“酢(す)” の例文
... 料理する時何故酢(す)あるいはレモン汁を使うかという問題は」中川「それは魚の血液がアルカリ性であるから酸類と中和させるのだ」
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
籾(もみ)を搗(つ)くきねが二三本床に転がっているばかりで柱ももはや朽ち始めていた。酢(す)に似た匂いがうっすらと四辺に立ちこめていた。
日の果て (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
彼は小川で顔を洗い、朝の祷りを唱えると、舅の家で毎朝食事にでる酢(す)クリームをかけた火傷(やけど)しそうな揚饅頭(プィシカ)で、お茶が飲みたくなった。
決闘 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
これを燒(や)いて二十食(く)つた、酢(す)にして十(とを)食(く)つたと云(い)ふ男(をとこ)だて澤山(たくさん)なり。次手(ついで)に、目刺(めざし)なし。大小(だいせう)いづれも串(くし)を用(もち)ゐず、乾(ほ)したるは干鰯(ひいわし)といふ。
寸情風土記 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
酢(す)ならば酸(す)ッぱくなるし——カミツレ草(さう)ならば苦(にが)くするし——ト云(い)つて——ト云(い)つて砂糖(さたう)やなどでは子供(こども)を甘(あま)やかして了(しま)うし。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
ご馳走は大したこともなかったが、赤飯が炊(た)いてあり、酢(す)のものがついていた。次郎はお芳とならんで坐らされたが、始終むっつりしていた。
次郎物語:02 第二部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
その虫を踏み潰(つぶ)して、緑色に流れる血から糸を取り、酢(す)に漬け、引き延ばし、乾し固め、それで魚を釣ったことを思出した。
岩石の間 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
お通はこんな所で、こんな男のために、怪我(けが)をするのは嫌だし、死ぬのはなお嫌だと思った。恐ろしさに口の中が酢(す)くなって渇(かわ)いてしまった。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
めいめい、好み好みの場所に席を取って、鮨種子(すしだね)で融通して呉れるさしみや、酢(す)のもので酒を飲むものもあるし、すぐ鮨に取りかかるものもある。
鮨 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
ところがどうだ諸君諸君が一寸(ちょっと)菜っ葉へ酢(す)をかけてたべる、そのとき諸君の胃袋(いぶくろ)に入って死んでしまうバクテリアの数は百億や二百億じゃ利(き)けゃしない。
ビジテリアン大祭 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
ミチは年とって腰の曲った産婆に命ぜられたとおり、酢(す)を入れた丼(どんぶり)をいねの鼻先へ持ってゆき、がんがんおこった炭火を挾みこんではじゅんじゅん煙を立てた。
暦 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
俊寛(しゅんかん)様は円座(わろうだ)の上に、楽々と御坐りなすったまま、いろいろ御馳走(ごちそう)を下さいました。勿論この島の事ですから、酢(す)や醤油(しょうゆ)は都ほど、味が好(よ)いとは思われません。
俊寛 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
ここだけの話だけど、苜蓿(うまごやし)なんか、サラダとおんなじに軟(やわら)かいよ。つまり、油と酢(す)をつけないサラダさ。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
口の欠けた銚子(ちょうし)が二本と章魚(たこ)の酢(す)ものと魚の煮たものだった。すぐあとから別な背の低い唇(くちびる)の厚い女が火を持ってきた。が、火鉢に移すと、何も言わずに出ていった。
雪の夜 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
此洋服で、鍔広(つばびろ)の麦藁帽をかぶって、塚戸に酢(す)を買いに往ったら、小学校中(じゅう)の子供が門口に押し合うて不思議な現象を眺めて居た。彼の好物(こうぶつ)の中に、雪花菜汁(おからじる)がある。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎、徳冨蘆花(著)
お前さんは、世の中を見て、かなり、酢(す)いも甘いも勉強して来た筈だ。男にも女にも、愛だの惚れたのと云ふ事も、大して信用にならない事位は判つて来てゐる筈だよ。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
酢(す)に水(みず)を割(わ)って入(い)れてやったが、獣物(けもの)たちは、酒(さけ)の味(あじ)がわかるまいから、たぶん人間(にんげん)は、こんなものを飲(の)んでいると思(おも)うことであろう。それとも酒(さけ)でないと悟(さと)るだろうか?
深山の秋 (新字新仮名) / 小川未明(著)
そうじゃないかい? どうしてお前さんたちは要(い)るものを取りに行かないんだよ? 嗅塩(かぎしお)と、お冷(ひや)と、お酢(す)と★を速く持って来ないと、思い知らしてあげるよ。いいかね!
未(ま)だ併(しか)し入(い)るには危險(きけん)であるから、窟内(くつない)に酢(す)を散布(さんぷ)して、然(さ)うして後(のち)に入(い)るが好(よ)からう。
「水が綺麗で、風景が好くて、鮎の名所です。彼処(あすこ)のは鱗(うろこ)が金色(きんいろ)で、あぎゃんした甘か鮎は日本国中何処にもなかと申します。焼いて柚(ゆず)の酢(す)をかけてお上(あが)ったら頬が落ちますぞ」
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
なまで食ってしかるべきものをわざわざ煮て見たり、焼いて見たり、酢(す)に漬(つ)けて見たり、味噌(みそ)をつけて見たり好んで余計な手数(てすう)を懸けて御互に恐悦している。着物だってそうだ。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その玄関の式台に置据えられた三宝の上の錦のふくさと覚しいのを払った献上物というやつの現物を一眼見て、この野郎がまたしても、三斗の酢(す)を飲ませられたような面をしました。
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
腐った酢(す)の如きものじゃないか、ごめんこうむる、あるじ勘定をたのむ、いくらだ、とわれを嘲弄(ちょうろう)せんとする意図あからさまなる言辞を吐き、帰りしなにふいと、老人、気をつけ給え
花吹雪 (新字新仮名) / 太宰治(著)
引立て拷問所へ引出し理左衞門は上座(じやうざ)に直り是迄屡々(しば/\)拷問に及べども酢(す)の蒟蒻(こんにやく)のと云掠(かす)め今に白状致さぬ故今日は此理左衞門が自身に拷問(がうもん)を見聞せん強情(しぶとい)奴(やつ)めと一調子(てうし)引上げコリヤ者共九助を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
五〇 死助(しすけ)の山にカツコ花あり。遠野郷にても珍しといふ花なり。五月閑古(かんこ)鳥の啼(な)く頃、女や子どもこれを採りに山へ行く。酢(す)の中に漬(つ)けておけば紫色になる。酸漿(ほほづき)の実のやうに吹きて遊ぶなり。
遠野物語 (新字旧仮名) / 柳田国男(著)
我ながらいささか呆れ返っているが、先日大佛(おさらぎ)次郎氏に逢ってその話が出ると、大佛氏は「人間業じゃないね」と酢(す)っぱい顔をしていた。化物扱いされるようになれば、作者もまことに本懐の至りだ。
自分(じぶん)は先(ま)づ押(おし)ずしなるものを一つ摘(つま)んで見(み)たが酢(す)が利(き)き過(す)ぎてとても喰(く)へぬのでお止(や)めにして更(さら)に辨當(べんたう)の一隅(ぐう)に箸(はし)を着(つ)けて見(み)たがポロ/\飯(めし)で病人(びやうにん)に大毒(だいどく)と悟(さと)り、これも御免(ごめん)を被(かうむ)り、元來(ぐわんらい)小食(せうしよく)の自分(じぶん)
湯ヶ原ゆき (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
いと酢(す)き赤き柘榴(ざくろ)をひきちぎり日の光る海に投げつけにけり
桐の花 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
「うんう、赤いのを食べたら酢(す)つぱかつた。」
桑の実 (新字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
冷氣(れいき)は酢(す)のやうに彼女(かのぢよ)の體(からだ)を浸(ひた)してゐた。
彼女こゝに眠る (旧字旧仮名) / 若杉鳥子(著)
「酢(す)、醤油(しやうゆ)、上州屋(じやうしうや)」
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
酢(す)のかをり
一握の砂 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
笑(わら)ふて聞(き)く胸(むな)ぐるしさ思(おも)ひに痩(やせ)し手首(たなくび)に取(と)りすがりてお羨(うらや)ましやお高(たか)さまのお手(て)の細(ほそ)さよお酢(す)めし上(あが)りしか御傳授(ごでんじゆ)聞(き)きたしと眞面目(まじめ)に問(と)ふ人(ひと)可笑(をか)しくはなくて其心根(そのこゝろね)羨(うらや)ましくなりぬ其(そ)の人々(ひと/″\)歸(かへ)り果(は)てゝより一時間許(いちじかんばかり)待(ま)つには長(なが)き時間(じかん)ながら車(くるま)の音(おと)門(かど)にも聞(きこ)えず捨(すて)置(お)かれなば未(ま)だしもなれどお茶(ちや)參(まゐ)らせよお菓子(くわし)あがれ夜(よ)は
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「いったい誰が微生高(びせいこう)を正直者などといい出したのだ。あの男は、ある人に酢(す)を無心され、それを隣からもらって与えたというではないか。」
現代訳論語 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
梅干を使わない時は酢(す)の物(もの)を拵(こしら)えるとか百合のない時には款冬(ふき)の薹(とう)とか鮎(あゆ)のウルカとか必ず苦味と酸味を膳の上に欠かないのが五味の調和だ。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
口が酢(す)っぱくなったように、すぐそこの鏡台と長火鉢の間へ、つんと坐りかけたが、やはり気に懸(か)けずにはいられないで
山浦清麿 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
鯛(たひ)の味噌汁(みそしる)。人參(にんじん)、じやが、青豆(あをまめ)、鳥(とり)の椀(わん)。鯛(たひ)の差味(さしみ)。胡瓜(きうり)と烏賊(いか)の酢(す)のもの。鳥(とり)の蒸燒(むしやき)。松蕈(まつたけ)と鯛(たひ)の土瓶蒸(どびんむし)。香(かう)のもの。青菜(あをな)の鹽漬(しほづけ)、菓子(くわし)、苺(いちご)。
城崎を憶ふ (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
その栗(くり)の木(き)の虫(むし)から取(と)れた糸(いと)を酢(す)に浸(つ)けて、引(ひ)き延(の)ばしますと、木小屋(きごや)の前(まへ)に立(た)つ爺(ぢい)やの手(て)から向(むか)ふの古(ふる)い池(いけ)の側(わき)に立(た)つ友伯父(ともをぢ)さんの手(て)に屆(とゞ)くほどの長(なが)さがありました。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
与一はくずぬいて箸(はし)を嘗(な)めていた。私は胃の中に酢(す)が詰(つま)ったように、——瞼(まぶた)が腫(は)れ上って来た。
清貧の書 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
正午(ひる)には酢(す)く漬(つ)けた玉菜(たまな)の牛肉汁(にくじる)と、飯(めし)とで食事(しよくじ)をする。晩(ばん)には晝食(ひるめし)の餘(あま)りの飯(めし)を食(た)べるので。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
それから、目の細かい櫛(くし)と、皿いっぱいの酢(す)と……。虱退治(しらみたいじ)が始まるのである。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
五〇 死助(しすけ)の山にカッコ花あり。遠野郷にても珍しという花なり。五月閑古鳥(かんこどり)の啼(な)くころ、女や子どもこれを採(と)りに山へ行く。酢(す)の中に漬(つ)けて置けば紫色(むらさきいろ)になる。酸漿(ほおずき)の実(み)のように吹きて遊ぶなり。
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
飛んで行つた八五郎、やがて酢(す)つぱい顏をして戻つて來ました。
ここはまた、陶器の産地であって瓶子(へいし)や酢(す)がめが作られる。
ところがその香水は、どうも酢(す)のような匂(におい)がするのでした。
注文の多い料理店 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
と言った時には、寛一君、もう口が酢(す)っぱくなっていた。
脱線息子 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
Hachisch(ハシツシユ) か、酢(す)か、茴香酒(アブサン)か、くるほしく
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
酢(す)味噌がよくきいて、案外うまかった。
幻化 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
... お刺身(さしみ)にして梅干酢(うめぼしず)で出すつもりです」妻君「梅干酢とは」お登和「梅干の肉を裏漉(うらご)しにして摺(す)って酢(す)を交ぜたのです。 ...
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
または酢(す)売り、白粉(おしろい)売り、麹(こうじ)売りなどの販(ひさ)ぎ女(め)から、一服一銭の茶売り媼(おうな)までが“不毛を食う”散所民のうちだった。
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)