“恁(か)” の例文
恁(か)うして買(か)つて參(まゐ)ります品物(しなもの)が氣(き)に入(い)らないと、甚(ひど)いんですぜ、そりや、踏(ふ)んだり、蹴(け)つたり、ポカ/\でさ。我又不善擇人參可否(われまたにんじんのかひをえらぶことをよくせず)。
人参 (旧字旧仮名) / 泉鏡花、泉鏡太郎(著)
何だ、馬鹿々々しい、俺は怎(どう)して恁(か)う時々、淺間しい馬鹿々々しい事をするだらうと、頻りに自分と云ふものが輕蔑される、…………
病院の窓 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
『えゝ只今(たゞいま)、足下(そくか)に御關係(ごくわんけい)の有(あ)る事柄(ことがら)で、申上(まをしあ)げたいと思(おも)ふのですが。』と、市役所員(しやくしよゐん)は居並(ゐなら)ぶ人々(ひと/″\)の挨拶(あいさつ)が濟(す)むと恁(か)う切(き)り出(だ)した。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
鍛冶(かぢ)は其(そ)の時(とき)仕事(しごと)が支(つか)へて居(ゐ)たが、それでも恁(か)ういふ職業(しよくげふ)に缺(か)くべからざる道具(だうぐ)といふと何處(どこ)でもさういふ例(れい)の速(すみやか)に拵(こしら)へてくれた。
土 (旧字旧仮名) / 長塚節(著)
吸物の蓋(ふた)を取ると走りの松蕈(まつたけ)で、芳(かう)ばしい匂がぷんと鼻に応(こた)へる。給持(きうぢ)の役僧(やくそう)は『如何(どう)だ』といつた風に眼で笑つて、然(そ)して恁(か)う言(い)つた。
茸の香 (新字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
恁(か)く永久に賞美されない料理人の外に、一寸触つても破(こわ)れさうな書画骨董の注意と、盆栽の手入で、其れも時には礼の一ツも云はれゝばこそ
一月一日 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
それに私なんか恁(か)う見えても温順(おとな)しいんだから、鉄火(てつか)な真似なんか迚(とて)も柄にないの。ほんとうに温順しい花魁(おいらん)だつて、みんなが然(さ)う言ふわよ。
或売笑婦の話 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
皺嗄(しやが)れた殆(ほとん)ど聴取(きゝと)れない程(ほど)の聲(こゑ)で、恁(か)う唄(うた)ふのが何處(どこ)ともなく聽(きこ)えた。私(わたし)は思(おも)はず少(すこ)し歩(あゆみ)を緩(ゆる)くして耳(みゝ)を傾(かたむ)けた。
虚弱 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
とある村立共同浴場の湯氣の中から廣くまるい肩の一角を見せた存在物が恁(か)うして民謠「婆(ばゞ)の腰(こし)」を唄ひだした。
地方主義篇:(散文詩) (旧字旧仮名) / 福士幸次郎(著)
『エ、おい、べら棒な。恁(か)う見えても急所だぜ。問屋の菎蒻(こんにやく)ぢやあるめいし、無價(ただ)で蹈まれて間に合ふけえ』。
二十三夜 (旧字旧仮名) / 萩原朔太郎(著)
……ふさぎの虫がクスクス笑ふ……狂者(きちがひ)、狂者、まるで汝は狂者だ、恁(か)うして居る中にも頓狂な発作の陰謀(たくらみ)が恐ろしい心のどん底から可笑(をか)しいほどはしやぎ出す
桐の花 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
大きな机の上に置(おき)洋灯(ランプ)があつて、其(その)側(そば)の棚にグルグル巻きにした描きさしの絵があつた。先生は夫れを一枚一枚とりだしては筆を加へられた。恁(か)ふ左の手を懐中にしてサツサツと筆を動かされる。
写生帖の思ひ出 (新字旧仮名) / 上村松園(著)
後に生命を持ち得るからこそ恁(か)うしなければならなかつたのです。
獄中の女より男に (新字旧仮名) / 原田皐月(著)
『僕は不思議ですねえ。恁(か)うして貴女と話してると、何だか自然に芝居を演(や)りたくなつて来て、遂(つい)心にない事まで言つて了ひます。』
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
久(ひさ)しぶりで、恁(か)うして火(ひ)を置(お)かせたまゝ、氣(き)に入(い)りの小間使(こまづかひ)さへ遠(とほ)ざけて、ハタと扉(ひらき)を閉(とざ)した音(おと)が、谺(こだま)するまで響(ひゞ)いたのであつた。
印度更紗 (旧字旧仮名) / 泉鏡花、泉鏡太郎(著)
實(じつ)を申(まを)すと私(わたし)も疑(うたが)つてゐるのです。然(しか)し尤(もつと)も、私(わたくし)は或時(あるとき)は死(し)なん者(もの)のやうな感(かんじ)もするですがな。其(そ)れは時時(とき/″\)恁(か)う思(おも)ふ事(こと)があるです。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
「どうしたね勘次(かんじ)、恁(か)うして連(つ)れて來(こ)られてもいゝ心持(こゝろもち)はすまいね」といつた。藁草履(わらざうり)を穿(は)いた勘次(かんじ)の爪先(つまさき)に涙(なみだ)がぽつりと落(お)ちた。
土 (旧字旧仮名) / 長塚節(著)
恁(か)う言(い)ふと、或(あるひ)は嗤(わら)ふ人(ひと)があるかも知(し)れぬ。が、其(それ)は秘密(ひみつ)がなかつた折(をり)のことで、若(も)し有(あ)つたら、其(それ)こそ大事(だいじ)だ。私(わたし)は寧(むし)ろ此不安(このふあん)を消(け)すために、私(そつ)と四畳半(でふはん)へ忍込(しのびこ)んだ。
背負揚 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
香気(にほひ)にしてからが然(さ)うで、石花菜(ところてん)を食べるのは、海の匂を味はひ、香魚(あゆ)を食べるのは淡水(まみづ)の匂を味はふので、今恁(か)うして茸を食べるのは、軈(やが)てまた山の匂を味はふのである。
茸の香 (新字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
『恁(か)う云つてね、金田君は身上話を聞いて呉れたお礼だからと、僕が止めるのも聞かずに、到頭(たうとう)三鞭酒(シヤンパンしゆ)を二本ばかり抜いた。流石(さすが)西洋通だけあつて葡萄酒だの、三鞭酒なぞの名前は委(くは)しいもんだ。』
一月一日 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
沈痛(ちんつう)な調子(てうし)で恁(か)う云ツて、友は其の幅(はゞ)のある肩(かた)を聳(そび)やかした。
虚弱 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
だから謝罪た、へん其樣な横柄な言草があるけえ、蹈みましたから、御免下さいましと云ふもんだ。何でえ、失敬しただあ。己あ其樣(そんな)に唐人言葉は知らねえ日本人なら日本の言葉で言へ、恁(か)う最う少し胸の透く樣な文句を
二十三夜 (旧字旧仮名) / 萩原朔太郎(著)
鄰家(となり)はと、穴(あな)から少(すこ)し、恁(か)う鼻(はな)の尖(さき)を出(だ)して、覗(のぞ)くと、おなじやうに、提灯(ちやうちん)を家族(みんな)で袖(そで)で包(つゝ)んで居(ゐ)る。魂(たましひ)なんど守護(しゆご)するやうに——
間引菜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花、泉鏡太郎(著)
奴等の顏を見ると、僕は恁(か)う妙に反抗心が昂(たか)まツて來て、見るもの聞くもの、何でも皆頭から茶化して見たい樣な氣持になるんだ。
漂泊 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
何(なに)かミハイル、アウエリヤヌヰチが云(い)ふたので有(あ)るが、直(すぐ)に皆(みな)掻消(かきき)えて了(しま)つた。恁(か)くてアンドレイ、エヒミチは永刧(えいごふ)覺(さ)めぬ眠(ねむり)には就(つ)いた。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
自分(じぶん)が勘次(かんじ)と相(あひ)知(し)つたのは十六の秋(あき)である。おつぎは恁(か)うして大人(おとな)らしく成(な)るであらうかと何時(いつ)になくそんなことを思(おも)つた。おつぎは十五であつた。
土 (旧字旧仮名) / 長塚節(著)
「まるで船着場(ふなつきば)のホテルのやうだね。いつでも恁(か)うかしら。」
微笑の渦 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
恁(か)くてぞありける。あゝ、日(ひ)は何時(いつ)ぞ、天(てん)より星(ほし)一(ひと)つ、はたと落(お)ちて、卵(たまご)の如(ごと)き石(いし)となり、其(そ)の水上(みなかみ)の方(かた)よりしてカラカラと流(なが)れ來(く)る。
妙齢 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
奴等の顔を見ると、僕は恁(か)う妙に反抗心が昂まツて来て、見るもの聞くもの、何でも皆頭から茶化して見たい様な気持になるんだ。
漂泊 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
自分(じぶん)に店(みせ)を張(は)つて註文(ちうもん)を取(と)るほどの資力(しりよく)はないまでも、同業(どうげふ)の許(もと)に雇(やと)はれて、給金(きふきん)を取(と)らうなら、恁(か)うした力業(ちからわざ)をするには當(あた)らぬ。
月夜車 (旧字旧仮名) / 泉鏡花、泉鏡太郎(著)
其夢といふのは恁(か)うで。——村で誰か死んだ。誰が死んだのか解らぬが、何でも老人だつた樣だ。そして其葬式が村役場から出た。
天鵞絨 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
成(な)りたけ遠(とほ)く離(はな)れて、向(むか)う側(がは)をお通(とほ)んなさい。何(なん)なら豫(あらかじ)め其(そ)の用心(ようじん)で、丁(ちやう)ど恁(か)うして人通(ひとゞほ)りはなし——構(かま)はず駈出(かけだ)したら可(い)いでせう……
艶書 (旧字旧仮名) / 泉鏡花、泉鏡太郎(著)
其夢といふのは恁(か)うで。——村で誰か死んだ。誰が死んだのか解らぬが、何でも老人(としより)だつた様だ。そして其葬式が村役場から出た。
天鵞絨 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
すぐ其(そ)の晩(ばん)、辻(つじ)の夜番(よばん)で、私(わたし)に恁(か)う言(い)つて、身(み)ぶるひをした若(わか)い人(ひと)がある。本所(ほんじよ)から辛(から)うじて火(ひ)を免(のが)れて避難(ひなん)をして居(ゐ)る人(ひと)だつた。
間引菜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花、泉鏡太郎(著)
『好い月!』恁(か)う富江が言つた。信吾は自ら嘲る樣な笑ひを浮べて、些(ち)と空を仰いだが別に興を催した風もない。ハヽヽと輕く笑つた。
鳥影 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
其の火は朝露(あさつゆ)に晃々(きらきら)と、霧を払つて、満山(まんざん)の木(こ)の葉(は)に映つた、松明は竜田姫(たつたひめ)が、恁(か)くて錦(にしき)を染(そ)むる、燃ゆるが如き絵の具であらう。
貴婦人 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
恁(か)うと、今朝俺の出社したのは九時半……否十時頃だつたが、それから三時間餘も恁う默つて居ると云ふ事はない。屹度話して居たのだ。
病院の窓 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
ドカリ——洗面所(せんめんじよ)の方(かた)なる、扉(どあ)へ立(た)つた、茶色(ちやいろ)な顔(かほ)が、ひよいと立留(たちどま)つてぐいと見込(みこ)むと、茶(ちや)の外套(ぐわいたう)で恁(か)う、肩(かた)を斜(はす)に寄(よ)つたと思(おも)ふと
銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花、泉鏡太郎(著)
恁(か)うと、今朝俺の出社したのは九時半……否(いや)十時頃だつたが、それから三時間余も恁う黙つて居ると云ふ事はない。屹度話して居たのだ。
病院の窓 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
其(それ)がさ、一件(けん)ぢやから耐(たま)らぬて、乗(の)ると恁(か)うぐら/\して柔(やはら)かにずる/\と這(は)ひさうぢやから、わつといふと引跨(ひんまた)いで腰(こし)をどさり。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花、泉鏡太郎(著)
この二三年は何か恁(か)う不安があつて、言はうと思ふことも遂(つい)人の前では言へなかつたりする様になつてゐたんですが……実に不思議です。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
……然(さ)うでないと、あの梟(ふくろふ)が唱(とな)へる呪文(じゆもん)を聞(き)け、寢鎭(ねしづま)つた恁(か)うした町(まち)は、ふは/\と活(い)きて動(うご)く、鮮麗(あざやか)な銀河(ぎんが)に吸取(すひと)られようも計(はか)られぬ。
月夜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花、泉鏡太郎(著)
恁(か)う何日も賣れないで居ると、屹度、自分が平家物語か何か開いて、『うれしや水鳴るは瀧の水日は照るとも絶えず、……フム面白いな。』
葬列 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
沢は恐入(おそれい)らずには居られなかつた。鳶(とび)の羽(はね)には託(ことづ)けても、此の人の両袖に、——恁(か)く、なよなよと、抱取(だきと)らるべき革鞄ではなかつたから。
貴婦人 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
何処か恁(か)うナポレオンの肖像画に肖通つた所のある顔立で、愛想一つ云はぬけれど、口元に絶やさぬ微笑に誰でも人好(ひとずき)がする。
病院の窓 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
「怒(おこ)らねえだ。が、何(なに)もはあ、自分(じぶん)では知(し)らねえちゆうだ。私(わし)も、あれよ、念(ねん)のために、燈(あかり)をくわんと明(あか)るくして、恁(か)う照(て)らかいて見(み)た。」
鑑定 (旧字旧仮名) / 泉鏡花、泉鏡太郎(著)
恁(か)うして毎朝水汲に來るのが何より樂しい。話の樣な繁華な所だつたら、屹度(きつと)恁(か)ういふ澄んだ美しい水などが見られぬだらうなどゝ考へた。
天鵞絨 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
半町(はんちやう)ばかり行(ゆ)くと、路(みち)が恁(か)う急(きふ)に高(たか)くなつて、上(のぼ)りが一(いつ)ヶ処(しよ)、横(よこ)から能(よ)く見(み)えた、弓形(ゆみなり)で宛(まる)で土(つち)で勅使橋(ちよくしばし)がかゝつてるやうな。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花、泉鏡太郎(著)
恁(か)うして毎朝水汲に来るのが何より楽しい。話の様な繁華な所だつたら、屹度恁ういふ澄んだ美しい水などが見られぬだらうなどゝ考へた。
天鵞絨 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
理學士(りがくし)は言掛(いひか)けて、私(わたし)の顏(かほ)を視(み)て、而(そ)して四邊(あたり)を見(み)た。恁(か)うした店(みせ)の端近(はしぢか)は、奧(おく)より、二階(にかい)より、却(かへ)つて椅子(いす)は閑(しづか)であつた——
人魚の祠 (旧字旧仮名) / 泉鏡花、泉鏡太郎(著)