、これは古代(こだい)の葬坑(さうかう)で、横穴(よこあな)と通稱(つうしよう)するもの。能(よ)く調(しら)べたら全國(ぜんこく)到(いた)る處(ところ)に有(あ)るかも知(し)れぬ。
「まあまあ、こんどだけはかにしてやっとくんやす。利助(りすけ)さも、まさか牛(うし)が椿(つばき)を喰(く)ってしまうとは知(し)らずにつないだことだで。」
牛をつないだ椿の木 (新字新仮名) / 新美南吉(著)
龐涓(はうけん)行(ゆ)くこと三日(みつか)、大(おほひ)に喜(よろこ)んで曰(いは)く、『我(われ)固(もと)より齊(せい)の軍(ぐん)の怯(けふ)なるを知(し)る。吾(わ)が地(ち)に入(い)りて三日(みつか)、士卒(しそつ)亡(に)ぐる者(もの)、半(なか)ばに過(す)ぎたり』
三十分ばかり夜風に吹かれて、漸(ようや)く常の心を取戻(とりもど)した金三郎は、何んか知(し)ら英雄的な心持になって、元の自分の部屋に帰って行きました。
などと年甲斐(としがひ)もなく男(をとこ)一匹(ぴき)がそんな下(くだ)らないことを考(かんが)へたりするのも、麻雀(マアジヤン)に苦勞(くらう)した人間(にんげん)でなければ分(わか)らない味(あぢ)かも知(し)れない。
麻雀を語る (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
それは、お日様(ひさま)が温(あたたか)く照(て)っているのを見(み)たり、雲雀(ひばり)の歌(うた)を聞(き)いたりして、もうあたりがすっかりきれいな春(はる)になっているのを知(し)りました。
「こんなに年老(としよ)るまで、自分(じぶん)は此(こ)の梢(こづゑ)で、どんなにお前のために雨(あめ)や風(かぜ)をふせぎ、それと戰(たゝか)つたか知(し)れない。そしてお前(まへ)は成長(せいちやう)したんだ」
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
勘次(かんじ)は例令(たとひ)品物(しなもの)が有(あ)つた處(ところ)で、自分(じぶん)の現在(いま)の力(ちから)では到底(たうてい)それは求(もと)められなかつたかも知(し)れぬと今更(いまさら)のやうに喫驚(びつくり)して懷(ふところ)へ手(て)を入(い)れて見(み)た。
土 (旧字旧仮名) / 長塚節(著)
「人(ひと)を知(し)るは難(かた)くして易(やす)く、自(みずか)ら知(し)るは易(やす)くして難(かた)し、但(ただ)し当(まさ)にこれを夢寐(むび)に徴(ちょう)し以(もっ)て自(みずか)ら知(し)るべし、夢寐(むび)自(みずか)ら欺(あざむ)く能(あた)わず」と。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
「あなたは、なんでも知(し)つておいでなされるといふことであるから、これをお彈(ひ)きになるでせう。一つ彈(ひ)いて聞(き)かせて下(くだ)さい」
多分(たぶん)廣告(くわうこく)に、修養(しうやう)のために讀(よ)むべき書(しよ)だと云(い)ふやうな事(こと)が書(か)いてあつたので、子供(こども)が熱心(ねつしん)に内容(ないよう)を知(し)りたく思(おも)つたのであらう。
寒山拾得縁起 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
不運(ふうん)にも彼(かれ)に誘惑(いうわく)された気(き)の毒(どく)な女(をんな)だとも思(おも)へるのであつたが、しかし恋愛(れんあい)の成立(せいりつ)については、彼(かれ)も詳(くは)しい事(こと)は知(し)らなかつた。
彼女の周囲 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
日本書紀(にほんしよき)に七年夏四月乙未朔辛酉、地動、舍屋悉破、則令四方俾祭地震神とあるが、地震神(ぢしんかみ)といふ特殊(とくしゆ)の神(かみ)は知(し)られてゐない。
日本建築の発達と地震 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
「曩(さき)の勞働者の唄ね、君(きみ)は何う思(おも)ふか知(し)らないけれど、あれを聽いてゐて、僕は身(み)につまされて何んだか泣(な)きたくなるやうな氣がしたよ。」
虚弱 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
名を食糧(しよくれう)の不足に託(たく)して又衆と分(わか)る、明日は天我一行をして文珠岩(もんじゆいわ)を発見せしむるあるを知(し)らざるなり、其矇眛(もうまい)なる心中や憐(あは)むに堪(た)へたり
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
それとも私が知(し)らず識(し)らずに自分の記憶でもってそれを補い出していたのか、いつの間にか一つ一つの線や形を徐(おもむ)ろに浮き上がらせていた。
風立ちぬ (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
岩代(いはしろ)猪苗代湖のなかに翁島(おきなじま)といふ小さな島がある。樹木のこんもり繁つた静かな島だが、これが先年三千円か知(し)らで売りに出た事があつた。
事(こと)に依(よ)つたら、世(よ)の人(ひと)たちの有(も)つてゐる主(しゆ)の御血汐(おんちしほ)で、この身(み)が癒(なほ)るかも知(し)れぬ。血(ち)を思(おも)ふことも度々(たびたび)だ。この歯(は)なら咬付(かみつ)ける。真白(まつしろ)の歯(は)だ。
此方(こなた)には具足櫃(ぐそくびつ)があつたり、弓(ゆみ)鉄砲抔(てつぱうなど)が立掛(たてかけ)てあつて、最(い)とも厳(いか)めしき体裁(ていさい)で何所(どこ)で喫(たべ)させるのか、お長家(ながや)か知(し)ら、斯(か)う思ひまして玄関(げんくわん)へ掛(かゝ)り
士族の商法 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
実は、われら両名は、斎藤山城守様に随身の者だったが、義龍との一戦に敗れ、これより越前の穴馬(あなうま)まで、知(し)る辺(べ)を頼って落ちてゆくところ。
茶漬三略 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その結果は知(し)らず識(し)らず恐ろしき罪をも犯すに至るのである。ヨブは二十七節において、三友のオルソドクシーの恐ろしさを説いたのである。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
妻は勝手口から逃出して、二、三軒先の知(し)り人(びと)の家へ身を隠した。知り人は小学校の先生で、女の再縁する折には仲人役をつとめたものである。
噂ばなし (新字新仮名) / 永井荷風(著)
この山(やま)が活火山(かつかざん)であることは明治二十六年(めいじにじゆうろくねん)に至(いた)るまで知(し)られなかつたが、この年(とし)突然(とつぜん)噴火(ふんか)を始(はじ)めたゝめ死火山(しかざん)でなかつたことが證據立(しようこだ)てられた。
火山の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
その知(し)らせがあったとき、家族(かぞく)をはじめ、慶応義塾(けいおうぎじゅく)の人々(ひとびと)は、諭吉(ゆきち)の考(かんが)えをよくしっていましたので、そうだんのうえ、それをことわりました。
張旅人の懷中(くわいちう)胴亂(どうらん)に目を掛けて追剥(おひはぎ)強盜(がうたう)を爲んとする命(いのち)知(し)らずめ己を誰(たれ)とか思ふ東海道五十三次音(おと)に聞えて隱れのない題目講(だいもくかう)の講頭(かうかしら)水田屋藤八を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
何を探すのかも知(し)らずにたゞ探しました。今になつて思つてみれば、それは生(い)きようとする要求に外(ほか)なりませんでした。
冬を迎へようとして (旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
鶏(にはとり)は神様(かみさま)に夜明(よあけ)を知(し)らせる事(こと)を仰付(おほせつ)かつたのが嬉(うれ)しさに、最初(さいしよ)の夜(よる)、まだお月様(つきさま)がゆつくりと空(そら)を遊(あそ)びまはつてゐるのに、時(とき)を作(つく)つて啼(な)きました。
なんといふ病(やまひ)やらも知(し)らない、度々(たび/″\)病院(びやうゐん)に通(かよ)つたけれども、いつも、おなじやうな漠然(ばくぜん)としたことばかり云(い)はれて居(ゐ)る。
追憶 (旧字旧仮名) / 素木しづ(著)
土器の中には此石錐(いしきり)にて揉(も)み開(あ)けたるに相違無き圓錐形の孔(あな)有る物有り。既(すで)に錐の用を知る、焉ぞ錐揉(きりも)みの如き運動(うんどう)の熱(ねつ)を用ゆる事を知(し)らざらん。
コロボックル風俗考 (旧字旧仮名) / 坪井正五郎(著)