“爐(ろ)” の例文
新字:炉
蝋燭はなかつたが、爐(ろ)からのぼんやりした光が、とき/″\、張り壁や、絨毯(じうたん)や、窓掛や、光つてゐるマホガニの家具を明かにした。
彼女(かのぢよ)が小使部屋(こづかひべや)の前(まへ)を通(とほ)りかゝつた時(とき)、大(おほ)きな爐(ろ)の炭火(すみび)が妙(めう)に赤(あか)く見(み)える薄暗(うすくら)い中(なか)から、子供(こども)をおぶつた内儀(かみ)さんが慌(あわ)てゝ聲(こゑ)をかけた。
悔 (旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
時(とき)に、先客(せんきやく)が一人(ひとり)ありまして爐(ろ)の右(みぎ)に居(ゐ)ました。氣高(けだか)いばかり品(ひん)のいゝ年(とし)とつた尼(あま)さんです。失禮(しつれい)ながら、此(こ)の先客(せんきやく)は邪魔(じやま)でした。
雪霊記事 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
爺(ぢい)やは御飯(ごはん)の時(とき)でも、なんでも、草鞋(わらぢ)ばきの土足(どそく)のまゝで爐(ろ)の片隅(かたすみ)に足(あし)を投(な)げ入(い)れましたが、夕方(ゆふがた)仕事(しごと)の濟(す)む頃(ころ)から草鞋(わらぢ)をぬぎました。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
餘程(よほど)の大火(おほび)を焚(た)かなければ、馬籠(まごめ)にて見(み)たる如(ごと)き跡(あと)を遺(のこ)すものでない。竈(かまど)とか、爐(ろ)とか、それ位(くらゐ)の火(ひ)の爲(ため)に出來(でき)たのでは恐(おそ)らくあるまい。
縁側附で爐(ろ)も切ってあって、都合が宜うごぜえます、其の奥の方も畳を敷けば八畳もありましょうか、直(すぐ)に折曲って台所になって居ります
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
床も天井も引剥(ひきはが)したまゝ、壁は落され、爐(ろ)の灰は掻き廻され、戸棚も箪笥(たんす)も引つくり返して、千兩箱の行方を搜した樣子です。
雪は降っても未(ま)だ宵である。入口の爐(ろ)を囲んでいた人々は、この声を聞いてばらばらと起(た)って来た。或(ある)者は手に洋燈(らんぷ)を持った。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
張昺(ちょうへい)謝貴(しゃき)の二人、入りて疾(やまい)を問うに、時まさに盛夏に属するに、王は爐(ろ)を囲み、身を顫(ふる)わせて、寒きこと甚(はななだ)しと曰(い)い、宮中をさえ杖(つえ)つきて行く。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
この貝塚(かひづか)の附近(ふきん)だとか、石器時代(せつきじだい)の人(ひと)が棲(す)んでゐた跡(あと)を發掘(はつくつ)する時(とき)は、をり/\石(いし)でもつて取(と)り圍(かこ)んだ爐(ろ)の跡(あと)だとか
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
もっと燭火(あかし)を持(も)て、家來共(けらいども)! 食卓(テーブル)を疊(たゝ)んでしまうて、爐(ろ)の火(ひ)を消(け)せ、餘(あま)り室内(ざしき)が熱(あつ)うなったわ。……あゝ、こりゃ思(おも)ひがけん好(よ)い慰樂(なぐさみ)であったわい。
木口を戸口から運んで来る者、そいつを中途で受けとる者、器をざるへ入れる者、それを戸口から持ち出す者、一方部屋の片隅では、火が爐(ろ)の中で燃えている。
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
押(おさ)へたりと云ふに左京は是を聞(きい)て大いに訝(いぶか)り我々は大雪を踏分(ふみわけ)寒(さむ)さを厭(いと)はず麓(ふもと)へ出て網(あみ)を張(はつ)ても骨折損(ほねをりぞん)して歸へりしに貴殿は内に居て爐(ろ)に煖(あた)り乍ら千兩程の大鳥を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
門から覗いてみれば、小使室らしい爐(ろ)のなかで、榾火(ほたび)があかあかと照っている。しめた、と思った。
酒徒漂泊 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
二つの武器のそばに懐中時計を置いて、ふたたびマコーレーを読み始めると、わたしの前の火は明かるく燃えて、犬は爐(ろ)の前の敷物の上に眠っているらしく寝ころんでいた。
突然、すては爐(ろ)にささった竹の火箸(ひばし)を手に取ると、唇に咥(くわ)えこんだと見る間に、あろうことかばりばりと上と下の白い前歯で噛み砕いた。歯と唇とから一面に鮮血が噴(ふ)いてはしった。
天なる爐(ろ)を出でそめし星に似たり。
春鳥集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
爐(ろ)をきれ 竈(かまど)をきづけ
艸千里 (旧字旧仮名) / 三好達治(著)
塞(ふさ)がれた爐(ろ)を前に
太陽の子 (旧字旧仮名) / 福士幸次郎(著)
「親分、溜飮が下がりましたぜ。あの二千五百兩といふ大金を入れた錢箱が三つ、左吉松(さきまつ)の死骸の下の、塞(ふさ)いだ爐(ろ)の下から出て來た時には」
この婦人は長い教室の爐(ろ)の側の末席の方に立つて——兩側に煖爐(だんろ)があつたから——默つて、まじめな顏をして、二列の生徒を見渡してゐた。
爺(ぢい)やは父(とう)さんの見(み)て居(ゐ)る前(まへ)で、爐邊(ろばた)にある太(ふと)い鐵(てつ)の火箸(ひばし)を取出(とりだ)しました。それで澁柿(しぶかき)に穴(あな)をあけました。栗(くり)を燒(や)くと同(おな)じやうにその澁柿(しぶかき)を爐(ろ)にくべました。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
ために、音信(おとづれ)を怠(おこた)りました。夢(ゆめ)に所(ところ)がきをするやうですから。……とは言(い)へ、一(ひと)つは、日(ひ)に増(ま)し、不思議(ふしぎ)に色(いろ)の濃(こ)く成(な)る爐(ろ)の右左(みぎひだり)の人(ひと)を憚(はゞか)つたのであります。
雪霊記事 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
唯(たゞ)、一箇所(かしよ)、丈餘(じやうよ)の貝層(かひそう)の下部(かぶ)から一二尺(しやく)の處(ところ)に、小石(こいし)で爐(ろ)の如(ごと)く圍(かこ)つた中(なか)で、焚火(たきび)をしたらしい形跡(けいせき)の個所(かしよ)が、半分(はんぶん)切(きり)くづされて露出(ろしゆつ)して居(ゐ)るのを見出(みいだ)した。
初め立戻り皆々爐(ろ)の端(はた)へ集まりぬ此時左京は大膳に向ひ貴殿の御異見(ごいけん)に隨(したが)はず我意(がい)に募(つのり)て參りしか此雪で往來には半人(はんにん)の旅客(りよかく)もなし夫ゆゑ諸方(しよはう)を駈廻(かけまは)り漸く一人の旅人(たびびと)を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
素燒(すや)きでありますけれども、黒(くろ)ずんだ茶色(ちやいろ)で爐(ろ)に燻(いぶ)されたのが多(おほ)いのです。そしてその土(つち)の質(しつ)も細(こま)かい砂(すな)や、時(とき)には大粒(おほつぶ)の砂(すな)がまじつてゐるために平均(へいきん)してをりません。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
爐(ろ)の右手にある化粧室のドアがあいて、その口からさらに老婆の形があらわれた。老婆はその手に二通の手紙を持っていた。また、そのうしろに跫音(あしおと)が聞こえるようであった。
ここの宿では、大きな鍋を爐(ろ)にかけて鍋めしを炊いていた。
瀞 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
懴悔の壇(だん)の香(かう)の爐(ろ)に信(しん)の心の
有明集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
さあ、一寸の間離れさせて下さいまし、もつとよく火をおこして、爐(ろ)を綺麗にしますから。どつさり火が燃えてるときにはお分りになつて?
「疊と疊の隙間に埃(ほこり)がハミ出して居るぢやないか——おや、爐(ろ)を切つてあるのか。若い者の癖に、炬燵(こたつ)でもしたんだらう」
あか/\と燃(も)える樂(たの)しさうな爐(ろ)の火(ひ)も、みんなが夕飯(ゆふはん)を食(た)べるさまも、庭(には)の梨(なし)の木(き)の下(した)からよく見(み)えました。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
昌黎(しやうれい)信(まこと)とせず、審(つまびらか)に其(そ)の仔細(しさい)を詰(なじ)れば、韓湘(かんしやう)高(たか)らかに歌(うた)つて曰(いは)く、青山雲水(せいざんうんすゐ)の窟(くつ)、此(こ)の地(ち)是(こ)れ我(わ)が家(いへ)。子夜(しや)瓊液(けいえき)を飱(そん)し、寅晨(いんしん)降霞(かうか)を咀(くら)ふ。琴(こと)は碧玉(へきぎよく)の調(てう)を彈(たん)じ、爐(ろ)には白珠(はくしゆ)の砂(すな)を煉(ね)る。
花間文字 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
さう言ふ浪之進は、總髮にチヤンチヤンコを着て、一刀を左脇の下に置き、爐(ろ)の中ではグラグラと粥を煮て居るのです。
その時(とき)は、四疊半(かこひ)ではありません。が、爐(ろ)を切(き)つた茶(ちや)の室(ま)に通(とほ)されました。
雪霊記事 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
する型の女ぢや無いのだよ。爐(ろ)の中には小判で五六十兩隱してあつたし、あの女は悧巧だから、外に何處かへ廻して利に利を生ませて居ることだらう
茶店(ちやみせ)のものも爐(ろ)を圍(かこ)んで、ぼんやりとして居(ゐ)るばかり。
雪の翼 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
だから綱田屋の主人の部屋には爐(ろ)が切つてある、——尤もあの五郎次郎といふのは、若い時の道樂が祟(たゝ)つてひどい疝氣(せんき)ださうで、夏でも時々は股火鉢で温める。
「いやはや、話にもならぬて、——親分が花火玉と鑑定したさうだが、全くそれに相違あるまい。爐(ろ)の中にあんな物を仕込まれては、氣をゆるして茶も飮めない有樣だ」
「すつかり氣が轉倒して見ずに居りますが、師匠の居間の、塞いだ爐(ろ)の中にあると思ひます」
型の如く明窓淨几(めいさうじやうき)、側には俳書らしいのを入れた本箱、前の爐(ろ)には釜がチンチンたぎつて、俳畫の細物の一軸が後ろにあると言つた道具立てゞ、主人の鶯谷(あうこく)は茶色の頭巾を深々と冠り
「いや、もう大丈夫だ。追つ拂つても歸る氣遣はないが、——第一に訊き度いのは戸締りだ。この家は恐ろしく嚴重さうに見えるが、外から入つて來て、花火玉を爐(ろ)に仕込む隙があるのかな」
「この爐(ろ)の中は見なかつたのか、兼吉兄哥(あにい)」