“齒(は)” の例文
新字:歯
私(わたし)は今迄(いまゝで)、朝鮮猫(てうせんねこ)が始終(しじゆう)齒(は)を露出(むきだ)して居(ゐ)るなんて事(こと)を些(ちつ)とも知(し)りませんでした、眞個(ほんと)に知(し)らずに居(ゐ)ましたわ、猫(ねこ)が齒(は)を露出(むきだ)すなんて事(こと)を
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
宗助(そうすけ)は、左(さ)うですかと云(い)つて、たゞ肥(ふと)つた男(をとこ)のなすが儘(まゝ)にして置(お)いた。すると彼(かれ)は器械(きかい)をぐる/\廻(まは)して宗助(そうすけ)の齒(は)の根(ね)へ穴(あな)を開(あ)け始(はじ)めた。
門 (旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
船頭(せんどう)さん、渡場(わたしば)で一番(いちばん)川幅(かははゞ)の廣(ひろ)いのは何處(どこ)だい。先(ま)づ此處(こゝ)だね。何町位(なんちやうぐらゐ)あるねといふ。唾(つば)乾(かわ)きて齒(は)の根(ね)も合(あ)はず、煙管(きせる)は出(だ)したが手(て)が震(ふる)へる。
弥次行 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
何分(なにぶん)空氣(くうき)が棺(かん)の中(なか)へ侵入(しんにゆう)するので、今日(こんにち)これを開(あ)けて見(み)ても骨(ほね)の遺(のこ)つてゐるのはごく稀(まれ)であつて、わづかに齒(は)が殘(のこ)つてゐるくらゐであります。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
頼みたく今日は和女(そなた)の歸りをば實は二個(ふたり)で待てゐたりと言ばお金は斑(まばら)なる齒(は)を顯(あらは)して打笑ひ然いふ目出度お話と聞ては吾儕(わたし)も實に嬉(うれ)しく斯いふ事を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
アンドレイ、エヒミチはうんざりして、長椅子(ながいす)の上(うへ)に横(よこ)になり、倚掛(よりかゝり)の方(はう)へ突(つい)と顏(かほ)を向(む)けた儘(まゝ)、齒(は)を切(くひしば)つて、友(とも)の喋喋(べら/\)語(しやべ)るのを詮方(せんかた)なく聞(き)いてゐる。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
卯平(うへい)は幾杯(いくはい)も只(たゞ)茶(ちや)を啜(すゝ)つた。壯健(たつしや)だといつても彼(かれ)は齒(は)がげつそりと落(お)ちて軟(やはら)かな物(もの)でなければ噛(か)めなくなつて居(ゐ)た。卯平(うへい)は又(また)おつぎへ醤油(しやうゆ)の罎(びん)を出(だ)して
土 (旧字旧仮名) / 長塚節(著)
積(つも)つた雪(ゆき)を凍(こゞ)つた土(つち)の上(うへ)に集(あつ)めて、それを下駄(げた)の齒(は)でこするうちには、白(しろ)いタヽキのやうな路(みち)が出來上(できあが)ります。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
墓(はか)へ這入(はい)るまで八圓(ゑん)の月給(げつきう)では有(あ)るまいと思(おも)ひますに、其邊(そのへん)格別(かくべつ)の御心配(ごしんぱい)なくと見事(みごと)に言(い)へば、母親(はゝおや)はまだらに殘(のこ)る黒(くろ)き齒(は)を出(だ)して、成(な)るほど/\宜(よ)く立派(りつぱ)に聞(きこ)えました
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
疾病の種類(しゆるゐ)にして存在の証跡を今日に留むるは黴毒と虫齒なり是等の事は遺跡より出つる骨(ほね)と齒(は)とに由りて知るを得る事なれど、風俗考には縁故遠き事故細説(さいせつ)は爲さざるべし。
コロボックル風俗考 (旧字旧仮名) / 坪井正五郎(著)
寸(すん)ほどにのびた院内(ゐんない)の若草(わかぐさ)が、下駄(げた)の齒(は)に柔(やはら)かく觸(ふ)れて、土(つち)の濕(しめ)りがしつとりと潤(うるほ)ひを持(も)つてゐる。微(かす)かな風(かぜ)に吹(ふ)きつけられて、雨(あめ)の糸(いと)はさわ/\と傘(かさ)を打(う)ち、柄(え)を握(にぎ)つた手(て)を霑(うるほ)す。
悔 (旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
猛惡(まうあく)なる猴(さる)の本性(ほんしやう)として、容易(ようゐ)に手(て)を出(だ)さない、恰(あだか)も嘲(あざけ)る如(ごと)く、怒(いか)るが如(ごと)く、其(その)黄色(きいろ)い齒(は)を現(あら)はして、一聲(いつせい)高(たか)く唸(うな)つた時(とき)は、覺悟(かくご)の前(まへ)とはいひ乍(なが)ら、私(わたくし)は頭(あたま)から冷水(ひやみづ)を浴(あ)びた樣(やう)に戰慄(せんりつ)した
それを取つてたべている間に逃げておいでになるのをまた追いかけましたから、今度は右の耳の邊につかねた髮に插しておいでになつた清らかな櫛の齒(は)を闕(か)いてお投げになると筍(たけのこ)が生(は)えました。
乳母 ならっしゃりませぬとも、此(この)齒(は)を十四本(ほん)賭(か)けますがな……と言(い)うても、其(その)十四本(ほん)が、ほんに/\、もう只(たった)四本(ほん)しかござりませぬわい。……初穗節(はつほまつり)(八朔)までは最早(もう)幾日(いくか)でござりますえ?
此の時(とき)位(ぐらゐ)藝術家の意久地(いくぢ)の無いことはあるまい、幾(いく)らギリ/\齒(は)を噛(か)むだと謂(い)ツて、また幾ら努力したと謂ツて、何のことはない、破(やぶ)けたゴム鞠(まり)を地(ち)べたに叩付(たゝきつ)けるやうなもので何の張合(はりあひ)もない。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
「時(とき)」の老骨(らうこつ)、きしきしと、數(かず)噛(か)む音(おと)の齒(は)ぎしりや
海潮音 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
坊(ばう)やの齒(は)ぐきは
歌時計:童謡集 (旧字旧仮名) / 水谷まさる(著)
齒(は)と齒(は)のきしみ
赤い旗 (旧字旧仮名) / 槙本楠郎(著)
「そら今度(こんだ)こさ雪子(ゆきこ)の勝(かち)だ」と云(い)つて愉快(ゆくわい)さうに綺麗(きれい)な齒(は)を露(あら)はした。子供(こども)の膝(ひざ)の傍(そば)には白(しろ)だの赤(あか)だの藍(あゐ)だのゝ硝子玉(がらすだま)が澤山(たくさん)あつた。主人(しゆじん)は
門 (旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
何(なに)はしかれ車(くるま)の齒(は)の埋(うづ)まりますまで、遣(や)るとしませう。其上(そのうへ)は、三人(にん)がかり五人(にん)がかり、三井寺(みゐでら)の鐘(かね)をかつぐ力(ちから)づくでは、とても一寸(いつすん)も動(うご)きはしませぬ。
雪の翼 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
與吉(よきち)は一箸(ひとはし)嘗(な)めては舌鼓(したつゞみ)を打(う)つて其(その)小(ちひ)さな白(しろ)い齒(は)を出(だ)して、頭(あたま)を後(うしろ)へひつゝける程(ほど)身(み)を反(そ)らしておつぎの顏(かほ)を凝然(ぢつ)と見(み)ては甘(あま)えた聲(こゑ)を立(たて)て笑(わら)ふのである。
土 (旧字旧仮名) / 長塚節(著)
厨房(だいどころ)に居(ゐ)るもので嚏(くさめ)をしないのは只(たゞ)料理人(クツク)と、それから竈(へツつひ)の上(うへ)に坐(すわ)つて、耳(みゝ)から耳(みゝ)まで剖(さ)けた大(おほ)きな口(くち)を開(あ)いて、齒(は)を露出(むきだ)して居(ゐ)た一疋(ぴき)の大猫(おほねこ)ばかりでした。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
と、忽(たちま)ち覺(おぼ)ゆる胸(むね)の苦痛(くつう)、膓(ちやう)の疼痛(とうつう)、誰(たれ)か鋭(するど)き鎌(かま)を以(もつ)て、刳(ゑぐ)るにはあらぬかと思(おも)はるゝ程(ほど)、彼(かれ)は枕(まくら)に強攫(しが)み着(つ)き、きりゝと齒(は)をば切(くひしば)る。今(いま)ぞ初(はじ)めて彼(かれ)は知(し)る。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
時(とき)にはもう幾度(いくたび)か勝負(しやうぶ)をした揚句(あげく)に土(つち)のついて齒(は)のこぼれたやつを削(けづ)り直(な)したりして遊(あそ)びました。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
お齒(は)ぐろ溝(どぶ)の角(かど)より曲(まが)りて、いつも行(ゆ)くなる細道(ほそみち)をたどれば、運(うん)わるう大黒(だいこく)やの前(まへ)まで來(き)し時(とき)、さつと吹(ふ)く風(かぜ)大黒傘(だいこくがさ)の上(うへ)を抓(つか)みて、宙(ちう)へ引(ひき)あげるかと疑(うたが)ふばかり烈(はげ)しく吹(ふ)けば
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
始め與力同心列を正(たゞ)して嚴重に居並(ゐなら)びければ吉五郎は彌々(いよ/\)色(いろ)蒼然(あをざめ)齒(は)の根(ね)も合(あは)ぬ迄(まで)に慄(ふる)へながら家主の後(あと)に蹲踞(ゐすくま)るにぞ越前守殿是を見られ是へ/\と申さるゝに吉五郎は今にも首(くび)を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
かういふ孔(あな)をあけた獸類(じゆうるい)の牙(きば)や齒(は)は、日本(につぽん)の石器時代(せつきじだい)の遺跡(いせき)や、また外國(がいこく)の遺跡(いせき)からもずいぶんたくさん發見(はつけん)せられますが、勾玉(まがたま)のように美(うつく)しい形(かたち)の玉(たま)は、外國(がいこく)ではまったく見(み)られません。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
齒(は)をかみ鳴(な)らす
赤い旗 (旧字旧仮名) / 槙本楠郎(著)
「御米(およね)、己(おれ)は齒(は)の性(しやう)が餘程(よつぽど)惡(わる)いと見(み)えるね。斯(か)うやると大抵(たいてい)動(うご)くぜ」と下齒(したば)を指(ゆび)で動(うご)かして見(み)せた。御米(およね)は笑(わら)ひながら
門 (旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
「へい、何方(どちら)で、」と云(い)ふのが、赤(あか)ら顏(がほ)の髯(ひげ)もじやだが、莞爾(につこり)と齒(は)を見(み)せた、人(ひと)のよささうな親仁(おやぢ)が嬉(うれ)しく
大阪まで (旧字旧仮名) / 泉鏡花、泉鏡太郎(著)
「そんだら汝(わ)りや」と齒(は)でぎつと噛(か)み殺(ころ)した樣(やう)な聲(こゑ)でいつた。暫時(しばらく)凝然(ぢつ)と見(み)て居(ゐ)た彼(かれ)はおつぎを蹴(け)つた。おつぎは前(まへ)へのめつた。然(しか)しおつぎは泣(な)かなかつた。
土 (旧字旧仮名) / 長塚節(著)
『でも!私(わたし)は度々(たび/\)齒(は)を出(だ)して居(ゐ)ない猫(ねこ)を見(み)てよ』と愛(あい)ちやんは云(い)はうとしたものゝ、『齒(は)を露出(むきだ)してるものは猫(ねこ)の他(ほか)に!私(わたし)が是迄(これまで)に見(み)たものゝ中(うち)で一番(ばん)奇妙(きめう)なのは』
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
夫(そ)れ/\羽織(はをり)の裾(すそ)が地(ち)について泥(どろ)に成(な)るは御存(ごぞん)じ無(な)いか、あれ傘(かさ)が轉(ころ)がる、あれを疊(たゝ)んで立(た)てかけて置(お)けば好(よ)いにと一々鈍(もど)かしう齒(は)がゆくは思(おも)へども、此處(こゝ)に裂(き)れが御座(ござ)んす
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
長椅子(ながいす)の上(うへ)に横(よこ)になつた切(き)り、而(さう)して齒(は)を切(くひしば)つてゐるのであるが、其(そ)れが段々(だん/\)度重(たびかさ)なれば重(かさな)る程(ほど)、堪(たま)らなく、終(つひ)には咽喉(のど)の邊(あた)りまでがむづ/\して來(く)るやうな感(かん)じがして來(き)た。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
云から待てゐよ必ず忘るゝ事勿(なか)れと憤怒(ふんぬ)の目眥(まなじり)逆立(さかだ)つて礑(はつ)たと白眼(にらみ)兩の手をひし/\と握(にぎ)りつめ齒(は)を喰(くひ)しばりし恐怖(おそろ)しさに忠兵衞夫婦は白洲(しらす)をも打忘(うちわす)れアツと云樣立上り迯(にげ)んとするを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
ところがこの面白(おもしろ)い勾玉(まがたま)の形(かたち)が、どうして出來(でき)たのであるかといひますと、昔(むかし)の人(ひと)が狩(か)りをして獸(けだもの)をとり、その牙(きば)や齒(は)に孔(あな)をあけて飾(かざ)りにした風習(ふうしゆう)が傳(つた)はつて、その牙(きば)や齒(は)の形(かたち)の曲(まが)つたのをまねて
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
この根際(ねぎは)に膝(ひざ)をついて、伸上(のびあが)つては挽(ひ)き下(お)ろし、伸上(のびあが)つては挽(ひ)き下(お)ろす、大鋸(おほのこぎり)の齒(は)は上下(うへした)にあらはれて、兩手(りやうて)をかけた與吉(よきち)の姿(すがた)は、鋸(のこぎり)よりも小(ちひ)さいかのやう。
三尺角 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
齒(は)ぎしりするほど腹立(はらたゝ)しく、此老婆(このばゞ)はり仆(たほ)すに事(こと)は無(な)けれど、唯(たゞ)ならぬ身(み)の美尾(みを)が心痛(しんつう)、引(ひ)いては子(こ)にまで及(およ)ぼすべき大事(だいじ)と胸(むね)をさすりて、私(わたし)とても男子(おとこ)の端(はし)で御座(ござ)りますれば
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
齒(は)を染(そ)めた、面長(おもなが)の、目鼻立(めはなだち)はつきりとした、眉(まゆ)は落(おと)さぬ、束(たば)ね髮(がみ)の中年増(ちうどしま)、喜藏(きざう)の女房(にようばう)で、お品(しな)といふ。
三尺角 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
廻(まわ)れば大門(おほもん)の見返(みかへ)り柳(やなぎ)いと長(なが)けれど、お齒(は)ぐろ溝(どぶ)に燈火(ともしび)うつる三階(がい)の騷(さわ)ぎも手(て)に取(と)る如(ごと)く、明(あ)けくれなしの車(くるま)の行來(ゆきゝ)にはかり知(し)られぬ全盛(ぜんせい)をうらなひて、大音寺前(だいおんじまへ)と名(な)は佛(ほとけ)くさけれど
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「へい、お待(ま)ちなさいまし、石磈(いしころ)で齒(は)が軋(きし)みますで。」と蹲(つくば)つて、ぐい、と楫(かぢ)を壓(おさ)へる。
月夜車 (旧字旧仮名) / 泉鏡花、泉鏡太郎(著)
座敷(ざしき)へは婢女(をんな)ばかり出(だ)して私(わたし)は齒(は)が痛(いた)いの頭痛(づつう)のと言(い)つて、お客(きやく)の有無(あるなし)にかゝはらず勝手氣儘(かつてきまゝ)の身持(みもち)をして呼(よ)ばれましたからとて返事(へんじ)をしやうでもない、あれをば他人(ひと)は何(なん)と見(み)ましたか
この子 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
と曲(ま)げた腰(こし)も立(た)ちあへず、石(いし)を噛(か)む齒(は)の根(ね)に蹲(うづく)まつた。草(くさ)も荒(あ)れ、地(ち)も破(わ)れて、樹蔭(こかげ)を洩(も)る月(つき)斷々(きれ/″\)に、骨(ほね)を碎(くだ)いて散(ち)らしたれば、片輪車(かたわぐるま)の影(かげ)を倒(たふ)して、輪𢌞(りんね)を凄(すご)く描(ゑが)ける其(そ)の状(さま)。
月夜車 (旧字旧仮名) / 泉鏡花、泉鏡太郎(著)
目鼻(めはな)だちより髮(かみ)のかゝり、齒(は)ならびの宜(よ)い所(ところ)まで似(に)たとは愚(おろ)か毋樣(はゝさま)を其(その)まゝの生(うま)れつき、奧樣(おくさま)の父御(てゝご)といひしは赤鬼(あかおに)の與(よ)四郎(らう)とて、十年(ねん)の以前(まへ)までは物(もの)すごい目(め)を光(ひか)らせて在(おは)したる物(もの)なれど
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
ものの半道(はんみち)とは上(のぼ)らないのに、車(くるま)の齒(は)の軋(きし)り強(つよ)く、平地(ひらち)でさへ、分(わ)けて坂(さか)、一分間(ぷんかん)に一寸(すん)づゝ、次第(しだい)に雪(ゆき)が嵩(かさ)増(ま)すので、呼吸(いき)を切(き)つても、もがいても、腕車(くるま)は一歩(ぽ)も進(すゝ)まずなりぬ。
雪の翼 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
アヽと出(で)る溜息(ためいき)を噛(かみ)しめる齒(は)の根(ね)寒(さぶ)さにふるひて打仰(うちあふ)ぐ面(おもて)を
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
其(そ)の犬(いぬ)どもの、耳(みゝ)には火(ひ)を立(た)て、牙(きば)には火(ひ)を齒(は)み、焔(ほのほ)を吹(ふ)き、黒煙(くろけむり)を尾(を)に倦(ま)いて、車(くるま)とも言(い)はず、人(ひと)とも言(い)はず、炎(ほのほ)に搦(から)んで、躍上(をどりあが)り、飛蒐(とびかゝ)り、狂立(くるひた)つて地獄(ぢごく)の形相(ぎやうさう)を顯(あらは)したであらう
城崎を憶ふ (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
並(なら)べ立(た)てなば力車(ちからぐるま)に牛(うし)の汗(あせ)何(なん)の積(つ)み載(の)せきれるものかは言(い)はぬが花(はな)ぞお前(まへ)さまは盛(さか)りの身(み)春(はる)めき給(たま)ふは今(いま)の間(ま)なるべし薦(こも)かぶりながら見送(みおく)らんと詞(ことば)叮嚀(ていねい)に氣込(きごみ)あらく齒(は)の根(ね)きり/\と喰(く)ひしばりて釣(つ)り上(あ)ぐる眉根(まゆね)おそろしく散髮(さんぱつ)斜(なゝ)めに拂(はら)ひあげて白(しろ)き面(おもて)に紅(くれなゐ)の色(いろ)さしも優(やさ)しき常(つね)には
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
鼬(いたち)が覘(のぞ)くやうな、鼠(ねずみ)が匍匐(はらば)つたやうな、切(き)つて填(は)めた菱(ひし)の實(み)が、ト、べつかつこをして、ぺろりと黒(くろ)い舌(した)を吐(は)くやうな、いや、念(ねん)の入(い)つた、雜多(ざつた)な隙間(すきま)、破(や)れ穴(あな)が、寒(さむ)さにきり/\と齒(は)を噛(か)んで
霰ふる (旧字旧仮名) / 泉鏡花、泉鏡太郎(著)
眼(まなこ)鋭(するど)く鼻(はな)の上(うへ)の皺(しわ)に惡相(あくさう)を刻(きざ)み齒(は)の揃(そろ)へる水々(みづ/\)しきが、小紋(こもん)縮緬(ちりめん)のりうたる着附(きつけ)、金時計(きんどけい)をさげて、片手(かたて)に裳(もすそ)をつまみ上(あ)げ、さすがに茶澁(ちやしぶ)の出(で)た脛(はぎ)に、淺葱(あさぎ)縮緬(ちりめん)を搦(から)ませながら、片手(かたて)に銀(ぎん)の鎖(くさり)を握(にぎ)り
弥次行 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)