“済(す)” の例文
旧字:濟
済(す)まなかったわねえ——と来やがる、その後がなおいけねえ——私にそっと逢い度いなら逢い度いと、そう言って下さればいいのに
『ええ只今(ただいま)、足下(そっか)に御関係(ごかんけい)のある事柄(ことがら)で、申上(もうしあ)げたいと思(おも)うのですが。』と、市役所員(しやくしょいん)は居並(いなら)ぶ人々(ひとびと)の挨拶(あいさつ)が済(す)むとこう切(き)り出(だ)した。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
巡礼の痛罵(つうば) そういう風で先生達は名高い〔霊場や〕ラマ達の巡礼を済(す)まして、ゲンパラ即ち今私の立止って居る所まで帰って来た。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
舎費即(すなわ)ち食糧費としては月二円で済(す)み、予備門の授業料といえば月僅(わずか)に二十五銭(尤(もっと)も一学期分宛(ずつ)前納することにはなっていたが)
私の経過した学生時代 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
阿母さんはもう座敷の拭掃除(ふきそうぢ)も台所の整理事(しまひごと)も済(す)ませて、三歳(みつヽ)になる娘の子を脊(せな)に負(お)ひ乍ら、広い土間へ盥を入れて洗濯物(せんたくもの)をして居(ゐ)る。
蓬生 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
陽暦で正月を済(す)ましてとくに餅は食うてしもうた美的(びてき)百姓の家へ、にこ/\顔の糸ちゃん春ちゃんが朝飯前に牡丹餅(ぼたもち)を持て来てくれる。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎、徳冨蘆花(著)
「何(ど)うも済(す)みません、少(すこ)し、うと/\しましたつけ。うつかり夢(ゆめ)でも視(み)たやうで、——郡山(こほりやま)までは一度(ど)行(い)つた事(こと)があるものですから……」
銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花、泉鏡太郎(著)
『帰るサ——御話が済(す)めば帰るサ。母さんに斯う言へ、父さんは学校の先生と御話して居ますから、其が済めば帰りますツて。』
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
「済(す)まないのは、お前(まえ)さんよりこっちのこと、折角(せっかく)眠(ねむ)いところを、早起(はやお)きをさせて、わざわざ来(き)てもらいながら、肝腎(かんじん)のおせんが。——」
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
そうする中(うち)に私(わたくし)は岩屋(いわや)の修行場(しゅぎょうば)から、山(やま)の修行場(しゅぎょうば)に進(すす)み、やがて竜宮界(りゅうぐうかい)の訪問(ほうもん)も済(す)んだ頃(ころ)になりますと、私(わたくし)のような執着(しゅうじゃく)の強(つよ)い婦女(おんな)にも
僕のごときも今日まで幾度となくこの過(あやま)ちを繰り返し来(きた)ったもので、今にしてこれを顧(かえりみ)ると済(す)まぬことをしたと思うことがたびたびある。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
切られたかと思ったほど痛かったが、それでも夢中(むちゅう)になって逃げ出すとネ、ちょうど叔父(おじ)さんが帰って来たので、それで済(す)んでしまったよ。
雁坂越 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
宿題(しゅくだい)もみんな済(す)ましたし、蟹(かに)を捕(と)ることも木炭(すみ)を焼(や)く遊(あそ)びも、もうみんな厭(あ)きていました。達二は、家の前の檜(ひのき)によりかかって、考えました。
種山ヶ原 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
背広(せびろ)を軽(かる)いセルのひと衣にぬぎ換(かへ)て、青木さんが奧(おく)さんと一緒(しよ)につましやかな晩(ばん)さんを済(す)ましたのはもう八時(じ)近(ちか)くであつた。
夢 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
ところがお茶が済(す)むと、父はわたしと腕(うで)を組んで、一緒(いっしょ)に庭へ出て行きながら、わたしがザセーキン家で見たことを、逐一(ちくいち)わたしに物語らせた。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
別室にひかえていて、一人の死が済(す)むと、ただちに、係りの武士の声がまた庭上から、『何々殿、お支度を』と、告げるのをただ肌に粟(あわ)していた。
美しい日本の歴史 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
鋸引(のこぎりび)きが済(す)んで、セメント柱は二つに切られた。博士の指図によって、消防隊の人々が一方のセメント柱に手をかけて、えんやえんやと引張った。
○○獣 (新字新仮名) / 海野十三(著)
身を以て懇願する者があったならば、陛下も御頷(おんうなず)きになって、我らは十二名の革命家の墓を建てずに済(す)んだであろう。
謀叛論(草稿) (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
しかし現在の予は、既(すで)に過去の予と違つて、全精力を創作に費さない限り人生に対しても又予自身に対しても、済(す)まないやうな気がしてゐるのである。
入社の辞 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
若先生は人を斬ることを何とも思わっしゃらねえだ——いくら剣術でもああいう法というのはあるめえ、かりにも御主人を悪くいって済(す)まねえけんど
又牢に入れてくれるなと云ふ。大阪の牢屋から生きて還(かへ)るものゝ少いのは公然の秘密だから、病体でなくても、入(い)らずに済(す)めば入(い)るまいとする筈である。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
それはその花が済(す)んで実になると、それが茎頂(けいちょう)に集合し白く蓬々(ほうほう)としていて、あたかも翁(おきな)の白頭(はくとう)に似ているから、それでオキナグサとそう呼ぶのである。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
是(こ)れは済(す)まぬ事だと思い、恰(あだか)も一念こゝに発起(ほっき)したように断然酒を止(や)めた。スルト塾中の大(おお)評判ではない大笑(おおわらい)で
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
欧洲から日本へ、日本から欧洲へと往復するにもただプラプラと青い尻尾さえ引摺(ひきず)れば済(す)むのだから、今の若い日本の画家等にとっては大変な福音(ふくいん)なのだ。
楢重雑筆 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
始めからそのつもりで、まるまる役に立たずに済(す)めばそれに越したことはないという教育に、全力を挙げているということは、再考する必要があると思う。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
暫(しばら)くして彼は寝台に起き直り、ゆっくりした動作で身仕度(みじたく)を済(す)ませ長靴をつけた。粗末な小屋なので動く度に床がきしみ、腕が触れる毎に壁はばさばさと鳴った。
日の果て (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
一通り哄笑が終ると、一同は改まって、大納言に慇懃(いんぎん)な御辞儀(おじぎ)をする。それが済(す)むと、再び私語・囁き。
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
「あんたのほうは済(す)んだ、フェリックス」と、姉のエルネスチイヌはいう——「七つか八つきりいなかったわ。勘定(かんじょう)してごらん。にんじんのは幾ついるか、さあ」
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
わたしはその間に掃除(そうじ)を済(す)まし、居残りの巡査と話してるのにも厭(あ)きて、そろそろ風呂の湯加減でも見ておこうかと、鍵を持って廊下を渡って行ったんですが……。
浴槽 (新字新仮名) / 大坪砂男(著)
「そんなんやったら、ちょっと知らしてくれたらええのに。えらい待ちぼけ喰(く)うたもんや。」「ついうっかりしてて済(す)まなんだけど、急に話がまとまってしもてん。」
卍 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
併し彼女の夫は、鈍感な妻が気のついている筈は無い! と思って済(す)ましているのだ。彼は至極善良な主人らしく、食卓の傍の畳に朝刊を拡げて三面記事を読み続けた。
接吻を盗む女の話 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
アヽ予(よ)は華族(くわぞく)の家(いへ)に生(うま)れたが、如何(いか)に太平(たいへい)の御代(みよ)とは申(まう)せども、手を袖(そで)にして遊んで居(を)つては済(す)まぬ、え我(わが)先祖(せんぞ)は千軍萬馬(せんぐんばんば)の中(なか)を往来(わうらい)いたし、君(きみ)の御馬前(ごばぜん)にて血烟(ちけむり)を揚(あ)げ
華族のお医者 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
それよりは心を静め思いを転じて、生(いき)ながら死せる気になり、万感(まんかん)を排除する事に勉(つと)めしかば宿屋よりも獄中の夢安く、翌朝目覚(めざ)めしは他の監房にて既に食事の済(す)みし頃なりき。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
天変地異(てんぺんちい)を笑(わら)つて済(す)ますものは文学者(ぶんがくしや)なり。社会(しやくわい)人事(じんじ)を茶(ちや)にして仕舞(しま)ふ者は文学者(ぶんがくしや)なり。否(い)な、神の特別(とくべつ)なる贔屓(ひいき)を受(う)けて自然(しぜん)に hypnotize(ヒプノタイズ) さる〻ものは文学者(ぶんがくしや)なり。
為文学者経 (新字旧仮名) / 内田魯庵、三文字屋金平(著)
いやに済(す)ました人おつに咳払(せきばら)ひして進み出でて曰く両君の宣(のたま)ふ所各(おのおの)理あり。皆その人とその場合とに因つてこれを施して可なるべし。素人も芸者も元これ女なり。生れて女となる。
矢はずぐさ (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
連れて行って婚礼させればそれで済(す)むのでさあ。早くサッサと旅立(たびだち)の支度でもなさいよ
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
見物人ということを自他ともにあきらかにしつつ、——いわば生命安全の見物人と書いた紙をおでこに貼(は)り付けて歩くみたいなことは、生命をささげて戦っている兵隊さんに済(す)まない感じだった。
如何なる星の下に (新字新仮名) / 高見順(著)
それで済(す)みなのだった。他(よそ)の老人(としより)の校長などは居ねむりをしていた。
済(す)んだ。いまや私はしっかりと身を持さなければならない。
死刑囚最後の日 (新字新仮名) / ヴィクトル・ユゴー(著)
検疫(けんえき)は五時(じ)に済(す)んだ。今度(こんど)は税関(ぜいくわん)の小蒸気(こじようき)が著(つ)く。
検疫と荷物検査 (新字旧仮名) / 杉村楚人冠(著)
と或(ある)人がいふと、フアブル先生済(す)ましたもので
何か気の済(す)む心地(ここち)にて寝る。
悲しき玩具 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
朔郎 もう済(す)むんですか。
ママ先生とその夫 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
踊(をどり)も済(す)んだか声(こゑ)もなし。
とんぼの眼玉 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
この夜分の供養は二時(翌朝の四時)頃に済(す)みますけれども、僧侶はそれから外出を許されない。みな自分の室内に蟄居(ちっきょ)して居らなければならん。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
先生の白襯衣(ホワイトシャート)を着た所は滅多(めった)に見る事が出来なかった。大抵は鼠(ねずみ)色のフラネルに風呂敷(ふろしき)の切れ端(はし)のような襟飾(ネクタイ)を結んで済(す)ましておられた。
灯(あかり)も明(あか)るき無料(むりょう)の官宅(かんたく)に、奴婢(ぬひ)をさえ使(つか)って住(す)んで、その上(うえ)、仕事(しごと)は自分(じぶん)の思(おも)うまま、してもしないでも済(す)んでいると云(い)う位置(いち)。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
いいえ、勿体(もったい)ないより、済(す)まないのはあたしの心(こころ)。役者家業(やくしゃかぎょう)の憂(う)さ辛(つら)さは、どれ程(ほど)いやだとおもっても、御贔屓(ごひいき)からのお迎(むか)えよ。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
余は一個の浮浪(ふろう)書生(しょせい)、筆一本あれば、住居は天幕(てんまく)でも済(す)む自由の身である。それでさえ塒(ねぐら)はなれた小鳥の悲哀(かなしみ)は、其時ヒシと身に浸(し)みた。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎、徳冨蘆花(著)
兎(と)も角(かく)も葬式は無事に済(す)んだ。後の事は牧場の持主に頼み、番小屋は手伝ひの男に預けて、一同姫子沢へ引取ることになつた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)