“な”のいろいろな漢字の書き方と例文
カタカナ:ナ
語句割合
撫9.4%
嘗6.5%
馴5.7%
啼5.3%
亡5.3%
鳴5.2%
為5.1%
舐4.5%
泣4.3%
何3.5%
名3.4%
投3.0%
成2.8%
無2.6%
生2.1%
萎1.9%
狎1.8%
失1.8%
凪1.8%
尚1.7%
作1.7%
薙1.6%
慣1.3%
哭1.3%
做1.1%
綯1.0%
汝1.0%
甞0.9%
抛0.9%
菜0.9%
歿0.7%
化0.7%
爲0.6%
猶0.6%
擲0.4%
甜0.4%
和0.4%
並0.3%
長0.3%
莫0.3%
勿0.3%
済0.3%
没0.3%
実0.2%
均0.2%
逝0.2%
死0.2%
狃0.2%
就0.2%
扮0.1%
嘶0.1%
靡0.1%
竝0.1%
号0.1%
實0.1%
痿0.1%
喪0.1%
平0.1%
撲0.1%
放0.1%
熟0.1%
結0.1%
魚0.1%
摩0.1%
装0.1%
南0.1%
忸0.1%
如0.1%
故0.1%
殴0.1%
涕0.1%
唏0.1%
稱0.1%
詰0.1%
那0.1%
銘0.1%
梳0.0%
无0.0%
濟0.0%
産0.0%
紛0.0%
行0.0%
蔑0.0%
䑛0.0%
七0.0%
流0.0%
倣0.0%
喞0.0%
変0.0%
悩0.0%
懐0.0%
捺0.0%
果0.0%
歎0.0%
永0.0%
滅0.0%
猥0.0%
菘0.0%
褻0.0%
誉0.0%
響0.0%
列0.0%
崩0.0%
打0.0%
欷0.0%
雙0.0%
も0.0%
中0.0%
了0.0%
以0.0%
仲0.0%
伏0.0%
依0.0%
傚0.0%
儚0.0%
化為0.0%
去0.0%
叫0.0%
吠0.0%
哮0.0%
唸0.0%
喘0.0%
嗚咽0.0%
堪0.0%
塗0.0%
夷0.0%
奈0.0%
奏0.0%
女0.0%
姓名0.0%
嫋0.0%
宿0.0%
寝0.0%
寢0.0%
平準0.0%
弄0.0%
微0.0%
憮0.0%
懶0.0%
懷0.0%
我亡0.0%
捨0.0%
掏0.0%
揉0.0%
摸0.0%
擬0.0%
歌0.0%
歔0.0%
殆0.0%
比0.0%
減0.0%
滑0.0%
焉0.0%
珍0.0%
由0.0%
癒0.0%
直0.0%
称0.0%
穢0.0%
竣0.0%
糾0.0%
経0.0%
結実0.0%
練0.0%
罹0.0%
習0.0%
耐0.0%
肴0.0%
胡0.0%
能0.0%
致0.0%
興0.0%
苗0.0%
薨0.0%
訓0.0%
試0.0%
調0.0%
變0.0%
足痿0.0%
軟0.0%
返0.0%
逝去0.0%
雉0.0%
雊0.0%
順0.0%
験0.0%
(注) 作品の中でふりがなが振られた語句のみを対象としているため、一般的な用法や使用頻度とは異なる場合があります。
とおげんは自分ながら感心したように言って、若かった日に鏡に向ったと同じ手付で自分の眉(まゆ)のあたりを幾度となく撫(な)で柔げて見た。
ある女の生涯 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
それに其の間だつて、別の辛(つら)さで生活の苦しみを嘗(な)めて来た晴代は、決して木山と一緒になつてふら/\遊んでゐる訳ではなかつた。
のらもの (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
ここに一例としてインド産のピゾン一種人に馴(な)るる状(さま)を示す(図略す)。これは身長二丈余に達する事あり。英人のいわゆる岩蛇(ロック・スネーク)だ。
一羽の鴉(からす)が、彼と母との啜(すす)り泣(な)く声に交えて花園の上で啼(な)き始めた。すると、彼の妻は、親しげな愛撫の微笑を洩らしながら咳(つぶや)いた。
花園の思想 (新字新仮名) / 横光利一(著)
それで、ひすいを見分(みわ)けるために、御殿(ごてん)へ召(め)された老人(ろうじん)は、妃(きさき)が亡(な)くなられると、もはや、仕事(しごと)がなくなったので暇(ひま)を出(だ)されました。
ひすいを愛された妃 (新字新仮名) / 小川未明(著)
なんでも夜中(よなか)すぎになると、天子(てんし)さまのおやすみになる紫宸殿(ししいでん)のお屋根(やね)の上になんとも知(し)れない気味(きみ)の悪(わる)い声(こえ)で鳴(な)くものがあります。
鵺 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
彼らの残りの生涯(しょうがい)は、自己真似(まね)をすることのうちに過ぎてゆき、昔生存していたころに言い為(な)し考えあるいは愛したところのことを
まるで舐(な)めずりたいというように、ニコニコとじぶんを眺めている慈愛深い母堂の眼に出逢うと、手も足も出ないような気持になる。
キャラコさん:06 ぬすびと (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
こんな泣(な)きんぼうでも、おばあさんだけは、目(め)に入(い)るほど、かわいいとみえて、泣(な)きんぼうの後(あと)から、どこへでもついて歩(ある)きました。
泣きんぼうの話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
お千代は何(な)にしろ芸者をやめて素人になれるという嬉しさが先に立っている時でもあり、また今まで世帯の苦労をした事がないので
夏すがた (新字新仮名) / 永井荷風(著)
『荘子(そうじ)』に「名は実(じつ)の賓(ひん)なり」とあるごとく、実(じつ)は主(しゅ)にして名(な)は客(かく)である。言葉も同じく考えの賓(ひん)、思想の客(かく)なりといいうると思う。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
と言(い)いながら、まさかりをほうり出(だ)して、いきなり熊(くま)に組(く)みつきました。そして足(あし)がらをかけて、どしんと地(じ)びたに投(な)げつけました。
金太郎 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
鍬(くは)を擔(かつ)いで遺跡(ゐせき)さぐりに歩(ある)き、貝塚(かひづか)を泥(どろ)だらけに成(な)つて掘(ほ)り、其(その)掘出(ほりだ)したる土器(どき)の破片(はへん)を背負(せお)ひ、然(さ)うして家(いへ)に歸(かへ)つて井戸端(ゐどばた)で洗(あら)ふ。
此方(こちら)は焚火(たきび)どころで無(な)い。汗(あせ)を垂(た)らして掘(ほ)り進(すゝ)むのに、いや、土龍(むぐろ)のやうだの、井戸掘(ゐどほり)の手間(てま)だの、種々(いろ/\)な批評(ひひやう)を頭(あたま)から冠(かぶ)せられる。
印度の古傳の如く、技藝天即ち藝術の神は六欲の圓滿を得た者の美睡の頭腦中よりおのづからにして生(な)り出づる者であるかも知れぬ。
努力論 (旧字旧仮名) / 幸田露伴(著)
その小家の持ち主というのは、娘と二人暮らしの足の萎(な)えた老婆で、この町の町人だということは、アリョーシャもよく知っていた。
その度に譲吉は、夫人から受くる恩恵に狎(な)れて、純な感謝の念が、一回毎に、薄れて行かぬよう、絶えず自分の心を戒しめて居た。
大島が出来る話 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
そうした見張をしばらく続けている中に、先程の恐怖は大分失(な)くなって行った。が、そのかわり今度は寒気が容赦なく押寄せて来た。
虎狩 (新字新仮名) / 中島敦(著)
唄と囃が一時にやみ、風が落ちて海が凪(な)いだような広間の上座から、播磨守が癇(かん)を立てた蒼白(あおじろ)んだ顔で次の間のほうを睨(ね)めつけながら
鈴木主水 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
尚(な)ほ一層の探索と一番の熟考とを遂(と)げて後、来(きた)る可(べ)くは再び来らんも晩(おそ)からず、と失望の裏(うち)別に幾分の得るところあるを私(ひそか)に喜べり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
其間(そのあいだ)に村人の話を聞くと、大紙房と小紙房との村境(むらざかい)に一間の空家(あきや)があつて十数年来誰(たれ)も住まぬ。それは『鬼(き)』が祟(たたり)を作(な)す為だと云ふ。
雨夜の怪談 (新字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
「パルドン、パルドン」の百万陀羅(まんだら)。これに反してタヌは、群集の口が増せば増すほどいよいよ活況を呈し、四面八方に薙(な)ぎ立てる。
上野(うへの)の戦争後(せんそうご)徳川様(とくがはさま)も瓦解(ぐわかい)に相成(あひなり)ましたので、士族(しぞく)さん方(がた)が皆(みな)夫々(それ/″\)御商売(ごしやうばい)をお始めなすつたが、お慣(な)れなさらぬから旨(うま)くは参(まゐ)りませぬ。
士族の商法 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
周倉は、哭(な)かんばかりにいった。真情をもって訴えれば、人をうごかせないこともあるまいと、縷々(るる)、心の底から吐いてすがった。
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そこには思い做(な)しか、愁わしげな様子で、じっと舞台を見下している彼女の横顔が真紅のカーテンを背景に美しい線を描いていた。
日蔭の街 (新字新仮名) / 松本泰(著)
もっと社会的な複雑な要因の綯(な)いまぜられたものの動きとして感じているから、そういう実質でかりに我々の程度というときには
異性の間の友情 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
針間(はりま)の志自牟(しじむ)が家に住みし時に、汝(な)が命名を顯はさざらませば一三、更に天の下知らさむ君とはならざらまし。これ既に汝(な)が命の功(いさを)なり。
と云う意味は悔恨や憂慮の苦痛をも甞(な)めなければならぬ。殊に今度の大地震はどの位我我の未来の上へ寂しい暗黒を投げかけたであろう。
侏儒の言葉 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
そういったこの男の言葉は、偽(いつわ)りがなかった。自分で抛(な)げこんで置いて、自分で助けたんだから、礼をされる筋合(すじあい)はない筈だった。
東京要塞 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「さあ、どこの家(いえ)でしょうね。どこでも、このお天気(てんき)のうちに、菜(な)をつけるんですよ。きっと、このあとは、雪(ゆき)がふりますからね。」
水七景 (新字新仮名) / 小川未明(著)
喜(き)一郎(らう)と云つた其(その)お幸の父も、お幸とお幸より三つ歳下(としした)の長男の久吉(ひさきち)がまだ幼少な時に肺病に罹(かか)つて二年余りも煩(わづら)つて歿(な)くなりました。
月夜 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
婬乱者が竜と化(な)った物語は、『毘奈耶雑事』と『戒因縁経』に出で、話の本人を妙光女とも善光女とも訳し居るが、概要はこうだ。
右の二篇の中のつね子といふ女は、作者がより多く同情してゐるかし子よりも、爲(な)す事する事が付燒刄で堪らなく「いやな奴」である。
又、成熟した彼女の、目や脣(くちびる)や全身の醸(かも)し出す魅力を、思い出すまいとしても思い出した。明かに、彼は猶(な)お木下芙蓉を恋していた。
虫 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
何かその時分に喧嘩(けんか)でも起るとそれこそ非常な罰金を命じます。ただ罰金を命ずるだけではない。やはりぶん擲(な)ぐられるです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
然しこちらを甜(な)めてかかつた相手に向つて正面から、返答するのも気の利かない話だから、目下頻りに考へ中でまだ手紙は投函しないのだ。
西東 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
各自に帽子や服の袖(そで)で、頬を拭いまわし初めると、今まで緊張し切っていた場面の空気が急に和(な)ごやかになって来た。
戦場 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
とりわけ左(ひだり)の手が右(みぎ)の手より四寸(すん)も長(なが)かったものですから、並(な)みの二倍(ばい)もある強(つよ)い弓(ゆみ)に、二倍(ばい)もある長(なが)い矢(や)をつがえては引(ひ)いたのです。
鎮西八郎 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
八五郎を少し老(ふ)けさせて、一とまはりボカしたやうな男、八五郎の長(な)んがい顏に比べると、半分位しか無い、まん圓な顏が特色的でした。
ソレ書生タルモノ平時互ニ相誇ルニアルイハ博覧考証ヲ以テシアルイハ詩若シクハ文章ヲ以テシ皆自ラ謂(いえ)ラク天下己(おのれ)ニ若(し)クモノハ莫(な)シト。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
凡(およ)そ事物の供給は、皆その需用あるに根ざす、苟(いやしく)もその需用にして存する勿(な)からしめん乎、供給決してこれに応ずることあらざるなり。
祝東京専門学校之開校 (新字新仮名) / 小野梓(著)
「金の代りに生きているようなものだね。よし/\、済(な)しくずしに天命を完(まっと)うする算段をするさ。いよ/\真実(ほんとう)にやめるかな」
一年の計 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
没(な)くなった父の老僧は、もし子供が不如意を託(かこ)って「なぜ、こんな世の中に自分を生んだか」と、父を恨むような場合があったら
食魔 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
「赤いのが未だ大分実(な)つてゐるやうでございますね。綺麗でございますこと。——あそこに白い花が沢山咲いて居りますやうでございますね。」
桑の実 (新字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
千浪は大きく頷首(うなず)いて、髪から、簪(かんざし)を抜き取った。そして、大次郎の口もとから眼を離さずに、横ざまに片手をさし伸べて、行燈(あんどん)の灯立(ほた)ちを均(な)らした。
煩悩秘文書 (新字新仮名) / 林不忘(著)
何でも三十八年の間引続いて住職を勤め、延宝八年とかに九十二で逝(な)くなつたといふから、随分達者な僧侶(ばう)さんだつたに相違ない。
その父親(てておや)は早くに死(な)くなつてか、はあ母(かか)さんが肺結核といふを煩(わづら)つて死(なく)なりましてから一週忌の来ぬほどに跡を追ひました、今居りましても未(ま)だ五十
にごりえ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
多分白鷹氏は、こうした私の面会ぶりがあまりにも突然で狃(な)れ狃れしいのに驚いて、面喰っておられた事と思う。
少女地獄 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
呉起(ごき)、是(ここ)に於(おい)て、名(な)を就(な)さんと欲(ほつ)し、遂(つひ)に其妻(そのつま)を殺(ころ)し、以(もつ)て齊(せい)に與(くみ)せざるを明(あきら)かにす。魯(ろ)、卒(つひ)に以(もつ)て將(しやう)となす。將(しやう)として齊(せい)を攻(せ)め、大(おほい)に之(これ)を破(やぶ)る。
「貸す貸す、金貸す。その扮(な)りではあかん。歌やん下りて。なあ頼む、下りて。オイ誰か緞帳下ろし」
寄席 (新字新仮名) / 正岡容(著)
と真実(ほんとう)の心から五八が慰め居りますと、馬小屋で青という馬がヒン/\と嘶(な)いて、バタ/\と荒れる事一方(ひとかた)ならぬ物音に、五八は慌てゝ駈出して往って見るに
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
婦負(めひ)の野(ぬ)の薄(すすき)おし靡(な)べ降(ふ)る雪(ゆき)に宿(やど)借(か)る今日(けふ)し悲(かな)しく思(おもほ)ほ(イは)ゆ 〔巻十七・四〇一六〕 高市黒人
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
西多摩や造酒屋(つくりざかや)は門櫓(かどやぐら)いかしく高く、棟さはに倉建て竝(な)め、殿づくり、朝日夕日の押し照るや、八隅かがやく。
海阪 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
その例は『日本書紀』の「神代巻」出雲の条に、「吾(やつかれ)は是(こ)れ国つ神、号(な)は脚摩乳(あしなずち)、我妻号(わがつまのな)は手摩乳(てなずち)云々」。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
「恐ろしく負け續けの癖に、——金の實(な)る木を植ゑたんだ。五兩や十兩の金に驚くけえ——なんて小判をバラ撒(ま)いて居るさうで」
その後(のち)他の獣們(ら)の風聞(うわさ)を聞けば、彼の黄金丸はその夕(ゆうべ)、太(いた)く人間(ひと)に打擲(ちょうちゃく)されて、そがために前足痿(な)えしといふに。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
と、自分の児供を喪(な)くした時でもこれほど落胆すまいと思うほどに弱り込んでいた。
二葉亭余談 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
そこは煉瓦を積んだ塀になつてゐて、銃眼を穿つた跡がみえ、掘り返された庭の土が生々しく平(な)らしてあつた。
従軍五十日 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
「無法でたくさんだ」とまたぽかりと撲(な)ぐる。「貴様のような奸物はなぐらなくっちゃ、答えないんだ」
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
私は余りに自分を裸にし過ぎる。然しこれを書き抜かないと、私のこの拙い感想の筆は放(な)げ棄てられなければならない。本当は私も強い人になりたい。
惜みなく愛は奪う (新字新仮名) / 有島武郎(著)
わが弾(ひ)くべきは塵(ちり)も払わず、更紗(さらさ)の小包を二つ並べた間に、袋のままで淋(さび)しく壁に持たれている。いつ欝金(うこん)の掩(おい)を除(の)ける事やら。あの曲はだいぶ熟(な)れた手に違ない。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「蟻じゃない。こうして、天気の好(い)い時に、花粉を取って、雌蕊へ塗り付けて置くと、今に実が結(な)るんです。暇だから植木屋から聞いた通り、遣ってる所だ」
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
一〇四座上(とこのべ)に酒瓶(さかがめ)一〇五魚(な)盛(も)りたる皿(さら)どもあまた列べたるが中に臥倒(ふしたふ)れたるを、いそがはしく扶起(たすけおこ)して、いかにととへども、只一〇六声を呑(の)みて泣く泣くさらに言(ことば)なし。
縄を解き、懐中(ふところ)より櫛(くし)取り出(いだ)して乱れ髪梳(す)けと渡しながら冷え凍(こお)りたる肢体(からだ)を痛ましく、思わず緊接(しっかり)抱(いだ)き寄せて、嘸(さぞ)や柱に脊中がと片手に摩(な)で擦(さ)するを、女あきれて兎角(とかく)の詞(ことば)はなく
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
蔭間茶屋(かげまぢゃや)の色子(いろこ)(野郎(やろう))風俗だの売女の装(な)り振(ふ)りが、良家の子女にまで真似られて、大奥や柳沢閥の華奢(かしゃ)をさえ、色彩のうすいものにした。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いや柏手じゃア無かった粗忽(そゝっ)かしくッて宜(い)い、南無妙法蓮華経/\/\南(な)ア無妙(んめ)ウ法蓮華経もし一寸(ちょっと)様子が好(い)いじゃアありませんか別嬪ばかりずうっとさ
斯(か)うして邪気(あどけ)ない生徒等と一緒に、通(かよ)ひ忸(な)れた道路を歩くといふのも、最早今日限りであるかと考へると、目に触れるものは総(すべ)て丑松の心に哀(かな)し可懐(なつか)しい感想(かんじ)を起させる。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
曼陀羅(まんだら)の爺(をぢ)が賜(た)びたる蓮の実は黄蕋(きしべ)さがりてよき纏(まとひ)如(な)す
雀の卵 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
あたしは、それから夕方までを、故(な)き夫の隠匿(いんとく)している財産探しに費(ついや)した。茶の間から始まって、寝室から、書斎の本箱、机の抽斗(ひきだし)それから洋服箪笥(ようふくだんす)の中まで、すっかり調べてみた。
俘囚 (新字新仮名) / 海野十三(著)
守衛をブン殴(な)ぐって、そのコンヴェイヤーのベルトを滅茶苦茶にしてしまったことがありました。
工場細胞 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
あゝ はてしもなく涕(な)かんことこそ望ましけれ
往く所があつたら何處にでも失せろと言ひ、先きに立つて足早に歩いていつたが、あん子は、わあ、と聲を擧げて唏(な)き出してミツのあとに尾いていつた。
神のない子 (旧字旧仮名) / 室生犀星(著)
知れるが如く親族とても惡臭(にほひ)に寄る春蠅の樣に、追ふがうるさきほどの人々なれば力になる者とてもなく、あはれ思ひは雲井にまで昇れど、甲斐なき女の手に學士の稱(な)號をも取らせかねて
花ごもり (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「何処(どこ)へいらつしやるのよ。」と彼女が詰(な)じるやうに云つた。
静物 (新字旧仮名) / 十一谷義三郎(著)
青木 まず最初、卵が水面に触れたせつ那(な)を考えましょう。水面の世界では、これが一つの点としか見えません、何しろ、水面より高いところも低い所も見えないのですから。
新学期行進曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
中身は銘(な)ある長船(おさふね)だが、剥げチョロケた鞘の拵えなどが、旗二郎を気恥ずかしくさせたのである。
怪しの館 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
と、比企の局(つぼね)が、名残り惜しげに、いつまでも梳(な)でつけている櫛(くし)の手の下から、やにわに、癇(かん)を起したように立った。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
凡(およそ)織物(おりもの)を専業(せんげふ)とする所にては、織人(はたおり)を抱(かゝ)へおきて織(おら)するを利とす。縮(ちゞみ)においては別(べつ)に无(な)き一国の名産なれども、織婦(はたおりをんな)を抱(かゝ)へおきておらする家なし。
彼等の忠や義や、到底道學先生の窺知を容(ゆる)さざるものある也。喩へば鳥の鳴くが如く、水の流るるが如けむ、心なくしておのづから其の美を濟(な)せる也。
美的生活を論ず (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
百果報(もゝがほう)のあんで、みすゞりのあもの、心ある者や、御主(おしゆ)加那志(がなし)御為(おだめ)、御万人(おまんちよ)の為(ため)に、命(いのち)うしやげらば、産(な)し親(おや)やだによ、引(ひき)はらうぢ迄(まで)もおのそだて召(めしや)いる、仰(おほ)せ事拝(ごとをが)で、高札(たかふだ)に記(しる)ち、道側(みちばた)に立てゝ
ユタの歴史的研究 (新字新仮名) / 伊波普猷(著)
ピエロオに紛(な)つたやうな陰鬱な、悲惨な、それでゐて莫迦に愉快なやうな気持に追はれながら、素直な叔母を付け込むで出放題な文句を能弁に口走つて
白明 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
私如き不肖(ふしょう)の者には推量(おしはか)ることさえ出来ぬほどの大計略をお胸の中に絶えず蔵されておいでの筈(はず)ゆえ、その父上の行(な)された所業の善悪是非の批評など、どうして私に出来ましょうや。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
止まりたる柱時計を巻きながらふと思ふこと天を蔑(な)みせり
註釈与謝野寛全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
「パンを一口喰べてから、バタを指で掬(すく)って䑛(な)めればいいじゃないの。君もずいぶん馬鹿ね。この車は一度停めたら、動き出すまでにはなかなかだから、停めるわけには行かないよ」
「六でも七(な)き子分ども」で六人七人。
猿飛佐助 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
梅子のキツとなるを、松島笑(わらつ)て受け流(な)がし
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
だが、見つめていると、紅(あか)い一面の雲のような花の層に柔かい萌黄(もえぎ)いろの桃の木の葉が人懐(ひとなつ)かしく浸潤(にじ)み出ているのに気を取り倣(な)されて、蝙蝠傘(こうもりがさ)をすぼめて桃林へ入って行った。
桃のある風景 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
「紀州紀州」竈馬(こおろぎ)のふつづかに喞(な)くあるのみ。
源おじ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
手に触ると、よし蛇の衣(きぬ)とも変(な)らば化(な)れ、熱いと云っても月は抱(いだ)く。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
飢(う)ゑて足(あ)悩(な)ゆむ湿(しめ)り地(ぢ)に
茴香 (新字旧仮名) / 末吉安持(著)
と、明は優しく、人懐(な)つこい。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
朱(しゅ)を捺(な)すったような顔に、青すじを膨(ふく)らませて、河和田の平次郎は、こよいも、仕事袴(ばかま)も脱(と)らずに、帰るとすぐ膳の酒に向ってまた例のわめきだった。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
蒔いて置きましたのい。見てゝ御覽なさい。今に芽が出て、だん/″\に延びて行きますけ。去年千葉で澤山果(な)らせたでせう。私はこれからあれが大きくなるのを
胡瓜の種 (旧字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
我れは此(この)まゝ朽(くち)はてぬとも、せめては此子を世に出したきに、いかにもして今一(ひと)たび戻りくれよ、長くとには非ず今五年がほど、これに物ごゝろのつきぬべきまでと、頼みつすかしつ歎(な)げきけるが
琴の音 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
…………此処(こご)あ日(ひ)あ永(な)あがくて
『春と修羅』 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
それが過ぎて滅(な)くなるといふこと
『春と修羅』 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
「君子には三つの畏(おそ)れがある。天命を畏れ、長上を畏れ、聖人の言葉を畏れるのである。小人は天命を感知しないのでそれを畏れない。そして長上に猥(な)れ、聖人の言葉をあなどる。」
現代訳論語 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
緑色素を有する菜類、即ち菘(な)の類を與へざれば、家鷄は多く不活溌に陷る。これに反して之を與ふれば、其の肉冠は著しく鮮紅又は殷紅となり、其の擧動は活溌となるのである。
努力論 (旧字旧仮名) / 幸田露伴(著)
これをアヌンチヤタの一種近づくべからず褻(な)るべからざる所ありしに比ぶれば、固(もと)より及ぶべくもあらねど、かの捉へ難き過去の幻影には、最早この身近き現在の形相(ぎやうさう)を斥(しりぞ)くる力なかりしなり。
あしひきの山河(やまがは)の瀬(せ)の響(な)るなべに弓月(ゆつき)が岳(たけ)に雲(くも)立(た)ち渡(わた)る 〔巻七・一〇八八〕 柿本人麿歌集
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
かれ汝はその族のありの悉(ことごと)率(ゐ)て來て、この島より氣多(けた)の前(さき)まで、みな列(な)み伏し度れ。ここに吾その上を蹈みて走りつつ讀み度らむ。
欺かえて列(な)み伏せる時に、吾その上を蹈みて讀み度り來て、今地(つち)に下りむとする時に、吾、汝(いまし)は我に欺かえつと言ひ畢(をは)れば、すなはち最端(いやはて)に伏せる鰐、我(あれ)を捕へて、悉に我が衣服(きもの)を剥ぎき。
大分(だいぶん)以前の話だが、独帝(カイゼル)には伯母さんに当る英国のヸクトリア女皇(ぢよわう)が崩(な)くなられて、葬儀の日取が電報で独帝(カイゼル)の許(もと)へ報(しら)されて来た事があつた。
実際ウイルレム一世の崩(な)くなつたのは、その一八八八年であつた。
「疎暴だッて関(かま)わんサ、あんな奴(やつ)は時々打(な)ぐッてやらんと癖になっていかん。君だから何だけれども、僕なら直ぐブン打ッてしまう」
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
「打(な)ぐろうと思えば訳は無いけれども、シカシそんな疎暴(そぼう)な事も出来ない」
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
垣根の間から立派なお邸(やしき)が見えるよ。さつき赤ん坊の欷(な)いてゐたお邸(やしき)だ。たくさん燈(あか)りがついてゐる。随分ひろびろしたお庭だ。もう赤ん坊は欷いてゐない。きつとお乳を呑(の)んでゐるんだね。
水に沈むロメオとユリヤ (新字旧仮名) / 神西清(著)
「いまの声が聞えた? 赤ん坊が欷(な)いてゐる!」
水に沈むロメオとユリヤ (新字旧仮名) / 神西清(著)
ここにその國主(こにきし)一二、畏(お)ぢ惶(かしこ)みて奏(まを)して言(まを)さく、「今よ後、天皇(おほきみ)の命のまにまに、御馬甘(みまかひ)として、年の毎(は)に船雙(な)めて船腹乾(ほ)さず、柂檝(さをかぢ)乾さず、天地のむた、退(しぞ)きなく仕へまつらむ」
かれつぶさに教へ覺したまへる如くに、軍(いくさ)を整へ、船雙(な)めて、度りいでます時に、海原の魚ども、大きも小きも、悉に御船を負ひて渡りき。ここに順風(おひかぜ)いたく起り、御船浪のまにまにゆきつ。
青柳の糸の細さを春風に乱れぬ(ず)今に見せむ子もがも(な) (同)
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
「あら。中(な)アさん、何を言っているのよ。今時急にそんな事……。」
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
我は此獄室をもて金殿玉楼と思ひ了(な)しつゝ、楽(たのし)き娑婆(しやば)世界と歓呼しつゝ、五十年の生涯、誠に安逸に過ぐるなるべし。
我牢獄 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
子曰く、吾一日爾(なんじたち)に長ぜるを以て(対えずして)已(や)むことなかれ、(なんじたち)居(つね)に則ち(人皆)吾を知らずという、如(も)し爾(なんじたち)を知りて(用うる)あらば則ち何をか以(な)さん。
孔子 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
仲(な)アカア良オくウ並(な)アらんで
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
ここにその暴(あら)き浪おのづから伏(な)ぎて、御船え進みき。ここにその后の歌よみしたまひしく
静坐稍(やゝ)久し、無言の妙漸く熟す。暗寂の好味将(まさ)に佳境に進まんとする時、破笠弊衣の一老叟(らうそう)わが前に顕はれぬ。われ依(な)ほ無言なり。彼も唇を結びて物言はず。
松島に於て芭蕉翁を読む (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
「なにしろ早急のことで——」と大野順平が取り傚(な)すためにおもい口を利(き)いた。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
二の酉や十二階儚(な)き空の青
異版 浅草灯籠 (新字旧仮名) / 正岡容(著)
『書紀』二に豊玉姫(とよたまひめ)産む時夫彦火々出見尊(ひこほほでみのみこと)約に負(そむ)き覘(うかが)いたもうと豊玉姫産にあたり竜に化(な)りあったと記されたが、異伝を挙げて〈時に豊玉姫八尋(やひろ)の大熊鰐(わに)に化為(な)りて、匍匐(は)い逶虵(もごよ)う。
「あの男はどうなったかしら」との噂(うわさ)、よく有ることで、四五人集って以前の話が出ると、消えて去(な)くなった者の身の上に、ツイ話が移るものである。
酒中日記 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
泉のくにの血に叫(な)けば
春鳥集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
敷台へ前脚をかけ、頻に尾を振り、吠(な)いた。
蓮花図 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
象の哮(な)き声が聞えるだらう。まだ起きないでいゝ。
犬は鎖に繋ぐべからず (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
土は枇杷(びは)いろ 蝿(はへ)が唸(な)く。
そんな時でも稀に名も知らぬ小鳥が奇妙な喘(な)き声をするのを耳にとらえるくらいのもので、蝉の声すらもまったく聴えなかった。
植物人間 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
彼は嗚咽(な)き出した。北は何も言へなかつた。
二人の男 (新字旧仮名) / 島田清次郎(著)
長い柄の蝙蝠傘(こうもりがさ)を持って出て行く後姿が私は好くって堪(な)らなかったから、いつも其時刻には何喰わぬ顔をして部屋の窓から外を見ていると、雪江さんは大抵は見られているとは気が附かずに
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
左手でバタを塗(な)すくった焼麺麭(パン)を掴んでガツガツと喰いはじめた。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
... ジャガ芋で包んでよく夷(な)らして玉子の黄身を刷毛(はけ)で塗ってバターを中匙一杯位中央(まんなか)へ載せておいてテンピで二十分ほど焼くのです」玉江嬢
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
奈(な)まじいにあひ見る事のつれなきに
田沢稲船 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
四連音符をつゞけ奏(な)し
〔われらが書に順ひて〕 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
昔赤瀬の村に住んでいたやす女(な)という者は、すがめのみにくい女であって男に見捨てられ、うらんでこの淵に身を投げて主になった。
日本の伝説 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
留(と)めて留(と)まらず、姓名(な)を聞(きい)ても言(いは)ずに。
石清虚 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
左右からも前からも、途端に、物の具の固い腕が、彼女の嫋(な)よやかな腕くびをつかみあげて
篝火の女 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
股(もも)長に 寢(い)は宿(な)さむを。
「ま愛(がな)しみ寝(ね)らく愛(はし)けらくさ寝(な)らくは伊豆の高嶺(たかね)の鳴沢(なるさは)なすよ」(三三五八或本歌)などでも東歌的動律だが、この方には繰返しが目立つのに
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
やすらかに平準(な)らされしこころは
東京景物詩及其他 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
葉子は一人(ひとり)の男をしっかりと自分の把持(はじ)の中に置いて、それが猫(ねこ)が鼠(ねずみ)でも弄(な)ぶるように、勝手に弄(な)ぶって楽しむのをやめる事ができなかったと同時に、時々は木村の顔を一目見たばかりで
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
もしこれらの人微(な)かりせば今日の社会は依然たる太古の社会にして、今日の人民はただかのタタールの曠原(こうげん)に野獣を逐(お)い、アラビアの砂漠に駱駝(らくだ)を駆るの人民なるべし。
将来の日本:04 将来の日本 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
あたりを片付け鉄瓶(てつびん)に湯も沸(たぎ)らせ、火鉢(ひばち)も拭いてしまいたる女房おとま、片膝(かたひざ)立てながら疎(あら)い歯の黄楊(つげ)の櫛(くし)で邪見(じゃけん)に頸足(えりあし)のそそけを掻(か)き憮(な)でている。
貧乏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
篠田は語り継(つづ)く「人間の尤(もつと)も耻づかしいのは、虚言(うそ)を吐くことです、喧嘩(けんくわ)することです、懶(な)まけることです」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
〔譯〕漸(ぜん)は必ず事を成(な)し、惠(けい)は必ず人を懷(な)づく。歴代(れきだい)姦雄(かんゆう)の如き、其祕(ひ)を竊(ぬす)む者有り、一時亦能く志を遂(と)ぐ。畏る可きの至りなり。
我亡(な)きのち我の無罪を証し給うものは神である。これヨブの暗中に望み見た灯火である。故(ゆえ)に彼に神がこの証(あかし)の確証を今与え給わんことを願うのである。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
ただこの句の捨(な)げ遣(や)りのような感慨を愛して空を仰いで言った。
雛妓 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
そしてその間何時も糸は紡ぎ出してゐて、それを二重に——三重に——それをよせ集めてひつつけ、普通の綱のやうにして掏(な)ひ合はせる。
然るにも拘わらず、まがい物ならぬ本物の印伝皮で揉(な)めしこしらえた贅沢きわまる煙草入がころがっていましたものでしたから、いかで退屈男の逃すべき!
手をやって摸(な)でてみると、毛がもじゃもじゃと触った。
酒友 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
羊歯(しだ)類、蘭類、サボテン類などをはじめとして種々な草木を栽(う)え込んで、内部を熱帯地に擬(な)ぞらえ、中でバナナも稔ればパインアップルも稔り、マンゴー、パパ〔イ〕ヤ、茘枝(れいし)、竜眼など無論の事
領主 (耳を澄ましながら窓を離れ、高殿に近寄り)、そうだ確かに短ホ調だ、ああ短ホ調が歌(な)っている。
レモンの花の咲く丘へ (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
蝉の歔(な)き声を耳にしながら凝乎(じっ)と断崖の草の上に寝転んで、海を眺めたり空を眺めたり、また横手の墓場に眼をやりながら死んだ妻のことなぞをとりとめもなく考えていることが
逗子物語 (新字新仮名) / 橘外男(著)
「果断義(ぎ)より来たる者あり、智(ち)より来たる者あり、勇より来たる者あり。義と智を併(あわ)せて而(しか)して来たる者あるは上なり。徒(いたず)らに勇のみなる者殆(な)し」
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
陣々相比(な)らび簇々相薄まりその熾(さか)んなること洵(まこと)に空前の盛観であってよくもかく殖えたもの哉(かな)と目を瞠らしめた。
植物記 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
僕は是れで三年配達を遣(や)つてるが、肩は曲がる、血色は減(な)くなる、記憶力は衰へる、僕はツクヅク夜業の不衛生——と云ふよりも寧(むし)ろ一個の罪悪であることを思ふよ
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
その滑(な)めなめとしたつま先が快よく蹠に当って、座布団と、奈世の全身の重みの間におかれたわしの蹠から次第に精気の様なものが、上へ上へと登って行き
面 (新字新仮名) / 富田常雄(著)
孔子対えて曰く、子、政を為すに焉(な)んぞ殺すことを用いん、子、善を欲せば而(すなわ)ち民善からん、君子の徳は風なり、小人の徳は草なり、草はこれに風を上(くわ)(加)うるとき必ず偃(ふ)す。(同、一九)
孔子 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
裳(も)の襞(ひだ)を作るのに珍(な)い術(て)を持った女などが、何でもないことで、とりわけ重宝がられた。袖(そで)の先につける鰭袖(はたそで)を美しく為立てて、其に、珍しい縫いとりをする女なども居た。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
更に「如(も)し人を殺すを嗜(たしな)まざる者有らば、天下の民皆領(くび)を引いてこれを望まん、誠にかくの如くんば民のこれに帰する由(な)ほ水の下(ひく)きに就くが如し、沛然(はいぜん)として誰か能(よ)くこれを禦(ふせ)がん」
永久平和の先決問題 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
然しながら、以上三人のフランスの粗探しが、二世紀に渉って、皮肉混じりの警告を発したって、愛書家の病がそれで癒(な)おる筈もない。そう云われれば意地になって蒐めたがる奴も飛び出して来る。
愛書癖 (新字新仮名) / 辰野隆(著)
時(とき)にはもう幾度(いくたび)か勝負(しやうぶ)をした揚句(あげく)に土(つち)のついて齒(は)のこぼれたやつを削(けづ)り直(な)したりして遊(あそ)びました。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
釣の道でも(岡)と称(な)がつくと軽(かろ)んぜられる。銑吉のも、しかもその岡惚れである。その癖、夥間(なかま)で評判である。
灯明之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「くれなゐの八入(やしほ)の衣朝な朝な穢(な)るとはすれどいや珍しも」(巻十一・二六二三)がある。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
この宮のいつ工竣(な)りし夏木立
六百五十句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
不圖、旅人は面白い事を考出して、密(そつ)と口元に笑を含んだ。紙屑を袂から出して、紙捻(こより)を一本糾(な)ふと、それで紙屑を犬の尾に縛(ゆは)へつけた。
散文詩 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
「そればっかりじゃない。事件(こと)の起りが三月の十一日じゃろう。それから十二、十三と三日も経(な)っとるのに下手人がわからんとは余りにも手緩(ぬる)いちゅうて、大目付から矢の催促じゃ」
昔(むか)しタンタラスと云う人があった。わるい事をした罰(ばち)で、苛(ひど)い目に逢(お)うたと書いてある。身体(からだ)は肩深く水に浸(ひた)っている。頭の上には旨(うま)そうな菓物(くだもの)が累々(るいるい)と枝をたわわに結実(な)っている。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「しかしあまり人通りの多い所ではエー……アノーまだ練(な)れませんから」とようやく一方の活路を開くや否や「いえ、あの辺の道路は実に閑静なものですよ」
自転車日記 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「何(ど)うして又、ヒステリーに罹(な)ったんでしょう。」と、冬子は不意に顔を擡(あ)げた。お葉に掴み毀(こわ)された前髪の庇(ひさし)は頽(くず)れたままで、掻上(かきあ)げもせぬ乱れ髪は黒幕のように彼女(かれ)の蒼い顔を鎖(とざ)していた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
学芸に習(な)れず、奥妙なる宗教に養はれざる平民の趣味には、謡曲は到底応ずることを得ざるなり。故に彼等の中に自(おのづ)から新戯曲の発生熟爛するありて、巣林子の時代に於て其盛運を極めたり。
徳川氏時代の平民的理想 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
何だか先生夫婦に欺(あざむ)かれたような気がして、腹が立って耐(な)らなかった。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
肴(な)にもこそなれ、其方(そなた)には
白羊宮 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫、薄田淳介(著)
「子(し)胡(な)んぞ此に在るか? 此れ豈(あに)久しく留る可(べ)けんや。速(すみやか)に我に従つて出でよ。」
鴉片 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
ここにその総てを記すことは能(な)し得ぬところであるが、各島々に渉り特に変態と思うものだけを摘録する。
本朝変態葬礼史 (新字新仮名) / 中山太郎(著)
○真に自分と合一致(な)し得た者を得たと云う点に於て、自分は、罪と罰の、ロージャを羨む。
「禰宜様宮田」創作メモ (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
次(つぎ)に硯友社(けんいうしや)の興(な)るに就(つ)いて、第二の動機(だうき)となつたのは、思案外史(しあんがいし)と予備門(よびもん)の同時(どうじ)の入学生(にふがくせい)で相識(あいし)つたのです、其頃(そのころ)は石橋雨香(いしばしうかう)と云(い)つて居(ゐ)ました
硯友社の沿革 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
が、其(そ)の顏(かほ)も覺(おぼ)えず、惜(をし)むらくは苗(な)も聞(き)かなかつたのは、父(ちゝ)のなくなつた爲(た)めに血迷(ちまよ)つたばかりでない。
麻を刈る (旧字旧仮名) / 泉鏡花、泉鏡太郎(著)
左大臣が薨(な)くなったので、右が左に移って、按察使(あぜち)大納言で左大将にもなっていた玉鬘夫人の弟が右大臣に上った。
源氏物語:46 竹河 (新字新仮名) / 紫式部(著)
「爺(ぢい)、いま一(ひと)つくんねえか」と更(さら)に強請(せが)んだ。彼(かれ)は五厘(りん)の銅貨(どうくわ)を大事(だいじ)にした。然(しか)し彼(かれ)は暫(しばら)く一錢(せん)の銅貨(どうくわ)に訓(な)れて居(ゐ)たので心(こゝろ)に僅(わづか)な不足(ふそく)を感(かん)じたのであつた。卯平(うへい)は口(くち)を緘(つぐ)んで居(ゐ)る。
土 (旧字旧仮名) / 長塚節(著)
一度門閥の味を試(な)めた奴は電信でないと世の中が渡れないと見えて、学校のお庇(かげ)で不相当の位置を作つたものは再び女房のお庇に縋(すが)つて位置を高めやうとする。
犬物語 (新字旧仮名) / 内田魯庵(著)
小者(こもの)の事なので、頼朝は、そうかと、気にもかけない容子で、いつもの朝の如く、りんどうの鞍へ跨(また)がって、野へ駒を調(な)らしに出た。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ここに速須佐の男の命、その御佩(みはかし)の十拳(とつか)の劒を拔きて、その蛇を切り散(はふ)りたまひしかば、肥(ひ)の河血に變(な)りて流れき。かれその中の尾を切りたまふ時に、御刀(みはかし)の刃毀(か)けき。
ぢは生れつき兩の足痿(な)えたる人なり。
長(たけ)なる髪をうしろに結びて、旧(ふ)りたる衣(きぬ)に軟(な)へたる帯、やつれたりとも美貌(びばう)とは誰(た)が目にも許すべし。
軒もる月 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
来年は、どうでもして返(な)しやすかんない、御隠居様。
農村 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
「金一郎様逝去(な)き今は?」
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
木は蘆(あし)が風に靡くやうに雉(な)ぎ倒され、人は倒れる家の下に圧しつぶされないやうに気狂ひのやうに野原へ逃げようとしたが、震へる地上に足場を失つて、躓(つまず)き倒れた。
雉(きじ)雊(な)き竜戦ふ、自(みづか)らおもへらく杜撰なりと。則ち之を摘読(てきどく)する者は、固(もと)より当(まさ)に信と謂はざるべきなり。豈(あに)醜脣平鼻(しうしんへいび)の報(むくい)を求むべけんや。
そのペン先がいかにも使い順(な)らされて、柔かな幅をもっている、平均に力が入って、くっきりとした明晰な書体だが穏和なふくらみの添っているその字は、峯子に正二を思い出させた。
今朝の雪 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
かゝる時、まこと爽かに、いつかは彼も験(な)めるべき