“勿(な)” の例文
是に於てか余の喜び知る可きのみ。斯書一たび出ては則ち須らく以て善書と為すべし。旧本を取つて惑を生ずること勿(な)くんば幸甚。
杉田玄白 (新字新仮名) / 石原純(著)
凡(およ)そ事物の供給は、皆その需用あるに根ざす、苟(いやしく)もその需用にして存する勿(な)からしめん乎、供給決してこれに応ずることあらざるなり。
祝東京専門学校之開校 (新字新仮名) / 小野梓(著)
遠く廊下に操(あやつ)る布の、すらすら乱れて、さまよえるは、ここに絶えんず玉の緒の幻の糸に似たらずや。繋(つな)げよ、玉の緒。勿(な)断(た)ちそ細布。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
何かキット這入っているに違いない……とお千世殿が云われます。私はビックリ致しまして……そんな事をする者で勿(な)い。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「卒爾(そつじ)にものを言わるる勿(な)。もう宜(よ)い。何と仰せられてもそれがしはそれがし。互に言募れば止まりどころを失う。それがしは御相手になり申せぬ。」
雪たたき (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
急ぎしゆゑ少しも早くと思ふ念(ねん)より八ツを七ツと聞違(きゝちが)へて我を起(おこ)し呉(くれ)しならんまだ勿(な)か/\に夜は明まじ偖(さて)蝋燭(らふそく)の無(なく)ならば困(こま)つたものと立止り灯影(ほかげ)に中を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
曰く、犂牛(りぎゅう)の子(し)、騂(あか)くして且つ角よくば、用うること勿(な)からんと欲すといえども、山川其れ諸(これ)を舎(す)てんやと。
論語物語 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
... 寡人(くわじん)、此(この)二姫(き)に非(あら)ざれば、食(しよく)、味(あぢはひ)を甘(あま)しとせず。願(ねが)はくは斬(き)る勿(な)かれ』と。孫子(そんし)曰(いは)く、『臣(しん)、既(すで)に已(すで)に命(めい)を受(う)けて將(しやう)たり。將(しやう)は軍(ぐん)に在(あ)りては君命(くんめい)をも受(う)けざる所(ところ)有(あ)り』
及ばぬ恋の無駄な業(がふ)を㷔(もや)すよりは、妄想をデツチ上げた恋愛小説でも作つて、破鍋(われなべ)にトヂ蓋の下宿屋の炊婦(おさん)でも覘(ねら)つたら可(よ)からう。はツはツ、顔を赤くするナ。怒る勿(な)。怒る勿。
犬物語 (新字旧仮名) / 内田魯庵(著)
沼二つ通は鳥が巣我(あ)がこころ二行(ふたゆ)くなもと勿(な)よ思(も)はりそね (同・三五二六)
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
ああわが友よ、男兒たれ、はげしき勇を忘るゝ勿(な)! 270
イーリアス:03 イーリアス (旧字旧仮名) / ホーマー(著)
「おもしろき野(ぬ)をば勿(な)焼きそ……」だ。此でよいのだ。
死者の書:――初稿版―― (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
心覺えのため記し置くものなり、人に勿(な)言ひそ。久良
仰言(おっしゃ)る勿(な)。
艶容万年若衆 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
外出好(そとでずき)の綾子夫人が一室(ひとま)にのみ垂込めて、「ぱっとしては気味が悪い、雨戸を開け勿(な)。」といわるるばかり庭の面(おも)さえ歩行(ひろ)わせたまわず。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
龐涓(はうけん)其(そ)の己(おのれ)に賢(まさ)るを恐(おそ)れて之(これ)を(一六)疾(ねた)み、則(すなは)ち法刑(はふけい)を以(もつ)て其兩足(そのりやうそく)を斷(た)ちて之(これ)を(一七)黥(げい)し、(一八)隱(かく)れて・見(み)る勿(な)からんことを欲(ほつ)す。齊(せい)の使者(ししや)、(一九)梁(りやう)に如(ゆ)く。
「こらこら、そんな所為(まね)をする勿(な)」と二葉亭は柔(やさ)しく制しながらも平気で舐めさしていた。時に由ると、嬉しくて堪らぬように踵(あと)から泥足(どろあし)のまま座敷まで追掛けて来てジャレ付いた。
二葉亭余談 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
「おもしろき野(ぬ)をば 勿(な)焼きそ」だ。此でよいのだ。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
アプロヂーテー惠みたる*恩寵さはれ、咎むる勿(な)!
イーリアス:03 イーリアス (旧字旧仮名) / ホーマー(著)
中(うち)から風も吹くようなり、傍正面(わきしょうめん)の姿見に、勿(な)、映りそ夢の姿とて、首垂(うなだ)るるまで顔を背(そむ)けた。
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
歴代常にかち得たる祖先の名譽汚す勿(な)と。 210
イーリアス:03 イーリアス (旧字旧仮名) / ホーマー(著)
と突慳貪(つっけんどん)なように云った。勿(な)、問いそそこに人あるに、涙得(え)堪えず、と言うのである。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
口の端(はた)むず/\するまで言出(いひい)だしたさに堪(たへ)ざれども、怪しき婦人が予を戒(いまし)め、人に勿(な)謂(い)ひそと謂へりしが耳許(みゝもと)に残り居(を)りて、語出(かたりい)でむと欲する都度(つど)、おのれ忘れしか、秘密を漏らさば
妖怪年代記 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
餘(あま)り仔細(しさい)のない事(こと)を、聞(き)いて飽氣(あつけ)なく思(おも)ふほど、唯吉(たゞきち)は尚(なほ)氣(き)に掛(かゝ)る……昔(むかし)から語繼(かたりつ)ぎ言傳(いひつた)へる例(れい)によると、誰(たれ)にも言(い)ふ勿(な)と頼(たの)まるゝ、其(そ)の當人(たうにん)が……實(じつ)は見(み)ては成(な)らない姿(すがた)である場合(ばあひ)が多(おほ)い。
浅茅生 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「静まれ、無体(むたい)なことを為(し)申(もう)す勿(な)。」
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)