“毛(げ)” の例文
「たいへんに精(せい)が出(で)るな。」と、月(つき)はいいました。馬追(うまお)いはびっくりして、二本(ほん)の長(なが)いまゆ毛(げ)を動(うご)かして、声(こえ)のした空(そら)を仰(あお)ぎながら
酒屋のワン公 (新字新仮名) / 小川未明(著)
目は細く、常に、日光をおそれるごとく眩(まばゆ)そうであり、顔じゅう、茶色の生(う)ぶ毛(げ)を持ち、笑うと不気味な歯並びが刃物のように真白だ。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
女(おんな)にもしてみたいほどの色(いろ)の白(しろ)い児(こ)で、優(やさ)しい眉(まゆ)、すこし開(ひら)いた脣(くちびる)、短(みじか)いうぶ毛(げ)のままの髪(かみ)、子供(こども)らしいおでこ——すべて愛(あい)らしかった。
伸び支度 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
後(おく)れ毛(げ)を掻き上げるか弱い手、ホッと溜息を吐(つ)く様子までが、跫音(あしおと)を忍ばせたガラッ八には、手に取るごとく見えるのです。
又(また)その眼(め)の中(なか)に入(い)りさうな後(おく)れ毛(げ)を拂(はら)ひ除(の)けやうとして其(そ)の頭(あたま)を振(ふ)つてる所(ところ)を見(み)ました——それから又(また)一心(しん)に何(なに)か聽(き)いてるやうにも見(み)えました
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
間調子(まぢょうし)に合わせて、その段の欄干を、軽く手を打ちて、機織の真似し、次第に聞惚(ききほ)れ、うっとりとなり、おくれ毛(げ)はらはらとうなだれつつ仮睡(いねむ)る。
多神教 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それがやや俯向(うつむ)きになった、血色の好(い)い頬に反射している。心もち厚い唇の上の、かすかな生(う)ぶ毛(げ)にも反射している。
母 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
春枝夫人(はるえふじん)もいと晴々(はれ/″\)しき顏色(がんしよく)で、そよ/\と吹(ふ)く南(みなみ)の風(かぜ)に鬢(びん)のほつれ毛(げ)を拂(はら)はせながら餘念(よねん)もなく海上(かいじやう)を眺(なが)めて居(を)る。
女なんかでも顔はパヤパヤとした生(う)ぶ毛(げ)だらけで身体(からだ)中は鳥の毛を挘(むし)ったようにブツブツだらけでゲス。傍へ寄ると動物園臭くって遣り切れませんがね。
人間腸詰 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
近辺の台所を脅かしていた大きな黒猫が、縁の下に竹や木材を押し込んである奥のほうで二匹の子を育てていた。一つは三毛でもう一つはきじ毛(げ)であった。
ねずみと猫 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
白(しろ)い手拭(てぬぐひ)とそれから手拭(てぬぐひ)の外(そと)に少(すこ)し覗(のぞ)いた後(おく)れ毛(げ)の歩(ある)く度(たび)にふら/\と動(うご)くのもしみ/″\と冷(つめ)た相(さう)であつた。
土 (旧字旧仮名) / 長塚節(著)
それを事務長もどうすることもできなかった。葉子は三人の前に来ると軽く腰をまげて後(おく)れ毛(げ)をかき上げながら顔じゅうを蠱惑的(こわくてき)なほほえみにして挨拶(あいさつ)した。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
然し乍(なが)ら後(おく)れ毛(げ)があつても咎(とが)める事のない気楽な日本へ早く帰りたいと思つて居る。(八月十八日巴里にて)
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛、与謝野晶子(著)
痩せこけた頬へ櫛卷きにした髮の後(おく)れ毛(げ)が振りかゝつて、大きな圓い眼は血走つてゐるやうに思はれた。
天満宮 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
お初が、怒りと恋慕とを新たにして、後(おく)れ毛(げ)を前歯で噛みしめたり、吐き出したりしているところへ、また、縄梯子の軋(きし)む音がして、木ぶすまが、開け閉(た)てされ
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
と云うのは、それが何あろうか、巧妙な鬘(かつら)であって、下は半白の、疎らな短(みじ)か毛(げ)であった。そうして、屍体の手に、一枚の揉みくちゃな紙が握られていたのである。
地虫 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
鼻(はな)の下だの、眉毛(まゆげ)の辺だのには、逞(たくま)しいむく毛(げ)が茫々(ぼう/\)と生えて、人間の顔のような感じはしない。
小僧の夢 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
經文(きやうもん)の讀誦(どくじゆ)に抹香(まつかう)くさくなりて、娘(むすめ)らしき匂(にほ)ひは遠(とほ)かるべしと思(おも)ひしに、其(その)やうの氣(け)ぶりもなく、柳髮(りうはつ)いつも高島田(たかしまだ)に結(むす)ひ上(あ)げて、後(おく)れ毛(げ)一(ひ)と筋(すぢ)えりに亂(み)ださぬ嗜(たしな)みのよさ
暁月夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
白鳥たちははね毛(げ)をさかだて、つばさを帆(ほ)のようにひろげて、首を高くのばしました。
それと向い合って、女は後(おく)れ毛(げ)をかき上げて、恥かしそうに横を向いていましたが
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
どんぐり眼(まなこ)に団子(だんご)っ鼻、赤ら顔に縮れっ毛(げ)、大兵肥満(だいひょうひまん)の大女なれども鬼も十八の娘盛りとて薄黒い顔に白粉(おしろい)をコテと塗り、太き地声を細く殺して「伯母(おば)さん今日(こんにち)は」と妙に気取って歩み来る。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
女商人(をんなあきんど)はかう言つて後(おく)れ毛(げ)を撫であげた。そして自分でも幾年か往時(むかし)、男の膝にもたれて、「あなたが恋しいわ。」と言つた以来(このかた)、これほど真実(ほんとう)の事を言つた事は無かつたと思つたらしかつた。
アレあの様に乱(ほつ)れ毛(げ)が頬に掛るところは、なんとも云えませんな。
悪因縁の怨 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
むく毛(げ)がついついとんでゆく
どんたく:絵入り小唄集 (新字旧仮名) / 竹久夢二(著)
ちぢれ毛(げ)の痩犬(やせいぬ)見えて
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
もし、この、まつ毛(げ)の長(なが)い美(うつく)しい娘(むすめ)さんが、自分(じぶん)を買(か)って、どこかへ連(つ)れていってくださったら、自分(じぶん)は、どんなにしあわせだかしれない。
ガラス窓の河骨 (新字新仮名) / 小川未明(著)
ほかに、清子の鏡とか、尊氏の生(う)ぶ毛(げ)だとか、肌着だとか、宝物めいた物も幾多並んでいたが、それらはみんなよろしくない。
随筆 私本太平記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あでやかに青年を見返りながら、小指をなんともいえないよい形に折り曲げた左手で、鬢(びん)の後(おく)れ毛(げ)をかきなでるついでに、地味(じみ)に装って来た黒のリボンにさわってみた。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
其(そ)の、膝(ひざ)に萌黄(もえぎ)の袖(そで)を折掛(をりか)けて、突俯(つゝぷ)した方(はう)は、絞(しぼり)か鹿(か)の子(こ)か、ふつくりと緋手柄(ひてがら)を掛(か)けた、もつれ毛(げ)はふさ/\と搖(ゆ)れつつも、煙(けむり)を分(わ)けた鬢(びん)の艶(つや)、結綿(ゆひわた)に結(ゆ)つて居(ゐ)た。
魔法罎 (旧字旧仮名) / 泉鏡花、泉鏡太郎(著)
生(う)ぶ毛(げ)で包まれた赤い耳をホンノリと並べて、長い睫毛を正しく、楽しそうに伏せている少女の寝顔が、眼に見えぬくらい静かに、静かに、悲しみの表情にかわって行くのであった。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
ある日妻がどうしてつかまえたかきじ毛(げ)の子猫を捕えて座敷へ連れて来た。白い前掛けですっかりからだを包んで首だけ出したのをひざの上にのせて顎(あご)の下をかいてやったりしていた。
ねずみと猫 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
と、そよと吹(ふ)く海風(かいふう)に、鬢(びん)のほつれ毛(げ)を拂(はら)はせながら
お浜は後(おく)れ毛(げ)をキリリと噛(か)み切って
春日(かすが)の宮(みや)の使(つか)ひ姫(ひめ)、秋(あき)ふた毛(げ)して
白羊宮 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫、薄田淳介(著)
どこの百姓(ひゃくしょう)の女房(にょうぼう)であろうか、櫛巻(くしまき)にしたほつれ毛(げ)をなみだにぬらして、両袖(りょうそで)を顔(かお)にあてたまま濠にむかってさめざめと泣(な)いているようす……
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そよ風(かぜ)が、その人(ひと)の、長(なが)いたもとをかえし、ほつれ毛(げ)をふいて、いいにおいをおくりました。子(こ)どもは、やさしいすがたが、したわしくなりました。
風七題 (新字新仮名) / 小川未明(著)
引添(ひきそ)つて、手拭(てぬぐひ)を吉原(よしはら)かぶりで、艷(えん)な蹴出(けだ)しの褄端折(つまぱしより)をした、前髮(まへがみ)のかゝり、鬢(びん)のおくれ毛(げ)、明眸皓齒(めいぼうかうし)の婦人(ふじん)がある。しつかりした、さかり場(ば)の女中(ぢよちう)らしいのが、もう一人(ひとり)後(あと)についてゐる。
露宿 (旧字旧仮名) / 泉鏡花、泉鏡太郎(著)
薄霧(うすぎり)北の山の根に消えやらず、柿の実撒砂(まきすな)にかちりと音して宿夢(しゅくむ)拭うがごとくにさめたり。しばらくの別れを握手に告ぐる妻が鬢(びん)の後(おく)れ毛(げ)に風ゆらぎて蚊帳(かや)の裾ゆら/\と秋も早や立つめり。
東上記 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
そして列車が動かなくなった時、葉子はその人のかたわらにでもいるように恍惚(うっとり)とした顔つきで、思わず知らず左手を上げて——小指をやさしく折り曲げて——軟(やわ)らかい鬢(びん)の後(おく)れ毛(げ)をかき上げていた。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
そのとちゅうで可児才蔵(かにさいぞう)は、自分の目のまえに立ってゆく、少しちぢれ毛(げ)のある男の襟(えり)もとを見つめながら
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「なにをぼんやりしているんだい。達(たっ)ちゃんは、実(み)を拾(ひろ)わないの。」と、勇蔵(ゆうぞう)は、棒(ぼう)きれを枝(えだ)に向(む)かって投(な)げつけると、雨(あめ)のように、白(しろ)いうぶ毛(げ)のある円(まる)い実(み)が
僕はこれからだ (新字新仮名) / 小川未明(著)
と認(みと)めたが、萎々(なえ/\)として、兩方(りやうはう)が左右(さいう)から、一人(ひとり)は一方(いつぱう)の膝(ひざ)の上(うへ)へ、一人(ひとり)は一方(いつぱう)の、おくれ毛(げ)も亂(みだ)れた肩(かた)へ、袖(そで)で面(おもて)をひたと蔽(おほ)うたまゝ、寄縋(よりすが)り抱合(いだきあ)ふやうに、俯伏(うつぶ)しに成(な)つて惱(なや)ましげである。
魔法罎 (旧字旧仮名) / 泉鏡花、泉鏡太郎(著)
まゆ毛(げ)の長(なが)い、つえをついている、白髪(しらが)の魔法使(まほうつか)いは、うやうやしく、頭(あたま)を下(さ)げていいますには
木と鳥になった姉妹 (新字新仮名) / 小川未明(著)
衣紋(えもん)を細(ほそ)く、圓髷(まげ)を、おくれ毛(げ)のまゝ、ブリキの罐(くわん)に枕(まくら)して、緊乎(しつか)と、白井(しらゐ)さんの若(わか)い母(かあ)さんが胸(むね)に抱(だ)いた幼兒(をさなご)が、怯(おび)えたやうに、海軍服(かいぐんふく)でひよつくりと起(お)きると、ものを熟(じつ)と視(み)て、みつめて
露宿 (旧字旧仮名) / 泉鏡花、泉鏡太郎(著)
丁(ちやう)ど瞳(ひとみ)を離(はな)して、あとへ一歩(ひとあし)振向(ふりむ)いた處(ところ)が、川(かは)の瀬(せ)の曲角(まがりかど)で、やゝ高(たか)い向岸(むかうぎし)の、崖(がけ)の家(うち)の裏口(うらぐち)から、巖(いは)を削(けづ)れる状(さま)の石段(いしだん)五六段(ごろくだん)を下(お)りた汀(みぎは)に、洗濯(せんたく)ものをして居(ゐ)た娘(むすめ)が、恰(あたか)もほつれ毛(げ)を掻(か)くとて
城崎を憶ふ (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
白(しろ)いとげのようなうぶ毛(げ)をもった葉(は)がしげりあったのでありました。
遠くで鳴る雷 (新字新仮名) / 小川未明(著)
ふと明(あ)いた窓(まど)へ横向(よこむ)きに成(な)つて、ほつれ毛(げ)を白々(しろ/″\)とした指(ゆび)で掻(か)くと、あの花(はな)の香(か)が強(つよ)く薫(かを)つた、と思(おも)ふと緑(みどり)の黒髮(くろかみ)に、同(おな)じ白(しろ)い花(はな)の小枝(こえだ)を活(い)きたる蕚(うてな)、湧立(わきた)つ蕊(しべ)を搖(ゆる)がして、鬢(びんづら)に插(さ)して居(ゐ)たのである。
人魚の祠 (旧字旧仮名) / 泉鏡花、泉鏡太郎(著)
片手(かたて)におくれ毛(げ)を拂(はら)ひもあへず……頷(うなづ)いて……莞爾(につこり)した。
印度更紗 (旧字旧仮名) / 泉鏡花、泉鏡太郎(著)
卯(う)の花(はな)や威(おど)し毛(げ)ゆらり女武者(をんなむしや)。
甲冑堂 (新字旧仮名) / 泉鏡花、泉鏡太郎(著)