“弗(ふ)” の例文
颯(さつ)と、吹添(ふきそ)ふ蒼水(あをみづ)の香(か)の風(かぜ)に連(つ)れて、流(ながれ)の上(うへ)へそれたのは、卯(う)の花(はな)縅(をどし)の鎧(よろひ)着(き)た冥界(めいかい)の軍兵(ぐんぴやう)が、弗(ふ)ツと射出(いだ)す幻(まぼろし)の矢(や)が飛(と)ぶやうで、川(かは)の半(なか)ばで、白(しろ)く消(き)える。
月夜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花、泉鏡太郎(著)
四季袋(しきぶくろ)を紐短(ひもみじ)かに挈(さ)げたるが、弗(ふ)と此方(こなた)を見向ける素顔の色蒼(あを)く、口の紅(べに)も点(さ)さで、やや裏寂(うらさびし)くも花の咲過ぎたらんやうの蕭衰(やつれ)を帯びたれど、美目の盻(へん)たる色香(いろか)尚濃(なほこまやか)にして
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
(眠(ねむ)うなつたのかい、もうお寝(ね)か、)といつたが座(すは)り直(なほ)つて弗(ふ)と気(き)がついたやうに四辺(あたり)を眴(みまは)した。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花、泉鏡太郎(著)
折から紙門(ふすま)を開きけるを弗(ふ)と貫一の睼(みむか)ふる目前(めさき)に、二人の紳士は徐々(しづしづ)と入来(いりきた)りぬ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
此処(こゝ)で百姓(ひやくしやう)に別(わか)れて其(そ)の川(かは)の石(いし)の上(うへ)を行(ゆか)うとしたが弗(ふ)と猶予(ためら)つたのは売薬(ばいやく)の身(み)の上(うへ)で。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花、泉鏡太郎(著)
(白桃(しろもゝ)の花(はな)だと思(おも)ひます。)と弗(ふ)と心着(こゝろつ)いて何(なん)の気(き)もなしにいふと、顔(かほ)が合(あ)ふた。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花、泉鏡太郎(著)