“憎(に)” の例文
其樣(そん)なものに鼻毛(はなげ)よまれて果(はて)は跡(あと)あしの砂(すな)の御用心(ごようじん)さりとてはお笑止(しようし)やなどヽ憎(に)くまれ口(ぐち)いひちらせど眞(しん)の處(ところ)は妬(ねた)し妬(ねた)しの積(つも)り
経つくゑ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
隅の方で時折大きく団扇(うちわ)を遣(つか)う音がする。専務車掌がよろめきながら、荷物を並べた狭い通路を歩き憎(に)くそうに通って行った。
急行十三時間 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
(と云い憎(に)く気に)あの、今度館へ参られた女子と、度々人のいない場所でお話しなされておらるるのをお見受け申しました。
レモンの花の咲く丘へ (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
其妾と云う髪(かみ)を乱(みだ)した女は、都の女等を憎(に)くさげに睨(にら)んで居た。彼等は先住の出で去るを待って、畑の枯草の上に憩(いこ)うた。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎、徳冨蘆花(著)
静かに鬼三郎の云ふ事を聞き給へ、義理の娘が憎(に)くさの余り、生家方(さとかた)の威光を借りて、かゝる縁談を作り上げ、吾を辱かしめ給ひしに相違あるまじ。
白くれない (新字新仮名) / 夢野久作(著)
スルと憎(に)くらしいぢやありませんか、道時が揶揄(からかい)半分に、仮令(たとへ)梅子さんからの御報知は無くとも、松島の口から出たのだから仕様(しやう)が在(あ)るまい抔(など)と言ひますからネ
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
いまさら、なんとお詫(わ)びも、面目もございませんが、憎(に)ッくき下郎(げろう)は、お手飼いの青面獣(せいめんじゅう)楊志(ようし)。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
僕(ぼく)は戀(こひ)して居(ゐ)たのだらうけれども、夢(ゆめ)に、實(じつ)に夢(ゆめ)にもお絹(きぬ)をどうしやうといふ事(こと)はなかつた、お絹(きぬ)も亦(ま)た、僕(ぼく)を憎(に)くからず思(おも)つて居(ゐ)たらう、決(けつ)して其(それ)以上(いじやう)のことは思(おも)はなかつたに違(ちが)ひない。
湯ヶ原より (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
朝日(あさひ)影(かげ)窓に眩(まばゆ)き頃、ふらふらと縁前(えんさき)に出づれば、憎(に)くや、檐端(のきば)に歌ふ鳥の聲さへ、己(おの)が心の迷ひから、『汝(そなた)ゆゑ/\』と聞ゆるに、覺えず顏を反向(そむ)けて、あゝと溜息(ためいき)つけば、驚きて起(た)つ群雀(むらすゞめ)
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
「憎(に)つくき蝦蟇めが、己れはまだ主殿頭を知らないと見えるな。」
「憎(に)くい町人共、眼に物見せてくれよう」
礫心中 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
「憎(に)つくき僧徒の振舞」と
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
本(ほん)に商賣人(しようばいにん)とて憎(に)くらしい物(もの)と次第(しだい)におもふ事(こと)の多(おほ)くなれば、いよ/\寢(ね)かねて奧方(おくがた)は縮緬(ちりめん)の抱卷(かいまき)打(うち)はふりて郡内(ぐんない)の蒲團(ふとん)の上(うへ)に起上(おきあが)り給(たま)ひぬ。
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
伊那丸は、なおも憎(に)ッくき賊(ぞく)を追おうとするふたりを止(と)めて
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
憎(に)くしと思(おも)へど流石(さすが)に義理(ぎり)は愁(つ)らき物(もの)かや、母親(はゝおや)かげの毒舌(どくぜつ)をかくして風(かぜ)引(ひ)かぬやうに小抱卷(こかいまき)何(なに)くれと枕(まくら)まで宛(あて)がひて、明日(あす)の支度(したく)のむしり田作(ごまめ)
大つごもり (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「憎(に)っくい猿面(さるめん)、ウーム、一あわふかしてくれねばならぬ」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
散々(さん/″\)のお民(たみ)が異見(いけん)に少(すこ)し我(わ)が非(ひ)を知(し)り初(そめ)し揚句(あげく)、その人(ひと)は俄(にわ)かに別(わか)れといふ、幼(おさ)なき心(こヽろ)には我(わ)が失禮(ひつれい)の我(わが)まヽを憎(に)くみて夫故(それゆゑ)に遠國(ゑんごく)へでも行(ゆ)かれるやうに悲(かな)しく
経つくゑ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
物言(ものい)へば頓(やが)て爭(あらそ)ひの糸口(いとくち)を引出(ひきいだ)し、泣(な)いて恨(うら)んで摺(す)れ/\の中(なか)に、さりとも憎(に)くからぬ夫婦(めをと)は折(おり)ふしの仕(し)こなし忘(わす)れがたく、貴郎(あなた)斯(か)うなされ、彼(あ)あなされと言(い)へば
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
御自分(ごじぶん)はかくし給(たま)へども、他所行着(よそゆきぎ)のお袂(たも)より縫(ぬひ)とりべりの手巾(はんけち)を見(み)つけ出(だ)したる時(とき)の憎(に)くさ、散々(さん/″\)といぢめていぢめて、困(いぢ)め拔(ぬ)いて、最(も)う是(こ)れからは決(けつ)して行(ゆ)かぬ
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
友達(ともだち)いやしがりて萬年町(まんねんちやう)の呼名(よびな)今(いま)に殘(のこ)れども、三五郎(らう)といへば滑稽者(おどけもの)と承知(しやうち)して憎(に)くむ者(もの)の無(なき)きも一徳(とく)なりし、田中屋(たなかや)は我(わ)が命(いのち)の綱(つな)、親子(おやこ)が蒙(かう)むる御恩(ごおん)すくなからず
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
私(わたし)は憎(に)くかろうと此子(このこ)に免(めん)じて置(お)いて下(くだ)され、謝(あやま)りますとて手(て)を突(つ)いて泣(な)けども、イヤ何(ど)うしても置(お)かれぬとて其後(そのご)は物(もの)言(い)はず壁(かべ)に向(むか)ひてお初(はつ)が言葉(ことば)は耳(みゝ)に入(い)らぬ體(てい)
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
いよいよ胸(むね)わるく憎(に)くらしく思(おも)ひ、然(しか)るべき縁(えん)にもつけず生殺(なまごろ)しにして、他處目(よそめ)ばかりは何處(どこ)までも我儘(わがまヽ)らしき氣隨(きずゐ)ものに言(い)ひ立(た)て、其長(そのなが)き舌(した)に父君(ちヽぎみ)をも卷(ま)き込(こ)みしか
暁月夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
文(ふみ)を投出(なげだ)して嘆息(たんそく)しけるが、甚(じん)之助(すけ)に向(むか)ひては猶(なほ)さら悲(かな)しげに、姉樣(ねえさま)はあくまで吾助(ごすけ)を憎(に)くみて、あれほど御覽(ごらん)に入(い)れし歌(うた)に一度(たび)のお返歌(へんか)もなく、あまつさへ貴君(あなた)にまで
暁月夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
可愛(かわい)らしき四つ計(ばかり)の、彼子(あれ)が先刻(さつき)の人(ひと)のでござんす、あの小(ちい)さな子心(こゞゝろ)にもよく/\憎(に)くいと思(おも)ふと見(み)えて私(わたし)の事(こと)をば鬼々(おに/\)といひまする、まあ其樣(そん)な惡者(わるもの)に見(み)えまするかとて
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
返(かへ)す團扇(うちは)に思(おも)ひを寄(よ)せし時(とき)憎(に)くからず打笑(うちゑ)みし口元(くちもと)なんど、只(たゞ)眼(め)の先(さき)に沸(わ)き來(き)たりて、我(わ)れ知(し)らず沈思瞑目(ちんしめいもく)することもあり、さるにても何人(なにびと)の住家(すまゐ)にや、人品(ひとがら)の高尚(けだか)かりしは
たま襻 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
さりとて是(こ)れにも隨(した)がひがたきを、何(なに)として何(な)にとせば松野(まつの)が心(こゝろ)の迷(まよ)ひも覺(さ)め、竹村(たけむら)の君(きみ)へ我(わ)が潔白(けつぱく)をも顯(あか)されん、何方(いづれ)にまれ憎(に)くき人(ひと)一人(ひとり)あらば、斯(か)くまで胸(むね)はなやまじを
たま襻 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
學校(がくかう)にての出來(でき)ぶりといひ身分(みぶん)がらの卑(いや)しからぬにつけても然(さ)る弱虫(よわむし)とは知(し)る物(もの)なく、龍華寺(りうげじ)の藤本(ふぢもと)は生煮(なまに)えの餠(もち)のやうに眞(しん)があつて氣(き)に成(な)る奴(やつ)と憎(に)くがるものも有(あ)りけらし。
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
面白(おもしろ)くもない女郎(めらう)めと叱(しか)りつけられて、夫(そ)れはお前(まへ)無理(むり)だ、邪推(じやすい)が過(すぎ)る、何(なに)しにお前(まへ)に當(あて)つけよう、この子(こ)が餘(あんま)り分(わか)らぬと、お力(りき)の仕方(しかた)が憎(に)くらしさに思(おも)ひあまつて言(い)つた事(こと)を
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
厭(いや)やな正太(しようた)さんだと憎(に)くらしげに言(い)はれて、夫(そ)れならば歸(かへ)るよ、お邪魔(じやま)さまで御座(ござ)いましたとて、風呂塲(ふろば)に加减(かげん)見(み)る母親(はゝおや)には挨拶(あいさつ)もせず、ふいと立(た)つて正太(しようた)は庭先(にはさき)よりかけ出(いだ)しぬ。
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
いとヾしき思(おも)ひに身(み)を苦(く)るしむれど、吾助(ごすけ)のことも忘(わす)れがたし、免(ゆ)るせよ吾助(ごすけ)、夢(ゆめ)さらさら憎(に)くからねばこそ、戀(こひ)すまじとて退(の)く身(み)ぞかし、うつせみの世(よ)に斯(か)かる身(み)の例(ため)し又(また)ありや
暁月夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
虫(むし)づのはしるほど嫌(い)やがる事(こと)うたがひなしと苦笑(にがわら)ひして仰(おほ)せられしが『ある時(とき)はありのすさびに憎(に)くかりき、無(な)くてぞ人(ひと)は戀(こひ)しかりける』とにも角(かく)にも意地(いぢ)わるの世(よ)や意地惡(いぢわ)るの世(よ)や。
経つくゑ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
思(おも)ひ給(たま)ふぞとさしのぞかれ君様(きみさま)ゆゑと口元(くちもと)まで現(うつゝ)の折(をり)の心(こゝろ)ならひにいひも出(い)でずしてうつむけば隠(かく)し給(たま)ふは隔(へだ)てがまし大方(おほかた)は見(み)て知(し)りぬ誰(た)れゆゑの恋(こひ)ぞうら山(やま)しと憎(に)くや知(し)らず顔(がほ)のかこち事(ごと)余(よ)の人(ひと)恋(こ)ふるほどならば思(おも)ひに身(み)の痩(や)せもせじ御覧(ごらん)ぜよやとさし出(だ)す手(て)を
闇桜 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)