“焼(や)” の例文
旧字:燒
「お母(かあ)さん、月(つき)は、去年(きょねん)の春(はる)とちがって、あたりがあんな焼(や)け跡(あと)になったので、びっくりしたでしょうね。」と、少年(しょうねん)がいいました。
夢のような昼と晩 (新字新仮名) / 小川未明(著)
けれども、グレーテルはどんどんかけていきました。こうして、ばちあたりの魔法使(まほうつか)いは、むごたらしく焼(や)け死(し)んでしまったのです。
原口さんは無論ゐる。一番先(さき)へ来(き)て、世話を焼(や)いたり、愛嬌を振り蒔(ま)いたり、仏蘭西式の髯(ひげ)を撮(つま)んで見たり、万事忙(いそ)がしさうである。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
とうとうお釜(かま)が上まで真(ま)っ赤(か)に焼(や)けました。その時分(じぶん)には、山姥(やまうば)もとうにからだ中(じゅう)火(ひ)になって、やがて骨(ほね)ばかりになってしまいました。
山姥の話 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
忍剣(にんけん)が気のついたクロとは、そもなにものかわからないが、かれのすがたは、まもなく、変りはてた恵林寺(えりんじ)の焼(や)け跡(あと)へあらわれた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「ねぎが四、五本にバターが少しあれば、けっこうなスープができるだろう。どら焼(や)きなぞは下ろして、ねぎをなべでいためろ」
いま窓(まど)の右手にえぞ富士(ふじ)が見える。火山だ。頭が平(ひら)たい。焼(や)いた枕木(まくらぎ)でこさえた小さな家がある。熊笹(くまざさ)が茂(しげ)っている。植民地(しょくみんち)だ。
或る農学生の日誌 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
お天守(てんしゆ)の下(した)へも穴(あな)が徹(とほ)つて、お城(しろ)の抜道(ぬけみち)ぢや言(い)ふ不思議(ふしぎ)な沼(ぬま)での、……私(わし)が祖父殿(おんぢいどん)が手細工(てざいく)の船(ふね)で、殿様(とのさま)の妾(めかけ)を焼(や)いたと言(い)つけ。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花、泉鏡太郎(著)
また初(はじめ)に「藻汐(もしお)焼(や)く」と置きしゆえ後に煙とも言いかねて「あまのしわざ」と主観的に置きたるところいよいよ俗に堕(お)ち申候。
歌よみに与ふる書 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
「あの連中だって、つけ焼(や)き刃(ば)の理屈をならべるよりか、りんごを食ったり、歌をうたったりするほうが実はおもしろいんだよ。ふふふ。」
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
『不束(ふつつか)な娘(むすめ)でございますが、何(ど)うぞ今後(こんご)とも宜(よろ)しうお導(みちび)きくださいますよう……。さぞ何(なに)かとお世話(せわ)が焼(や)けることでございましょう……。』
坂上大嬢(さかのうえのおおいらつめ)に贈ったのに、「夜のほどろ出でつつ来らく遍多数(たびまね)くなれば吾が胸截(た)ち焼(や)く如し」(巻四・七五五)というがあり
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
水のかれた川は、細いながらも、焼(や)き太刀(だち)のように、日を反射して、絶えてはつづく葉柳(はやなぎ)と家々との間に、かすかなせせらぎの音を立てている。
偸盗 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
この家(うち)には、おばあさんがいましたが、あんまり年をとっているので、パン焼(や)きの手つだいをすることができません。
「なるほど、鬼(おに)どもは生(い)け捕(ど)って来たえものをこの囲炉裏(いろり)で焼(や)いて食うのだな。それじゃ一つ、この炉(ろ)の上の天井(てんじょう)に隠(かく)れて今夜の様子を見てやろう。」
鬼退治 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
ヘヽー何(ど)うでげせう、三朱(しゆ)位(ぐらゐ)には負(まか)りますまいか。坊「焼場(やきば)へ来(き)て値切(ねぎ)るものもないもんだ、極(きま)つて居(ゐ)るよ。金「ナニ本当(ほんたう)に焼(や)けないでも宜(よろ)しいんで。 ...
黄金餅 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
しかしそいつが大違いで、腹からなり切れちまえばいいんだが、附(つ)け焼(や)き刃(ば)だから肝心な時に母婦の地金(じがね)が出て来るんで、なお不自然な厭(いや)な気がするんだ
蓼喰う虫 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
菊枝は、廐(うまや)に投げ込む雑草を、いつもの倍も背負って帰って来た。重かった。荷縄(になわ)は、肩に焼(や)け爛(ただ)れるような痛さで喰い込んだ。腰はひりひりと痛かった。
駈落 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
そして、磁力砲をうったこっちが、あべこべに真赤な焼(や)け鉄(がね)をおしつけられたように、急に機体が熱くなって、ぶすぶすと燃えだすさわぎです。どうも変です
怪塔王 (新字新仮名) / 海野十三(著)
田や畑の其処(そこ)此処(ここ)に焼(や)け残りの黒い木の株(かぶ)が立って居るのを見ると、開(ひら)け行く北海道にまだ死に切れぬアイヌの悲哀(かなしみ)が身にしみる様だ。下富良野(しもふらの)で青い十勝岳(とかちだけ)を仰ぐ。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎、徳冨蘆花(著)
身(み)に降(ふ)りかかる話(はなし)じゃねえ。どうせ人様(ひとさま)のことだと思(おも)って、黙(だま)って聴(き)いて居(お)りやしたが。——もし堺屋(さかいや)さんのお上(かみ)さん、つまらねえ焼(や)きもちは、焼(や)かねえ方(ほう)がようがすぜ
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
そもそも幕末の時に当りて上方(かみがた)の辺に出没(しゅつぼつ)したるいわゆる勤王有志家(きんのうゆうしか)の挙動を見れば、家を焼(や)くものあり人を殺(ころ)すものあり、或は足利(あしかが)三代の木像(もくぞう)の首を斬(き)りこれを梟(きょう)するなど
崖(がけ)を下りて渓川の流に近づかんとしたれど、路あまりに嶮(けわ)しければ止みぬ。渓川の向いは炭(すみ)焼(や)く人の往来する山なりという。いま流を渡りて来たる人に問うに、水浅しといえり。
みちの記 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
そこに方丈(ほうじょう)の壇をむすび、何かの符を書いてそれを焼(や)くと、たちまちに符の使い五、六人、いずれも身の丈(た)け一丈余にして、黄巾(こうきん)をいただき、金甲(きんこう)を着け、彫(ほり)のある戈(ほこ)をたずさえ
世界怪談名作集:18 牡丹灯記 (新字新仮名) / 瞿佑(著)
それは何も一向(いっこう)いいことではない筈(はず)なのだけれど、いうことを聞かぬいたずら者(もの)の腕白(わんぱく)どもに、老教師(ろうきょうし)はもうほとほと手を焼(や)いているので、まるで探偵(たんてい)みたいな顔(かお)つきをしながら
身体検査 (新字新仮名) / フョードル・ソログープ(著)
ワーフルという菓子(かし)を焼(や)き居たりしを先生見て、これは至極(しごく)面白(おもしろ)し、予もこの器械(きかい)を借用(しゃくよう)して一ツやって見(み)たしとのことにつき、翌日これを老僕(ろうぼく)に持(も)たせ遣(つかわ)しければ、先生大(おおい)に喜び
鄙劣(ひれつ)千万な、計略を運(めぐ)らして母の病気とまで偽(うそ)を云(い)わせる、ソンナ奴があるものか、モウ焼(や)けだ、大議論をして遣(や)ろうかと思(おもっ)たが、イヤ/\左様(そう)でない、今アノ家老と喧嘩をした所が
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
せっかく島根に漂い着いたが、おそろしげな焼(や)け島(じま)で、草木のアヤもみえない。
藤九郎の島 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
みんな女偊(じょう)氏の弟子での、ものの形を超えて不生不死(ふしょうふし)の境(きょう)に入ったれば、水にも濡(ぬ)れず火にも焼(や)けず、寝て夢見ず、覚めて憂(うれ)いなきものじゃ。この間も、四人で笑うて話したことがある。
悟浄出世 (新字新仮名) / 中島敦(著)
四四ふところの璧(たま)をうばはれ、挿頭(かざし)の花を四五嵐にさそはれしおもひ、泣くに涙なく、叫ぶに声なく、あまりに嘆かせたまふままに、火に焼(や)き、土に葬(はうむ)る事をもせで、四六臉(かほ)に臉をもたせ
拳(こぶし)で胸(むね)を打(う)って祈(いの)るかと思(おも)えば、直(すぐ)に指(ゆび)で戸(と)の穴(あな)を穿(ほ)ったりしている。これは猶太人(ジウ)のモイセイカと云(い)う者(もの)で、二十年(ねん)ばかり前(まえ)、自分(じぶん)が所有(しょゆう)の帽子製造場(ぼうしせいぞうば)が焼(や)けた時(とき)に、発狂(はっきょう)したのであった。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
夫(それ)から下(した)の方(はう)へかけて、カリフォルニヤ街(がい)の坂道(さかみち)を、断間(たえま)なく鋼索鉄道(ケーブルカー)の往来(わうらい)するのが見(み)える。地震(ぢしん)の時(とき)に焼(や)けたのが彼処(あすこ)、近頃(ちかごろ)建(た)てかけた市庁(しちやう)は彼(あれ)と、甲板(かんぱん)の上(うへ)の評定(ひやうぢやう)とり/″\頗(すこぶ)る喧(やかま)しい。
検疫と荷物検査 (新字旧仮名) / 杉村楚人冠(著)
はじめ、足をかけた焼(や)け板(いた)が下へしのったとき、左膳はギョッとしたのだったが、もうおそかった。板が割れると同時に、左膳のからだは直立の姿勢のまま、一直線に地の底へ落ちたのである。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
焼(や)き鏝(ごて)を当てて上へ黒い焦(こ)がした模様を附けてお客の前へ出します。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
焼(や)けどにしては、治癒(ちゆ)のあとが違うし、生れつきのあざでもない。
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
さらに気をまわせば、吉弥は僕のことについていい加減のうそを並べ、うすのろだとか二本棒だとか、焼(や)き餅(もち)やきだとかいう嬉しがらせを言って、青木の機嫌を取っているのではないかとも思われた。
耽溺 (新字新仮名) / 岩野泡鳴(著)
はやく、お客(きゃく)がくればいいのになあ、と海蔵(かいぞう)さんは眼(め)をほそめて明(あか)るい道(みち)の方(ほう)を見(み)ていました。しかしお客(きゃく)よりさきに、茶店(ちゃみせ)のおかみさんが、焼(や)きたてのほかほかの大餡巻(おおあんまき)をつくってあらわれました。
牛をつないだ椿の木 (新字新仮名) / 新美南吉(著)
一つのお皿には刺身、一つのお皿には焼(や)き肴(ざかな)。
春の枯葉 (新字新仮名) / 太宰治(著)
僕(ぼく)が 君のリボン 焼(や)いたからもらつたんだよ
ふるさとの胡桃(くるみ)焼(や)くるにほひす
一握の砂 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
火(ひ)と燃(も)えて身(み)を焼(や)く夜(よ)にも
第二邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
「ただいま。叔母(おば)さんの家(いえ)からだいぶ離(はな)れていましたから、いきませんでした。三軒(けん)ばかり焼(や)けて、やっといましがた消(き)えました。」
火事 (新字新仮名) / 小川未明(著)
そうすれば、グレーテルはなかで焼(や)き殺(ころ)されてしまいます。そこで、ばあさんはグレーテルをも、ぺろりと食べてしまう腹(はら)だったのです。
そうすると、火に追(お)われて逃(に)げてくるものは矢(や)で射(い)とります。矢(や)をおそれて逃(に)げて行(い)くものは火に焼(や)き立(た)てられて命(いのち)を失(うしな)います。
鎮西八郎 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
段々(だん/\)村(むら)が遠退(とほの)いて、お天守(てんしゆ)が寂(さび)しく成(な)ると、可怪(あやし)可恐(おそろし)い事(こと)が間々(まゝ)有(あ)るで、あの船(ふね)も魔(ま)ものが漕(こ)いで焼(や)くと、今(いま)お前様(めえさま)が疑(うたが)はつせえた通(とほ)り……
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花、泉鏡太郎(著)
大坂(おおさか)はまだ三郷(ごう)とも、城下(じょうか)というほどな町を形成(けいせい)していないが、急ごしらえの仮小屋(かりごや)が、まるで焼(や)けあとのようにできている。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
宿題(しゅくだい)もみんな済(す)ましたし、蟹(かに)を捕(と)ることも木炭(すみ)を焼(や)く遊(あそ)びも、もうみんな厭(あ)きていました。達二は、家の前の檜(ひのき)によりかかって、考えました。
種山ヶ原 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
かの女は絶望(ぜつぼう)の表情(ひょうじょう)で、自分のうちの焼(や)け落ちるのを目の前に見ている人のように、ひょうの降(ふ)るのをながめていた。
ところで、農家(のうか)の女たちは、お祭(まつ)りのしたくで、てんてこまいをしていました。ちょうどリスが捕(つかま)えられた日は、パンを焼(や)くことになっていたのです。
三千代は手拭を姉(ねえ)さん被(かぶ)りにして、友禅の長繻絆をさらりと出して、襷(たすき)がけで荷物の世話を焼(や)いてゐた。旅宿で世話をして呉れたと云ふ下女も来(き)てゐる。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)