“ふ”のいろいろな漢字の書き方と例文
カタカナ:フ
語句割合
吹8.9%
腑8.7%
更8.0%
拭6.6%
殖6.2%
振6.0%
降5.8%
踏4.7%
臥3.9%
老3.3%
触3.1%
噴2.7%
掉2.1%
葺2.1%
伏1.9%
斑1.8%
蹈1.8%
揮1.7%
経1.5%
二1.4%
俯1.3%
履1.1%
觸1.0%
古0.9%
賦0.8%
麩0.8%
践0.6%
増0.6%
偶0.6%
訃0.6%
深0.5%
附0.5%
耽0.5%
蹂0.5%
狂0.5%
譜0.4%
不0.4%
喫0.4%
闌0.3%
歩0.3%
經0.3%
符0.2%
付0.2%
偃0.2%
布0.1%
旧0.1%
嘘0.1%
婦0.1%
舊0.1%
揺0.1%
雨0.1%
府0.1%
撒0.1%
太0.1%
夫0.1%
風0.1%
蒸0.1%
鋳0.1%
零0.1%
傅0.1%
吐0.1%
歴0.1%
燻0.1%
生0.1%
俛0.1%
孚0.1%
巫0.1%
萌0.1%
躡0.1%
震0.1%
弗0.1%
踐0.1%
覆0.1%
兩0.1%
富0.1%
徇0.1%
慄0.1%
腐0.1%
負0.1%
趺0.1%
曳0.0%
下0.0%
揩0.0%
怖0.0%
房0.0%
膨0.0%
閉0.0%
鳧0.0%
亡0.0%
擧0.0%
榑0.0%
乾0.0%
嬰0.0%
拂0.0%
掩0.0%
普0.0%
䠖0.0%
両0.0%
俘0.0%
傳0.0%
加0.0%
原0.0%
双0.0%
吻0.0%
告0.0%
噀0.0%
増加0.0%
大分更0.0%
復0.0%
悼0.0%
打0.0%
押0.0%
掃0.0%
文0.0%
書0.0%
桴0.0%
棹0.0%
洒0.0%
洗0.0%
浮0.0%
済0.0%
笑0.0%
耄0.0%
脹0.0%
落0.0%
跳0.0%
蹀0.0%
蹻0.0%
転0.0%
迪0.0%
部0.0%
配0.0%
長0.0%
阜0.0%
顫0.0%
麸0.0%
(注) 作品の中でふりがなが振られた語句のみを対象としているため、一般的な用法や使用頻度とは異なる場合があります。
番(ばん)ごと喧嘩(けんくわ)をして遣(や)り込(こ)めてやるのだが隨分(ずゐぶん)おもしろいよと話(はな)しながら、鐵網(かなあみ)の上(うへ)へ餅(もち)をのせて、おゝ熱々(あつ/\)と指先(ゆびさき)を吹(ふ)いてかゝりぬ。
わかれ道 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
Sさんは一寸(ちょっと)腑(ふ)に落ちないような表情をしたが、K氏あてに手紙を書いてくれ、お百姓さんに対しては私のために礼を述べてくれた。
遁走 (新字新仮名) / 小山清(著)
更(ふ)けるにしたがって繁くなる夜露が、しんとした水面にかすかな音を立てるばかりで、あとはただ虫のこえばかり聞えるだけでした。
寂しき魚 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
「まだある、下手人の着物なら、血が飛沫(しぶ)いているはずだ、あれだけひどく殴ったんだもの、——ところがあれは血を拭(ふ)いたんだぜ」
中国の若者も眼鏡が殖(ふ)えているし、お会いして伺いますが、上海にいて魯迅全集の仕事をしていた内山完造の『支那漫語』(改造)
こうして見(み)る清作(せいさく)さんは、じつにりっぱな軍人(ぐんじん)でした。だから町(まち)を通(とお)ると、男(おとこ)も女(おんな)も振(ふ)り向(む)いて、その雄々(おお)しい姿(すがた)をながめたのです。
村へ帰った傷兵 (新字新仮名) / 小川未明(著)
波(なみ)がうごき波が足をたたく。日光が降(ふ)る。この水を渉(わた)ることの快(こころよ)さ。菅木(すがき)がいるな。いつものようにじっとひとの目を見つめている。
台川 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
恁(か)うして買(か)つて參(まゐ)ります品物(しなもの)が氣(き)に入(い)らないと、甚(ひど)いんですぜ、そりや、踏(ふ)んだり、蹴(け)つたり、ポカ/\でさ。我又不善擇人參可否(われまたにんじんのかひをえらぶことをよくせず)。
人参 (旧字旧仮名) / 泉鏡花、泉鏡太郎(著)
玉蜀黍(とうもろこし)の毛を束(つか)ねて結ったようなる島田を大童(おおわらわ)に振り乱し、ごろりと横に臥(ふ)したる十七八の娘、色白の下豊(しもぶくれ)といえばかあいげなれど
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
実直さとともに老(ふ)け、痩(や)せぎすな体で、賄(まかな)い方の辛労をひき受けて来たのだ。無限の実直さには何らの価値もみとめてはいなかった。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
これに反(はん)して北(きた)からの風(かぜ)は、荒々(あらあら)しい海(うみ)の波(なみ)の上(うえ)を、高(たか)い険(けわ)しい山(やま)のいただきを、谷(たに)に積(つ)もった雪(ゆき)の面(おもて)を触(ふ)れてくるからでありました。
大きなかしの木 (新字新仮名) / 小川未明(著)
絞殺に鮮血が噴(ふ)きでるというのは可笑(おか)しかった。なにかこれは別の傷口がなければならない。一郎は愛弟四郎の屍体に顔を近づけた。
恐怖の口笛 (新字新仮名) / 海野十三(著)
新婦は首を掉(ふ)りて、否々、門(かど)の口をばえひらき侍(はべ)らず、おん身のこゝに來給はんは宜(よろ)しからずと云ひ、起ちてかなたの窓を開きつ。
大窪の泉と云つて、杉の根から湧く清水を大きい据桶に湛へて、雨水を防ぐ為に屋根を葺(ふ)いた。町の半数の家々ではこの水で飯(めし)を炊(かし)ぐ。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
信長のこういう顔つきと沈黙に出会って、懼(おそ)れ伏(ふ)さない将は幾人もいない。いや信長の一族を加えても、絶無だといってよいだろう。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
虎斑(ふ)など色とりどりの褌ひとつになつて無茶苦茶に踊り狂ふのを豊漁踊りと称んでゐたが、踊りとも云へぬただの騒ぎなのである。
円卓子での話 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
繁(しげ)るがまゝの秋草ですが、それでも氣をつけて見ると、人間の通つたらしい跡が、ほんの少しばかり草が蹈(ふ)みつけられてをります。
と、背すじへのぞんで、助広の白光(はっこう)を一揮(ふ)りなぎつけたが、崖に等しい傾斜であり、灌木の小枝に邪魔されて、行き方少し軽かったか
鳴門秘帖:05 剣山の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一、句数五千一万の多きに至らずとも、才能ある人は数年の星霜を経(ふ)る間には自然と発達して、何時(いつ)の間にか第二期に入(い)りをる事多し。
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
そして、その男とすれ違う時、ぎらぎらする二つの眼が丹治の方を睨(にら)むように光った。丹治は二(ふ)た眼(め)と見返すことができなかった。
怪人の眼 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
「はあ実は」又四郎は眼を俯(ふ)せた、「——実はですね、あの方と、お二人きりで、その、折入ったお話が、その、したいのですが」
百足ちがい (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
越後の上杉景勝も、慇懃(いんぎん)、賀使を送って、盟約を履(ふ)み、四道の風は悉(ことごと)く、秀吉に靡(なび)き、秀吉の袂(たもと)に吹くを、歓ぶかのような状況である。
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
やがてお柳(りう)の手(て)がしなやかに曲(まが)つて、男(をとこ)の手(て)に觸(ふ)れると、胸(むね)のあたりに持(も)つて居(ゐ)た卷煙草(まきたばこ)は、心(こゝろ)するともなく、放(はな)れて、婦人(をんな)に渡(わた)つた。
三尺角拾遺:(木精) (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
像の古(ふ)りたるは色褪(いろあ)せて、これを圍める彩畫ある板壁さへ、半ば朽ちて地に委(ゆだ)ねたれど、中には聖母兒(せいぼじ)の丹粉(にのこ)猶鮮(あざやか)かなるもなきにあらず。
これより帝優游自適(ゆうゆうじてき)、居然として一頭陀(いちずだ)なり。九年史彬(しひん)死し、程済(ていせい)猶(なお)従う。帝詩を善(よ)くしたもう。嘗(かつ)て賦(ふ)したまえる詩の一に曰く
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「おお、あの何か江戸ッ子の、いつも前垂(まえだれ)掛けでおいでなさる、活溌な、ふァふァふァ、」と笑って、鯉が麩(ふ)を呑んだような口附をする。
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
孝廉は約束を践(ふ)んで喬に連城をめあわそうと思って、先ずそのことを王の方に知らした。王は怒って官に訟えようとした。孝廉は当惑した。
連城 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
海は日毎(ひごと)に荒模様になって行った。毎朝、渚(なぎさ)に打ち上げられる漂流物の量が、急に増(ふ)え出した。私たちは海へはいると、すぐ水母(くらげ)に刺された。
麦藁帽子 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
それで、道を歩いていても、偶(ふ)と私の記憶に残ったそう云う姿、そう云う顔立ちの女を見ると、若しや、と思って胸を躍らすことがある。
幼い頃の記憶 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
余はこの時始めて附添(つきそい)のものが、院長の訃(ふ)をことさらに秘して、余に告げなかった事と、またその告げなかった意味とを悟った。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
夜気(やき)沈々たる書斎の中(うち)に薬烟(やくえん)漲(みなぎ)り渡りて深(ふ)けし夜(よ)のさらにも深け渡りしが如き心地、何となく我身ながらも涙ぐまるるやうにてよし。
矢はずぐさ (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
伯夷(はくい)・叔齊(しゆくせい)、賢(けん)なりと雖(いへど)も、(七三)夫子(ふうし)を得(え)て名(な)益〻(ますます)彰(あら)はれ、顏淵(がんえん)、篤學(とくがく)なりと雖(いへど)も、(七四)驥尾(きび)に附(ふ)して行(おこなひ)益〻(ますます)顯(あら)はる。
凡ての物の色が黄昏(たそがれ)の時のやうに浮き立つて来るので、感じ易い心は直様秋の黄昏に我れ知らず耽(ふ)けるやうな果しのない夢想に引き入れられる。
花より雨に (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
いな、彼女は初恋の人に対する心と肉体との操を守りながら、初恋を蹂(ふ)み躙(にじ)られた恨を、多くの男性に報いていたと云(い)ってもよかった。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
「吉兵衛さん、よい加減にしておきなはれよ。わしはちっとも気は狂(ふ)れておりやしまへんで、ただ世間並にしておりますのじゃ」
空中征服 (新字新仮名) / 賀川豊彦(著)
「南無阿弥陀ァ仏——南無阿弥陀ァ仏」単調(たんちょう)な村の哀(かなしみ)の譜(ふ)は、村の静寂の中に油の様に流れて、眠れよ休めよと云う様に棺を墓地へと導く。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎、徳冨蘆花(著)
そうした不(ふ)しだらな恋愛の常習者だからだときめてしまうにきまっていると思うからなんです。
華やかな罪過 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
ある朝、食事をすますと、例によつて、一緒に甲板へあがり、神谷は煙草を喫(ふ)かしはじめ、千種はその傍で、ぼんやり空想に耽つてゐた。
双面神 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
「さあ兄さん、えらいお待たせして済みまへん。どうぞ、もっとずっと火鉢(ひばち)の傍にお寄りやす。夜が闌(ふ)けてきつう寒うおす」
霜凍る宵 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
「あなたのお話を伺っていると、あたしは将棋の歩(ふ)で、上手な将棋差しの手にかかって、いいように動かされているみたい」
あなたも私も (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
わが面體(めんてい)を後のかたみに殘さんと、さきに其方を召出し、頼家に似せたる面(おもて)を作れと、繪姿までも遣(つか)はして置いたるに、日を經(ふ)るも出來(しゆつたい)せず。
修禅寺物語 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
何故と云ふに、別本には誠範の右に「蓮譽定生大※、文政五年壬午(じんご)八月」があつたから、此(かく)の如くに讀むときは、此彫文と符(ふ)するからである。
寿阿弥の手紙 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
斬られた角兵衛は秘密にしているにしても、人の腕を斬って往来へ投げ捨てて、世間を騒がした照之助を不問に付(ふ)して置くわけには行かない。
半七捕物帳:54 唐人飴 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
其の蔓をして依つて以て纒繞せしむ可き竹條葭幹等を與へて之を扶殖して地に偃(ふ)すこと無からしめ、丁寧に其の蠹蚜(とが)を去るが如きは、即ち助長である。
努力論 (旧字旧仮名) / 幸田露伴(著)
オノリイヌ——奥さんは、だけど、布(ふ)きんのあてようがちょっくら間違ってたぐらいで、わしに暇をくれようっていうつもりは多分おあんなさるまい。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
長(たけ)なる髪をうしろに結びて、旧(ふ)りたる衣(きぬ)に軟(な)へたる帯、やつれたりとも美貌(びばう)とは誰(た)が目にも許すべし。
軒もる月 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
松田氏の精確なる記性と明快なる論断とが微(なか)つたなら、わたくしは或は一堆の故紙に性命を嘘(ふ)き入るゝことを得なかつたかも知れない。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
人の婦(ふ)なることを知りて之を姦せんとす、元より非道なり、然(さ)れども彼は非道を世人の嫌悪する意味に於ての非道とせず。
心機妙変を論ず (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
夕暮にマリウチアと其父とは寺門迄迎へに來ぬ。僧はわれを伴ひ出でゝ引き渡しつ。この牧者のさまを見るに、衣はペツポのをぢのより舊(ふ)りたるべし。
寤(さま)させまゐらせんといへるを、赤穴又頭(かしら)を揺(ふ)りてとどめつも、更(さら)に物をもいはでぞある。左門云ふ。既に九〇夜を続(つ)ぎて来(こ)し給ふに、心も倦(う)み足も労(つか)れ給ふべし。
如意珠を持って焼香礼拝し、まず願を発していわく、わがために食を雨(ふ)らせよ、と。語に随ってすなわち百味の飲食(おんじき)を雨らす。かくのごとく種々のもの意に随って宝を得。
私(わたくし)は端(はし)なくも、昨夜(ゆふべ)ローマ府(ふ)からの滊車(きしや)の中(なか)で讀(よ)んだ『小公子(リツトルロー、トフオントルローイ)』といふ小説(せうせつ)中(ちう)の、あの愛(あい)らしい/\小主人公(せうしゆじんこう)を聯想(れんさう)した。
お国は、取っておいた鯵(あじ)に、塩を少しばかり撒(ふ)って、鉄灸(てっきゅう)で焼いてくれとか、漬物(つけもの)は下の方から出してくれとか、火鉢の側から指図がましく声かけた。
新世帯 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
何か不満が有るらしく、自分が何か云っても太(ふ)てて鼻歌で行って仕舞ったり、わざと聞える様に重三の悪口を云ったりする様子がお関には不安で有った。
お久美さんと其の周囲 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
乃(すなわ)ち三丰の居(お)りし所の武当(ぶとう) 大和山(たいかざん)に観(かん)を営み、夫(ふ)を役(えき)する三十万、貲(し)を費(ついや)す百万、工部侍郎(こうぶじろう)郭𤧫(かくつい)、隆平侯(りゅうへいこう)張信(ちょうしん)等(ら)、事に当りしという。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
先生の平生甚(はなは)だ多忙にして執筆の閑を得ずその儘(まま)に経過したりしに、一昨年の秋、或(あ)る外国人の需(もとめ)に応じて維新前後の実歴談を述べたる折、風(ふ)と思い立ち
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
よく蒸(ふ)けているか色艶はいいかどうかを調べるんだわ、こうして固さや柔らかさや蒸け加減や色艶をためしているうちに、口のなかへ程よく生唾が湧(わ)いてくる、それから静かに割るんだけれど
若殿女難記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
豪気な額(たか)だ——金座方でもなければ手にすることもなさそうな鋳(ふ)きたての小判で、ざっと五百両!
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「もみぢ葉を散らす時雨(しぐれ)の零(ふ)るなべに夜(よ)さへぞ寒き一人し寝(ぬ)れば」(巻十・二二三七)等の例がある。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
新朝廷の方は、西園寺公宗をはじめ、光厳帝の傅(ふ)、久我(こが)ノ右大臣や中院ノ大納言も説きふせてあるし、また後伏見、花園の二上皇も、意地悪くは仰せもなく
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
息を吐(ふ)き返して来ると、患者は暗い穴の底から、縁(ふち)に立っている人を見あげるように、人々の顔を捜した。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
殊に本邦の竹類に在てはそれ生じて籜(たく)を解きてより遂に枯死に就くに至るまで、その寿命を保つの間仮令(たとい)幾年の星霜を歴(ふ)るも遂に花を出すことなくして止むもの少なからず。
植物記 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
爺さんは、むっつりと、苦虫を噛みつぶしたような面構えで、炉傍(ろばた)に煙草を燻(ふ)かしていた。弟の庄吾は、婆さんの手伝いで、尻端折(しりはしょ)りになって雑巾(ぞうきん)掛(が)けだった。
駈落 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
この妻は寂しけれども浅茅(あさぢ)生(ふ)の露けき朝は裾かかげけり
雀の卵 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
蠅打の下を免れた木村は、例の穴に気の附かなかつた不注意を恥ぢて、首(こうべ)を俛(ふ)して園内に進んだ。
田楽豆腐 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
 去年来のこと、恐れ多くも天朝・幕府の間、誠意あひ孚(ふ)せざるところあり。
留魂録 (新字旧仮名) / 吉田松陰(著)
巫(ふ)山の雲、漢宮の幻ではなかろうか
実に水の辺(ほと)りに植えたる樹のようなもので、だんだんと芽を萌(ふ)き枝を生じてゆくものであると思います。
後世への最大遺物 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
盛庸と鉄鉉とは兵を率いて其(その)後(のち)を躡(ふ)み、東昌(とうしょう)に営したり。此(この)時(とき)北軍却(かえ)って南に在(あ)り南軍却って北に在り。北軍南軍相戦わざるを得ざるの勢(いきおい)成りて東昌の激戦は遂に開かれぬ。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
山路になりてよりは、二頭の馬喘(あえ)ぎ喘ぎ引くに、軌幅(きふく)極めて狭き車の震(ふ)ること甚しく、雨さえ降りて例の帳閉じたれば息(いき)籠(こ)もりて汗の臭(か)車に満ち、頭痛み堪えがたし。
みちの記 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
四季袋(しきぶくろ)を紐短(ひもみじ)かに挈(さ)げたるが、弗(ふ)と此方(こなた)を見向ける素顔の色蒼(あを)く、口の紅(べに)も点(さ)さで、やや裏寂(うらさびし)くも花の咲過ぎたらんやうの蕭衰(やつれ)を帯びたれど、美目の盻(へん)たる色香(いろか)尚濃(なほこまやか)にして
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
朝(あさ)踐(ふ)む風(かぜ)のささやきに
白羊宮 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫、薄田淳介(著)
道士はその食物を喫(く)って空になった鉢を案(つくえ)の上に覆(ふ)せて帰って往った。
緑衣人伝 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
「私なんかに、——兩(ふ)た親も、家もないやうな」
だから貧時(ひんじ)には貧(ひん)に縛(ばく)せられ、富時(ふじ)には富(ふ)に縛せられ、憂時(ゆうじ)には憂(ゆう)に縛せられ、喜時(きじ)には喜(き)に縛せられるのさ。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
下女(げじょ)と徇(ふ)れていた醜女(みにくいおんな)ばかりを伴(ともな)うて来(き)たので、そうしてこの女(おんな)には乳呑児(ちのみご)があった。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
梅子からの手紙! 細川繁の手は慄(ふ)るえた。無理もない、曾(かつ)て例のないこと、又有り得(う)べからざること、細川に限らず、梅子を知れる青年(わかもの)の何人も想像することの出来ないことである!
富岡先生 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
「あの三人の娘は、みなひどく腐(ふ)らんして、顔も何も分らなくなっていましたね」
吸血鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
上の方が小さく、下の方が大きければ、下(しも)ぶくれの形になる。凹(くぼ)んでいる部分は、彎曲率を負(ふ)にとればよいのでその凹み方も、負の値の大小できまる。
我等は倒れたる一圓柱の趺(ふ)の上に踞したり。ジエンナロの力に頼りて、乞兒(かたゐ)の群を逐ひ拂ふことを得たりしかば、我等の心靜に四邊(あたり)の風景を玩(もてあそ)ぶには、復た何の妨(さまたげ)もあらざりき。
『明日がえ? 行(え)ぐどもせア。権作ア此老年(とし)になるだが、馬車曳(ふ)つぱらねえでヤ、腹減つて斃死(くたば)るだあよ。』
天鵞絨 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
初雪の積りたるをそのまゝにおけば、再び下(ふ)る雪を添へて一丈にあまる事もあれば、一度降(ふれ)ば一度掃ふ(雪浅ければのちふるをまつ) 是を里言(さとことば)に雪掘(ゆきほり)といふ。土を掘(ほる)がごとくするゆゑに斯(かく)いふなり。
雪 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
同じ金盥で下湯(しもゆ)を使う。足を洗う。人が穢(きたな)いと云うと、己の体は清潔だと云っている。湯をバケツに棄てる。水をその跡に取って手拭を洗う。水を棄てる。手拭を絞って金盥を揩(ふ)く。
鶏 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
して己れの心をそのまま存する者は怖(こわ)がりもせぬ。怖気(おじけ)は自己の心を離るるより起こる。漢字で立心扁(りっしんべん)に去る(怯(きょう))布く(怖(ふ))芒ふ(恾(ぼう))をつけてこわがるの意を現すも故(ゆえ)ありというべし。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
火口壁の聳えたところに、折り目がいくつか出来ている、そうして近頃の新火口らしい円い輪形から、貂(てん)の毛のような、褐色な房(ふ)っさりとした烟が、太く立ち上って、頂上から少し上の空を這って
谷より峰へ峰より谷へ (新字新仮名) / 小島烏水(著)
あるいは岩石の節理が膨(ふ)くれ立ちて、木輪が、磨滅した木の肉から浮ぶように、抓(つま)み上がって見えたりするが、雪の動作は、それとは反対に岩石を擦り円め、滑らかにさせ、磨き上げるのである。
高山の雪 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
道端(みちばた)に石段(いしだん)があつた。代助は半(なか)ば夢中で其所(そこ)へ腰を掛けたなり、額(ひたひ)を手で抑(おさ)えて、固(かた)くなつた。しばらくして、閉(ふ)さいだ眼(め)を開(あ)けて見ると、大きな黒い門(もん)があつた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
かの一兩鳧(ふ)羽うちて天にあがる……
駱駝の瘤にまたがつて (旧字旧仮名) / 三好達治(著)
近づいて、切ッ払って、亡(ふ)ける覚悟し——いたずらに騒いでは、却(かえ)って、此の場合、逃げ場を失うのは、知れ切っている。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
「手めえに恨みはねえ、早く亡(ふ)けろ! 役人が来るなあ、ほんとうだぜ!」
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
ここにその妻(みめ)須勢理毘賣(すせりびめ)の命、蛇のひれ七をその夫に授けて、「その蛇咋(く)はむとせば、このひれを三たび擧(ふ)りて打ち撥(はら)ひたまへ」
ここを以ちて御頸を刺しまつらむとして、三度擧(ふ)りしかども、哀しとおもふ情忽に起りて、頸をえ刺しまつらずて、泣く涙の落ちて、御面を沾らしつ。かならずこの表(しるし)にあらむ
斉王(せいおう)榑(ふ)もまた人の告ぐるところとなり、廃せられて庶人となり、代王桂(けい)もまた終(つい)に廃せられて庶人となり、大同(だいどう)に幽せらる。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
此(こ)の太祖の言は、正(まさ)に是れ太祖が胸中の秘を発せるにて、夙(はや)くより此(この)意ありたればこそ、其(それ)より二年ほどにして、洪武三年に、樉(そう)、棡(こう)、棣(てい)、橚(しゅく)、楨(てい)、榑(ふ)、梓(しん)、檀(たん)、杞(き)の九子を封じて
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
鹽(しほ)盈(み)つ珠(たま)一八を出して溺らし、もしそれ愁へまをさば、鹽(しほ)乾(ふ)る珠(たま)を出して活(いか)し、かく惚苦(たしな)めたまへ
「この竹葉(たかば)の青むがごと、この竹葉の萎(しな)ゆるがごと、青み萎えよ。またこの鹽の盈(み)ち乾(ふ)るがごと、盈ち乾(ひ)よ。またこの石の沈むがごと、沈み臥せ」とかく詛(とこ)ひて、竈(へつひ)の上に置かしめき。
夫(そ)れ龍(りよう)の・蟲(むし)たる、(一一二)擾狎(ぜうかふ)して騎(き)す可(べ)し。然(しか)れども其(その)喉下(こうか)に(一一三)逆鱗(げきりん)の(一一四)徑尺(けいしやく)なるあり。人(ひと)之(これ)に嬰(ふ)るるあれば則(すなは)ち必(かなら)ず人(ひと)を殺(ころ)す。人主(じんしゆ)にも亦(また)逆鱗(げきりん)有(あ)り。
之(これ)に説(と)く者(もの)能(よ)く人主(じんしゆ)の逆鱗(げきりん)に嬰(ふ)るる無(な)ければ則(すなは)ち(一一五)幾(ちか)し
すなはちその大神の生大刀(いくたち)と生弓矢(いくゆみや)一三またその天の沼琴(ぬごと)一四を取り持ちて、逃げ出でます時に、その天の沼琴樹に拂(ふ)れて地動鳴(なりとよ)みき。
人となり聰明にして、目に度(わた)れば口に誦(よ)み、耳に拂(ふ)るれば心に勒(しる)す。すなはち阿禮に勅語して、帝皇の日繼(ひつぎ)と先代の舊辭とを誦み習はしめたまひき。
狭いけれども宅には庭がありますから、右の矮鶏を、掩(ふ)せ籠(かご)を買って来て、庭へ出して、半月ばかり飼って置きました。
そこでこの方の鶏も庭に飼って、前のと両方、別々の掩(ふ)せ籠(かご)に入れて置いた。
普(ふ)通にはそれを「ぎよつとした」と形容(よう)するがその言葉があらはす程シヨツクの烈(はげ)しいものではなく、何か日頃は奧(おく)のほうにしまつてあつて
坂道 (旧字旧仮名) / 新美南吉(著)
俗(ぞく)に「ふみきり」といふペタルで、つまり普(ふ)通の自轉車のやうに、或る程度の惰性(だせい)がついたらペタルの上で足を休ませてゆくといふことが出來ない。
坂道 (旧字旧仮名) / 新美南吉(著)
何(な)ァに玉川の水だ、朝早くさえ汲めば汚ない事があるものかと、男役に彼は水汲(みずく)む役を引受けた。起きぬけに、手桶(ておけ)と大きなバケツとを両手に提げて、霜を䠖(ふ)んで流れに行く。顔を洗う。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎、徳冨蘆花(著)
「私なんかに、——両(ふ)た親も、家もないような」
自ら蝦夷の俘(ふ)の神宮に献ぜられ、のちに播磨・安芸・伊予・讃岐および阿波の五国に配置せられた者の子孫なりと称したということで、すなわち「景行天皇紀」五十一年の記事とは符合しますが
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
風采(ふうさい)、千破矢家の傳(ふ)たるに足る竜川守膳が、顔の色を変えて血眼になって、その捜索を、府下における区々の警察に頼み聞えると、両国回向院(えこういん)のかの鼠小憎の墓前(はかのまえ)に、居眠(いねむり)をしていた小憎があった。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「なんですか、私も是方(こっち)へ来てから、また母親さんが一人加(ふ)えたような気がしますわ」
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
枯(か)れ原(ふ)の冬草の、山肌色をした小な翼であった。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
谷合いの畠にお長の双(ふ)た親(おや)と兄の常吉がいた。二三寸延びた麦の間の馬鈴薯を掘っていたのである。
千鳥 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
そして又幾針もせぬうちに吻(ふ)つと手を休めて、膝もとに寝んでゐる多次郎の蒲団を掛け直したりした。広い田園に夜が落ちると、ひつそりした沈黙の、音のない騒がしさがきこえるのであつた。
竹藪の家 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
声がらでは、どうも、今日、途中まで迎へに出た、白髪の郎等が何か告(ふ)れてゐるらしい。
芋粥 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
且(かつ)抉せられて且(かつ)罵り、血を含んで直(ただち)に御袍(ぎょほう)に噀(ふ)く。乃(すなわ)ち命じて其(その)皮を剥(は)ぎ、長安門(ちょうあんもん)に繋(つな)ぎ、骨肉を砕磔(さいたく)す。清帝の夢に入って剣を執って追いて御座を繞(めぐ)る。帝覚(さ)めて、清の族を赤(せき)し郷(きょう)を籍(せき)す。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
この刈跡が漸次峡底に増加(ふ)えて行くといやはてには人目も草も枯れはてる寂しい冬が来るのである。それにしても自然の推移の早いに驚かざるを得ない。
備後より (新字旧仮名) / 中村憲吉(著)
彼も初めての事なので、薄気味悪(わ)るく、うとうとしていると、最早(もう)夜も大分更(ふ)けて、例の木枯(こがらし)の音が、サラサラ相変らず、聞(きこ)える時、突然に枕許(まくらもと)の上の呼鈴(べる)が、けだだましく鳴出(なりだ)したので
死体室 (新字新仮名) / 岩村透(著)
(十三) 有子曰く、信、義に近きときは、言(こと)、復(ふ)むべきなり。恭、礼に近きときは、恥辱に遠ざかる。因(したし)むところ其の親を失わざるときは亦宗(とうと)ぶべきなり。
孔子 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
例の老夫は頭を悼(ふ)り悼り呟(つぶや)けり。
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その時(とき)たちまち、右手(みぎて)に高(たか)く、御秘蔵(ごひぞう)の御神剣(ごしんけん)を打(ふ)り翳(かざ)し、漆(うるし)の黒髪(くろかみ)を風(かぜ)に靡(なび)かせながら、部下(ぶか)の軍兵(つわもの)どもよりも十歩(ぽ)も先(さき)んじて、草原(くさはら)の内部(なか)から打(う)って出(い)でられた命(みこと)の猛(たけ)き御姿(おんすがた)、あの時(とき)ばかりは
と男は韻を押(ふ)んだように再び叫んだ。
少女病 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
私も、さっさと台所を片付けたいと思い、鍋は伏せ、皿小鉢は仕舞い、物置の炭をかんかん割って出し、猫の足跡もそそくさと掃(ふ)いて、上草履(うわぞうり)を脱ぎまして、奥様の御部屋へ参りました。
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
家来 (文(ふ)ばこを基康に渡す)
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
哀れ金なくて解脱の書(ふ)みを見ず
鶴彬全川柳 (新字旧仮名) / 鶴彬(著)
もともとシャーマンが神懸りになるために打ち鳴らす太鼓の桴(ふ)を意味する語であったことを思えば、このような山の上の祭場にシャーマンが関係していたことも、察するに難くないのであります。
小平太は苦しそうに、ただ「いいや」とばかり頭振(かぶ)りを棹(ふ)ってみせた。
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
「水竹居」はその父竹渓が文政八年歳晩「掃塵」の作中に「先生閑居号水竹。不洒不掃守老屋。」〔先生閑居シテ水竹ト号シ/洒(ふ)カズ掃(は)カズシテ老屋ヲ守ル〕というより考えてそのままこれを
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
先ずその蛙の巣窟を攘(はら)うに如ずと云うので、お出入りの植木職を呼あげて、庭の植込を洗(ふ)かせ、草を苅らせ、池を浚(さら)わせた。
池袋の怪 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
又はその当時のモテ加減なぞを思い出して浮(ふ)っかり出た「ニヤニヤ」とか「ウフウフ」とかいう気持ちが、鼻の表現の中(うち)を往来明滅するのを禁ずる事は出来ないのであります。
鼻の表現 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
八重「半治はん誠にほ前(めえ)は悪(はり)いよう、ほれじゃア済(ふ)まねえよ、私(ふァたい)も此家(ほゝ)へ来(ひ)ているに、ほ前(めえ)がほんな事(ほと)をひてや親分(ほやぶん)に済(ふ)まねえよ、小兼(ほはね)はんに今(ひま)になって帰(へえ)れってえ、ほれじゃア可愛(ははひ)ほうだアへえ」
それを一目ながめて彼は思わず笑(ふ)き出してしまった——何という似ても似つかぬ相違だろう! それからもずっと長いこと、食事をしたためながらも
外套 (新字新仮名) / ニコライ・ゴーゴリ(著)
憑依(ひょうい)の去った巫者(ふしゃ)のように、身も心もぐったりとくずおれ、まだ六十を出たばかりの彼が急に十年も年をとったように耄(ふ)けた。
李陵 (新字新仮名) / 中島敦(著)
次にこれらの材木の組合せによつて生まれるところのありとあらゆる形々々のやや無限を思はせるところの明滅によつて脹(ふ)くれ歪み合し崩れ混乱する様を想像します。
女占師の前にて (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
御食(みけ)むかふ南淵山(みなぶちやま)の巌(いはほ)には落(ふ)れる斑雪(はだれ)か消(き)え残(のこ)りたる 〔巻九・一七〇九〕 柿本人麿歌集
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
かれ御毛沼の命は、波の穗を跳(ふ)みて、常世の國に渡りまし、稻氷の命は、妣(はは)の國三として、海原に入りましき。
其(その)功としては周王(しゅうおう)を執(とら)えしのみに過ぎざれど、帝をはじめ大臣等これを大器としたりならん、然れども虎皮(こひ)にして羊質(ようしつ)、所謂(いわゆる)治世の好将軍にして、戦場の真豪傑にあらず、血を蹀(ふ)み剣を揮(ふる)いて進み
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
俥を駆(か)りて白羽坂(しらはざか)を踰(こ)えてより、回顧橋(みかへりばし)に三十尺の飛瀑(ひばく)を蹻(ふ)みて、山中の景は始て奇なり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
彼は懼(おそ)れて傍目(わきめ)をも転(ふ)らざりけれど、必ずさあるべきを想ひて独(ひと)り心を慄(をのの)かせしが、猶(なほ)唯継の如何(いか)なることを言出でんも知られずと思へば、とにもかくにもその場を繕ひぬ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
〔譯〕徳性を尊ぶ、是を以て問學(ぶんがく)に道(よ)る、即ち是れ徳性を尊ぶなり。先づ其の大なる者を立つれば、則ち其知や眞(しん)なり。能く其の知を迪(ふ)めば、則ち其功や實(じつ)なり。畢竟(ひつきやう)一條(いちでう)路(ろ)の往來のみ。
物(もの)の部(ふ)二の、わが夫子(せこ)が、取り佩(は)ける、大刀の手上(たがみ)に、丹書(にか)き著け三、その緒には、赤幡(あかはた)を裁ち四、赤幡たちて見れば、い隱る、山の御尾の、竹を掻き苅り、末押し靡かすなす五
向方の隅にゐるお客様が、さつきからあなたの様子を見て、あれは何処の役者なのか、余程六つかしい役でも配(ふ)られたと見えて、可愛想に、酒場に来てまでも稽古に夢中になつてゐる。
痴酔記 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
不断年より長(ふ)けた女が、かえって実際より三つ四つも少ないくらい、ついに見ぬ、薄化粧で、……分けて取乱した心から、何か気紛れに手近にあったを着散したろう、……座敷で
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
第一、目録が目線であります。下総(しもうさ)が下綱だったり、蓮花(れんげ)が蓬(よもぎ)の花だったり、鼻が阜(ふ)になって、腹が榎(えのき)に見える。
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
放し飼いにした伊那駒が、秋天高く馬肥える、今日この頃の野のように、長い鬣(たてがみ)を顫(ふ)るわせて、さも勇ましく駆けている。秋にふさわしい光景(ながめ)である。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
醜い汚い筋をぶるぶると震わせながら、麸(ふ)を嘗(な)めるような形が、歴然(ありあり)と、自分(おの)が瞳に映った時、宗吉はもはや蒼白(まっさお)になった。
売色鴨南蛮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)