“野(の)” の例文
山(やま)や、野(の)や、谷(たに)に食(た)べるものがなくなってしまうと、人間(にんげん)の村里(むさざと)を襲(おそ)ってきます。そして、人間(にんげん)を食(た)べたり、家畜(かちく)を取(と)ったりします。
おおかみと人 (新字新仮名) / 小川未明(著)
そら雲(くも)が日(ひ)を隱(か)くした! 薄(うす)い影(かげ)が野(の)の上(うへ)を、海(うみ)の上(うへ)を這(は)う、忽(たちま)ち又(また)明(あか)るくなる、此時(このとき)僕(ぼく)は決(けつ)して自分(じぶん)を不幸(ふしあはせ)な男(をとこ)とは思(おも)はなかつた。
湯ヶ原より (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
幾ら人數(にんず)が少ないと謂(い)ツて、書生もゐる下婢(げぢよ)もゐる、それで滅多(めつた)と笑聲さへ聞えぬといふのだから、恰(まる)で冬の野(の)ツ原(ぱら)のやうな光景だ。
青い顔 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
天竺(てんじく)でも、シナでも、一度(ど)山か野(の)にかくれればもうだれも追(お)いかけて来(く)る者(もの)はなかったのですが、こんどはそういきませんでした。
殺生石 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
こうして、王子がみじめな思いをして、二年、三年とさまよいまわったあげく、とうとう、あの荒(あ)れ野(の)のなかへまよいこみました。
やがて夕方(ゆうがた)になりました。松蝉(まつぜみ)は鳴(な)きやみました。村(むら)からは白(しろ)い夕(ゆう)もやがひっそりと流(なが)れだして、野(の)の上(うえ)にひろがっていきました。
花のき村と盗人たち (新字新仮名) / 新美南吉(著)
ほんとうにげんげを摘(つ)みに來(き)て、野(の)に寢(ね)る人(ひと)がありませうか。狐(きつね)にでもつまゝれなければ、さういふことをするはずがありません。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
と言(い)ひかけて、左右(さいう)を見(み)る、と野(の)と濠(ほり)と草(くさ)ばかりでは無(な)く、黙(だま)つて打傾(うちかたむ)いて老爺(ぢゞい)が居(ゐ)た。其(それ)を、……雪枝(ゆきえ)は確(たしか)め得(え)た面色(おもゝち)であつた。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花、泉鏡太郎(著)
かそうさまは 一休(いっきゅう)さんを じぶんの あとつぎにして、むらさき野(の)の 大(だい)とくじの じゅうしょくに しようと して いたのでした。
一休さん (新字新仮名) / 五十公野清一(著)
今年(ことし)みたいに、紅白(こうはく)の花(はな)がたんと咲(さ)いた歳(とし)は無(な)い。野(の)は一面(いちめん)に眼(め)が覚(さ)めるやうな色(いろ)だ。どこへ行(い)つても垣根(かきね)の上(うへ)に主(しゆ)の御血潮(おんちしほ)は煌々(ぴかぴか)してゐる。
「野(の)だわ言(ごと)を申さず、はっきりと白状しろ、あの女は、このごろは異人館へ入りびたりだ、ちっともここへは落ちつかない」
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
これは偶然(ぐうぜん)「少(せう)年寫眞術(しやしんじゆつ)」の沿革史(えんかくし)の一節(せつ)にも書いてあることだつたが、うちで寫眞(しやしん)を寫(うつ)すといふと、いつもその上野(の)寫眞館(しやしんくわん)へ出かけたもので
野(の)に山(やま)に陽炎(かげらふ)が燃(も)えてきます。ところによつて芽(め)を吹(ふ)く時季(じき)はむろん違(ちが)ひますが、東京附近(とうきようふきん)では三月(さんがつ)の中旬頃(ちゆうじゆんごろ)から五月頃(ごがつごろ)までに、芽(め)を出(だ)します。
森林と樹木と動物 (旧字旧仮名) / 本多静六(著)
之に遇えば物に害あり。故(ゆえ)に大厲(だいれい)門に入りて晋景(しんけい)歿(ぼっ)し、妖豕(ようし)野(の)に啼(な)いて斉襄(せいじょう)殂(そ)す。禍(か)を降(くだ)し妖(よう)をなし、災(さい)を興(おこ)し薜(せつ)をなす。
牡丹灯籠 牡丹灯記 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
もう、お姫さまは、花の手入れもしてやりません。ですから、草花は、まるで荒(あ)れ野(の)のように、道の上までぼうぼうとおいしげってしまいました。
「※等(あねら)も酷(ひど)かんべ野(の)らは」と彼(かれ)はおつたの染(そ)めつゝあつた髮(かみ)が、交(まじ)つた白髮(しらが)をほんのりと見(み)せるまでに藥(くすり)の褪(さ)めて穢(きた)なく成(なつ)つたのを見(み)つゝいつた。
土 (旧字旧仮名) / 長塚節(著)
濛々(もうもう)たる白い幕(まく)が、はるか裾野(すその)の一角(かく)から近づいてくるなと見るまに、だんだんに野(の)を消し、ながき渚(なぎさ)を消し、湖水を消して、はや目の前まできた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一心(しん)不亂(ふらん)に祈(いの)りしに今日は早(はや)源内の罪極(きはま)り御仕置と聞し故娘の豐は其日父(ちゝ)の引れ行(ゆき)し御仕置場へ行て見るに終に仇(あだ)し野(の)の露(つゆ)と消果(きえはて)しゆゑ泣々(なく/\)も其所を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
みがきて庭(には)の木(こ)かげも心地(こゝち)よげなるを籠居(たれこめ)てのみ居給(ゐたま)ふは御躰(おからだ)にも毒(どく)なる物(もの)をとお八重(やへ)さま/″\に誘(いざな)ひて邊(ほと)りちかき野(の)の景色(けしき)田面(たのも)の庵(いほ)の侘(わび)たるも又(また)を
五月雨 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
Bは唯黙つて荒漠とした野(の)を見た。行つても行つても村落らしい村落はなく、暗い鼠色の空にすさまじく埃塵の漲(みなぎ)りわたつてゐる広い広い地平線を見た。
犬 (新字旧仮名) / 田山花袋、田山録弥(著)
内新好(ないしんかう)が『一目(ひとめ)土堤(づゝみ)』に穿(ゑぐ)りし通(つう)仕込(じこみ)の御(おん)作者(さくしや)様方(さまがた)一連(いちれん)を云ふなれば、其職分(しよくぶん)の更(さら)に重(おも)くして且(か)つ尊(たふと)きは豈(あ)に夫(か)の扇子(せんす)で前額(ひたひ)を鍛(きた)へる野(の)幇間(だいこ)の比(ひ)ならんや。
為文学者経 (新字旧仮名) / 内田魯庵、三文字屋金平(著)
特に八年は窮乏の絶頂で日本全土の人間が菜色(さいいろ)になったと言っても宜い有様、江戸から東北へかけて、文字通り餓莩(がひょう)野(の)に横(よこた)わるという悲惨な日が続きました。
黄金を浴びる女 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
夜(よる)の色(いろ)にその葉(は)の緑(みどり)は黒(くろ)ずみ、可愛(かあい)らしい珊瑚珠(さんごじゆ)のやうな赤(あか)い實(み)も眠(ねむ)たげではあるけれど、荒涼(くわうりやう)たる冬(ふゆ)に於(お)ける唯(ゆゐ)一の彩(いろど)りが、自然(しぜん)の野(の)からこの部屋(へや)に移(うつ)されて
日の光を浴びて (旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
麦は畝(うね)なしのばら蒔き、肥料を施さずしてよく出来たり。地味の豊饒思ふべし。春は野の花夥しく咲くと聞く。今はツユ葵(あをい)、矢車、野しゆん菊、野(の)人参(にんじん)の類のみ。
そしてそれらの中でいちばん立派(りっぱ)なのは小さな野(の)ばらの木でした。野(の)ばらの枝(えだ)は茶色の琥珀(こはく)や紫(むらさき)がかった霰石(アラゴナイト)でみがきあげられ、その実(み)はまっかなルビーでした。
其處(そこ)より發(た)たして、當藝(たぎ)の野(の)四の上に到ります時に、詔りたまはくは、「吾が心、恆は虚(そら)よ翔(かけ)り行かむと念ひつるを五、今吾が足え歩かず、たぎたぎしく六なりぬ」
僕は 星野(の)ピチといひます 地球の犬であります 仕事は 泥棒(どろぼう)や怪(あや)しいものを追(お)ひ払(はら)ふことです
されば「都伝摸(とても)年増東(と)夷辺伐(いえば)広夷(い)様」その広夷(ひろい)野(の)に飽き果て散播都天門(さわっても)呉弩(くれぬ)と嘆(かこ)ちて自害した。
其(その)丘(をか)の中腹(ちうふく)にて、櫻木大佐等(さくらぎたいさら)が手巾(ハンカチーフ)を振(ふ)り、帽子(ぼうし)を動(うご)かして居(を)る姿(すがた)も、頓(やが)て椰子(やし)や橄欖(かんらん)の葉(は)がくれに見(み)えずなると、それから鐵車(てつしや)は全速力(ぜんそくりよく)に、野(の)と云(い)はず山(やま)と云(い)はず突進(つきすゝ)む
生(い)ける銃架(じうか)。おう家(いへ)を離(はな)れて野(の)に結(むす)ぶ眠(ねむ)りの裡(うち)に、風(かぜ)は故郷(こきやう)のたよりをお前(まへ)に伝(つた)へないのか
けれども商売が如何(いか)に繁昌するも、産業がなにほど隆盛に趣くも、はたまた個人の所得如何に裕(ゆた)かに、国庫の歳入が幾ら充溢するも、更にまた鉄艦(てっかん)海(うみ)を蔽(おお)うも、貔貅(ひきゅう)野(の)に満つるも
国民教育の複本位 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
城(しろ)のまわりには、小石を並(なら)べたような町並(なみ)が、遠(とお)くまで続(つづ)いていました。その末(すえ)は広々とした野(の)になって、一面(めん)に、ぼうと霞(かす)んでいました。王子はただうっとりと眺(なが)めていました。
強い賢い王様の話 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
「おうっ、嬉(うれ)し野(の)のおきんじゃあねえか。いやに早(はえ)え足だぜ。待ちねえってことよ」
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
このまま引(ひ)いてしまったら、折角(せっかく)鍛(きた)えたおのが芸(げい)を、根(ね)こそぎ棄(す)てなければならぬ悲(かな)しさ。それゆえ、秋(あき)の野(の)に鳴(な)く虫(むし)にも劣(おと)る、はかない月日(つきひ)を過(す)ごして来(き)たが、……おせんちゃん。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
こぼれるほどに乘(の)つた客(きやく)は行商(ぎやうしやう)の町人(ちやうにん)、野(の)ら歸(がへ)りの百姓(ひやくしやう)、乳呑兒(ちのみご)を抱(かゝ)へた町家(ちやうか)の女房(にようばう)、幼(をさな)い弟(おとうと)の手(て)を引(ひ)いた町娘(まちむすめ)なぞで、一度(ど)出(で)かゝつた舟(ふね)が、大(おほ)きな武士(ぶし)の爲(た)めに後戻(あともど)りさせられたのを
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
野(の)は桔梗(ききやう)、女郎花(をみなへし)のさきみだれた美(うつく)しい世界(せかい)です。その草(くさ)の葉(は)つぱのかげで
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
おとうさんは野(の)らへ仕事(しごと)にでかけ、おじいさんは湖の岸へ、「のっこみぶな」というのをつりにでかけたあとで、おっかさんはひとりでよそいきの着物(きもの)にきかえ、ふろしきづつみ一つをもって
あたまでっかち (新字新仮名) / 下村千秋(著)
花ショウブは、元来(がんらい)、わが邦(くに)の山野に自生している野(の)ハナショウブがもとで、それを栽培に栽培を重ねて生まれしめたものである。ゆえに、このノハナショウブは栽培ハナショウブの親である。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
父(とう)さんは、種々(いろ/\)な翫具(おもちや)が野(の)にも畠(はたけ)にもある事(こと)を知(し)りました。竹籔(たけやぶ)から取(と)つて來(き)た青(あを)い竹(たけ)の子(こ)、麥畠(むぎばたけ)から取(と)つて來(き)た黄色(きいろ)い麥藁(むぎわら)で、翫具(おもちや)を手造(てづくり)にする事(こと)の言(い)ふに言(い)はれぬ樂(たの)しい心持(こゝろもち)を覺(おぼ)えました。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
狂熱(きょうねつ)し易(やす)い弱い脳の私は刺戟されて、遂(つ)いうつらうつらと酔った様になってしまう、真黄(まっきい)な濃厚な絵具を野(の)一面にブチ撒(ま)けたらしい菜の花と、例の光線が強く反射して私の眼はクラクラと眩(まぶ)しい。
菜の花物語 (新字新仮名) / 児玉花外(著)
家は外(と)よりも荒れまさりけり。なほ奥の方に進みゆく。前栽(せんざい)広く造りなしたり。池は水あせて水草(みくさ)も皆枯れ、一九三野(の)ら藪(やぶ)生(お)ひ一九四かたぶきたる中に、大きなる松の吹き倒れたるぞ物すざまし。
夜露(よつゆ)に濡(ぬ)れた草(くさ)が、地上(ちじやう)に盛(も)り溢(あふ)れさうな勢(いきほ)ひで、野(の)を埋(うづ)めてゐた。
彼女こゝに眠る (旧字旧仮名) / 若杉鳥子(著)
和津(わつ)が野(の)に馬のりすてて青丹よし奈良路を近み徒歩(かち)ゆわれきぬ
礼厳法師歌集 (新字旧仮名) / 与謝野礼厳(著)
かなしきいろの紅(くれなゐ)や春ふけて白頭翁(おきなぐさ)さける野(の)べを来にけり
つゆじも (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
春夕(しゆんせき)はひとり野(の)歩(あり)く馬をりておのづから帰る道知るらしき
夢殿 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
籬(ませ)に、木(こ)の間(ま)に、——これやまた、野(の)の法子兒(ほうしご)の
白羊宮 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫、薄田淳介(著)
鋤(すき)休(やす)めたる野(の)らまでも領(りやう)ずる顏の姿かな。
海潮音 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
野(の)にありといふ者(もの)あるも出(い)づる勿(なか)れ。
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
野(の)ずえはるかにみわたせば
どんたく:絵入り小唄集 (新字旧仮名) / 竹久夢二(著)
森の、野(の)の上の、海岸の
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛、与謝野晶子(著)