“矢(や)” の例文
為朝(ためとも)は筋(すじ)を抜(ぬ)かれて弓(ゆみ)は少(すこ)し弱(よわ)くなりましたが、ひじがのびたので、前(まえ)よりもかえって長(なが)い矢(や)を射(い)ることができるようになりました。
鎮西八郎 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
「君の説も一応は道理(もっとも)の様(よう)に聞えるが、五個の庄の住民は矢(や)はり普通の人間で、決して𤢖や山男の類(たぐい)では無いと云うじゃアないか。」
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
遠(とお)い、遠(とお)い、昔(むかし)のこと、ある武士(ぶし)が、この浜(はま)でかもめを射(い)ました。しかし、矢(や)は、すこし外(はず)れて、片方(かたほう)の翼(つばさ)を傷(きず)つけたばかしです。
はまねこ (新字新仮名) / 小川未明(著)
とにかく今の少年と一手を争い、次にこの先生のお手の中(うち)を拝見するも一興であろうと、竜之助は矢(や)も楯(たて)もたまらなくなりました。
しかしこれから紀州の木本(きのもと)から新宮までの汽車は通じていない。嶮峻矢(や)ノ川(こ)峠をこえてゆくのだ。Kさん、Oさんなどバスで先発。
随筆 新平家 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
おい昨夜(ゆうべ)枕元(まくらもと)で大(おほ)きな音(おと)がしたのは矢(や)つ張(ぱり)夢(ゆめ)ぢやなかつたんだ。泥棒(どろぼう)だよ。泥棒(どろぼう)が坂井(さかゐ)さんの崖(がけ)の上(うへ)から宅(うち)の庭(には)へ飛(と)び下(お)りた音(おと)だ。
門 (旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
私(わたし)も矢(や)つ張(ぱ)りあのSさんのやうに皆(みな)さんにもうお訣(わか)れです、でもね私(わたし)は今(いま)、大(おほ)きな大(おほ)きな丘陵(きうりよう)のやうに、安心(あんしん)して横(よこ)たはつてゐますのよ。
彼女こゝに眠る (旧字旧仮名) / 若杉鳥子(著)
風呂(ふろ)を焚(た)いてゐましてね、何(なに)か、嗅(か)ぐと矢(や)つ張(ぱ)り石炭(せきたん)でしたが、何(なん)か、よくきくと、たきつけに古新聞(ふるしんぶん)と塵埃(ごみ)を燃(も)したさうです。
十六夜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花、泉鏡太郎(著)
その時、空からヒュウと矢(や)のように降(お)りて来たものがあります。ホモイは立ちどまって、ふりかえって見ると、それは母親のひばりでした。
貝の火 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
棹の上に取り付けてある矢(や)の羽型(はがた)の風車が、これも彩色を無くしたまま、時折り、あるか無いかの風を受けて廻転しかけては
空を飛ぶパラソル (新字新仮名) / 夢野久作(著)
品子はこの奇妙な出来事が何を意味するかを、よく知っていた「赤い蠍」は殺人鬼の白羽(しらは)の矢(や)であった。世にも恐ろしい死の宣告であった。
妖虫 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「ようし」と言いながら、かねて大神からいただいて来た弓(ゆみ)と矢(や)を取り出して、いきなりそのきじを射殺してしまいました。
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
仕出たり光陰(くわういん)矢(や)の如く享保(きやうほ)も七年とは成ぬ吉之助も當年(たうねん)は十八歳と成けり夫婦相談(さうだん)して當年の内には吉之助へも云聞(いひきか)せ良辰(りやうしん)を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
矢(や)っ張(ぱり)お玉の方が別品だなと思うと同時に、心に愉快と満足とを覚えて、暫く足を橋の上に駐(と)めて、芸者の後影(うしろかげ)を見送った。
雁 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
矢(や)がすりの袷(あはせ)に、赤(あか)の帶(おび)の竪矢(たてや)の字(じ)を背中(せなか)に負(お)うた侍女(じぢよ)が、次(つぎ)の間(ま)に手(て)を支(つか)へて、キッパリと耳(みゝ)に快(こゝろよ)い江戸言葉(えどことば)で言(い)つた。
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
其以上(それいじやう)、私(わたし)の詰問(きつもん)の矢(や)の根(ね)は通(とほ)らぬ。通(とほ)らぬ処(ところ)に暗(くら)い不安(ふあん)の影(かげ)が漂(たゞよ)うてゐるのであるが、影(かげ)は影(かげ)で、一歩(ぽ)も私(わたし)の足迹(そくせき)を容(い)るゝを許(ゆる)さぬのである。
背負揚 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
と、ちっちゃい木橋(もくきょう)があった。幅三尺、長さ五尺、川には水なんか流れていない。でも矢(や)っ張(ぱ)り渡らなければならない。
奥さんの家出 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
其(そ)れの徳義(とくぎ)は——「廋(かく)すより露(あら)はるゝはなし」——尚(な)ほ言(い)ひ換(か)へれば——「外見(ぐわいけん)を飾(かざ)るな、幾(いく)ら體裁(ていさい)ばかり繕(つくろ)つても駄目(だめ)だ、蛙(かはづ)の子(こ)は矢(や)ツ張(ぱり)蛙(かはづ)さ」
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
といったが、てんで耳もかさず、矢(や)ノ倉(くら)から毛利(もうり)の屋敷のほうへ曲り、横丁をまわりくねりしたすえ、浜町(はまちょう)二丁目の河岸っぷちに近いところへ出た。
家を出てから四日目である、早くるすいの友の顔を見たい、帰心(きしん)矢(や)のごとく、午後の三時ごろにはもう家をさること一マイルのところへやってきた。
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
『はてさて、妙(めう)だぞ、あれは矢(や)ツ張(ぱり)滊船(きせん)だわい、して見(み)ると今月(こんげつ)の航海表(かうかいへう)に錯誤(まちがい)があつたのかしらん。』と言(い)ひつゝ、仰(あほ)いで星影(ほしかげ)淡(あは)き大空(おほぞら)を眺(なが)めたが
私(わたし)は七八歳(しちはつさい)の少年時代(しようねんじだい)から、昔(むかし)の人(ひと)の作(つく)つた石(いし)の矢(や)の根(ね)などを集(あつ)めて喜(よろこ)んだのでありましたが、その頃(ころ)私(わたし)は石(いし)の矢(や)の根(ね)は人間(にんげん)の作(つく)つたものではなくて
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
友染(いうぜん)の着物に白茶錦(しらちやにしき)の帯を矢(や)の字(じ)結(むす)びにして、まだ小い頃から蝶々髷(てふ/\まげ)やら桃割(もゝわれ)を結(ゆ)つて、銀の薄(すゝき)の簪(かんざし)などを挿して
私の生ひ立ち (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
バッターボックスにいる星野(ほしの)がそう思うのと同時に、投手は一塁(るい)へ矢(や)のような球(たま)を送った。あぶない。岩田(いわた)は、すなけむりをあげて、塁(るい)へすべりこんだ。
星野くんの二塁打 (新字新仮名) / 吉田甲子太郎(著)
「矢(や)っ張(ぱ)り私、帰った方が好(い)いわ。あんた怒りゃしないわね。又来るには泊らない方が出好いもの、ね」
白蛇の死 (新字新仮名) / 海野十三(著)
とうとう矢(や)も楯(たて)もたまらなくなって、オウヴア・シュウズを穿(は)いた儘(まま)、何度も他の患者や看護婦に見つかりそうになっては自分の病室に引き返したりしていたが
菜穂子 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
そこで、すぐさま、ペール・オーラのところへ矢(や)のように飛んでいきました。そしてぼっちゃんのとなりにすわって、うれしそうに、からだをこすりつけました。
あたし、此頃になってつくづく思うのだけれど、お兄様、矢(や)っ張(ぱ)し偉いわね。お兄様の手紙で、喬子は、自分の気持をかなりハッキリと解剖することが出来ました。
偽悪病患者 (新字新仮名) / 大下宇陀児(著)
そう思うと私は矢(や)も楯(たて)もたまらなくなって、そっと魔術を使いながら、決闘でもするような勢いで
魔術 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
角器の上(うへ)に畫きたるは猪の牙を摩り减らして作(つく)りたる矢(や)の根形(ねかた)の利噐(りき)なり。此品(このしな)は常陸河内郡椎塚より出でたるものなるが是(これ)と同樣(どうやう)の品(しな)は大森貝塚よりも發見(はつけん)されたり。
コロボックル風俗考 (旧字旧仮名) / 坪井正五郎(著)
一切(いつさい)衆生(しゆうじやう)すて物(もの)に、我(わが)まヽらしき境界(きやうがい)こヽろには涙(なみだ)を呑(の)みて、憂(う)しや廿歳(はたち)のいたづら臥(ぶし)、一念(ねん)かたまりて動(うご)かざりけるが、岩(いは)をも徹(とほ)す情(なさけ)の矢(や)の根(ね)に敏(さとし)がこと身(み)にしみ初(そめ)て
暁月夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
自分でかいた画が、今ケョルンの博覧会に出してあるとか云って、その天然色写真(オートクローム)を見せてくれたが、矢(や)っ張(ぱ)り先生みたいに、細かい筆づかいで、マロヤの秋が画いてある。
スウィス日記 (新字新仮名) / 辻村伊助(著)
その出来栄(できばえ)がよかったとして、後藤氏の立場はどうなるか……こう思うと、もう私は矢(や)も楯(たて)もたまらなくなって、この事は是非とも解決しなければならないと心を決し、その晩
お皆は矢(や)も楯(たて)もたまらぬ心持でした。お濱可愛さとそれを慕(した)ひ寄る吉三郎のいぢらしさ。
激(はげ)しい昂奮(こうふん)から冷(さ)めた私(わたくし)は、もちろん私(わたくし)の守護霊(しゅごれい)に向(むか)っていろいろと質問(しつもん)の矢(や)を放(はな)ち、それでも尚(な)お腑(ふ)に落(お)ちぬ個所(ところ)があれば、指導役(しどうやく)のお爺様(じいさま)にも根掘(ねほ)り葉掘(はほ)り問(と)いつめました。
思ひがけなき雪の夜に御封(ごふう)と祖師(そし)の利益(りやく)にて、不思議と命(いのち)助(たす)かりしは、妙法蓮華経(めうほふれんげきやう)の七字より、一時(じ)に落(おと)す釜(かま)ヶ淵(ふち)、矢(や)を射(い)る水より鉄砲(てつぱう)の肩を擦(こす)つてドツサリと、岩間(いはま)に響(ひゞ)く強薬(つよぐすり)
そうだ、そんなよけいなことを考えないためにも、俺はまずあの女に逢わなければならない。そう思った時、彼はもう矢(や)も楯(たて)もたまらなくなって、すぐに支度をして宿を飛びだした。
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
と、擬(じつ)と横(よこ)つ腹(ぱら)を押へてみたが、矢(や)つ張(ぱり)可笑しくて堪らなかつた。新聞で見ると、国民党の犬養さんも吹き出したさうだし、京都大学の織田博士も笑つてゐる。真面目な仁保(にほ)博士などは
風が陸地(りくち)の上をビュウビュウふきまくっています。雲は矢(や)のようにはやくとんでいます。日がくれかかって、あたりがくらくなってきました。木(こ)の葉(は)が、木からバラバラとおちてきました。
矢(や)の走ることは弓の力、雲のゆくことは龍のちから、男のしわざは女の力なり。いま富木(どき)どの、これへおわたりある事、尼御前(あまごぜん)の御力なり、けぶりをみれば火をみる、あめをみれば龍(りう)をみる。
己は押し返して二の矢(や)を放(はな)った。するとお嬢様は再び鼻先でせゝら笑って
小僧の夢 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
男(をとこ)もさすがに少(すこ)し心(こゝろ)を動(うご)かされたけれども、まだどうあつても結婚(けつこん)などの出來(でき)る樣(やう)な身(み)の上(うへ)でないので、仕樣(しやう)がないから葉書(はがき)を取(と)りツぱなしで、打(う)つちやらかしておいた。所(ところ)が葉書(はがき)は矢(や)つぱり來(く)る。
ハガキ運動 (旧字旧仮名) / 堺利彦(著)
さっきから感じていた何か知らぬ不安は、矢(や)ッ張(ぱ)り事実だったのだ。
鱗粉 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
安政(あんせい)年間の事であった。両国(りょうごく)矢(や)の倉(くら)に栄蔵(えいぞう)と云う旅商人(あきんど)があった。
沼田の蚊帳 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
その声につれて弾(だん)ずるびわの音は、また縦横(じゅうおう)につき進む軍船(ぐんせん)の音、矢(や)のとびかうひびき、甲胄(かっちゅう)の音、つるぎの鳴(な)り、軍勢(ぐんぜい)のわめき声、大浪(おおなみ)のうなり、壇(だん)ノ浦(うら)合戦(かっせん)そのままのありさまをあらわしました。
壇ノ浦の鬼火 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
「あなたも矢(や)つ張(ぱ)り人間なのか、ジエィン? 確かにさうなの?」
殊(こと)に英国では矢(や)の根石(ねいし)が同様の目的に用ひられてある。
毒と迷信 (新字旧仮名) / 小酒井不木(著)
でも、矢(や)っ張(ぱり)、わたしにはその町々がなつかしい……
雷門以北 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
「矢(や)を取ってきましょう」
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
ふりくる矢(や)だまのただ中(なか)を
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)