“時(じ)” の例文
彼(かれ)の生活(せいくわつ)は此(かく)の如(ごと)くにして過(す)ぎ行(ゆ)いた。朝(あさ)は八時(じ)に起(お)き、服(ふく)を着換(きか)へて茶(ちや)を呑(の)み、其(そ)れから書齋(しよさい)に入(はひ)るか、或(あるひ)は病院(びやうゐん)に行(ゆ)くかである。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
『それから後(のち)は』と帽子屋(ばうしや)は悲(かな)しげな調子(てうし)で、『私(わたし)の云(い)ふことを聞(き)かなくなつて了(しま)つて!まァ、何時(いつ)でも六時(じ)のところに止(とま)つてゐる』
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
寧(むし)ろ相(あひ)反(はん)した放縱(はうじう)な日頃(ひごろ)が自然(しぜん)に精神(せいしん)にも肉體(にくたい)にも急激(にはか)な休養(きうやう)を與(あた)へたので彼(かれ)は自分(じぶん)ながら一時(じ)はげつそりと衰(おとろ)へた樣(やう)にも思(おも)はれて
土 (旧字旧仮名) / 長塚節(著)
ありますとも、其処(そこ)が臨機応変、仏教のいわゆる、「時(じ)、処(しょ)、位(い)」に適する方法に於いて原則を実地に応用しなければなりません。
慈悲 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
四十一年(ねん)一月(ぐわつ)二十一日(にち)の午前(ごぜん)九時(じ)頃(ごろ)、水谷氏(みづたにし)と余(よ)とは、大森(おほもり)の兒島邸(こじまてい)を訪問(ほうもん)した。然(しか)るに翁(おう)は、熱海(あたみ)の方(はう)へ行(い)つて居(ゐ)られて、不在(ふざん)。
「空(そら)の星(ほし)が、一時(じ)に揺(ゆ)らぐようじゃ。」と、仰(おお)せられたのです。また、その青(あお)い珠(たま)から放(はな)つ、一つ、一つの光(ひかり)に、目(め)をとめられて
ひすいを愛された妃 (新字新仮名) / 小川未明(著)
一時(じ)も早(はや)く役(やく)にもたたぬ現世(げんせ)の執着(しゅうちゃく)から離(はな)れるよう、しっかりと修行(しゅぎょう)をして貰(もら)いますぞ! 執着(しゅうじゃく)が残(のこ)っている限(かぎ)り何事(なにごと)もだめじゃ……。
其れが偶(たま/\)参政権問題となつて鉾先を示して居るのだと思ふ。従つて又𤍠中の余りに急進派の暴動を生ずるのも一時(じ)の過程であらう。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛、与謝野晶子(著)
日附(ひづけ)は書いてないが墨色(すみいろ)も書体も一様でないところを見ると、一時(じ)に書いたものでないことが明らかで、間々(まま)聯絡(れんらく)がついている。
狂人日記 (新字新仮名) / 魯迅(著)
此(こ)の急信(きふしん)は××年(ねん)××月(ぐわつ)××日(にち)、午後(ごご)三時(じ)に屆(とゞ)いたので、民子(たみこ)は蒼(あを)くなつて衝(つ)と立(た)つと、不斷着(ふだんぎ)に繻子(しゆす)の帶(おび)引緊(ひきし)めて、つか/\と玄關(げんくわん)へ。
雪の翼 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
私(わたし)は自分(じぶん)の不安(ふあん)と苦痛(くつう)を訴(うつた)へたが、其(それ)も効(かひ)はなく、此(この)まゝ秘密(ひみつ)にしてくれと云(い)ふ妻(つま)の哀願(あいぐわん)を容(い)れて、此事(このこと)は一時(じ)其(その)まゝに葬(はふむ)ることにした。
背負揚 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
先生(せんせい)はもうなくなられていたわけですが、先生(せんせい)のおくさまと、なつかしい思(おも)い出話(でばなし)をしているうちに、夜(よ)もふけて十時(じ)ごろになりました。
「十一時(じ)の女(をんな)」、芥菜(からし)、木犀(もくせい)の花、僞のもつと少ない手足よりも、おまへたちの方(はう)がわたしは好(すき)だ。滅(ほろ)んだ花よ、むかしの花よ。
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
一時(じ)心配した時子の病氣も、だん/\快(い)い方に向って来ると、朝子は毎日ぼんやりした顔をして子供のベッドの裾の方に腰をおろしてゐた。
秋は淋しい (新字旧仮名) / 素木しづ(著)
六時(じ)が七時(じ)になつても、船(ふね)はひた/\と波止場(はとば)の際(きは)まで押(お)し寄(よ)せて居(ゐ)ながら、まだなか/\著(つ)けさうにない。其(そ)のうち又(また)しても銅鑼(どら)が鳴(な)る。
検疫と荷物検査 (新字旧仮名) / 杉村楚人冠(著)
一時(じ)麻雀競技會(マアジヤンきやうぎくわい)の常勝者(じやうしようしや)としてその技法(ぎはふ)をたゞ驚歎(きやうたん)されてゐた某(それがし)が、支那人式(しなじんしき)の仕方(しかた)からすれば至極(しごく)幼稚(えうち)な不正(ふせい)を行(おこな)つてゐたことが分(わか)るし
麻雀を語る (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
其(その)翌朝(よくてう)日出雄少年(ひでをせうねん)と私(わたくし)とが目醒(めざ)めたのは八時(じ)※(すぎ)で櫻木海軍大佐(さくらぎかいぐんたいさ)は、武村兵曹(たけむらへいそう)をはじめ一隊(いつたい)の水兵(すいへい)を引卒(ひきつ)れて、何處(いづこ)へか出去(いでさ)つた後(あと)であつた。
第一 毎日(まいにち)六時(じ)に起(お)き、寢衣(ねまき)を着替(きか)へ、蒲團(ふとん)の塵(ちり)を拂(はら)ひ、寢間(ねま)其外(そのほか)居間(ゐま)を掃除(さうじ)し、身體(しんたい)を十分(じふぶん)安靜(しづか)にして、朝飯(あさはん)を食(しよく)する事(こと)。
養生心得草 (旧字旧仮名) / 関寛(著)
去(さる)十三日(にち)の夜(よ)、僕(ぼく)は獨(ひと)り机(つくゑ)に倚掛(よりかゝ)つてぼんやり考(かんが)へて居(ゐ)た。十時(じ)を過(す)ぎ家(いへ)の者(もの)は寢(ね)てしまひ、外(そと)は雨(あめ)がしと/\降(ふ)つて居(ゐ)る。
湯ヶ原より (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
時々あわて者が現われて、一時(じ)の昂奮(こうふん)から要路の大官を狙ったりなどするのは、畢竟(ひっきょう)大鵬(たいほう)の志(こころざし)を知らざる燕雀(えんじゃく)の行いである。
青年の天下 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
「九時(じ)十五分(ふん)で御座(ござ)います」と云(い)ひながら、それなり勝手口(かつてぐち)へ回(まは)つて、ごそ/\下駄(げた)を探(さが)してゐる所(ところ)へ、旨(うま)い具合(ぐあひ)に外(そと)から小六(ころく)が歸(かへ)つて來(き)た。
門 (旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
姓は“時(じ)”名は“文彬(ぶんぴん)”。県民の評判はたいへんよかった。現下世は腐敗の極といわれているものの、なお多くの中には良吏もいたのである。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「ちがうでしよう。女中(じょちゅう)から板前(いたまえ)まで調(しら)べてある。夕方(ゆうがた)出(で)かけて、十二時(じ)ごろ、タクシーで帰(かえ)つたことがわかつている」
金魚は死んでいた (新字新仮名) / 大下宇陀児(著)
「新聞に罪はないよ。」男は徐(しず)かにこう言い放って、突然立ち上がって、あらゆる陰気な考えを一時(じ)に遠く擲(なげう)ったらしい様子をして、こう云った。
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
又(また)此短針(このたんしん)九時(じ)と十時(じ)との間(あひだ)を半過(なかばす)ぎて十時(じ)の方(はう)に近寄(ちかよ)り、長針(ちやうしん)も進(すゝん)で八時(じ)の所(ところ)に來(きた)ればこれを十時(じ)前(まへ)二十分時(ぶんじ)と云ふ。
改暦弁 (旧字旧仮名) / 福沢諭吉(著)
「それは確でございます。ピストルの音にでも驚かなければ、家中の者が一時(じ)に眼醒めるようなことはございません」
西班牙の恋 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
井戸(ゐど)は車(くるま)にて綱(つな)の長(なが)さ十二尋(ひろ)、勝手(かつて)は北向(きたむ)きにて師走(しはす)の空(そら)のから風(かぜ)ひゆう/\と吹(ふき)ぬきの寒(さむ)さ、おゝ堪(た)えがたと竈(かまど)の前(まへ)に火(ひ)なぶりの一分(ぷん)は一時(じ)にのびて
大つごもり (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
母の手紙で一時(じ)萎(な)えた気が又振起(ふるいおこ)って、今朝からの今夜こそは即ち今が其時だと思うと、漫心(そぞろごころ)になって、「泊ってかないか?」と私が常談(じょうだん)らしくいうと
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
今(いま)の今(いま)まで張(は)りつめてゐた氣(き)が一寸(ちよつと)の間(ま)ゆるんで、彼女(かのぢよ)は一時(じ)の安心(あんしん)のためにがつかりしてしまつたのである。
悔 (旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
(暫く物を案ずる様子。)思えばこう感じるのも死にかかっての一時(じ)の事かも知れぬが、兎に角今までにこれ程感じた事はないから、己のためには幸福だ。
その戦(いくさ)は九年(ねん)もつづいて、その間(あいだ)にはずいぶんはげしい大雪(おおゆき)に悩(なや)んだり、兵糧(ひょうろう)がなくなって危(あや)うく餓(う)え死(じ)にをしかけたり、一時(じ)は敵(てき)の勢(いきお)いがたいそう強(つよ)くって
八幡太郎 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
流(なが)し場(ば)から細君の声で兼吉はほうきをおいて走っていく。五郎はまぐさをいっせいに乳牛にふりまく。十七、八頭の乳牛は一時(じ)に騒然(そうぜん)として草をあらそいはむ。
箸 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
このうわおいぐつは、なんでもものごとをつきつめてするひとのように、一│時(じ)にひとつのことしかできません。詩人になりたいというと、詩人になりました。
時下(じか)残暑(ざんしょ)凌(しの)ぎがたく候処(そうろうところ)益〻(ますます)御清穆(ごせいぼく)の御事(おんこと)と存上候(ぞんじあげそうろう) 却説(さて) 伯爵様(はくしゃくさま)折入(おりい)って直々(じきじき)貴殿(きでん)に御意得度思召(ぎょいえたきおぼしめし)に被在候間(あらせられそうろうあいだ)明朝(みょうちょう)九時(じ)御本邸(ごほんてい)へ御出仕可然(ごしゅっししかるべく)此段申進候(このだんもうしすすめそうろう) 早々(そうそう)頓首(とんしゅ)
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
世(よ)の中(なか)に金解禁(きんかいきん)が出來(でき)たならば、經濟界(けいざいかい)に一時(じ)の景氣(けいき)が出(で)て來(き)はしないかと言(い)ふ人(ひと)があるが、それは即(すなは)ち過去(くわこ)六箇月(かげつ)間(かん)爲替相場(かはせさうば)の上(あが)る爲(ため)に、從(したがつ)て物價(ぶつか)の下(さが)る爲(ため)に
金解禁前後の経済事情 (旧字旧仮名) / 井上準之助(著)
カピ長 さゝゝゝゝ、働(はたら)け/\! 二番鷄(ばんどり)が啼(な)いたぞ、深夜鐘(カアヒウ)が鳴(な)ったわ、もう三時(じ)ぢゃ。こりゃアンヂェリカ、燒饅頭(やきまんぢう)はよいかの? 費用(つひえ)は介意(かま)ふな、費用(つひえ)は。
と言(い)って父(とう)さんが茶(ちゃ)の間(ま)に掛(か)かっている柱時計(はしらどけい)を見(み)に来(き)た頃(ころ)は、その時計(とけい)の針(はり)が十時(じ)を指(さ)していた。
伸び支度 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
自分(じぶん)の一時(じ)の心理(しんり)を標準(へうじゆん)とし、之(これ)を正(たゞ)しいものと獨斷(どくだん)して、他(た)の一時(じ)の心理(しんり)を否認(ひにん)することは兎角(とかく)誤妄(ごもう)に陷(おちい)るの虞(おそ)れがある。これは大(おほい)に考慮(かうりよ)しなければならぬ事(こと)である。
建築の本義 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
弾(はじ)かれた煎豆(いりまめ)のように、雨戸(あまど)の外(そと)へ飛(と)び出(だ)した松(まつ)五郎(ろう)は、酔(よ)いも一時(じ)に醒(さ)め果(は)てて、一寸先(すんさき)も見(み)えなかったが、それでも溝板(どぶいた)の上(うえ)を駆(か)けだして、角(かど)の煙草屋(たばこや)の前(まえ)まで来(く)ると
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
罪(つみ)なくして愆(あやま)ちを得る者は非常の人、身(み)一時(じ)に屈(くっ)して、名(な)後世(こうせい)に伸(の)ぶ。罪ありて愆(あやま)ちを免(まぬか)るる者は奸侫人(かんねいじん)、志(こころざし)一時に得て、名後世に辱(は)ず。古(いにしえ)の天(てん)定まりて人に勝つとは是(こ)れなり
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
第四 冬寒支体僵瘃(きょうちょく)ノ病 雪塊ヲ取テ患部ニ擦搽(さった)スレバ即チ愈(い)ユ 又臘雪水甘クシテ大寒 天行時(じ)疫(えき)ヲ解シ一切ノ瘡毒(そうどく)ヲ療ス ソノ他諸病ニ於テ必(かならず)須(ま)ツ所ニシテ医家欠クベカラズ
雪 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
(年の寒暖によりて遅速あり)四五月にいたれば春の花ども一時(じ)にひらく。されば雪中に在(あ)る事凡(およそ)八ヶ月、一年の間(あひだ)雪を看(み)ざる事僅(わづか)に四ヶ月なれども、全く雪中に蟄(こも)るは半年也。
処で今此処に僕は千円の持合せがないし、東京(とうけい)へ帰っても至急才覚も出来んのじゃ、就ては貴公誠に迷惑じゃろうが、其の千円の持参金の処を才覚して、一時(じ)僕に渡してくれんか
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
ええ情ないと、気も張も一時(じ)に脱けて、パッタリ地上へひれ伏しておいおい泣出した。
昨日(きのふ)の朝東京を立つて、晩は京都へ着き、祇園(ぎをん)の宿に一泊して、今日の正午過(ひるす)ぎには、大阪の停車場(ステーシヨン)の薄暗い待合室で、手荷物を一時(じ)預(あづ)けにしやうとしてゐるところを、突然(いきなり)背後(うしろ)から
東光院 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
それで、このお方にともかく一時(じ)政(まつりごと)をおとりになっていただきました。
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
中途半端の贋物(いかもの)ばかりでさ。私も何日(いつ)迄もこんなでは詰らないから、自信のある物をも演(や)つてみたいとは思ひますが、何しろ一時(じ)金(かね)が入つたに連れて、生活(くらし)の程度を身分不相応に引揚げてるでせう。
そしてそれからはこの老婦人を一時(じ)實母のやうになつかしんだ。
泡鳴五部作:05 憑き物 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
……一時(じ)は牛も闘牛師も種切れになるところでごわしたわい。
五時(じ)ごろの日(ひ)の光(ひかり)わかわかしき血(ち)のごとくふりそそぎ
東京景物詩及其他 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)