“借(か)” の例文
それであれが冬じゅうおまえを借(か)りきる代わりに、二十フランぐらいは出そうから、それでわしもしばらくやってゆくつもりだった。
おとっつあんはそこで、その家(うち)の自転車を借(か)り、それにのって、もうチェーンがきれるほどペタルをふんで土浦(つちうら)へ走っていきました。
あたまでっかち (新字新仮名) / 下村千秋(著)
さうして東隣(ひがしどなり)から借(か)りて來(き)た蓙(ござ)が五六枚(まい)敷(し)かれた。それから土地(とち)の習慣(しふくわん)で勘次(かんじ)は淨(きよ)めてやつたお品(しな)の死體(したい)は一切(さい)を近所(きんじよ)の手(て)に任(まか)せた。
土 (旧字旧仮名) / 長塚節(著)
「どうせ藤尾さんのようには参りません——あらそんな椽側(えんがわ)へ煙草の灰を捨てるのは御廃(およ)しなさいよ。——これを借(か)して上げるから」
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
今更(いまさら)ながら長吉(ちようきち)の亂暴(らんぼう)に驚(おどろ)けども濟(す)みたる事(こと)なれば咎(とが)めだてするも詮(せん)なく、我(わ)が名(な)を借(か)りられしばかりつく/″\迷惑(めいわく)に思(おも)はれて
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
その時には箕作麟祥(みつくりりんしょう)のお祖父(じい)さんの箕作阮甫(げんぽ)と云う人が調所の頭取(とうどり)で、早速(さっそく)入門を許して呉(く)れて、入門すれば字書を借(か)ることが出来る。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
才蔵は御岳(みたけ)につくまで、じゅうぶん腕(うで)をきたえておこうというので宿(やど)へつくと稽古槍(けいこやり)を借(か)りて、源次郎をワラ人形(にんぎょう)のように突(つ)きたおす。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
下宿(げしゅく)の主人(しゅじん)にきいてみても、前の家をたれが借(か)りているのか知りませんでした。なにしろ、にんげんの姿(すがた)をみたことがないというのです。
「いいよ、僕(ぼく)が、負(ま)ければ、もう貸(か)してくれといわない。そして、今度(こんど)きたときに借(か)りたのは返(かえ)すからね。」と、少年(しょうねん)は、答(こた)えたのです。
友だちどうし (新字新仮名) / 小川未明(著)
通(とほ)りかゝつた見知越(みしりごし)の、みうらと言(い)ふ書店(しよてん)の厚意(こうい)で、茣蓙(ござ)を二枚(にまい)と、番傘(ばんがさ)を借(か)りて、砂(すな)の吹(ふ)きまはす中(なか)を這々(はふ/\)の體(てい)で歸(かへ)つて來(き)た。
露宿 (旧字旧仮名) / 泉鏡花、泉鏡太郎(著)
快活(くわいくわつ)なる水兵(すいへい)の一群(いちぐん)は其(その)周圍(まわり)を取卷(とりま)いて、『やあ、可愛(かあひ)らしい少年(せうねん)だ、乃公(おれ)にも借(か)せ/\。』と立騷(たちさわ)ぐ、櫻木大佐(さくらぎたいさ)は右手(めて)を擧(あ)げて
其(そ)の愛(あい)する所(ところ)((ノ人))を論(ろん)ずれば則(すなは)ち以(もつ)て(七五)資(し)を借(か)るとせられ、其(そ)の憎(にく)む所(ところ)((ノ人))を論(ろん)ずれば、則(すなは)ち以(もつ)て己(おのれ)を嘗(こころ)むとせらる。
「お前さんは、そんなことを云うが、お前さんに生命(いのち)を奪(と)られて体を借(か)られる人間の身になってみたらどうだ、俺が邪魔をするわけも判るよ」
ある神主の話 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
乗(の)り手(て)はがっかりして、泣(な)き出(だ)しそうな顔(かお)をしながら、近所(きんじょ)の百姓馬(ひゃくしょううま)を借(か)りて、それに乗(の)ってしおしおと帰(かえ)っていきました。
一本のわら (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
ほんとうはあの高利貸(こうりか)しに、むかしお金(かね)を借(か)りて、ひどい目(め)にあつたことがあるの。しかえしをしてやろうと思(おも)つていたわ。
金魚は死んでいた (新字新仮名) / 大下宇陀児(著)
「困ったわねえ」マンは、ちょっと小首をひねったが、「そんなら、十分ほど、待っとって下さい。借(か)って来てあげますけ」
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
其書(しよ)を借(か)りえてよみしに、○塔不剌(たふふら)とありて注(ちゆう)に○葱(ねぎ)○椒(さんしよ)○油○醤(ひしほ)を熬(いりつけ)、後(あと)より鴨(あひる)或は雞○鵞(が)をいれ、慢火(ぬるひ)にて養熟(しあげる)とあり。
「あいつの金借(か)つたが最後屁(さいごべえ)や。……蟒に捲かれたやうなもんで、もうあかん。田から畑から家屋敷道具まで吸ひ込まれて了ふんやさかいな。」
太政官 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
兎(と)に角(かく)彼女の手から生れる可憐(かれん)な小芸術品は次第に愛好者を呼び集め、去年は幸子の肝煎(きもいり)で心斎橋筋の或る画廊を借(か)りて個展を開いた程であった。
細雪:01 上巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
自分の所信を貫徹するためには、一たび固(かた)めた決心を抂(ま)げぬ、あくまでも、左右の言にも耳を借(か)さずに猛進するくらいの強いところが必要である。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
さればこの中途半端の市街に対しては、風雨(ふうう)雪月(せつげつ)夕陽(せきよう)等の助けを借(か)るにあらずんば到底芸術的感興を催す事ができない。
つまり、医学者として軽業師の子供の畸形的に発育した生理状態を調べるのだから、一晩借(か)してくれと申込んだのです。
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
欝金(うこん)の風呂敷(ふろしき)に包(つつ)んで、膝(ひざ)の上(うえ)に確(しっか)と抱(かか)えたのは、亭主(ていしゅ)の松江(しょうこう)が今度(こんど)森田屋(もりたや)のおせんの狂言(きょうげん)を上演(じょうえん)するについて、春信(はるのぶ)の家(いえ)へ日参(にっさん)して借(か)りて来(き)た
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
(いいえ。さっきの泉(いずみ)で洗(あら)いますから、下駄(げた)をお借(か)りして。)老人は新らしい山桐(やまぎり)の下駄とも一つ縄緒(なわお)の栗(くり)の木下駄を気の毒(どく)そうに一つもって来た。
泉ある家 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
マーキュ はて、足下(おぬし)は戀人(こひびと)ではないか? すればキューピッドの翼(はね)でも借(か)りて、鴉(からす)や鳶(とび)のやうに翔(かけ)ったがよからう。
「吉弥だッてそうでさア、ね、小遣いを立てかえてあるし、髢(かもじ)だッて、早速髷に結うのにないと言うので、借(か)してあるから、持って来るはずだ、わ」
耽溺 (新字新仮名) / 岩野泡鳴(著)
然(しか)らば第(だい)一案(あん)の外國(ぐわいこく)で日本(にほん)は金(かね)を借(か)りることが出來(でき)るかと云(い)ふと、遺憾(ゐかん)ながら外國(ぐわいこく)では金(かね)を借(か)りることが出來(でき)ない。
金解禁前後の経済事情 (旧字旧仮名) / 井上準之助(著)
「よく気がついてくれた。腹を切るのに、脇差の借(か)り立(た)てもなるまいから、切れものはここに用意をしておいた」
ボニン島物語 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
わが臆病(おくびょう)なる心は憐憫(れんびん)の情に打ち勝たれて、余は覚えず側(そば)に倚り、「何故に泣きたもうか。ところに繋累(けいるい)なき外人(よそびと)は、かえりて力を借(か)し易(やす)きこともあらん」
舞姫 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
噫(ああ)、世間の最も不敵なる者高利を貸して、これを借(か)るは更に最も不敵なる者と為さざらんや。ここを以(も)て、高利は借(か)るべき人これを借りて始めて用ゐるべし。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
また富みて一一四善根を種(う)うるにも一一五ゆゑなきに恵みほどこし、その人の不義をも察(あきら)めず一一六借(か)しあたへたらん人は、善根なりとも財(たから)はつひに散ずべし。
うーむ、水まで借(か)りて使ふんだな。妻「其代(そのかは)りお前(まへ)の嗜(すき)な物を取(とつ)て置いたよ。亭「え、何(なに)を。妻「赤飯(おこは)。 ...
八百屋 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
その人が人手を借(か)らなくってはどうする事も出来ない、可哀相(かわいそう)な人だもんだから、わたしはその人に世話をしてやって、その人のためには、わたしがいなくなっては
平素の二倍もの力さえ振るった。が、彼はともすれば突き負けそうになった。手軽に兜や猩々緋を借(か)したことを、後悔するような感じが頭の中をかすめたときであった。
形 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
此(こ)の上(うへ)なき滿足(まんぞく)を以(もつ)て書見(しよけん)に耽(ふけ)るのである、彼(かれ)は月給(げつきふ)を受取(うけと)ると直(す)ぐ半分(はんぶん)は書物(しよもつ)を買(か)ふのに費(つひ)やす、其(そ)の六間(ま)借(か)りてゐる室(へや)の三つには、書物(しよもつ)と古雜誌(ふるざつし)とで殆(ほとんど)埋(うづま)つてゐる。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
署長(しょちょう)はケンプ博士(はくし)からピストルを借(か)りて、外にでた。ところが、アダイ署長が芝生(しばふ)の上を門に近づいて、中ほどにきたときである。目に見えない怪物(かいぶつ)が、署長を襲(おそ)った。
併(しか)しながら、いたづらに完全(くわんぜん)の物(もの)のみを選(えら)び、金錢(きんせん)の力(ちから)を以(もつ)て買入(かひい)れ、或(あるひ)は他(た)の手(て)を借(か)りて集(あつ)めて、いたづらに其數(そのすう)の多(おほ)きを誇(ほこ)る者(もの)の如(ごと)きは、余(よ)は决(けつ)して取(と)らぬのである。
それには耳も借(か)さない風情で雪に慣れた南日君は、得意の鼻をいや高くして長い脛を飛ばす。
黒部川奥の山旅 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
夜は大家(おおや)の中庭の縁側に行って話した。戦争の話がいつも出る。二三日前荻生さんから借りた戦争画報を二三冊また借(か)してやったが、それについてのいろいろの質問が出る。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
婦負(めひ)の野(ぬ)の薄(すすき)おし靡(な)べ降(ふ)る雪(ゆき)に宿(やど)借(か)る今日(けふ)し悲(かな)しく思(おもほ)ほ(イは)ゆ 〔巻十七・四〇一六〕 高市黒人
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
昔(むかし)の人(ひと)の言葉(ことば)を借(か)りていふならば、大地震(だいぢしん)に家(いへ)の潰(つぶ)れるのは、皆(みな)搖(ゆ)り戻(もど)しに由(よ)るのである。もし此(この)搖(ゆ)り戻(もど)しを餘震(よしん)だと解(かい)したならば餘震(よしん)は最(もつと)も恐(おそ)ろしいものでなければならぬ。
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
土井は最初そこへ着(つ)いた晩(ばん)、筆を執るやうな落着きがないのに、ちよつと失望(しつばう)したが、家主(やぬし)の住(すま)つてゐる家の離(はな)れを一室(しつ)借(か)りておいたからと、甥が言ふので、彼はそれを信じて
閾 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
仮に姑息論者に一歩を借(か)して、古き世に使ひし語をのみ用うるとして、もし王朝時代に用ゐし漢語だけにても十分にこれを用ゐなば、なほ和歌の変化すべき余地は多少可有之候。
歌よみに与ふる書 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
どこへもゆかずに岬の村で山伐(やまき)りや漁師(りょうし)をしている吉次は、あいかわらず借(か)り猫(ねこ)のようなおとなしさで、みんなのうしろに控(ひか)え、水ばなをすすりあげながらだまって頭をさげた。
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
『もうちょっとの間、あたしに借(か)しといておくれ、ナイトメヤさん、』とスケヤクロウは答えました。『あの茂った藪の蔭に、あたし何かちらっと見えたような気がするからさ。』
此方からも麦扱(むぎこ)きを借りたり、饂飩粉を挽いてもらったり、豌豆(えんどう)や里芋を売ってもらったりした。おかみも小金(こがね)を借(か)りに来たり張板を借(か)りに来たりした。其子供もよく遊びに来た。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎、徳冨蘆花(著)
此地(こゝ)には妓楼(ぎろう)がありますでな、酉(とり)の無いのも異(い)なものぢやといふ事でと、神酒(みき)の番(ばん)するらしきが何(なに)ゆゑかあまたゝび顔撫(かほな)でながら、今日限(こんにちかぎ)り此祠(このほこら)を借(か)りましたぢや。これも六七年前。
もゝはがき (新字旧仮名) / 斎藤緑雨(著)
今日(こんにち)のごとく機械(きかい)の力(ちから)がない時代(じだい)でありますから、たゞ多數(たすう)の人間(にんげん)が力(ちから)を合(あは)せて、時(とき)には牛馬(ぎゆうば)の力(ちから)を借(か)りたかもわかりませんが、多(おほ)くは人力(じんりよく)をもつてなされたものに相違(そうい)ありません。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
新嘗(にいなめ)の嘗の字は、漢国にて秋祭を嘗と云(い)ふを借(か)れる也(なり)。伴信友(ばんのぶとも)の『神社私考』などには、明らかに、かく断定し、その以前の学者たちも、ほぼこの点までは認めていたかと思われる。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
「フン、面白いな、浩一郎さん、その鍵というのを、一寸(ちょっと)私へ借(か)して下さらんか」
古銭の謎 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)