“無(な)” の例文
鬘(かつら)ならではと見(み)ゆるまでに結做(ゆひな)したる圓髷(まるまげ)の漆(うるし)の如(ごと)きに、珊瑚(さんご)の六分玉(ろくぶだま)の後插(あとざし)を點(てん)じたれば、更(さら)に白襟(しろえり)の冷豔(れいえん)、物(もの)の類(たと)ふべき無(な)く——
火の用心の事 (旧字旧仮名) / 泉鏡花、泉鏡太郎(著)
此方(こちら)は焚火(たきび)どころで無(な)い。汗(あせ)を垂(た)らして掘(ほ)り進(すゝ)むのに、いや、土龍(むぐろ)のやうだの、井戸掘(ゐどほり)の手間(てま)だの、種々(いろ/\)な批評(ひひやう)を頭(あたま)から冠(かぶ)せられる。
「無(な)くなったな。」赤シャツの農夫はつぶやいて、も一度(いちど)シャツの袖(そで)でひたいをぬぐい、胸(むね)をはだけて脱穀小屋の戸口に立ちました。
耕耘部の時計 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
文化(ぶんくわ)が發達(はつたつ)して來(く)れば、自然(しぜん)何處(どこ)か漠然(ばくぜん)として稚氣(ちき)を帶(お)びて居(ゐ)るやうな面白(おもしろ)い化物思想(ばけものしさう)などを容(い)れる餘地(よち)が無(な)くなつて來(く)るのである。
妖怪研究 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
が、彼(かれ)は年月(としつき)の經(た)つと共(とも)に、此事業(このじげふ)の單調(たんてう)なのと、明瞭(あきらか)に益(えき)の無(な)いのとを認(みと)めるに從(したが)つて、段々(だん/\)と厭(あ)きて來(き)た。彼(かれ)は思(おも)ふたのである。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
惜(お)しいけど、僕、あきらめるよ。それに、そんなもん、大して欲(ほ)しかないんだもの。銀貨の一つやそこら、あったって無(な)くったって!
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
私(わたし)が事(こと)と言(い)へば御自分(ごじぶん)の身(み)を無(な)い物(もの)にして言葉(ことば)を立(た)てさせて下(くだ)さる御思召(おぼしめし)有難(ありがた)い嬉(うれ)しい恐(おそ)ろしい、餘(あま)りの勿躰(もつたい)なさに涙(なみだ)がこぼれる
うらむらさき (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
鳥の巣の中で、河原雲雀(かはらひばり)の巣ぐらゐ見つけやすい物は無(な)いから、私達はボツ/\生えた短い草の中を縱横(たてよこ)十文字に早足で探しはじめる。
筑波ねのほとり (旧字旧仮名) / 横瀬夜雨(著)
それまでやっていた仕事にだんだん失望を感じ始めた。新しい生活の芽が周囲の拒絶をも無(な)みして、そろそろと芽ぐみかけていた。
生まれいずる悩み (新字新仮名) / 有島武郎(著)
眩(まぶ)しいものが一閃(せん)、硝子(ガラス)を透(とほ)して私(わたし)の眼(め)を射(い)つた。そして一瞬(しゆん)の後(のち)、小松(こまつ)の枝(えだ)はもう無(な)かつた。それは光(ひかり)の中(なか)に光(ひか)り輝(かゞや)く斑點(はんてん)であつた。
日の光を浴びて (旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
しかし、それは本当になにも疑うべき点が無(な)いのであろうかと、帆村探偵は一時、仮装殺人を園部の上にうつして考え直してみた。
麻雀殺人事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
無論(むろん)です、けれど本船(ほんせん)の當番(たうばん)水夫(すゐふ)は眼(め)の無(な)い奴(やつ)に、情(こゝろ)の無(な)い奴(やつ)です、一人(ひとり)は茫然(ぼんやり)して居(ゐ)ます、一人(ひとり)は知(し)つて知(し)らぬ顏(かほ)をして居(ゐ)ます。
ロミオ なう、叱(しか)って下(くだ)さるな。此度(こんど)の女(をんな)は、此方(こち)で思(おも)へば、彼方(あち)でも思(おも)ひ、此方(こち)で慕(した)へば、彼方(あち)でも慕(した)ふ。以前(さき)のはさうで無(な)かった。
「およそ人心(じんしん)の裏(うち)絶(た)えて無(な)きのこと、夢寐(むび)に形(あらわ)れず、昔人(せきじん)謂(い)う、男(おとこ)、子(こ)を生(う)むを夢(ゆめ)みず、女(おんな)、妻(さい)を娶(めと)るを夢(ゆめ)みず、この言(げん)良(まこと)に然(しか)り」
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
もう一日(にち)食(た)べ物(もの)の無(な)い穴(あな)の中に引(ひ)っ込(こ)んだまま、おなかをへらして死(し)ぬか、外(そと)に出て猫(ねこ)に食(く)われるか、ほかにどうしようもございません。
猫の草紙 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
お品(しな)は朝(あさ)から心持(こゝろもち)が晴々(はれ/″\)して日(ひ)が昇(のぼ)るに連(つ)れて蒲團(ふとん)へ起(お)き直(なほ)つて見(み)たが、身體(からだ)が力(ちから)の無(な)いながらに妙(めう)に輕(かる)く成(な)つたことを感(かん)じた。
土 (旧字旧仮名) / 長塚節(著)
あれと私達(わたしたち)とは何(なん)の關係(くわんけい)も無(な)いやうなものの、あれも着物(きもの)、私達(わたしたち)お互(たがひ)も着物(きもの)、何(なん)となく世間(せけん)に對(たい)して、私(わたし)は氣耻(きはづか)しいやうでなりませんのよ
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
子供(こども)なんざ、無(な)くても可(い)いぢやないか。上(うへ)の坂井(さかゐ)さん見(み)た樣(やう)に澤山(たくさん)生(うま)れて御覽(ごらん)、傍(はた)から見(み)てゐても氣(き)の毒(どく)だよ。丸(まる)で幼穉園(えうちゑん)の樣(やう)で
門 (旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
もぐりの流行神(はやりがみ)なら知(し)らぬこと、苟(いやし)くも正(ただ)しい神(かみ)として斯(こ)んな祈願(きがん)に耳(みみ)を傾(かたむ)けるものは絶対(ぜったい)に無(な)いと思(おも)えば宜(よろ)しいかと存(ぞん)じます。
「何(なん)だって、お前(まえ)は塀(へい)を乗越(のりこ)えて来(き)て、盗賊(ぬすびと)のように、私(わたし)のラプンツェルを取(と)って行(ゆ)くのだ? そんなことをすれば、善(よ)いことは無(な)いぞ。」
「幾(いく)百里(り)か、飛(と)んでいって、それが無(な)いといって帰(かえ)ってくることができるだろうか?」と、B(ビー)がんが、むしろ、反対(はんたい)の意見(いけん)をもらしました。
がん (新字新仮名) / 小川未明(著)
その室は、毎朝氏の掃除にはなりますが、書籍や、作りかけの仕事などが、雑然(ざつぜん)混然(こんぜん)として居て一寸(ちょっと)足の踏み所も無(な)い様です。
返事(へんじ)が無(な)いから二度(ど)掛(か)けましたがそれでも返事(へんじ)が無(な)いから塾(じゆく)ではどうなつた事(こと)かと非常(ひじやう)に心配(しんぱい)して責任(せきにん)を持(も)つたものは一夜(や)睡(ねむ)らなかつた位(くらゐ)。
女教邇言 (旧字旧仮名) / 津田梅子(著)
部屋(へや)には箪笥(たんす)の外(ほか)に、鏡台(きやうだい)もある。針函(はりばこ)もある。手文庫(てぶんこ)もある。若(も)し秘密(ひみつ)があるとすれば、其等(それら)の中(なか)にも無(な)いとは保(ほ)しがたい。
背負揚 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
まして無神無仏の徒(と)は既に神を無(な)みし仏を無みするだけの偉いものであるから、夢にも恐怖心などに囚はれてはならぬ。云々。
日本大地震 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
級(しな)照る 片岡山(かたをかやま)に 飯(いひ)に飢(ゑ)て 臥(こや)せる 彼(そ)の旅人(たびと)あはれ 親無(おやなし)に 汝(なれ)生(な)りけめや 剌竹(さすたけ)の 君(きみ)はや無(な)き 飯(いひ)に飢(ゑ)て 臥(こや)せる 彼(そ)の旅人(たびと)あはれ
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
若(も)し人(ひと)の心(こゝろ)に宿(やど)る所(ところ)の戀(こひ)をすら笑(わら)ふべく信(しん)ずべからざる者(もの)ならば、人生(じんせい)遂(つひ)に何(なん)の價(あたひ)ぞ、人(ひと)の心(こゝろ)ほど嘘僞(きよぎ)な者(もの)は無(な)いではないか。
湯ヶ原より (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
猿羽織(さるばおり)と言(い)つて、父(とう)さんの田舍(ゐなか)の子供(こども)は、お猿(さる)さんの着(き)る袖(そで)の無(な)い羽織(はおり)のやうなものを着(き)ました。寒(さむ)くなるとそれを着(き)ました。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
『そんなものは無(な)くッてよ!』と愛(あい)ちやんは頗(すこぶ)る腹立(はらだた)しげに云(い)ひました、帽子屋(ばうしや)と三月兎(ぐわつうさぎ)とは、『叱(し)ッ!叱(し)ッ!』と續(つゞ)けさまに叫(さけ)びました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
此頃(このごろ)無闇(むやみ)に金子(かね)が失(な)くなつて仕(し)やうが無(な)いから、これ/\斯(か)う云(い)ふ事にして来(き)た、是(これ)で誰(たれ)が取ると云(い)ふのがチヤンと解(わか)るね。
今年(ことし)みたいに、紅白(こうはく)の花(はな)がたんと咲(さ)いた歳(とし)は無(な)い。野(の)は一面(いちめん)に眼(め)が覚(さ)めるやうな色(いろ)だ。どこへ行(い)つても垣根(かきね)の上(うへ)に主(しゆ)の御血潮(おんちしほ)は煌々(ぴかぴか)してゐる。
自(みづか)ら其斷(そのだん)を勇(ゆう)とせば、則(すなは)ち(八七)其敵(そのてき)を以(もつ)て之(これ)を怒(いか)らす無(な)かれ。自(みづか)ら其力(そのちから)を多(た)とせば、則(すなは)ち(八八)其難(そのなん)を以(もつ)て之(これ)を(八九)概(がい)する無(な)かれ。
神の愛は平等である。然(しか)るにこれを自己にのみ厚しとするは、これ神を詐(いつわ)り、神を穢(けが)し、神を無(な)みすものに非ずして何ぞや。
永久平和の先決問題 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
下谷(したや)の外祖父(がいそふ)毅堂(きどう)先生の詩に小病無クレ名怯ル二暮寒ヲ一〔小病(しょうびょう)に名(な)無(な)く 暮寒(ぼかん)を怯(おそ)る〕といはれしもかくの如き心地にや。
矢はずぐさ (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
重ねし支那人にて施寧には似ぬ好男子なれば妾は何時しかに施寧の目を掠めて又も金起と割無(わりな)き仲と無(な)れり去れど施寧は其事を知らず益々妾を
無惨 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
其(それ)等のユウゴオの「夢の華(はな)」が毫(がう)も不自然で無(な)い許(ばかり)か、空想の天地に自適して如何(いか)にも楽し相(さう)である偉人の心境が流露して居る様に思はれた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛、与謝野晶子(著)
垂しより已來(このかた)本尊(ほんそん)現化(げんげ)の秋の月は照(てら)さずと云所も無く眷屬(けんぞく)結縁(けちえん)の春の花(はな)薫(かをら)ずと云ふ袖も無(な)し方便(はうべん)の門(かど)には罪有る者を罰(ばつ)し難(がた)く抑々(そも/\)義長の品行(おこなひ)を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
心に神を無(な)みし神を誹り、また自然と神の恩惠(めぐみ)をかろんずるは、これ人神にむかひてその力を用ふるものなり 四六—四八
神曲:01 地獄 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
あツと驚いて再び蓋をすると、其中(そのなか)で物馴(ものな)れた一人が「えてものだ、鉄砲を撃て。」と云ふ。一同直(すぐ)に鉄砲を把(と)つて、何処(どこ)を的(あて)とも無(な)しに二三発(ぱつ)。
雨夜の怪談 (新字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
彼(か)のお鯉御前は、大臣のお目に留り、氏(うじ)無(な)くして玉の馬車に乗り、此の公園の鯉は、罪無くして弥次馬の錆鈎(さびはり)に懸り、貧民窟のチャブ台を賑はす。
東京市騒擾中の釣 (新字旧仮名) / 石井研堂(著)
そのやうに聞きわけ無(な)うては、もはや何処(いづく)へも連れてゆかぬぞや。あれ、入日にも間近いさうな。急いで参りませう。
南蛮寺門前 (新字旧仮名) / 木下杢太郎(著)
空吹く風も地(つち)打つ雨も人間(ひと)ほど我には情(つれ)無(な)からねば、塔破壊(こは)されても倒されても悦びこそせめ恨はせじ、板一枚の吹きめくられ釘一本の抜かるゝとも
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
家を焼かれ、無(な)けなしの財を失い、やっと疎開の山野から戻ってきた彼らには、これをたれに訴えるところもなく。
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「はゝあ。寒山(かんざん)も來(き)てをられますか。それは願(ねが)つても無(な)い事(こと)です。どうぞ御苦勞(ごくらう)序(ついで)に厨(くりや)に御案内(ごあんない)を願(ねが)ひませう。」
寒山拾得 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
覆面の眼の部には小き孔ありて此所(ここ)より外を見たりとすれば、光線(くわうせん)の反射が甚く眼を害(がい)する事は無(な)かりしならん。
コロボックル風俗考 (旧字旧仮名) / 坪井正五郎(著)
『平民の娘』お房(ふさ)は、單(たん)にモデルとして彼の眼(め)に映(うつ)ツてゐるのでは無(な)い。お房は彼の眼よりも心(こゝろ)に能(よ)く映ツた。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
これは、獨(ひと)り讀書(どくしよ)の上(うへ)ばかりではない。何(な)んでも、自己(じこ)に腰(こし)を据(す)ゑて掛(かゝ)らなければ、男(をとこ)でも女(をんな)でも、一生(しやう)、精神上(せいしんじやう)の奴隷(どれい)となつて死(し)んで行(ゆ)く他(ほか)は無(な)いのだ。
読書の態度 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
公債(こうさい)が無(な)くなつたばかりでなく多少(たせう)の借金(しやくきん)があり、家屋(かをく)と地所(ぢしよ)とは全部(ぜんぶ)で金(きん)七十圓(ゑん)に賣却(ばいきやく)したのであつた。
三つ指が縁(へり)無(な)し畳の上を滑って、小笠原流にピタリと極るのを、銭形平次さすがに持てあまし気味でした。
それは実際(じっさい)ずいぶん丈(たけ)が高(たか)くて、その一番(いちばん)高(たか)いのなどは、下(した)に子供(こども)がそっくり隠(かく)れる事(こと)が出来(でき)るくらいでした。人気(ひとけ)がまるで無(な)くて、全(まった)く深(ふか)い林(はやし)の中(なか)みたいです。