“似(に)” の例文
幸(さいわ)い、私(わたし)たちは、みんなよく顔(かお)が人間(にんげん)に似(に)ているばかりでなく、胴(どう)から上(うえ)は人間(にんげん)そのままなのであるから——魚(さかな)や獣物(けもの)の世界(せかい)でさえ
赤いろうそくと人魚 (新字新仮名) / 小川未明(著)
上杉(うへすぎ)の隣家(となり)は何宗(なにしう)かの御梵刹(おんてら)さまにて寺内(じない)廣々(ひろ/\)と桃(もゝ)櫻(さくら)いろ/\植(うゑ)わたしたれば、此方(こなた)の二階(かい)より見(み)おろすに雲(くも)は棚曳(たなび)く天上界(てんじやうかい)に似(に)て
ゆく雲 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
ただ何となく、いなかの町はずれの高台の森に似(に)ているので、わけもなく引きつけられました。新吉は公園の上へ上って行きました。
曲馬団の「トッテンカン」 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
神事(かみごと)はすべて児戯(じぎ)に似(に)たること多し、しかれども凡慮(ぼんりよ)を以て量識(はかりしる)べからず。此堂押に類(るゐ)せし事他国にもあるべし、姑(しばらく)記(しる)して類(るゐ)を示(しめ)す。
しかしそれなら尚更(なおさら)私(わたくし)の申上(もうしあ)げる事(こと)がよくお判(わか)りの筈(はず)で、神社(じんじゃ)の装置(そうち)もラジオとやらの装置(そうち)も、理窟(りくつ)は大体(だいたい)似(に)たものかも知(し)れぬ……。
帽子屋(ばうしや)はこれを聞(き)いて著(いちじる)しく其(そ)の眼(め)を瞪(みは)りました、が、云(い)つたことは、『何故(なぜ)嘴太鴉(はしぶとがらす)が手習机(てならひづくゑ)に似(に)てるか?』と、只(たゞ)これだけでした。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
煙草盆(たばこぼん)に香(かう)の薫(かをり)のみして、座(ざ)にいまだ人影(ひとかげ)なき時(とき)、瀧君(たきくん)の此(こ)の光景(くわうけい)は、眞田(さなだ)が六文錢(ろくもんせん)の伏勢(ふせぜい)の如(ごと)く、諸葛亮(しよかつりやう)の八門遁甲(はちもんとんかふ)の備(そなへ)に似(に)て居(ゐ)る。
九九九会小記 (旧字旧仮名) / 泉鏡花、泉鏡太郎(著)
大丈夫(だいじょうぶ)二十分かかりません。なるべくせいの似(に)たような人と、二人(ふたり)で一つずつかついで下さい。そうです、町の裏を通って行くのです。
イーハトーボ農学校の春 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
何(なん)だよう、私(わたし)が先刻(さつき)から見てゐると、お前(まへ)がこゝを往(い)つたり来(き)たりしてえるが、眼(め)が開(あ)いて居(ゐ)るから能(よ)く似(に)た人が有(あ)ると思(おも)つてゐたら
心眼 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
その容疑(ようぎ)のもとは、中内工学士(なかうちこうがくし)の場合(ばあい)と似(に)ていて、金魚屋(きんぎょや)と老人(ろうじん)との間(あいだ)に貸借関係(たいしゃくかんけい)があり、裁判沙汰(さいばんざた)まで起(おこ)したという事実(じじつ)からである。
金魚は死んでいた (新字新仮名) / 大下宇陀児(著)
かの牛(うし)はびぞんといふ牛(うし)で、今日(こんにち)の牛(うし)とはその形(かたち)は異(こと)なつてゐますけれども、鹿(しか)や馬(うま)の形(かたち)はなんとよく似(に)て本物(ほんもの)のようでありませんか。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
「でも宅(うち)の事(こと)を始終(しじゆう)淋(さむ)しい/\と思(おも)つてゐらつしやるから、必竟(ひつきやう)あんな事(こと)を仰(おつ)しやるんでせう」と前(まへ)と略(ほゞ)似(に)た樣(やう)な問(とひ)を繰(く)り返(かへ)した。
門 (旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
両者の関係はちょうど夫婦のようなもので、世には、似(に)た者(もの)夫婦もあれば、いかにしても釣合いの説明できぬような場合も少なくない。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
十七の秋(あき)に見(み)たおつぎの姿(すがた)がお品(しな)に能(よ)くも似(に)て居(ゐ)たことを思(おも)ひ出(だ)しては、他人(ひと)の噂(うはさ)も聞(き)いて見(み)て時々(とき/″\)は逢(あ)つても見(み)たい心持(こゝろもち)がした。
土 (旧字旧仮名) / 長塚節(著)
あたりをさぐって、そとにでれば、夜は四更(こう)の闇(やみ)ながら、空には、女菩薩(にょぼさつ)たちの御瞳(みひとみ)にも似(に)る、うるわしい春の星が、またたいている。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
往還(わうくわん)よりすこし引入(ひきい)りたる路(みち)の奥(おく)に似(に)つかぬ幟(のぼり)の樹(た)てられたるを何かと問へば、酉(とり)の市(まち)なりといふ。行(ゆ)きて見るに稲荷(いなり)の祠(ほこら)なり。
もゝはがき (新字旧仮名) / 斎藤緑雨(著)
白鳥号に似(に)た大きな遊山船(ゆさんぶね)が、この道を通ったが、左のほうへ曲がって、セーヌ川をずんずん上って行った、というのであった。
今茲に喋々(てふ/\)する事殊に無益(むえき)の辯(べん)に似(に)たれど前にも已(すで)に述(のべ)たるが如く此小西屋の裁判は忠相ぬし最初(さいしよ)の捌(さばき)にして是より漸次(しだい)に其名を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
親(おや)に似(に)ない兒(こ)だが、成長(せいてう)したらアノ通(とほ)りの獰惡振(だうあくぶ)りを相續(さうぞく)するに違(ちが)ひない、環境(かんけう)の罪(つみ)だいつそ家(うち)に飼(か)つてやらうかと思(おも)つて、また躊躇(ちうちよ)した。
ねこ (旧字旧仮名) / 北村兼子(著)
頸筋(くびすぢ)は豚(ぶた)に似(に)て聲(こゑ)までが其(それ)らしい老人(らうじん)は辨當(べんたう)をむしやつき、少(すこ)し上方辯(かみがたべん)を混(ま)ぜた五十幾歳位(いくさいぐらゐ)の老婦人(らうふじん)はすしを頬張(ほゝば)りはじめた。
湯ヶ原ゆき (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
あれは子ープルスの家(いへ)の三階(がい)から見(み)へるエリノ島(しま)にその儘(まんま)です事(こと)、此方(こなた)のは頭(あたま)の禿(は)げた老爺(おぢい)さんが魚(さかな)を釣(つ)つて居(を)る形(かたち)によく似(に)て居(ゐ)ますねえ。
ガンはもっとじぶんたちガチョウによく似(に)ていて、もっと近い親類(しんるい)だとばかり思っていたのです。ところが、どうでしょう。
野猪(ゐのしゝ)は形(かたち)が豚(ぶた)に似(に)て全身(ぜんしん)黒褐色(こつかつしよく)のあらい毛(け)でおほはれてをり、頸(くび)が短(みじか)いので駈(か)けだすと急(きゆう)には方向(ほうこう)を變(か)へられない動物(どうぶつ)です。
森林と樹木と動物 (旧字旧仮名) / 本多静六(著)
山ノ井君のほうは、顔が丸くなく、上下にのびていて、頭は大きく、あごの先がとがっていて、どこかヘチマに似(に)ている。
宇宙の迷子 (新字新仮名) / 海野十三(著)
五十万円(ママ)を以て三隻の水雷船(すいらいせん)を造り、以て敵を鏖(みなごろし)にすべしなど真に一場(じょう)の戯言(ぎげん)に似(に)たれども、何(いず)れの時代にもかくのごとき奇談(きだん)は珍らしからず。
そはエスキモーが斯かる事を爲す時に用ゐる錘(おも)りと好(よ)く似(に)たる石片角片の遺跡(ゐせき)より發見さるるに由りて推考(すいかう)せらるるなり。
コロボックル風俗考 (旧字旧仮名) / 坪井正五郎(著)
「こいつあ、人間(にんげん)のある者(もの)によく似(に)てけつかる。それも善(い)い事(こと)ならいいが、ろくでもねえところなんだから、堪(たま)らねえ」
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
市(いち)といつても、今(いま)の市場(いちば)ではなく、商人(しようにん)の店(みせ)を列(つら)ねてゐる町通(まちどほ)りで、そこには、今(いま)の街路樹(がいろじゆ)に似(に)たものを植(う)ゑたのです。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
まだ可なり吹き降(ぶ)りの中を、お馨さんによく似(に)た十四五、十一二の少女が、片手に足駄を提(さ)げ、頭から肩掛(しょうる)をかぶり、跣足(はだし)で小学校に出かけて行く。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎、徳冨蘆花(著)
と路(みち)ばたに咲(さ)いて居(ゐ)た龍膽(りんだう)の花(はな)が父(とう)さんに聲(こゑ)を掛(か)けて呉(く)れました。龍膽(りんだう)は桔梗(ききやう)に似(に)た小(ちい)さな草花(くさばな)で、よく山道(やまみち)なぞに咲(さ)いて居(ゐ)るのを見(み)かけるものです。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
また、神さまが、大海(たいかい)のまん中へこの日本の島を作りお浮かべになった、そのときのありさまにもよく似(に)ている。ほんとは尊(とうと)くもめでたいことである。
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
本編雪の外(ほか)它(た)の事を載(のせ)たるは雪譜(せつふ)の名を空(むなし)うするに似(に)たれども、姑(しばらく)記(しる)して好事(かうず)の話柄(わへい)に具(ぐ)す。増修(そうしう)の説(せつ)も亦(また)然(しか)り。
恰(あたか)も彼七本槍(やり)を以て有名なる賤(しづ)が岳(たけ)山下余吾湖を見(み)るに似(に)たり、陶然(とうぜん)として身(み)は故山の旧盧(きうろ)にあるが如く、恍(こう)として他郷の深山麋熊の林中にあるを忘(わす)る
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
しかし他面から見ると親に似(に)ているとも見える。知らない人が子供を見て、お父さんによく似ていると言う。
親は眺めて考えている (新字新仮名) / 金森徳次郎(著)
それはこんな寂(さび)しい谷(たに)あいに似(に)もつかない十六七のかわいらしい少女(おとめ)が、谷川(たにがわ)で着物(きもの)を洗(あら)っているのでした。
葛の葉狐 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
当代(とうだい)の人気役者(にんきやくしゃ)宗(そう)十郎(ろう)に似(に)ていると、太鼓持(たいこもち)の誰(だれ)かに一度(ど)いわれたのが、無上(むじょう)に機嫌(きげん)をよくしたものか、のほほんと納(おさ)まった色男振(いろおとこぶ)りは、見(み)る程(ほど)の者(もの)をして
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
ベンヺ 其(その)風(かぜ)に似(に)た浮(うか)れ話(ばなし)に、大分(だいぶん)の時(とき)が潰(つぶ)れた。ようせぬと、夜會(やくわい)が果(は)てゝ、時後(ときおく)れになってしまはう。
全(まつた)くわき眼(め)も振(ふ)らないやうな蜂(はち)の動作(どうさ)は變(へん)に嚴肅(げんしゆく)にさへ見(み)えた。そして、瞬(またた)きもせずに見詰(みつ)めてゐる内(うち)に、夫(をつと)はその一心(しん)さに何(なに)か嫉妬(しつと)に似(に)たやうなものを感(かん)じた。
画家とセリセリス (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
明智は、窓際の明るい所へ行って、それを光にかざす様にして、入念に調べていたが、何を気づいたのか、愕然として、日頃の彼に似(に)げなき厳粛な表情で呟いた。
黄金仮面 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
あな醜(みにく)賢(さか)しらをすと酒(さけ)飲(の)まぬ人をよく見(み)れば猿(さる)にかも似(に)る(よく見ば猿にかも似む) (同・三四四)
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
身扮(みなり)も平常のまま、金は一文も持っていたはずはなく、その上心掛けのある町人に似(に)げなく、麻裏草履(あさうらぞうり)を突っかけて、手拭を一本持ったきりで出て行ったのですから
維新(いしん)の頃より今日に至るまで、諸藩の有様は現に今人(こんじん)の目撃(もくげき)するところにして、これを記(しる)すはほとんど無益(むえき)なるに似(に)たれども、光陰(こういん)矢のごとく、今より五十年を過ぎ
旧藩情 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
〔譯〕匿情(とくじやう)は愼密(しんみつ)に似(に)る。柔媚(じうび)は恭順(きようじゆん)に似る。剛愎(がうふく)は自信(じしん)に似る。故に君子は似(に)て非(ひ)なる者を惡(にく)む。
今までのばか騒ぎに似(に)ず、すべての顔には今までのばか騒ぎに似ぬまじめさと緊張さとが描かれた。
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
ほこりで汚(よご)れきったトーマスの服装(ふくそう)に、金貨の音はどう考えても似(に)つかわしくなかったからだ。しかし、その船員(せんいん)は、すぐに前とおなじあけっぴろげな態度(たいど)になって
それが火口(かこう)から盛(も)り上(あが)つて出(で)る形状(けいじよう)は、西洋料理(せいようりようり)に使(つか)はれる菜(な)の花(はな)に似(に)てゐるから菜花状(さいかじよう)の雲(くも)と呼(よ)ばれる。これには鎔岩(ようがん)の粉末(ふんまつ)が加(くは)はつてゐるから多少(たしよう)暗黒色(あんこくしよく)に見(み)える。
火山の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
同じく生徒になることは私を喜ばせ、また私に似(に)つかはしいものだつた。私たちの性格はしつくり合つてゐた。お互ひの愛情——最も強い種類の——がその結果だつた。
洋々(やう/\)たるナイル河(かは)、荒漠(くわうばく)たるサハラの沙漠(さばく)、是等(これら)は大(おほい)に化物思想(ばけものしさう)の發達(はつたつ)を促(うなが)した。埃及(えじぷと)の神樣(かみさま)には化物(ばけもの)が澤山(たくさん)ある。併(しか)し之(これ)が希臘(ぎりしや)へ行(い)くと餘程(よほど)異(ことな)り、却(かへ)つて日本(にほん)と似(に)て來(く)る。
妖怪研究 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
獄中にて西教に傾(かたむ)きたりといえば、彼コルシカ人の「ワンデツタ」に似(に)たる我邦復讐(ふくしゅう)の事、いま奈何(いか)におもうらん。されど其母殺したりという人は、安(やす)き心もあらぬなるべし。
みちの記 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
これらはその時(とき)の私(わたくし)の心(こころ)もちと、不思議(ふしぎ)な位(くらゐ)似(に)つかはしい景色(けしき)だつた。私(わたくし)の頭(あたま)の中(うち)には云(い)ひやうのない疲勞(ひらう)と倦怠(けんたい)とが、まるで雪曇(ゆきぐも)りの空(そら)のやうなどんよりした影(かげ)を落(おと)してゐた。
蜜柑 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)