“他(た)” の例文
小酒井不木氏の探偵小説は、専門の智識を根底とし、そこへ鋭い観察眼を加え、凄惨酷烈の味を出した点で、他(た)に殆ど匹儔(ひっちゅう)を見ない。
大衆物寸観 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
すべての公開図書館で、管理者が頭を悩ますものは、図書の購入(かひいれ)や、保存ばかりではない、その他(た)に図書の消毒といふ一大事がある。
かくては今日東京市中の寺院にして輪奐(りんかん)の美人目(じんもく)を眩惑せしむるものは僅に浅草の観音堂(かんのんどう)音羽護国寺(おとわごこくじ)の山門(さんもん)その他(た)二、三に過ぎない。
が、もしこれが他(た)の所(ところ)においてはどうであろうか、公衆(こうしゅう)と、新聞紙(しんぶんし)とは必(かなら)ずかくの如(ごと)き監獄(バステリヤ)は、とうに寸断(すんだん)にしてしまったであろう。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
勘次(かんじ)はそれでも他(た)に分別(ふんべつ)もないので仕方(しかた)なしに桑畑(くはばたけ)を越(こえ)て南(みなみ)へ詑(わび)を頼(たの)みに行(い)つた。彼(かれ)は古(ふる)い菅笠(すげがさ)を一寸(ちよつと)頭(あたま)へ翳(かざ)して首(くび)を蹙(ちゞ)めて行(い)つた。
土 (旧字旧仮名) / 長塚節(著)
阿諛(あゆ)し、哀願し、心身を他(た)の蹂躙(じゅうりん)に委せて反抗の気力も失せはて、気息また奄々(えんえん)たるもの、重なり重なり乗り越え、飛び越ゆるもの
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
見(み)ればそこら中(じゅう)が、きれいな草地(くさち)で、そして恰好(かっこう)の良(よ)いさまざまの樹草(じゅそう)……松(まつ)、梅(うめ)、竹(たけ)、その他(た)があちこちに点綴(てんせつ)して居(い)るのでした。
蟠「そうよ、内証(ないしょう)で遊びに往っている金太夫に遇うまで貴公は他(た)へ往って、赤い切れを掛けた女を抱いて寝て居(お)れば百金は才覚する」
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「美(うつく)しいお姫(ひめ)さまがいられて、いい音楽(おんがく)の音色(ねいろ)が、夜(よる)も昼(ひる)もしているということだ。」と、また他(た)の一人(ひとり)の旅人(たびびと)がいっていました。
お姫さまと乞食の女 (新字新仮名) / 小川未明(著)
これも、偉(えら)い婦人(ふじん)の傳記(でんき)の通(とほ)り、著者(ちよしや)も讀者(どくしや)も婦人(ふじん)だといふ事(こと)は、必(かなら)ずしも、他(た)の書物(しよもつ)よりも推奬(すゐしやう)すべき理由(りいう)にはなりさうもない。
読書の態度 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
これからさき生かして置いてくれるなら、己は決して他(た)の人間を物の言えぬ着物のように、または土偶(でく)か何かのように扱いはせぬ。
類品(るゐひん)は他(た)より出(い)でたれど此所(ここ)に掲(か)げたるものは武藏荏原郡大森貝塚より出でたるなり。骨器の類は此他種々有(あ)れど煩(はん)を厭(いと)ひて記(しる)さず
コロボックル風俗考 (旧字旧仮名) / 坪井正五郎(著)
至極(しごく)上手の女にあらざれば此おはたやを建(たつ)る事なければ、他(た)の婦女(ふぢよ)らがこれを羨(うらやむ)事、比諭(たとへ)ば階下(かいか)にありて昇殿(しようでん)の位(くらゐ)をうらやむがごとし。
氏が辞職と共に俳優を廃(や)めて仕舞(しま)へば永久此(この)恩給に浴する事が出来るが、他(た)の劇場へ出れば十八万円は一切没収される規定なのである。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛、与謝野晶子(著)
巡査は進んで熊笹を掻分(かきわ)けると、年の頃は五十ばかりの坑夫体(てい)の男が、喉を突かれて倒れていた。巡査も驚いた。他(た)の人々も駈集(かけあつま)った。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
其處(そこ)は乘組人(のりくみにん)の御勝手(ごかつて)次第(しだい)、他(た)の區劃(くくわく)は彈藥(だんやく)や飮料(いんれう)や鑵詰(くわんづめ)や乾肉(ほしにく)や其他(そのほか)旅行中(りよかうちう)の必要品(ひつえうひん)を貯(たくわ)へて置(お)く處(ところ)で、固定旅櫃(こていトランク)の形(かたち)をなして居(を)る。
と崩(くず)れたのはお小姓(こしょう)とんぼである。万千代(まんちよ)をはじめ余一(よいち)その他(た)のもの、試合(しあい)がおわると、いっせいにもとの幕(まく)うちへ、引きあげてゆく。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それで、いつか「ベンゲットの他(た)あやん」と綽名がつき、顔は売ったが、そのため敬遠されて商売のモンゴ屋ははやらなかった。
わが町 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
そは両三日前妹が中元(ちゅうげん)の祝いにと、他(た)より四、五円の金をもらいしを無理に借り受け、そを路費(ろひ)として、夜半(やはん)寝巻のままに家を脱(ぬ)け出(い)で
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
われいまだ他(かれ)を見しことなければ、もし過失(あやま)ちて他(た)の犬を傷(きずつ)け、後の禍(わざわい)をまねかんも本意(ほい)なしと、案じわづらひてゐけるほどに。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
電氣(でんき)の一極(きよく)を活字(くわつじ)と結(むす)び付(つ)けて置(お)いて、他(た)の一極(きよく)を紙(かみ)に通(つう)じて、其紙(そのかみ)を活字(くわつじ)の上(うへ)へ壓(お)し付(つ)けさへすれば、すぐ出來(でき)るのだと小六(ころく)が云(い)つた。
門 (旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
この他(た)美登利池(みどりがいけ)、千歳谷(せんざいだに)——と、びしょびしょと冷く読んでいると、しばらく降止(ふりや)んで、ひっそりしていたのが急にぱらぱらと霰(あられ)になった。
甲乙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それと同時(どうじ)に地震波(ぢしんぱ)は地球内部(ちきゆうないぶ)の方向(ほうこう)にも進行(しんこう)して反對(はんたい)の方面(ほうめん)に現(あらは)れ、場合(ばあひ)によつては地球(ちきゆう)の表面(ひようめん)で反射(はんしや)して再(ふたゝ)び他(た)の方面(ほうめん)に向(むか)うのもある。
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
おや/\と思(おも)ひながら、猶(なほ)念(ねん)を入(い)れて土(つち)を取(と)つて見(み)ると、把手(とつて)の一部(ぶ)のみ缺(か)けて他(た)は完全(くわんぜん)なる土瓶(どびん)であつた。(第三圖イ參照)
すなわちその路(みち)とは他(た)なし、今の学校を次第(しだい)に盛(さかん)にすることと、上下士族相互(あいたがい)に婚姻(こんいん)するの風を勧(すすむ)ることと、この二箇条のみ。
旧藩情 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
それで、私共(わたしども)は、これから西洋(せいよう)やその他(た)外國(がいこく)のものはこれだけにして、日本(につぽん)で出(で)た石器時代(せつきじだい)からの古(ふる)い品物(しなもの)を見(み)に行(ゆ)くことにいたしませう。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
それから他(た)の一つの『学士会院(ラシステキュー)の鐘』と題した方は、再聞(またぎき)の再聞(またぎき)と言って然(しか)るべきであるが、これは私(わし)に取って思出(おもいで)の怪談としてお話したい。
不吉の音と学士会院の鐘 (新字新仮名) / 岩村透(著)
あまりよく他(た)と調和(ちょうわ)する人間にろくなやつはないけれど、そのろくでもないやつのほうが、この世の中ではたいてい幸福(こうふく)であるのがおかしい。
箸 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
この他(ほか)古今の文献、詩歌小説、演劇講談、落語俗謡、その他(た)の言語文章、絵画彫刻なぞいうもの、又は外国語等にも亘って調べましたならば
鼻の表現 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
佐保子(さほこ)が昨日(きのふ)までに変つて他(た)の兄弟から忌(い)まれて孤独になつた象徴(しるし)であるらしいと台所で女中に云つて聞かせたりもお艶(つや)さんはなさいました。
遺書 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
大河原伯爵一家は、先年夫人を失ってから、養子の俊一(しゅんいち)氏と実子美禰子(みねこ)さんの二人の外に肉親はなく、他(た)は召使ばかりの淋しい家庭であった。
猟奇の果 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
世(よ)に傳(つた)はる攝養法(せつやうはふ)に種々(しゆ/″\)ありと雖(いへど)も、余(よ)の實驗(じつけん)に由(よ)れば、尤(もつと)も簡易(かんい)にして尤(もつと)も巧驗(こうけん)あるものは冷水浴(れいすゐよく)の他(た)にあらざる可(べ)し。
命の鍛錬 (旧字旧仮名) / 関寛(著)
造花なのだ。これは他(た)の部屋も大同小異だったが、唯(たッ)た一つ他(た)の部屋にはなくて、此部屋ばかりにある、謂わば此部屋の特色を成す物があった。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
見渡(みわた)す限(かぎ)り、愛(あい)ちやんが針鼠(はりねずみ)を送(おく)らうと思(おも)ふ所(ところ)には總(すべ)て畦畝(うね)があつて、二列(れつ)になつた兵士(へいし)が常(つね)に起(お)きて、毬投場(グラウンド)の他(た)の部分々々(ぶゝん/\)を歩(ある)いてゐました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
只(た)だ舊藩(きうはん)の因縁(いんねん)に執着(しふちやく)する元氣(げんき)な豪傑連(がうけつれん)や、小(ちひ)さな愛國者達(あいこくしやたち)が、他(た)の墮落(だらく)したコスモポリタンを批難(ひなん)するのであつた。
その他(た)伊賀(いが)のアベ(阿拜(あはい))は「アハイ」となり信濃(しなの)のツカマ(筑摩)は「チクマ」となつたやうな例(れい)はなほ若干(じやくかん)ある。
国語尊重 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
此(かく)の如き旋渦(せんくわ)を生ずる所以(ゆゑん)は他(た)ならず。稜立(かどだ)ちたる巌壁の間に押し込まれたる水は、潮の漲落に際して屈折せられ、瀑布の如き勢ひをなして急下す。
うづしほ (新字旧仮名) / エドガー・アラン・ポー(著)
(右のうち、ハートシーズ坑は十年以前まで当地方主要炭坑の一として有名なりしもの)残るは他(た)の三線すなわち
そうした様子がから駄々(だだ)っ子で、あの西洋にまで貞奴の名を轟(とどろ)かして来た人とは思われないまで他(た)あいがなかった。
マダム貞奴 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
俺はもう幸子(さちこ)をやらないよ。可哀想だ、親があるのに子供を親の許から離して、他(た)にあづけるなんていふ法はない。
珠 (旧字旧仮名) / 素木しづ(著)
さうして下男(げなん)には、菱形(ひしがた)の四角(かく)へ『多(た)』の字(じ)の合印(あひじる)しの附(つ)いた法被(はつぴ)を着(き)せてくれた。兩掛(りやうが)けの一方(ぱう)には藥箱(くすりばこ)を納(をさ)め、他(た)の一方(ぱう)には土産物(みやげもの)が入(はひ)つてゐた。
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
その時他(た)の二個の怪物はメヂューサの死骸を見て大(おほひ)に怒り忽(たちま)ち跡を追つかけたけれども、伝令神の沓には及ばず、パーシユーズは首尾よく虎口を脱(のが)れた。
毒と迷信 (新字旧仮名) / 小酒井不木(著)
他(た)に著(いちじる)しき事実なし。ただ、ローリー氏がヨットを離れんとする際、きまって口論するがごとき身振りを相互に交換す。いかなる意味なるや、解し難し。
キャラコさん:07 海の刷画 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
尤(もっと)も他(た)を求めて、どうにも解決の鍵が見つからぬときは開けもしましょうが、それにはちょっと準備が入ります。
爬虫館事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
明々白地(めいめいはくち)、隠さず掩(おお)はず、一点の工夫を用ゐず、一字の曲折を成さざる処、この句の特色なり。豈(あに)他(た)あらんや。
古池の句の弁 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
だがおれは期待(きたい)する、他(た)の多(おほ)くのお前(まへ)の仲間(なかま)は、やがて銃(じう)を×(20)に×(21)ひ、剣(けん)を後(うしろ)に×(22)へ
いや静(しず)かに。——ただ今(いま)、脈(みゃく)に力(ちから)が出(で)たようじゃと申上(もうしあ)げたが、実(じつ)は他(た)の方々(かたがた)の手前(てまえ)をかねたまでのこと。心臓(しんぞう)も、微(かす)かに温(ぬく)みを保(たも)っているだけのことじゃ
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
穴の周囲一尺ほどの土を埋めて、水雲(もずく)のように這い繁っているのは、星を受けて紫に光る他(た)なし漆の黒髪!
切なりと謂はば実(げ)に極(きは)めて切なる、可憐(しをら)しと謂はば又極めて可憐き彼の心の程は、貫一もいと善く知れれど、他(た)の己(おのれ)を愛するの故(ゆゑ)を以(も)て直(ただ)ちに蛇蝎(だかつ)に親まんや
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
いわゆる我(われ)あるを知って他(た)あるを忘れ、個人あるを知って国家を思わぬので、彼我(ひが)の信用は地に堕(お)ちて実業も振わない、社会の徳義は紊乱(びんらん)する、風俗は頽廃(たいはい)する
国民教育の複本位 (新字新仮名) / 大隈重信(著)