“其(そ)” の例文
此(こ)の一歩(ぶ)に身(み)のかはを剥(は)がれたために可惜(をし)や、お春(はる)と云(い)ふ其(そ)の娘(むすめ)は繼母(まゝはゝ)のために手酷(てひど)き折檻(せつかん)を受(う)けて、身投(みな)げをしたが、其(それ)も後(のち)の事(こと)。
二た面 (旧字旧仮名) / 泉鏡花、泉鏡太郎(著)
片手を岸なる松柳にかけたるもの、足を団石(だんせき)の上に進め、猿臂(えんぴ)を伸ばせる者、蹲踞(そんきょ)して煙草を吹く者、全く釣堀の光景其(そ)のまゝなり。
東京市騒擾中の釣 (新字旧仮名) / 石井研堂(著)
父がここへ来たのは丁度(ちょうど)幸いである。市郎は彼(か)の𤢖に就(つい)て父の意見を訊(ただ)すべく待ち構えていた。が、父の話は其(そ)んな問題で無かった。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
其(そ)の人の作った戯曲の面白さが分らないとすれば、罪(つみ)は自分の方にある。残念ながら、自分は藝術の殿堂(でんどう)を窺(うかゞ)う資格がないのである。
小僧の夢 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
彼(かれ)の生活(せいくわつ)は此(かく)の如(ごと)くにして過(す)ぎ行(ゆ)いた。朝(あさ)は八時(じ)に起(お)き、服(ふく)を着換(きか)へて茶(ちや)を呑(の)み、其(そ)れから書齋(しよさい)に入(はひ)るか、或(あるひ)は病院(びやうゐん)に行(ゆ)くかである。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
其(そ)の日(ひ)は栗(くり)の木(き)に懸(か)けた大根(だいこ)の動(うご)かぬ程(ほど)穩(おだや)かな日(ひ)であつた。お品(しな)は此(こ)の分(ぶん)で行(ゆ)けば一枚紙(いちまいがみ)を剥(は)がすやうに快(こゝろ)よくなることゝ確信(かくしん)した。
土 (旧字旧仮名) / 長塚節(著)
乃(すなわ)ち曹国公(そうこくこう)李景隆(りけいりゅう)に命じ、兵を調して猝(にわか)に河南に至り、周王橚(しゅく)及び其(そ)の世子(せいし)妃嬪(ひひん)を執(とら)え、爵を削りて庶人(しょじん)となし、之(これ)を雲南(うんなん)に遷(うつ)しぬ。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
平生(へいぜい)私の処に能(よ)く来るお婆(ばば)さんがあって、私の母より少し年長のお婆さんで、お八重(やえ)さんと云う人。今でも其(そ)の人の面(かお)を覚えて居る。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
Tolède Andalousie(トレド アンダルジイ) の国々よ。燃上る其(そ)の声もなき狂熱を、君いづこよりか齎(もたら)せし。おそろしき痴情(ちじょう)の狂ひかな。
帽子屋(ばうしや)はこれを聞(き)いて著(いちじる)しく其(そ)の眼(め)を瞪(みは)りました、が、云(い)つたことは、『何故(なぜ)嘴太鴉(はしぶとがらす)が手習机(てならひづくゑ)に似(に)てるか?』と、只(たゞ)これだけでした。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
先生にお叱(こごと)を受(うけ)ましたの——其れから学校を卒業する、貴女は菅原様(すがはらさん)へ嫁(いら)つしやる、他の人々(かたがた)も其(そ)れ其(ぞ)れ方向をお定(さだめ)になるのを見て
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
若(も)しも読者にして、ゆっくり味読(みどく)さるるならば、其(そ)の分量の少なきを憂えず、得るところ寧(むし)ろ甚(はなは)だ多かるべきを信ずるものである。
読みて大尉(たいゐ)の壮行(さうかう)と予(われ)も共(とも)にするの感あり、其(そ)は此日(このひ)より後(のち)の事(こと)にして、予(よ)は此日(このひ)只一人(たゞひとり)嬉(うれ)しくて、ボンヤリとなり、社員にも辞(じ)せず
隅田の春 (新字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
從(したが)つて私(わたし)は、其(そ)の以前(いぜん)に同郷的愛着(どうきやうてきあいちやく)、同藩的偏見(どうはんてきへんけん)を失(うしな)つたと同(おな)じやうに、今(いま)は次第(しだい)に國民的愛着(こくみんてきあいちやく)、國家的偏見(こくかてきへんけん)を失(うしな)つたのであつた。
未(いま)だ必(かなら)ずしも(六四)其身(そのみ)之(これ)を泄(もら)さざるも、而(しか)も((説者ノ))語(ご)((適〻))其(そ)の匿(かく)す所(ところ)の事(こと)に及(およ)ばんに、是(かく)の如(ごと)き者(もの)は身(み)危(あやふ)し。
この国研は(国立科学研究所を国研と略称することも、其(そ)の日知ったのである)東京の北郊(ほくこう)飛鳥山(あすかやま)の地続きにある閑静(かんせい)な研究所で
階段 (新字新仮名) / 海野十三(著)
それで其(そ)の一町(ちやう)四方(はう)は晝間(ひるま)も戸(と)を締(し)めたといふほど、ひどい臭氣(しうき)が、其(そ)の頃(ころ)の腐(くさ)つた人間(にんげん)の心(こゝろ)のやうに、風(かぜ)に吹(ふ)かれて飛(と)び散(ち)つた。
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
朕ハ我カ臣民ノ権利及財産ノ安全ヲ貴重(きちょう)シ及之ヲ保護シ此ノ憲法及法律ノ範囲内ニ於(おい)テ其(そ)ノ享有(きょうゆう)ヲ完全ナラシムヘキコトヲ宣言ス
大日本帝国憲法 (旧字旧仮名) / 日本国(著)
初めて其(そ)の耦(ぐう)を喪(うしの)うて鰥居無聊(かんきょむりょう)、復(また)出(い)でて遊ばず、但(ただ)門に倚(よ)つて佇立(ちょりつ)するのみ。十五夜(や)三更(こう)尽きて遊人(ゆうじん)漸(ようや)く稀(まれ)なり。丫鬟(あかん)を見る。
牡丹灯籠 牡丹灯記 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
ところが其(そ)の井戸(ゐど)の中(なか)へ嫁(よめ)が身を投げて死んだり、二代目と三代目の主人が気違(きちが)ひになつたりしたのが、其家(そのいへ)の潰(つぶ)れる初まりといふので
塩原多助旅日記 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
卓子(テーブル)の側(そば)が僅(わづか)に少(すこ)しばかり明(あか)るいだけで、其(そ)の外(ほか)は電灯(でんとう)一(ひと)つ点(つ)けず、真黒闇(まつくらやみ)のまゝで何処(どこ)を何方(どちら)に行つて宜(い)いかさツぱり分(わか)らぬ。
検疫と荷物検査 (新字旧仮名) / 杉村楚人冠(著)
男は、かの女が其(そ)の時の真面目くさって自分の名を訊いた顔を忘れないと方々(ほうぼう)で話したそうだ。だが、それも、五六年前だった。
かの女の朝 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
其(そ)の翌日から丸田は工場へ出た。調子の悪い機械が急に何かの工合で廻転し出したやうに彼は働いた。厭(いや)な動揺の危機は通り過ぎたのだ。
煤煙の匂ひ (新字旧仮名) / 宮地嘉六(著)
動物性毒に関する迷信も甚(はなは)だ数多いが、就中(なかんづく)毒蛇に関しては古来色々の伝説が行はれて居るから茲(こゝ)に其(そ)れを説いて見ようと思ふ。
毒と迷信 (新字旧仮名) / 小酒井不木(著)
討(うた)で置くべきやと一心を込(こめ)て君太夫に對(むか)ひ其許樣(そのもとさま)には常々吉原へ入込(いりこみ)給へば私しの身を遊女に成(なさ)れ其(そ)の身(み)の代金(しろきん)にて母の身の上を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「残念なことをした。其(そ)の山伏をよんで来たなら、民部大輔の、今言つた其の嘘(うそ)を、もつと、小くしてやるやうに、祈らせる筈だつたが。」
岩を小くする (新字旧仮名) / 沖野岩三郎(著)
かう暴(あば)れて居(ゐ)るうちにも自分(じぶん)は、彼奴(きやつ)何時(いつ)の間(ま)にチヨーク畫(ぐわ)を習(なら)つたらう、何人(だれ)が彼奴(きやつ)に教(をし)へたらうと其(そ)ればかり思(おも)ひ續(つゞ)けた。
画の悲み (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
山田(やまだ)は元来(ぐわんらい)閉戸主義(へいこしゆぎ)であつたから、其(そ)の躯(からだ)が恁(かう)云(い)ふ雑務(ざつむ)に鞅掌(わうしやう)するのを許(ゆる)さぬので、自(おのづ)から遠(とほざ)かるやうに成(な)つたのであります
硯友社の沿革 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
今でもパラオ本島(ほんとう)、殊にオギワルからガラルドへ掛けての島民で、ギラ・コシサンと其(そ)の妻エビルの話を知らない者は無い。
南島譚:02 夫婦 (新字新仮名) / 中島敦(著)
まづ書物(しよもつ)で言(い)へば一度(ど)教(をし)へた處(ところ)は二度(ど)教(をし)へない、能(よ)く熟讀(じゆくどく)させて見(み)て、どうしても解(わか)らなかつたならば、其(そ)の時(とき)は教(をし)へやう。
女教邇言 (旧字旧仮名) / 津田梅子(著)
途(みち)に一騎の驕将を懲(こ)らすといふ一段を五行或は四行の大字にものしぬるに字行(じのかたち)もシドロモドロにて且(かつ)墨の続(つ)かぬ処ありて読み難しと云へば其(そ)を
八犬伝談余 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
私(わたくし)は其(そ)の後(ご)幾度(いくたび)も竜宮界(りゅうぐうかい)に参(まい)り、そして幾度(いくたび)も御両方(おふたかた)にお目(め)にかかって居(お)りますので、幾分(いくぶん)その辺(へん)の事情(じじょう)には通(つう)じて居(い)るつもりでございます。
其(そ)の中(うち)にどうと家中を揺がせる地響を打って、一方が投げ出される音が聞えた、それに続いて転がり合いながら、格闘する凄じい音が続いた。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
卿(いまし)が道(い)ふ所の如くば、其(そ)の勝たむこと必ず然(しか)らむ。但(た)だ吾(わ)が情(こころ)に冀(ねが)ふは、十年百姓を役(つか)はず、一身の故を以て、豈(あ)に万民(おほむたから)を煩(わづら)はし労(いたは)らしめむや。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
即(すなわ)ち「石狩国札幌郡空知郡(そらちぐん)ノ内——但(ただ)シ、地所ノ儀ハ石狩府ニテ差図ニ及ブベキコト——右其(そ)ノ方支配仰セツケラレ候事」
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
心に泛ぶこともないので、明日からは断々乎(だんだんこ)として訪問を止(よ)そうと、私は頻(しき)りに其(そ)の愉(たの)しさを思いはじめるのであった。
母 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
其(そ)の後(ご)も低落(ていらく)して十二月(ぐわつ)末(すゑ)には百六十二・九九となり六月(ぐわつ)に比(くら)べて十三・三二即(すなは)ち七分(ぶ)五厘(りん)餘(よ)の下落(げらく)となつたのである。
金解禁前後の経済事情 (旧字旧仮名) / 井上準之助(著)
是等の者を外(よそ)にしても、元禄文学が大に我邦(わがくに)文学に罪を造りたる者あり、其(そ)を如何(いか)にと言ふに、恋愛を其自然なる地位より退けたる事、即ち是なり。
そして労苦に使いへらされて、一旦(いったん)不景気が——あの悲しい不景気——来れば、其(そ)の報いとして餓死する。これが果して諸君の一生の憧憬(どうけい)であろうか
いやな感じ (新字新仮名) / 高見順(著)
まさやけき言立(ことだて)か彼(か)は、ゆるすべき邪(よこしま)か其(そ)は、己(おの)が子のためとは言はじ、すべて世の子らをあはれと、胸張り裂くる。
夢殿 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
私にあなたがしてお置きになる遺言と云ふものも、私のします其(そ)れも、権威のあるものでないことは一緒だらうと思ひます。ですからこれは覚書です。
遺書 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
又わざ/\其(そ)の為めに出かけでもしない限り、ダンス場なるものに近づけないと思つて、直ぐ従(つ)いて行(ゆ)く事にした。
私の社交ダンス (新字旧仮名) / 久米正雄(著)
福(ふく)やいそいでお医者様(いしやさま)へお父(とつ)さんそこに立(た)つて入(い)らつしやらないで何(ど)うかしてやつて下(く)ださい良(りやう)さん鳥渡(ちよつと)其(そ)の手拭(てぬぐひ)を
闇桜 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
そして其(そ)れがすむと間(ま)もなく一人(り)の婦人(ふじん)が、R氏(し)と打合(うちあわ)せをしたあとでR氏(し)の通訳(つうやく)説明(せつめい)につれて舞台(ぶたい)に上(のぼ)つた。そしてピアノの伴奏(ばんそう)で独唱(どくせう)をはじめた。
微笑の渦 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
厳冬永く留(とどま)り、春気至らず、躯殻(くかく)生くるも精魂は死するが如きは、生くると雖(いえど)も人の生くべき道は失われたるなり。文章無用の用は其(そ)れ斯(ここ)に在らん乎(か)。
惜別 (新字新仮名) / 太宰治(著)
併(しか)し其れよりも著しいしるしがある。其(そ)は此の蘆の中から湧いて来る歌の声——万作の娘お光(みつ)が歌う歌であった。
漁師の娘 (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
其(そ)の好意を無にし給わじとのお心遣から、草鞋をお穿きになったお足拵(あしごしら)えにも拘らせられず、それに召されて、午前六時四十分に古那屋を御出発になった。
そして其(その)向ふに、同じつくりの二階屋がずらりと幾軒(いくけん)も並んで、其(そ)の裏を見せて居(ゐ)る。二階屋の裏! 其処(そこ)には蚊帳(かや)が釣つたまゝになつて居(を)る家(いへ)もあつた。
父の墓 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
平岡が代助を小供視(こどもし)する程度に於て、あるひは其(そ)れ以上の程度に於て、代助は平岡を小供視(こどもし)し始(はじ)めたのである。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
国々から集まつた大名や殿様は皆(みな)其(そ)の儀式の華やかなのに驚いて只(ただ)もう感心してしまひましたが其(その)中でも金銀の衣裳を着たお玉の美くしさは唯一人として頭を
金銀の衣裳 (新字旧仮名) / 夢野久作(著)