“つ”のいろいろな漢字の書き方と例文
カタカナ:ツ
語句割合
衝6.4%
伴6.2%
点5.3%
吐5.3%
就5.1%
注4.8%
憑4.3%
跟4.1%
突2.9%
連2.9%
着2.8%
吊2.6%
釣2.4%
従2.4%
搗2.3%
尾2.2%
積2.0%
告1.8%
附1.8%
摘1.6%
継1.6%
随1.5%
詰1.3%
付1.3%
尽1.2%
撞1.1%
著1.1%
嗣1.0%
即1.0%
支0.9%
漬0.8%
蹤0.8%
酌0.7%
放0.7%
浸0.7%
続0.6%
次0.6%
津0.6%
襲0.6%
築0.5%
點0.4%
灯0.4%
接0.4%
盡0.4%
竭0.4%
繼0.4%
舂0.4%
冷0.3%
愁0.3%
命0.2%
燗0.2%
唾0.2%
亜0.2%
遂0.2%
從0.2%
狙0.2%
尾行0.2%
填0.2%
杖0.2%
記0.2%
啄0.2%
痛0.2%
隨0.1%
追0.1%
窒0.1%
塗0.1%
弔0.1%
攣0.1%
踵0.1%
辛0.1%
屏0.1%
誌0.1%
尋0.1%
傅0.1%
印0.1%
終0.1%
踉0.1%
捺0.1%
拉0.1%
悉0.1%
擣0.1%
熟0.1%
属0.1%
粘0.1%
躡0.1%
縋0.1%
沿0.1%
貼0.1%
剪0.1%
潰0.1%
跡0.1%
熱0.1%
吻0.1%
痙0.1%
繋0.1%
抓0.1%
名0.1%
亞0.0%
慣0.0%
承0.0%
捕0.0%
撮0.0%
添0.0%
誥0.0%
貫0.0%
閉0.0%
附着0.0%
個0.0%
採0.0%
續0.0%
塞0.0%
窮0.0%
作0.0%
佩0.0%
堆0.0%
屬0.0%
染0.0%
粧0.0%
罄0.0%
釘0.0%
集0.0%
将0.0%
拄0.0%
載0.0%
仕0.0%
紹0.0%
交0.0%
俯0.0%
傳0.0%
列0.0%
到0.0%
到着0.0%
刺0.0%
吸0.0%
均0.0%
報0.0%
強0.0%
扈0.0%
擬0.0%
歳0.0%
浴0.0%
痕0.0%
瞑0.0%
箇0.0%
約0.0%
縊0.0%
蒼0.0%
被0.0%
触0.0%
誘0.0%
語0.0%
隷0.0%
面0.0%
呴0.0%
施0.0%
畳0.0%
直0.0%
追従0.0%
喰0.0%
子0.0%
斎0.0%
酣0.0%
つ0.0%
一本點0.0%
仗0.0%
付着0.0%
佃0.0%
併0.0%
使0.0%
停車0.0%
具0.0%
凴0.0%
判0.0%
刺劇0.0%
刻0.0%
剃0.0%
剰0.0%
劈0.0%
加0.0%
労0.0%
卒0.0%
号0.0%
咆0.0%
喙0.0%
噤0.0%
圧0.0%
垂0.0%
密0.0%
密着0.0%
將0.0%
屹0.0%
弾0.0%
当0.0%
往0.0%
従行0.0%
托0.0%
抂0.0%
捉0.0%
掴0.0%
摂0.0%
摏0.0%
擷0.0%
曲0.0%
曳0.0%
書0.0%
服0.0%
枚0.0%
架0.0%
椄0.0%
決0.0%
活着0.0%
渇0.0%
瀝0.0%
照0.0%
燃0.0%
燼0.0%
率0.0%
癇0.0%
盛0.0%
盞0.0%
穿0.0%
竟0.0%
筒0.0%
紉0.0%
紡0.0%
統0.0%
緊0.0%
縦0.0%
纂0.0%
纘0.0%
聞0.0%
聳0.0%
臥0.0%
蓋0.0%
蝕0.0%
装0.0%
觸0.0%
訣0.0%
詑0.0%
諗0.0%
貸0.0%
費0.0%
賦0.0%
赴0.0%
跪0.0%
追跡0.0%
通0.0%
進0.0%
運搬0.0%
都0.0%
配0.0%
鉤0.0%
銘0.0%
鍛0.0%
鑚0.0%
關0.0%
降0.0%
顆0.0%
(注) 作品の中でふりがなが振られた語句のみを対象としているため、一般的な用法や使用頻度とは異なる場合があります。
月心尼がそう頷(うなず)いたとき、その老人が不意に床の上へ起き直った。……あまり突然だったので、月心尼も老婆もあっと胸を衝(つ)かれた。
春いくたび (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
丁度其時、向ふの村にお祭があつて、芝居がかゝつたと言ふので、私は従兄達に伴(つ)れられて行つた。鏡山の芝居だツたと覚えてゐる。
百日紅 (新字旧仮名) / 田山花袋、田山録弥(著)
その日は春と言っても、少し薄寒かったので、コーヒーを入れた後の瓦斯(ガス)ストーブを、そのまま点(つ)けっ放しにして居たことは事実だ。
死の予告 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
玉ちやんの汁かけ飯を食べてゐるのには構はずに、奧さんは先づ溜息を一つ苦しげに吐(つ)いて、中單(チヨキ)を着掛(きかゝ)つてゐる博士にかう云つた。
半日 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
作風は、やはり仏師育ちですが、私に就(つ)いてから、置き物風のものをも研究しましたが、仏様に関した方のものがやはり得意でした。
下宿人の靴へ、しかもその片方(かたっぽう)へ、おかみさんが水をいっぱい注(つ)ぎこんでおこうとは、どうしても考えられない。が、事実は事実だ。
お小姓は静かに立上って庫裡(くり)の方に退くと、死ぬほど恥ずかしがったお由利は、憑(つ)かれたもののように起って、その後を追うのです。
銭形平次捕物控:239 群盗 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
物干場へ上がると、手摺(てすり)が外れてゐて、屋根へ轉げ落ちさうになつたり、夜なんか外へ出ると、誰かきつと後ろから跟(つ)いて來たり——
農家の垣には梨の花と八重桜、畠には豌豆(えんどう)と蚕豆(そらまめ)、麦笛(むぎぶえ)を鳴らす音が時々聞こえて、燕(つばめ)が街道を斜めに突(つ)っ切(き)るように飛びちがった。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
そこで信田(しのだ)の森(もり)へ大ぜい家来(けらい)を連(つ)れて狐狩(きつねが)りに来(き)たのでした。けれども運悪(うんわる)く、一日(にち)森(もり)の中を駆(か)け回(まわ)っても一匹(ぴき)の獲物(えもの)もありません。
葛の葉狐 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
泥濘(ぬかるみ)を捏返(こねかへ)したのが、其(そ)のまゝ乾(から)び着(つ)いて、火(ひ)の海(うみ)の荒磯(あらいそ)と云(い)つた處(ところ)に、硫黄(ゆわう)に腰(こし)を掛(か)けて、暑苦(あつくる)しい黒(くろ)い形(かたち)で踞(しやが)んで居(ゐ)るんですが。
艶書 (旧字旧仮名) / 泉鏡花、泉鏡太郎(著)
日あたりのいいヴェランダに小鳥の籠(かご)を吊(つ)るすとかして、台所の用事や、拭(ふ)き掃除をさせるために女中の一人も置いたらどうだろう。
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「ブラボオ。フゥフィーボー先生。ブラボオ。」と叫(さけ)んでそれからバタバタ、ノートを閉じました。ネネムもすっかり釣(つ)り込(こ)まれて
「将軍は、世に並ぶ者なき英雄と聞いていましたのに、どうしてあんな老人をそんなに、怖れて、董卓の下風(かふう)に従(つ)いているのですか」
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あゝ、おさだ迄かと思うとペタ/\と臀餅(しりもち)を搗(つ)いて、ただ夢のような心持で、呆然(ぼんやり)として四辺を見まわし、頓(やが)て気が付いたと見えて
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
『先刻田圃で吹いた口笛は、あら何ぢや? 俗歌ぢやらう。後を尾(つ)けて來て見ると、矢張口笛で密淫賣(ぢごく)と合圖をしてけつかる。……』
葬列 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
日の暮れ/″\に手車(てぐるま)の諸君も着いた。道具(どうぐ)の大部分は土間に、残りは外に積(つ)んで、荷車荷馬車の諸君は茶一杯飲んで帰って行った。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎、徳冨蘆花(著)
と言(い)って、あたりを見𢌞(みまわ)した時(とき)の袖子(そでこ)は何(なに)がなしに悲(かな)しい思(おも)いに打(う)たれた。その悲(かな)しみは幼(おさな)い日(ひ)に別(わか)れを告(つ)げて行(ゆ)く悲(かな)しみであった。
伸び支度 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「ふん、坊主(ばうず)か」と云(い)つて閭(りよ)は暫(しばら)く考(かんが)へたが、「兎(と)に角(かく)逢(あ)つて見(み)るから、こゝへ通(とほ)せ」と言(い)ひ附(つ)けた。そして女房(にようばう)を奧(おく)へ引(ひ)つ込(こ)ませた。
寒山拾得 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
下るべき水は眼の前にまだ緩(ゆる)く流れて碧油(へきゆう)の趣(おもむき)をなす。岸は開いて、里の子の摘(つ)む土筆(つくし)も生える。舟子(ふなこ)は舟を渚(なぎさ)に寄せて客を待つ。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
レールを二本前の方に継(つ)ぎ足しておいて、鉄の環(かん)に似たものを二つ棺台の端(はし)にかけたかと思うと、いきなりがらがらという音と共に
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
鍬(くわ)を肩に掛けて行く男もあり、肥桶(こえたご)を担いで腰を捻(ひね)って行く男もあり、爺(おやじ)の煙草入を腰にぶらさげながら随(つ)いて行く児もありました。
藁草履 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「私(わたくし)の樣(やう)なものには到底(たうてい)悟(さとり)は開(ひら)かれさうに有(あ)りません」と思(おも)ひ詰(つ)めた樣(やう)に宜道(ぎだう)を捕(つら)まへて云(い)つた。それは歸(かへ)る二三日(にさんち)前(まへ)の事(こと)であつた。
門 (旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
いや、一旦(いったん)はもう杭(くい)を打つたんですが、近所が去年焼けたもんですから、又なんだかごた付(つ)いて……。一体どうなるんでせうかねえ。
赤い杭 (新字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
孔子は子路ほど早く見切をつけず、なお尽(つ)くせるだけの手段を尽くそうとする。子路は孔子に早く辞(や)めてもらいたくて仕方が無い。
弟子 (新字新仮名) / 中島敦(著)
鼻蠢(うごめ)かして世話人は御者の背(そびら)を指もて撞(つ)きぬ。渠は一言(いちごん)を発せず、世話人はすこぶる得意なりき。美人は戯るるがごとくに詰(なじ)れり。
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そしてその場所に著(つ)くと、急に平らな如何(いか)にも屋敷趾らしい開けた土地があった。開けたといっても、それは亡霊の住む土地である。
簪を挿した蛇 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
平凡な青年ならできてもできなくとも周囲のものにおだてあげられれば疑いもせずに父の遺業を嗣(つ)ぐまねをして喜んでいるだろう。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
考へも自然に内攻し餘りに自分に即(つ)き過ぎてゐることが自分にもわかつたが、容易にさういふ状態から脱け出ることが出來なかつた。
続生活の探求 (旧字旧仮名) / 島木健作(著)
すると、軽く膝を支(つ)いて、蒲団(ふとん)をずらして、すらりと向うへ、……扉(ひらき)の前。——此方(こなた)に劣らず杯(さかずき)は重ねたのに、衣(きぬ)の薫(かおり)も冷(ひや)りとした。
妖術 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
粗(ざつ)と水(みづ)に漬(つ)けて、ぐいと絞(しぼ)つて、醤油(しやうゆ)で掻𢌞(かきまは)せば直(す)ぐに食(た)べられる。……私(わたし)たち小學校(せうがくかう)へ通(かよ)ふ時分(じぶん)に、辨當(べんたう)の菜(さい)が、よく此(これ)だつた。
間引菜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花、泉鏡太郎(著)
私までが幾度(いくたび)も幾度も引っ張り出されたが、今更となると、どうにも気恥かしいのだが、後からただ蹤(つ)いてまわるには蹤いてあるいた。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
黙って父は、ただマジャルドーと酒ばかり酌(つ)ぎ合って、ナフキンで髭(ひげ)ばかり拭いていた。母も黙って洟(はな)をすすって、一言も言わなかった。
陰獣トリステサ (新字新仮名) / 橘外男(著)
火を放(つ)けた人は赤い火のめらめら燃えてゐる籠を脊負はされ、めかけ持つた人は二つの首のある青い蛇にからだを卷かれて、せつながつてゐた。
思ひ出 (旧字旧仮名) / 太宰治(著)
ことに、二つき三月とこの猿の湯に浸(つ)かりあげれば、年どしの季候の変り目に、思い出したようにふる傷が泣くということがない。
煩悩秘文書 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「何ですか、その西洋料理へ行って午飯(ひるめし)を食うのについて趣向があるというのですか」と主人は茶を続(つ)ぎ足して客の前へ押しやる。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
おのおの智能と衣裳と役割を持ち寄って、この一冬のMORITZに雪の舞踏を踊り抜く——それは、夜を日に次(つ)ぐ白い謝肉祭(カアニバル)なのだ。
踊る地平線:11 白い謝肉祭 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
播州の室(むろ)ノ津(つ)でも、遊女たちを教化している。当時の遊女たちにも、今昔(こんじゃく)のない共通の女の悩みや反省があったことにはちがいない。
随筆 新平家 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかもその修養のうちには、自制とか克己(こっき)とかいういわゆる漢学者から受け襲(つ)いで、強(し)いて己(おのれ)を矯(た)めた痕迹(こんせき)がないと云う事を発見した。
長谷川君と余 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
地勢としての横浜は神奈川より岸深(きしぶか)で、海岸にはすでに波止場(はとば)も築(つ)き出(だ)されていたが、いかに言ってもまだ開けたばかりの港だ。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「やい、宿(やど)六、飯(めし)をだしてくれ、飯(めし)を。腹(はら)がぺこぺこだ。え。こんなに暗(くら)くなつたに、まだランプも點(つ)けやがらねえのか。え、おい」
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
「じゃ、なぜ暑いのに、あの窓を閉めっぱなしにしとくんです? あの窓は、いつも明りが灯(つ)いて、でも閉まったままだったわ」
軍国歌謡集 (新字新仮名) / 山川方夫(著)
二人が話しているうちに、百合子は綺麗(きれい)に木皿を空(から)にした。そうして木に竹を接(つ)いだような調子で、二人の間に割り込んで来た。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
夜(よる)の燭火(ともしび)は燃(も)え盡(つ)きて、嬉(うれ)しげな旦(あした)めが霧立(きりた)つ山(やま)の巓(いたゞき)にもう足(あし)を爪立(つまだ)てゝゐる。速(はや)う往(い)ぬれば命(いのち)助(たす)かり、停(とゞ)まれば死(し)なねばならぬ。
いずれはさりともと思うてまた河を廻りて西に着くほどに、河の中にて力竭(つ)きて空しく流れ失(う)せぬ、心多き物は今生後生ともに叶わぬなり
「お島が死んでしまへば、他人の私は此家から出る外はありません。寶屋の後を繼(つ)ぐのは遠縁の者でも、改めて養子に入れることでせう」
縁者(えんじゃ)親類加勢し合って、歌声(うたごえ)賑(にぎ)やかに、東でもぽったん、西でもどったん、深夜(しんや)の眠を驚かして、夜の十二時頃から夕方までも舂(つ)く。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎、徳冨蘆花(著)
鳥は園の周囲(まはり)に鳴き、園丁の鍬に堀(ほ)りかへさるる赤土のやはらかなるあるかなきかの湿潤(しめり)のなかのわかき新芽のにほひよ、冷(つ)めたけれども力(ちから)あり。
桐の花 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
お前(まへ)の父(とゝ)さんは馬(うま)だねへと言(い)はれて、名(な)のりや愁(つ)らき子心(こゞころ)にも顏(かほ)あからめるしほらしさ、出入(でい)りの貸座敷(いゑ)の祕藏息子(ひざうむすこ)寮住居(りようずまひ)に華族(くわぞく)さまを氣取(きど)りて
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
それにしても、“親米小路”とは、いしくも命(つ)けたものだ。……けだし、新興浅草の神経を、率直に、直截に表明したものだろう。
浅草風土記 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
音「少し待っておくんなまし、いう事がありんすから…瀧の戸はん、後生お願いなんざますが一本燗(つ)けて来てくんなまし」
それを、沙金(しゃきん)が、かたわらからそっとささえた。十余人の盗人たちは、このことばを聞かないように、いずれも唾(つ)をのんで、身動きもしない。
偸盗 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
あの人はモー駄目(だめ)だ、今度こそごねる、あの人が死ねば何某(なにがし)がその職を亜(つ)ぐだろう、その時は此方(こっち)も位地を進めてもらえる
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
違(ちげ)えねえ、側に居たなア、何を云やアがるんで、耄碌(もうろく)ウしてえるんだ、あん畜生(ちきしょう)、ま師匠腹を立(たっ)ちゃア往(い)けねえヨ、己は遂(つ)い慌(あわ)てるもんだから凹(へこ)まされたんだ
私は彼女に話しかけたかつたけれど、手は鐵のやうな握り方で、掴まれてゐた——私は從(つ)いて行けないやうな大胯で急(せ)き立てられた。
「それじゃアあの女を知ってるのか。俺の狙(つ)けてる淫売だが」
銀三十枚 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
其傍(そば)には続いて彼を尾行(つ)ける為めであろう、箕島刑事も先に降りて茫然と手持無沙汰に立って居た。彼は切符を渡す時、黒服赤襟の女車掌の耳元へ口を摺寄(すりよ)せた。
乗合自動車 (新字新仮名) / 川田功(著)
「善い事はないがちょっと愛嬌(あいきょう)があるよ。あれぎり、まだ填(つ)めないところが妙だ。今だに空也餅引掛所(ひっかけどころ)になってるなあ奇観だぜ」
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
この両側左右の背後に、浄名居士(じょうみょうこじ)と、仏陀波利(ぶっだはり)が一(ひとつ)は払子(ほっす)を振り、一(ひとつ)は錫杖(しゃくじょう)に一軸(いちじく)を結んだのを肩にかつぐように杖(つ)いて立つ。
七宝の柱 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
一八三七年頃から記(つ)けはじめた尨大(ぼうだい)な量にのぼる彼の日記はその素材であり習作でもあった。詩作も試みたが、この方は大成しなかった。
垣根の傍に花を啄(つ)んでいた鶏は、この物音に驚いて舞起つもあれば、鳴いて垣根の下を潜(もぐ)るもあり、手桶の水は葱畠(ねぎばたけ)の方へ流れて行きました。
藁草履 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
さあれ、かの痛(つ)らき父の眼(め)
思ひ出:抒情小曲集 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
この小鳥(ことり)の群(むれ)には、必(かなら)ず一羽(ぱ)づゝ先達(せんだつ)の鳥(とり)があります。その鳥(とり)が空(そら)の案内者(あんないしや)です。澤山(たくさん)に隨(つ)いて行(ゆ)く鳥(とり)の群(むれ)は案内(あんない)する鳥(とり)の行(ゆ)く方(はう)へ行(ゆ)きます。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
自分は蛇が見たいから、細い道をどこまでも追(つ)いて行った。爺さんは時々「今になる」と云ったり、「蛇になる」と云ったりして歩いて行く。しまいには
夢十夜 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
検事は前方の壁面を見上げて思わず声を窒(つ)めた。それ迄バラバラに分離していた多くの謎が、そこで渾然と一つの形に纏まり上っている。
夢殿殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
そして奥の部屋へ、抱き上げてくると、衣服を出して、着かえさせたり、摺(す)り傷(きず)をあらためて、薬を塗(つ)けたりして
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
忽(たちま)ち一種の恐怖に襲われて目を開(あ)くと、痘痕(とうこん)のまだ新しい、赤く引き弔(つ)った鉄の顔が、触れ合うほど近い所にある。五百は覚えず咽(むせ)び泣いた。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
神経性の痙攣(けいれん)が下唇の端をぴくぴくと引っ攣(つ)らせ、くしゃくしゃになった縮(ちぢ)れ髪(げ)が、まるで鬣(たてがみ)のように額(ひたい)に垂れかかっている。
彼は遽(にはか)に心着きて履物(はきもの)を検(あらた)め来んとて起ちけるに、踵(つ)いで起てる満枝の庭前(にはさき)の縁に出づると見れば、傱々(つかつか)と行きて子亭(はなれ)の入口に顕(あらは)れたり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
云うに云われぬ切なさ辛(つ)らさが。たった一度に皆落ちかかるよ。残る一つの頼みの綱なら。赤い煉瓦の院長様よと。出来ぬ算段して来て見れば。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
見物は少し勝手が違うのに気が附く。対話には退屈しながら、期待の情に制せられて、息を屏(つ)めて聞いているのである。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
やがて、かたりと書物を置き易(か)える音がする。甲野さんは手垢(てあか)の着いた、例の日記帳を取り出して、誌(つ)け始める。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
尋(つ)いで師の教えを受け、各この薬を磨くに、竜樹香(かおり)を聞(か)ぎてすなわち便(ただ)ちにこれを識る。数の多少を分かつに、錙銖(ししゅ)も失うなし。
此故に縦令(たとひ)おしろいの広告が全紙面を填(うづ)むとも、粉白(ふんはく)を傅(つ)くるに意なきものがこれを咎めようとはせぬのである。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
やっと、はじめて雪の上に、こぼこぼ下駄のあとの印(つ)いたのが見えたっけ。風は出たし……歩行(ある)き悩んだろう。
第二菎蒻本 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
さうして今頃は田舍は田植の最中であることが思はれた。昔日の激しい勞働を寄る年波と共に今は止してゐても、父の身神には安息の日は終(つ)ひに見舞はないのである。
崖の下 (旧字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
此人達は大小を指して殿様の行列の後に踉(つ)いて歩いた。勤王佐幕(きんわうさばく)の喧(やかま)しい争闘の時には昼夜兼行(ちうやけんかう)で浜町の上屋敷に上訴に出かけて行つたこともあつた。
朝 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
名前の下へ印を捺(つ)かねばいくまいと云ふから、袂の中から坂本と鐫(ほ)つた見印(みとめ)を出して捺いてやつたさうです。
そこへ彼の伜が来て、曳(ひ)き摺(ず)るようにして彼を拉(つ)れ帰ったのだったが、彼はその晩、ひどく腹を病み、とうとうその明け方に死んだ。
或る部落の五つの話 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
本来この筆記は単に記憶に存したる事実を思い出ずるまゝに語りしものなれば、恰(あたか)も一場の談話にして、固(もと)より事の詳細を悉(つ)くしたるに非(あら)ず。
暫くして黒衣の人を褐衣(かつい)の人が送り出で、汝の主家の名簿はと問うと、絹を擣(つ)く石の下に置いたから安心せよという。
頭をかきむしッたような『パアポロトニク』(蕨(わらび)の類(たぐ)い)のみごとな茎(くき)、しかも熟(つ)えすぎた葡萄(ぶどう)めく色を帯びたのが、際限もなくもつれからみつして目前に透かして見られた。
武蔵野 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
人死にて神魂(たま)と亡骸(なきがら)と二つに別(わかり)たる上にては、骸(なきがら)は汚穢(きたなき)ものの限りとなり、さては夜見(よみ)の国の物に属(つ)く理(ことわり)なれば、その骸に触れたる火に汚(けがれ)のできるなり。
通俗講義 霊魂不滅論 (新字新仮名) / 井上円了(著)
たちのぼる惡氣岸に粘(つ)き、黴(かび)となりてこれをおほひ、目を攻めまた鼻を攻む 一〇六—一〇八
神曲:01 地獄 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
帝大理少卿(たいりしょうけい)嵓を遣(や)りて、燕王及び諸将士の罪を赦(ゆる)して、本国に帰らしむることを詔(みことのり)し、燕軍を散ぜしめて、而して大軍を以(もっ)て其(その)後(あと)に躡(つ)かしめんとす。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
何処(いずこ)ともなくさらわれて行くのに気の付いた女乞食が、大骨を折って後をつけて、此の屋敷の外まで来ると、又その後を縋(つ)けて来た六蔵という男乞食がやって来て
温泉宿から梓川に沿(つ)いて、河童橋を渡り、徳本(とくごう)の小舎まで来た、飛騨から牛を牽いて、信州へ山越しにゆく牧場稼ぎの人たちが、行き暮れて泊まるところだ。
谷より峰へ峰より谷へ (新字新仮名) / 小島烏水(著)
それに山桜が到る処に咲いて散つて、それが雨にぬれたキヤラコの黒の三紋の羽織にいつまでも貼(つ)いて居た。
春雨にぬれた旅 (新字旧仮名) / 田山花袋、田山録弥(著)
そんな事をするひまがあったら鼻毛でも剪(つ)んだらどう? 伸びていますよ、くやしかったら肥桶をかついで
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)
上半身が、半分出た為(ため)に、衝突の時に、扉と車体との間で、強く胸部を圧(お)し潰(つ)ぶされたのに違いなかった。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
蹤(あと)跡(つ)け行くとここに至って見えず、その地を掘って金を求めた跡が現存すといい、二四〇巻には秦の恵王蜀を伐たんとて石の牛五頭を作り、毎朝金をその後に落し牛が金を便するという
とたんに二人とも「あっ熱(つ)つつ」と悲鳴をあげた。
余儀なく寐返りを打ち溜息を吻(つ)きながら眠らずして夢を見ている内に、一番鶏(どり)が唱(うた)い二番鶏が唱い、漸く暁(あけがた)近くなる。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
おことの左の顔面筋が痙(つ)る。切られて居るのは右の肺部を刺し貫かれて居るのである。そこに古い手拭を巻きつけて居るのが真赤に染つて、見るも惨酷な様な光景である。
茶に、黒に、ちりちりに降る霜(しも)に、冬は果てしなく続くなかに、細い命を朝夕(あさゆう)に頼み少なく繋(つ)なぐ。冬は五年の長きを厭(いと)わず。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
吾々は強すぎる光線や、嫌な匂ひに出遇ふと、それを防ぐのに、眼を閉ぢ、鼻を抓(つ)まんで避けてゐる。
へえゝ真(ま)ツ赤(か)……真(ま)ツ黒(くろ)旨(うま)く名(つ)けましたな、成程(なるほど)真(ま)ツ赤(か)らしい色で……彼(あ)れは。近江屋「彼家(あれ)は宮松(みやまつ)といふ茶屋(ちやや)よ。梅「へえゝ……これは甃石(しきいし)でございませう。近江屋「おや/\よく解(わか)つたね。 ...
心眼 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
それからそれに亞(つ)ぎまして、「文」「錢」の外に、あゝ云ふ類の之に準ずべきものがあります。例之(たとへ)ば「天地」と云ふことは「あめつち」よりか「てんち」の方が行はれて居る。
仮名遣意見 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
おゝ突当(つきあた)りやがつて、気(き)を附(つ)けろい、盲人(めくら)に突当(つきあた)る奴(やつ)が有(あ)るかい。近「眼(め)が明(あ)いて居(ゐ)るぢやアないか。梅「ヘヽヽ今日(けふ)明(あ)きましたんで、不断(ふだん)云(い)ひ慣(つ)けて居(ゐ)るもんですから。 ...
心眼 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
一つは言語と同じく日本の鎌倉、足利時代の風俗を受け承(つ)ぐものです。そうして一つにはその土地の温度や湿度から必然に喚起せられたものなのです。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
この女は非合法にされてからは、何時(いつ)でも工場に潜(も)ぐりこんでばかりいたので、何べんか捕(つ)かまった。それが彼女を鍛えた。
党生活者 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
みんなありがたそうな顔をしてそれを観(み)ていた。三沢も自分も狐に撮(つ)ままれた気味で坐っていた。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
これが正門ですがね、締切りだから壁へ添(つ)いて廻るんですと云って、馬を土堤(どて)のような高い所へ上げた。右は煉瓦(れんが)の壁である。それがところどころ崩(くず)れかかっている。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
孃(ぢやう)さまは夫(それ)ほどまでに雪三(せつざう)を力(ちから)と覺(おぼ)しめしてか、それとも一時(じ)のお戯(たはむ)れか、御本心(ごほんしん)仰(おほ)せ聞(き)けられたしと問(と)ひ誥(つ)むるを、糸子(いとこ)ホヽと笑(わら)ひて松野(まつの)が膝(ひざ)に輕(かる)く手(て)を置(お)きつ、戯(たは)むれかとは問(と)ふ丈(だけ)も淺(あさ)し
たま襻 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
林藏も刀の柄元を握詰め喉を貫(つ)いて居(おり)ますから、如何(どう)いう事かと調べになると、大藏の申立(もうしたて)に、平素(つね)から訝(おか)しいように思って居りましたが、予(かね)て密通を致し居り
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
眼を閉(つ)むっても本能的なカンで通抜けられる位、慣れ切った道になっているのでしょう。
S岬西洋婦人絞殺事件 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
即ち汽車に附着(つ)いて来た新らしい野菜の匂が新聞やサンドウヰツチの呼声に交つてプラツトホームの冷え冷えした空気に満ちわたつてゐる。
新橋 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
見事な、しかし心持地味なお納戸(なんど)の着物に、派手なコバルト色のパラソル、新しいフェルト草履(ぞうり)、バスケット一個(つ)という姿の彼女がションボリと玄関に立った。
少女地獄 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
山部赤人の歌で、春の原に菫(すみれ)を採(つ)みに来た自分は、その野をなつかしく思って一夜宿(ね)た、というのである。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
『此の間ね。』高橋は言ひ續(つ)いだ。『何とかした拍子に先生莫迦に昂奮しちやつてね、今の其の話を始めたんだ。話だけなら可いが、結末(しまひ)にや男泣きに泣くんだ。 ...
我等の一団と彼 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
「むゝ。」と默ツて了ツて、「何しろ氣の塞(つ)まる室だ。これじや畫室の裡に押込められてゐた方が氣が利(き)いてゐるかも知れん。」
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
その人は髭(ひげ)を貯(たくわ)えて、洋服を着けたるより、渠(かれ)はかく言いしなるべし。官吏?は吸い窮(つ)めたる巻煙草を車の外に投げ棄(す)て、次いで忙(いそが)わしく唾(つば)吐きぬ。
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
出淵(でぶち)様。いつぞや、御家中の岡村の旦那から伺いますに、其角(きかく)の句を読み入れた新作をお作(つ)くんなすって、それを藤七が節付(ふしづ)けしたってお話じゃござんせんか。そういうものを
脚 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
(前略)その日バタリア僧院の神父ヴェレリオは余を聖餐式(エウカリスチヤ)に招きたれど、姿を現わさざれば不審に思いいたる折柄、扉を排して丈(たけ)高き騎士現われたり、見るに、バロッサ寺領騎士の印章を佩(つ)け
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
石を堆(つ)んで人を埋めた石こつみの話、謡曲に残る谷行の作法などは、成年戒の苦しみの物語化したものである。天狗が胯(また)を裂くといふ信仰も、此に関係がある様だ。
そりや同(おな)じ所(ところ)に住(す)んでるから、緋鯉(ひごひ)に屬(つ)くが當前(あたりまへ)だけれどもね、君(きみ)が、よくお飯粒(まんまつぶ)で、絲(いと)で釣上(つりあ)げちや投(な)げるだらう。
霰ふる (旧字旧仮名) / 泉鏡花、泉鏡太郎(著)
赤いのは上へ乗っけて又其の上へ乗っけては赤いのが染(つ)くからいかねえとか、種々(いろ/\)な事を云う奴があるので、それが種になって段々お癪になったのだから
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
晃 そんなに、お前、白粉(おしろい)を粧(つ)けて。
夜叉ヶ池 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
医ハソノ好ム所ニ非ズトイフ。某氏ノ子ヲ養ヒ嗣ト為シテ仕ヲ辞ス。嗣子罪アリ籍ヲ削ラルヽニ迨(およ)ビ、家ヲ携ヘテ四方ニ漫遊ス。性甚(はなはだ)酒ヲ嗜(たしな)ム。獲ル所酒ニ罄(つ)ク。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
さらば爾(なんじ)は神を見ざりしか? 神は十字の木の上に居たまいぬ、足をたれ手を釘(つ)けられ、白き荊棘(いばら)の小さき冠を頭にかぶりて居たまいぬ。
玉蘭(はくれん)の落葉掻き集(つ)め焚く風呂のねもごろ柔(やは)き湯気に立つめり
黒檜 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
瓦師どう仕(つかまつ)りまして、それを私方へ将(つ)れ往(ゆ)いたら瓦器が残らず踏み砕かれましょうと辞(いな)む。
甲者は頬杖(ほおづえ)拄(つ)きたりし面(おもて)を外(はず)して、弁者の前に差し寄せつつ
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
私の荷物と尊者(そんじゃ)に上げる供養物とを馬に載(つ)け私ども三人も馬に乗って行くという訳で、下僕(しもべ)が三人に馬七疋、同行六人で南の方へ指して進んで参った。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
染型をつける紺屋糊(こんやのり)のあつかいから太刀使いを発明して、鞍馬僧の長刀(なぎなた)の上手に仕(つ)いたり、八流の剣法を研究したりして、ついに、一流をたて、吉岡流の小太刀というものは
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
是非学士にすると云っていた、先代の遺志を紹(つ)いで、御隠居が世話をしていられた。
蛇 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
今迄私の味方になって居てくれた親類の者共が交(つ)き合を断ってしまいます。家主は私を追い出します。
殺された天一坊 (新字新仮名) / 浜尾四郎(著)
しかも心持右側を下にして俯(つ)っ伏(ぷ)し加減に眼を閉じているその屍体は、房々と渦巻いた金髪は乱れて地上に長く波うって、右腕は付根から捥(も)ぎとられていた。
令嬢エミーラの日記 (新字新仮名) / 橘外男(著)
其方(そなた)を眺(なが)めて佇立(たゝず)めば、風(かぜ)に傳(つ)たはる朗詠(らうえい)の聲(こゑ)いとゞ床(ゆか)しさの數(かず)を添(そ)へぬ糸子(いとこ)世(よ)は果敢(はか)なきものと思(おも)ひ捨(す)てゝ、盛(さか)りの身(み)に紅(べに)白粉(おしろい)よそほはず、金釵(きんさ)綾羅(りようら)なんの爲(ため)の飾(かざ)り、入(い)らぬことぞと顧(かへり)みもせず
たま襻 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
時之大屋子がこの可憐なる孝女を列(つ)れて来て
ユタの歴史的研究 (新字新仮名) / 伊波普猷(著)
この自分を到(つ)かしめやうとするのだ
愛の詩集:03 愛の詩集 (新字旧仮名) / 室生犀星(著)
ラシイヌの一行を待ち構えながら滞在していたボルネオの首府の、サンダカンから自動車を走らせ、ラシイヌ達が避難しているここクック村の護謨園(ゴムえん)へ、たった今到着(つ)いたところであった。
沙漠の古都 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
何かしら、函の中から赤いものが飛び出して来て、彼の顎にぶッつかり、そこの皮膚をチクリと刺(つ)いた。それはおもちゃのビックリ函と同じ仕掛けになっていたのだ。
妖虫 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「ま。一ぷく、お吸(つ)けなすって。その間にゃ」
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
相手へ重圧を加えるような一喝(かつ)を浴びせると、彼の体格に均(つ)り合っている長刀が、いかにも軽いもののように、びゅっ——と微かな鳴りを発して、武蔵のあった位置を正確に薙(な)ぎ払っていた。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
既にして夜行太(やぎやうた)等は、お夏が儔(たぐひ)多からぬ美女たるをもて、ふかく歓び、まづその素生(すじやう)をたづぬるに、勢ひかくの如くなれば、お夏は隠すことを得ず、都の歌妓(うたひめ)なりける由を、あからさまに報(つ)げしかば
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「なア、兄(あん)ちゃ、犬ど狼どどっち強(つ)えんだ。——犬だな。」
不在地主 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
またその後ろには弟子達が沢山に扈(つ)いて行きますのでチベットでは非常な観物(みもの)です。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
一刀(いっとう)をピタリと片身(かたみ)青眼(せいがん)に擬(つ)けたという工合に手丈夫(てじょうぶ)な視線を投げかけた。
観画談 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
何日もの如く三歳(つ)になる女の兒の帶に一條の紐を結び、其一端を自身の足に繋いで、危い處へやらぬ樣にし、切爐(きりろ)の側に寢そべつて居たのが、今時計の音に眞晝の夢を覺されたのであらう。
雲は天才である (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
なかには立って歩いているのもあれば、蹲跼(しゃが)んで肩まで浴(つ)かってるのもある。
ありし次第をわが田に水引き水引き申し出づれば、痩せ皺びたる顔に深く長く痕(つ)いたる法令の皺溝(すじ)をひとしお深めて、にったりと徐(ゆる)やかに笑いたまい、婦女(おんな)のように軽(かろ)く軟(やわ)らかな声小さく
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
眼を瞑(つ)むり腕を組んだ。猛獣の襲うに任せたのであった。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
箇(つ)の髑髏(どくろ)を與(あた)へ、いでや出陣(しゆつぢん)と立上(たちあが)れば、毒龍(どくりよう)再(ふたゝ)び策(さく)
鬼桃太郎 (旧字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
『クニス』が約(つ)まって『クス』になる最好の適例としては、『ハニシ』(土師)が『ハジ』になり、『クヌガ』(陸)が『クガ』になったものを提供したい。
国栖の名義 (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)
色事だって親の方にも義理があるから追返す位(くれえ)なら首でも縊(つ)るか、身い投げておっ死(ち)ぬというだ
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
同時に、あらぬ方(かた)に蒼(つ)と面(おもて)を背(そむ)けた。
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
虹……まさにそれは、革鞭(かわむち)のような虹でした。ですが、犯人を気取ってみたり、久我鎮子の衒学的(ペダンティック)な仮面を被(つ)けたりしている間は、それに遮られていて、あの虹を見ることが出来なかったのです。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
御爺さん、これ、なあにと小供が来て指を触(つ)けようとすると、始めて月日に気がついたように、老人は、触(さわ)ってはいけないよと云いながら、静かに立って、懸物を巻きにかかる。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
『癇(かん)のつよい栗毛が一疋居りますから、それに誘(つ)り込まれて、他(ほか)の馬が騒ぎ出したのでございましょう』
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
老人は当人に代って、満洲の野(や)に日ならず出征すべきこの青年の運命を余に語(つ)げた。この夢のような詩のような春の里に、啼(な)くは鳥、落つるは花、湧(わ)くは温泉(いでゆ)のみと思い詰(つ)めていたのは間違である。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
マドラスの少し南マイラブルは今日英領だが徳川氏の初世はポルトガルに隷(つ)きサントメと呼んだ、したがってそこから渡した奥縞を桟留機(さんとめおり)とも呼んだ、キリストの大弟子中尊者(サン)トメ最も長旅し
少しは世間に面(つ)らを出して人気のあるものにしたいと、漱石氏の作品などを歓迎する傾きがあった。
漱石氏と私 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
竟(つひ)には溜息(ためいき)呴(つ)きてその目を閉づれば、片寝に倦(う)める面(おもて)を内向(うちむ)けて、裾(すそ)の寒さを佗(わび)しげに身動(みうごき)したりしが、猶(なほ)も底止無(そこひな)き思の淵(ふち)は彼を沈めて逭(のが)さざるなり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
妻の喜は溢(あふ)るるばかりなるに引易(ひきか)へて、遊佐は青息(あをいき)呴(つ)きて思案に昏(く)れたり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
だってなんぼ色がお白(しろい)ッてあんなに……私(わたくし)も家(うち)にいる時分はこれでもヘタクタ施(つ)けたもんでしたがネ、此家(こちら)へ上ッてからお正月ばかりにして不断は施けないの
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
年紀(とし)は十六七でネ、随分別品(べっぴん)は……別品だッたけれども、束髪の癖にヘゲル程白粉(おしろい)を施(つ)けて……薄化粧なら宜けれども、あんなに施けちゃア厭味ッたらしくッてネー……オヤ好気なもんだ
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
倹約を宗(むね)として一〇家の掟(おきて)をせしほどに、年を畳(つ)みて富み昌(さか)えけり。かつ一一軍(いくさ)を調練(たなら)す間(いとま)には、一二茶味(さみ)翫香(ぐわんかう)を娯(たのし)まず。
四三管仲(くわんちゆう)、四四九(ここの)たび諸侯をあはせて、身は四五倍臣(やつこ)ながら富貴は列国の君に勝(まさ)れり。四六范蠡(はんれい)、四七子貢(しこう)、四八白圭(はつけい)が徒(ともがら)、四九財(たから)を鬻(ひさ)ぎ利を逐(お)うて、巨万(ここだく)の金(こがね)を畳(つ)みなす。
致せと云ながら直樣(すぐさま)自宅に立歸りお花が部屋に直(つ)と這入(はひれ)ばお花はハツト仰天(ぎやうてん)して友次郎を夜着(よぎ)の中に手早く隱(かく)し側(そば)に有し友次郎が脇差(わきざし)を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
聞(きゝ)てオヽ嬉(うれ)しや申し重四郎樣と云ながら直(つ)と身を寄(よせ)其縁談(そのえんだん)は彼(あ)の大津屋段右衞門の後家(ごけ)にて縁女(えんぢよ)はお恥(はづか)しながらと口籠(くちごも)り顏を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
そしてどうやら二人の武士は、二人ながら老人を追従(つ)けては行くが、武士達二人はお互いに知己(ちき)であるようにも思われぬ。二人は他人であるらしい。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「私にはとうに解っておる。二人の武士が私の後を町から追従(つ)けて来た筈じゃ——向こうの林の木の蔭とこっちの土手の草のかげに兎(うさぎ)のように隠れておるわ」
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
おん裳(も)喰(つ)んず
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
袈裟(けさ)喰(つ)んず
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「それにしても、娘(あま)つ子(つ)はあの死骸を何うしたであらう。村では、あの娘つ子の手に其死骸のある中は、寺には決して葬らせぬと言つて居つたが……」
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
あの娘(あま)つ子(つ)が引取つて行つたけれど、村では誰も構ひ手が無し、遠い親類筋のものは少しはあるが、皆な村を憚(はゞか)つて、世話を為(し)ようと言ふものが無えので、娘(あま)つ子(つ)非常に困つて居たといふ事です……。
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
御室(みもろ)斎(つ)く三輪山(みわやま)見(み)れば隠口(こもりく)の初瀬(はつせ)の檜原(ひはら)おもほゆるかも 〔巻七・一〇九五〕 作者不詳
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
「御室(みもろ)斎(つ)く」は、御室(みむろ)に斎(いつ)くの意で、神を祀(まつ)ってあることであり、三輪山の枕詞となった。「隠口(こもりく)」は、隠(こも)り国(くに)の意で、初瀬の地勢をあらわしたものだが、初瀬の枕詞となった。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
甘(うめ)え仕事もねえのサ……親方御免なせえ……お爺さん熱くして一本酣(つ)けておくれ、お爺さん、カラどうも酔(えい)が醒めちゃア生地(いくじ)がねえんだ、寒い時と怖(こえ)え時は酒でなくッちゃア凌(しの)げねえから
己(おら)ア転がっちゃッた、え、おいお爺(とっ)さん、初めッから怖(こえ)え侍ならば油断をしねえが、やさしい声で若衆や気を附けて遣って呉れッて、鰻屋で一本酣(つ)けて二分の祝儀だ、畏りましたと云うと
と、疲(つか)れてきた羽(はね)にバサバサと力(ちから)を罩(こ)めて、追(お)ひつかうとするけれど、ラランのやつはさつさと先(さき)へ飛(と)びながら、着(お)ちつ(つ)いたもので
火を喰つた鴉 (新字旧仮名) / 逸見猶吉(著)
さてこれから怎(どう)したもんだらう? と考へたが、二三件向うに煙草屋があるのに目を附けて、不取敢(とりあへず)行つて、「敷島」と「朝日」を一つ宛買つて、一本點(つ)けて出た。
病院の窓 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
中原(ちゅうげん)、また鹿を逐(お)うて、筆を投げすてて戎軒(じゅうけん)を事とす。縦横の計(はかりごと)は就(な)らざれども、慷慨(こうがい)の志は猶(な)お存せり。策(つえ)を仗(つ)いて天子に謁(えっ)し、馬を駆って関門を出(い)ず。
面 (新字新仮名) / 富田常雄(著)
そこに、たとえば縊(くび)れたような赤い痕が残っていて、なおよくみると、塵のような麻屑が生毛(うぶげ)みたいに付着(つ)いている。藤吉は顔を上げた。その口は固く結ばれていた。その眼は異様に輝いていた。
伊勢のいわゆる神嘗の御祭にも、抜穂(ぬきほ)の式は厳重に行われているが、此方は斎田が至近の地にあり、これを佃(つ)くる者も神人であった。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
幸ひ此方(こつち)の社が拡張の機運に際して居たので、社長は随分と破格な自由と待遇を与へて竹山を併(つ)れて来たのだと云ふ事であつた。
病院の窓 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
「いろいろおりました。花魁が法学士のK君でしたが、口髯(くちひげ)を生やして、女の甘ったるいせりふを使(つ)かうのですからちょっと妙でした。それにその花魁が癪(しゃく)を起すところがあるので……」
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
クルガンの停車場へ停車(つ)く前に煙草(たばこ)を喫(の)もうと思ってね、喫煙室へ出かけたものさ。あの女の前を通った時だ。不意に女が立ち上がって僕の腰の辺へぶつかったよ。
沙漠の古都 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
そこへ召された安倍資成(あべのすけなり)は、二十騎ばかりを具(つ)れて、仙洞御所(せんとうごしょ)へ、急使として駈けて行った。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
見る見る老女の怒(いかり)は激して、形相(ぎようそう)漸くおどろおどろしく、物怪(もののけ)などの凴(つ)いたるやうに、一挙一動も全くその人ならず、足を踏鳴し踏鳴し、白歯の疎(まばら)なるを牙(きば)の如く露(あらは)して
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
夜も更(ふ)けて来るにつれ、寝苦しく物に襲われるようで、戸棚を囓(かじ)る鼠も怖しく、遠い人の叫とも寂しい水車の音とも判(つ)かぬ冬の夜の声に身の毛が弥立(よだ)ちまして、一旦吹消した豆洋燈(ランプ)を点けて
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
朦朦(もうもう)と湯気が立っている。プ——ンと異臭が鼻を刺劇(つ)く。その傍に黒々と、道服を纒った女がいる。
神秘昆虫館 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
この間、旅先から手紙を寄越(よこ)しなすったそうだが、なぜもっと早く来ないのかって、お家様も噂(うわさ)をしていたのさ。船が出るのは五(い)ツ刻(つ)だから、まだちょっと間がある。
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
気永に遣ったもんだから、遂(つい)には坊様になるべえとッて漸(ようや)く去年の二月頭をおっ剃(つ)ったのさ
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
差引き勘定をしたならば、まだ自分の方に剰(つ)り銭が戻らなければならぬような気がする。主君と思えばこそ、せっかく、これを機会に、まごころ込めて無謀な移住を思いとどまらしめようとした。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
曲者(くせもの)は匕首(あいくち)を持っているらしく、ガラッ八の脇と肩を劈(つ)きましたが、ガラッ八は巧みに防いで、三度目には十手に絡んで得物をハネ飛ばし、自慢の力でギューと押付けてしまったのです。
銭形平次捕物控:126 辻斬 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
此糸も立ち、初紫も立ち、千鳥も名山も出て行ッて、ついに小万と吉里と二人になッた。次の間にはお梅が火鉢に炭を加(つ)いている。
今戸心中 (新字新仮名) / 広津柳浪(著)
母親も、「誰(た)れか一人大人を附けてやりましょう」と言ったが、大人は昼の仕事に労(つ)かれているので、夜頼むわけにはゆかない。
村芝居 (新字新仮名) / 魯迅(著)
葡萄大谷の弓掛部落、その部落の百人長(おさ)、紋十郎が一味を引き卒(つ)れてだだら遊びをしているのであった。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
左に続いて離れ屋と茶室があり、そのうしろに主が『望翠楼』と号(つ)けている高二階、破風(はふ)造りの閣が建っていた。
夜明けの辻 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
宮はその梗概(あらまし)を語れり。聴ゐる母は、彼の事無くその場を遁(のが)れ得てし始末を詳(つまびら)かにするを俟(ま)ちて、始めて重荷を下したるやうに哱(ほ)と息を咆(つ)きぬ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
いよよ疾(はや)く乱れたばしる霰の玉雀騒(さや)げど喙(つ)みもあへなくに
雀の卵 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
「そんな事だろうと思っていた。もう彼奴はそこへは帰らないでしょう」赤星はそれなり口を噤(つ)ぐんで考え込んでいたが、ふと顔を上げると少し改った口調で
鳩つかひ (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
太子の姿が扉(ドア)の奥へ消えるのを待ちかねたようにしてシャアは私の椅子に身体をのし掛けてほとんど顔を押し圧(つ)けんばかりにして声を潜(ひそ)ませた。
ナリン殿下への回想 (新字新仮名) / 橘外男(著)
身体を縛った縄に垂(つ)り下げられて、下りるより下ろされると云う体裁だから、骨の折れることは一通りではない、同じ賃金で働いてるのに、私の掛かりになったガイドは散々な目に逢うと思ったろう
スウィス日記 (新字新仮名) / 辻村伊助(著)
ベーカーの説に、かかる厴(へた)紅海にも産し、ある海藻とともに諸香に合せ婦女の身を燻(ふす)ぶると、猫に天蓼(またたび)ほど男子を惹き密(つ)くる由。
ヂュリ 驅(か)けよ速(はや)う、火(ひ)の脚(あし)の若駒(わかごま)よ、日(ひ)の神(かみ)の宿(やど)ります今宵(こよひ)の宿(やど)へ。フェートンのやうな御者(ぎょしゃ)がゐたなら、西(にし)へ/\と鞭(むち)をあてゝ、すぐにも夜(よる)を將(つ)れて來(こ)うもの、曇(くも)った夜(よる)を。
槍ヶ岳対穂高岳は、常陸山(ひたちやま)対梅ヶ谷というも、強(あなが)ち無理はなかろう、前者の傲然屹(つ)っ立(た)てる、後者の裕容迫らざるところ、よく似ている。
穂高岳槍ヶ岳縦走記 (新字新仮名) / 鵜殿正雄(著)
わたくしは「おや」と思って眼を注いでいると、直ぐ、しまに案内され、再び格子戸の外へ出た男は、わたくしたちのいる羽根弾(つ)きの群の方に来ました。紛(まご)う方なき葛岡です。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
幾干(いくら)入(はいっ)てるものかね。ほんとに一片何銭に当(つ)くだろう。まるでお銭(かね)を
竹の木戸 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
番頭は呆気(あつけ)に取られて、女客の顔を見た。そしてこの女がその晩の名高い歌手(うたひて)である事に気が往(つ)くと、じつと眼を皿のやうに睜(みは)つた。——で、言はれた通りに入場料だけは倹約(しまつ)をする事にした。
「戸ヶ崎、あの駕籠を従行(つ)けてみよう」
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
いつがきたならこの困阨(こんやく)を逃れて、苦しまないようになりましょうか、それをお知らせくださいまして、枯魚(こぎょ)が斗水(とすい)を得るように、また窮鳥が休むに好い枝に托(つ)くようになされてくださいませ
富貴発跡司志 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
蒲「さうして髪(あたま)の癖毛(くせつけ)の具合がな、愛嬌(あいきよう)が有つたぢやないか。デスクの上に頬杖(ほほづゑ)を抂(つ)いて、かう下向になつて何時(いつ)でも真面目(まじめ)に講義を聴いてゐたところは、何処(どこ)かアルフレッド大王に肖(に)てゐたさ」
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
捉(つ)らまえて「はいはい御寒う。あなた方は、御若いから、あまりお感じにならんかの」と老人だけにただ一人寒がっている。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
其晩は鼻を掴(つ)まゝれる程の闇で、足許(あしもと)さへも覚束なかつた。丑松は先に立つて、提灯の光に夜路を照らし乍ら、山深く叔父を導いて行つた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
私はこんな順序に拘泥せずしかも手本もなしに美人画を腕に摂(つ)め込むまでには、じかに写生などをして種々に苦心しました。
雷同性に富む現代女流画家 (新字新仮名) / 上村松園(著)
岩下或は渓間に一小屋(せうおく)を構臼を安(お)き長柄杵(ながえぎね)(大坂踏杵(ふみきね)也)を設け、人のふむべき処に凹(くぼみ)をなして屋外に出す。泉落て凹処降る故、忽(たちまち)水こぼる。こぼれて空しければ杵頭(しよとう)降りて米穀摏(つ)ける也。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
放翁日に其間に婆娑(歩き廻はること)、其の香を※(と)り以つて臭ぎ、其の穎(ほさき)を擷(つ)み以て玩ぶ。朝には灌ぎ莫には鉏(たがや)す。
小国寡民 (新字旧仮名) / 河上肇(著)
是の平淡の資材を驅りて、此の幽妙の人心を曲(つ)くせるは、たしかに女史が「十三夜」以上の作と云ふべし。
寒さも厭(いと)わず拭(ふ)き掃除をして居りますと、杖(つえ)を曳(つ)いて小野庄左衞門が門口から
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
喜「はア、そんじゃアお前(めえ)は何処(どこ)の国の者で、名ア何(なん)ちゅうのか其処(そこ)え書(つ)けて見なせえ」
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
賢弟とわかれて国にくだりしが、国人(くにびと)大かた経久が勢(いきほ)ひに服(つ)きて、塩冶(えんや)の恩(めぐみ)を顧(かへりみ)るものなし。従弟(いとこ)なる赤穴(あかな)丹治、富田の城にあるを訪(とむら)ひしに、利害を説きて吾を経久に見(まみ)えしむ。
と火鉢の傍(そば)へづかづかと行(ゆ)けば、御餅(おかちん)を焼くには火が足らないよ、台処の火消壺(ひけしつぼ)から消し炭を持つて来てお前が勝手に焼てお喰べ、私(わたし)は今夜中にこれ一枚(つ)を上げねば成らぬ
わかれ道 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
午前八時四十五分、先ず山砲の射撃は始った。また、歩兵部隊の一部は退路を塞ぐために、鉄線橋(架(つ)り橋)を切断した。
霧の蕃社 (新字新仮名) / 中村地平(著)
殊に太祇、蕪村などは京の台木へ江戸の椄穂(つぎほ)を椄(つ)いだというのであるから、江戸を全く蹈(ふ)み倒す訳にも行かず、先ず無勝負として置くが善かろうと思います。
俳句上の京と江戸 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
勝負決(つ)いた!
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
今年の青い槍の葉よ活着(つ)け
詩ノート (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
併し、そんなものでは間に合わないのだ。が、彼女は涸れるものを涸れるままに、渇(つ)きるものを渇きるままに快楽を忘れることは出来なかった。
指 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
矢代は久慈にウィスキーを瀝(つ)ぎながらまだ自分の変化を胸底深く包み隠そうとするのだった。
旅愁 (新字新仮名) / 横光利一(著)
そして奥の間で「些(ち)っと失礼します。」といって蒲団(ふとん)を米の横へ持って出て来てから、楕円形の提灯(ちょうちん)に火を照(つ)けた。蝋燭(ろうそく)は四寸(すん)ほどもあった。
火 (新字新仮名) / 横光利一(著)
マーキュ はて、斯(か)う愚圖(ぐず)ついてゐるのは、晝間(ひるま)炬火(たいまつ)を燃(つ)けてゐるも同然(どうぜん)と言(い)ふのぢゃ。これ、善(よ)い意味(いみ)に取(と)りゃれ。
京伝馬琴以後落寞として膏(あぶら)の燼(つ)きた燈火(ともしび)のように明滅していた当時の小説界も龍渓鉄腸らのシロウトに新らしい油を注ぎ込まれたが
気が向くと、年長(としかさ)なのを率(つ)れて、山狩、川狩。自分で梳(す)いた小鳥網から叉手網(さであみ)投網、河鰺網(かじかあみ)でも押板でも、其道の道具は皆揃つてゐたもの。鮎の時節が来れば、日に四十から五十位まで掛ける。
刑余の叔父 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
やま「もしあなた、一杯お酒を癇(つ)けましたから召上りませんか、お医者様も少し位召上っても障(さわ)りには成らないと仰しゃりますから、一口召上りまして」
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
磯は更に一椀(いっぱい)盛(つ)けながら「俺(おれ)は今日半食(おやつ)を食わないのだ」
竹の木戸 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
さりとも一盞(つ)二盞(つ)は逃(のが)れがたければ、いつしか耳(み)の根(ね)あつう成(な)りて、胸(むね)の動悸(どうき)のくるしう成(な)るに、外(は)づしては濟(す)まねども人(ひと)しらぬうちにと庭(には)へ出(い)でゝ池(いけ)の石橋(いしばし)を渡(わた)つて築山(つきやま)の背後(うしろ)の
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
袴(はかま)は穿(つ)けないでセルのコートを着てゐるので尚更女振が違つて見えた。しかし、極りの惡い風などしないで、以前のやうに懷しく隔てない口を利いた。
孫だち (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
然し、竟(つ)いに、春日の姿も、花子という女の姿も発見することは出来なかった。
腐った蜉蝣 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
彼は平太郎に向って某(ある)寺で大般若経を空中に投りあげて、和尚をはじめ参詣人を恐れさした古狸や、また、某祠を三筒(つ)に見せて人を驚かした古猫やを蹄で捕獲した話などを聞かし
魔王物語 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
その他『礼記(らいき)』に「茝蘭ヲ佩帨(はいぜい)ス」と言い、また「諸侯ハ薫ヲ贄トシ大夫ハ蘭ヲ贄トス」と書き、『楚辞(そじ)』に「秋蘭(同名あり)ヲ紉(つ)ギテ以テ佩ト為ス」
植物記 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
鼻緒も宜(よ)うございましょうが、家内が綿を紡(つ)むことを覚えて近所の娘子(むすめこ)に教えるので、惠比壽屋(えびすや)だの、布袋屋(ほていや)だの
政談月の鏡 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「儂(み)はとうてい、その生れにあらず、万乗を統(つ)ぐはただ万乗の君あるのみ」
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「お訊ねしたのが愚かでした。終始何ものかへ、張(は)り緊(つ)めていたあなたのお耳には、あの一曲のうちに奏(かな)でられた複雑(こまや)かな音の種々(いろいろ)も、恐らくお聴き分けはなかったかも知れませぬ」
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
だがよしや汝が世間から棄てられ笑はれ嘲られても汝の肉親の凡ては汝に縦(つ)いてゆく、而して善かれ悪かれ汝の為る事には頭(てん)から信じ切つて居る。
桐の花 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
飛鳥(あすか)の清原(きよみはら)の大宮に太八洲(おほやしま)しらしめしし天皇二の御世に曁(およ)びて、潛龍元を體し、洊(せん)雷期に應(こた)へき。夢の歌を聞きて業を纂(つ)がむことをおもほし、夜の水に投(いた)りて基を承けむことを知らしたまひき。
纘(つ)ガバ/応ニ彝倫ノ為ニ大勲ヲ遺スベシ/惆悵吟魂招クモ返ラズ/幽蘭岸ヲ隔テテ水沄沄タリ〕この律詩の後聯には
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
御用がございますならば番頭の手前に仰せ聞(つ)けくださいと挨拶すると、ふたりの侍は顔を見あわせて、きっと貴様に返事が出来るかと念を押した。
半七捕物帳:40 異人の首 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
岩——の士族屋敷ではこの「ひげ」の生まれない前のもっと前からすでに気味の悪いところになっているので幾百年かたって今はその根方(ねがた)の周囲(まわり)五抱(いつかか)えもある一本の杉が並木善兵衛の屋敷の隅(すみ)に聳(つ)ッ立ッていてそこがさびしい四辻(よつつじ)になっている。
河霧 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
母は二三日前まで床に臥(つ)いていたが、この日は朝のうちは天気がよかったので、買物をするため、豆を少し許(ばかり)負(しょ)って町へ行った。町へ行く時
越後の冬 (新字新仮名) / 小川未明(著)
何れか戀の炎(ほむら)に其躯(そのみ)を燒き蓋(つ)くし、殘る冷灰の哀れにあらざらんや。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
その古株から新しい花を咲かせるには、毎年、冬にかかるころ、虫の蝕(つ)いた古株を截(き)って、新芽の育つように剪定(せんてい)してやる。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「お装(つ)け申しましょう、」と艶麗(あでやか)に云う。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
二つや三つなら未だしもの事、私の樣な弱い者には、四つ五つと盃の列んだのを見ると、醒め果てた戀に向ふ樣で、モウ手も觸(つ)けたくない。
菊池君 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
ついに決断して青森行きの船出づるに投じ、突然(とつぜん)此地を後になしぬ。別(わかれ)を訣(つ)げなば妨(さまた)げ多からむを慮(おもんぱか)り、ただわずかに一書を友人に遺(のこ)せるのみ。
突貫紀行 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
アフリカで鱷神が高僧に詑(つ)く時言語全く平生に異なり荐(しき)りに水に入らんと欲し、河底を潜り上って鱷同然泥中に平臥するがごとし(レオナード著『下(ラワー)ニゲルおよびその民俗篇(エンド・イツ・トライブス)』二三一頁)
国の本は民にありとは、封建社会において、一般に通用する格言なりき。封建政治は尚武(しょうぶ)を経(けい)とし、重農(じゅうのう)を緯(い)としたり。封建君主の典型たる上杉鷹山(うえすぎようざん)公嘗(かつ)てその相続者に諗(つ)げて曰く
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
作「貸(つ)くもんか」
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
父が居なくなってから、母はランプの石油を、余計に費(つ)いやすことを恐れて、夜なべが済むと、すぐ戸締りして、寝床を作った。
戦争雑記 (新字新仮名) / 徳永直(著)
古ギリシアのゼウス神幼時乳育されたアマルティアてふ山羊の角を折ってメリッセウスの娘どもに遺(おく)り、望みの品は何でもその角中に満つべき力を賦(つ)けた(スミス『希臘羅馬人伝神誌名彙(ジクショナリ・オヴ・グリーク・エンド・ローマン・バヨグラフィ・エンド・ミソロジー)』巻一)
此のことわりを思ひ出でて、みづから刃(やいば)に伏(ふ)し、今夜(こよひ)一〇二陰風(かぜ)に乗りてはるばる来り菊花の約(ちかひ)に赴(つ)く。一〇三この心をあはれみ給へといひをはりて、泪(なみだ)わき出づるが如し。今は永きわかれなり。
其(それ)は、其處(そこ)に、此(こ)の話(はなし)をする按摩(あんま)の背後(うしろ)に跪(つ)い居(ゐ)て、折(をり)から面(かほ)を背(そむ)けた婦(をんな)が、衣服(きもの)も、帶(おび)も、まさしく、歴然(あり/\)と、其(そ)の言葉通(ことばどほ)りに目(め)に映(うつ)つたためばかりではない。——
三人の盲の話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
それからの私の行動は自分ながら愚劣に思われる……やにわに私は走りかかって紅玉(エルビー)を腕に引っ抱えた。紅玉(エルビー)の背後から追跡(つ)けて来た一人の大きな欧羅巴(ヨーロッパ)人が突然私の邪魔をした。
沙漠の古都 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
あの巨大(でっけ)え森のある明神さまの、彼処(あすこ)に隠れているのかえ、人の往来(おうれえ)もねえ位(くれえ)の処(とこ)だから定めて不自由だんべえ、彼処は生街道(なまかいどう)てえので、松戸へ通(つ)ン抜けるに余程近(ちけ)えから
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
それと知ると、お千代を直ぐに総司の枕元へ進(つ)れて来た。
甲州鎮撫隊 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
彼(かれ)は粟幹(あはがら)が葺(ふ)き上(あ)げられた次(つ)ぎの日(ひ)から二三日(にち)近所(きんじよ)の馬(うま)を借(か)りて田(た)の傍(そば)の畑(はたけ)から土(つち)を運搬(つ)けた。
土 (旧字旧仮名) / 長塚節(著)
久々都の名義を考ふるに、日本紀に木祖(きのそや)久久能智とある久々は茎にて、草木の幹をいふ。智(ち)は男を尊む称なり。智(ち)と都(つ)と通音なり。
「十五郎、うれしくて声も出ませぬ。神田の明神裏の篠原梅甫というのが配(つ)れ合いでござんす。手前、ご案内いたします……」
岸の絶壁(ぜつへき)なる所は木の根に藤縄(ふぢなは)をくゝして架(たな)を鉤(つ)り、こゝに居(ゐ)て掻網(かきあみ)をするも稀(まれ)にあり。
なるほど物干竿とはよく銘(つ)けましたな、曲もなくてただ長いだけが取柄(とりえ)だとつぶやくと、すこし機嫌を悪くして、遽(にわか)に腰を上げ、天満から京都へのぼる船はどこから出るのかと道を訊いた上
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
年少、早くも禅に心を潜(ひそ)め、諸家の門を叩き、工夫を鑚(つ)み、また、文事にも精励(せいれい)して、号を静山と称し、その二十四、五歳の頃にはすでに
剣の四君子:04 高橋泥舟 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
潮の流れ、渡り鳥、夏春冬に關(つ)けても思ひ出さない譯にゆかない。彼女のみ知る林檎の花の色、香、さう云つたなかに我等は尚ほ生の希望を持ち得たのかも知れない。生の希望とは何だ。
雪をんな(二) (旧字旧仮名) / 葛西善蔵(著)
これは宋人が屠者には殺された犬の幽霊が降(つ)き歩く、それを見て犬が吠えるといったに対して程子は、『列子』に見えた海上の人鴎に親しみ遊んだが
顆(つ)浮波々々(ふは/\)と浮來(うききた)りぬ、扨(さて)はと嬉(うれ)しく
鬼桃太郎 (旧字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)