“好(い)” の例文
Samuel Butler の書いた物によると、彼は日頃「出来の好(い)い、ちやんと保存された、四十シリング位のレムブラント」
澄江堂雑記 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
よしまた行けるとして、従来通りの仏師でやって行って好(い)いものか、その辺のことについて考えて見るに、どうも不安でなりません。
彼は固(もと)よりその人に出会う事を好まなかった。万一出会ってもその人が自分より立派な服装(なり)でもしていてくれれば好(い)いと思っていた。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「坊主。行って来い。俺(おれ)が行くと好(い)いのだが、俺はちと重過ぎる。ちっとの間(ま)の辛抱だ。行って来い。行って梨の実を盗んで来い。」
梨の実 (新字新仮名) / 小山内薫(著)
今もいま、師匠のかけがえのない好(い)い芸を、心の中で惜んでいたのに、このお爺(じい)さんは見世(みせ)ものの中へ出すのか——と思ったからだ。
市川九女八 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
清淨(しやうじやう)な水(みづ)でも好(よ)ければ、不潔(ふけつ)な水(みづ)でも好(い)い、湯(ゆ)でも茶(ちや)でも好(い)いのである。不潔(ふけつ)な水(みづ)でなかつたのは、閭(りよ)がためには勿怪(もつけ)の幸(さいはひ)であつた。
寒山拾得 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
あれでございますか、文部省(もんぶせう)が建(た)ちましたの、空気(くうき)の好(い)い処(ところ)でなければならんと仰(おつ)しやいまして、森大臣(もりだいじん)さまが入(い)らツしやいまして。
明治の地獄 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
「アア/\おっかさんが生(いき)ていらっしゃれば好(い)いにねえ」というのを徳蔵おじが側から「だまってねるだアよ」といいましたッけが
忘れ形見 (新字新仮名) / 若松賤子(著)
勿論、仮普請も沢山ありましたが、金廻りのいゝのや、手廻しの好(い)いのは、もう本普請をすませて、みんな商売をはじめていました。
三浦老人昔話 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
鵜の真似でも何でも、試験の成績さえ良ければ、先生方も満足せられる、内でも親達が満足するから、私は其で好(い)い事と思っていた。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
その汁でメリケン粉一杯をいためて赤葡萄酒(あかぶどうしゅ)を好(い)い加減(かげん)に注(つい)でその中へ今のいためた鰻を入て塩胡椒で味をつけて一時間位煮(にる)のです。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
もう好(い)い加減(かげん)歩(ある)いて行(い)つて、谷(たに)がお仕舞(しまひ)になつたかと思(おも)ふ時分(じぶん)には、また向(むか)ふの方(はう)の谷間(たにま)の板屋根(いたやね)から煙(けむり)の立(た)ち登(のぼ)るのが見(み)えました。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
繃帶(ほうたい)が乾(かわ)いて居(を)れば五六日(にち)は棄(す)てゝ置(お)いても好(い)いが、液汁(みづ)が浸(し)み出(だ)すやうならば明日(あす)にも直(すぐ)に來(く)るやうにと醫者(いしや)はいつたのであるが
土 (旧字旧仮名) / 長塚節(著)
「私(わし)が一本でも残してみなさい。世間の人達は、犬養め一番好(い)いのだけ一本引つこ抜いて置いた。狡(ずる)い奴だと噂をするだらうて。」
お幸は強い性質の子でした。丘の三本松は好(い)い形であると眺(なが)めることはあつても、感情的な弱い涙をそれに注がうとはしませんでした。
月夜 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
釣鐘草の咲く時分に、振袖の蛇体(じやたい)なら好(い)いとして、黄頷蛇(あおだいしよう)が、によろによろ、などは肝を冷(ひや)すと何だか手をつけかねた覚えがある。
玉川の草 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「大層腹を立てたんだね、——もっとも手前(てめえ)は腹を立てると好(い)い男になるぜ、ゲラゲラ笑っていると、反っ歯が、飛出すから——」
此所(こゝ)ならば度々(たび/″\)來(き)たが、未(ま)だ大發掘(だいはつくつ)はせずに居(ゐ)るのだ。今日(けふ)掘(ほ)つても好(い)いかと問(と)ふと、大丈夫(だいじやうぶ)だ。原田文海(はらだぶんかい)が心得(こゝろえ)とると大呑込(おほのみこ)み。
此返事(このへんじ)を聞(き)いて、むつと腹(はら)が立(た)つた。頭巾(づきん)の下(した)に歯(は)を剥出(むきだ)して、血色(けつしよく)の好(い)い頸元(えりもと)に伸(の)し掛(かゝ)ると向(むかう)は後退(あとすざり)もしない。また質(き)いて見(み)た。
御見物のお嬢様坊ちゃまがた、わたしはまあ何と言って皆様にお礼を申して好(い)いやら、あんまり嬉(うれ)しくて、申上げる言葉も知りません。
春 (新字新仮名) / 竹久夢二(著)
「軍人だと言いましたが、それですよ。絶世の美人という触込みです。写真でコロリと参って、会って見たら益〻好(い)いってんです」
負けない男 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
乘り入れて二進(につち)も三進(さつち)もいかなくなるか自腹の痛事あるべきなりオヽ怖(こは)やと悟る人は誠に好(い)い子といふべきなり抔(など)と横道の冗(むだ)は措き此(こゝ)を
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
そんな風に暫(しばら)く外にいてから部屋に帰って男を起す事になっていた。男の長い間好(よ)く眠るのを、女は体のために好(い)いように思っていた。
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
驚いたのは、そのだぼはぜ嬢、「好(い)いのよ、好いのよ」と嬌声(きょうせい)を発し、「あなた、とても好いわ」とぼくの肩に手を置いた事です。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
小春日和の風もない好(い)い日でした。日本より外には世界中どこへ行つてもこんな好い天気は見られまいと思はれるやうな初冬の或日でした。
畦道 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
これで好(い)い。(安心したるらしき様子にて二三歩窓の方に行(ゆ)き、懐中時計を見る。)なんだ。まだ三時だ。大分(だいぶ)時間があるな。
あゝ好(い)い心持(こゝろもち)ださつぱりしたお前(まへ)が承知(しようち)をしてくれゝば最(も)う千人力(にんりき)だ、信(のぶ)さん有(あり)がたうと常(つね)に無(な)い優(やさ)しき言葉(ことば)も出(いで)るものなり。
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
と謙遜(けんそん)の布袋(ぬのぶくろ)の中へ何もかも抛(ほう)り込んでしまう態度を取りにかかった。世の中は無事でさえあれば好(い)いというのなら、これでよかったのだ。
鵞鳥 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
こいつらがこうやって物質にばかり走って好(い)い気になってるあいだに、日本はどんどん心の修養を怠りません。そのはずです。
踊る地平線:05 白夜幻想曲 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
好(い)い出世をして、さぞ栄耀(えよう)も出来て、お前はそれで可からうけれど、財(かね)に見換へられて棄てられた僕の身になつて見るが可い。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
瑠璃草(るりさう)、紫羅欄花(あらせいとう)、罌粟(けし)の花、どんなに嫖緻(きりやう)の好(い)い子(こ)よりも、おまへたちの方(はう)が、わたしは好(すき)だ。滅(ほろ)んだ花よ、むかしの花よ。
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
近ごろ君、経済書の売行が好(い)いさうだが、何の事は無い、盗賊(ぬすびと)を見て縄を綯(な)ふやうなもんだ。戦争以来実業が勃興したといふのが間違つてる。
青年実業家 (新字旧仮名) / 内田魯庵(著)
非常(ひじやう)なもんだよ。君(きみ)は好(い)い事(こと)を聞(き)いてくれた。俺(おれ)の頭腦(づなう)の明晰(めいせき)を一層確實(そうかくじつ)に證據(しようこ)だてる機會(きくわい)を與(あた)へてくれた事(こと)を君(きみ)に感謝(かんしや)するね。待(ま)ちたまへ。
ハガキ運動 (旧字旧仮名) / 堺利彦(著)
『さア、それは好(い)い鹽梅(あんばい)だ!』と愛(あい)ちやんは獨語(ひとりごと)を云(い)ひました、女王樣(ぢよわうさま)が宣告(せんこく)された死刑(しけい)の人々(ひと/″\)を、如何(いか)にも氣(き)の毒(どく)に思(おも)つてた所(ところ)でしたから。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
二十円もあれば好(い)いでせうと云つて私を自身の室へ伴(つ)れて行つて二人の令嬢に紹介した。私は思ひ掛けない事に遇つて感極まつて涙が零(こぼ)れた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛、与謝野晶子(著)
明くる日の朝、私は七時に飛び起きて近所の自動電話へ馳(は)せ附け、電話帳を繰ると、好(い)い塩梅(あんばい)に浜田の家が見つかりました。
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
『Tさんは鋭いからねえ。あれはどうも本物だと思われる。やっぱり疑わない方が好(い)いんですよ』こうO先生は云われた。
仏法僧鳥 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
そうかな、僕ぁ斯(こ)んなもの面倒くさいな。死んだら灰にして海の上へでも飛行機でばら撒(ま)いてもらった方が気持が好(い)いな。
かの女の朝 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
『甚(はなは)だ失礼ぢやが……まだ日が高いし、それに今日東京に入(はい)つて置くと、都合が好(い)いから私(わし)は此処(ここ)で失礼して歩いて行かうと思ふんぢやが……』
朝 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
「私は人が好(い)いものですから」と甲斐は云った、「他人の艶(つや)ごとまでかぶせられるようで、いつもよく迷惑をいたします」
「好(い)い人なのにどうしてあんな事をしたのか、今はどんな人になっているだろう。同じ本屋から借りるのがいやだった。」
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
主『さうか。これは千住のか。道理で骨が硬くて、肉(み)に旨味が少いと思ツた。さきから、さう言へば好(い)いに…………。』
元日の釣 (新字旧仮名) / 石井研堂(著)
幾ら血が出ぬからと謂ツても、我々人間の内臟は、色でもまた形でも餘り氣味の好(い)いものでは無い……想像しても解る。
解剖室 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
「鳥(とり)や、」とその男(おとこ)が言(い)った。「何(なん)て好(い)い声(こえ)で歌(うた)うんだ! おれにも、初(はじめ)から聞(き)かしてくれ。もう一遍(ぺん)、歌(うた)ってくれ。」
私にもあまり好(い)い気持がしなかったが、何分(なにぶん)安値(やす)くもあるし、賑(にぎや)かでもあったので、ついつい其処(そこ)に居たのであった。
怪物屋敷 (新字新仮名) / 柳川春葉(著)
その文章(ぶんしやう)も如何にもすつきりと垢脱(あかぬ)けがして居て、讀んで居ては、實に氣持(きもち)の好(い)いものですが、特(とく)に氏の長所である心理描寫(しんりべうしや)といふ點に就て云へば
三作家に就ての感想 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
『今頃(いまごろ)は馬車(ばしや)にでも乘(の)つて、郊外(かうぐわい)へ行(い)つたらさぞ好(い)いでせう。』と、イワン、デミトリチは赤(あか)い眼(め)を擦(こす)りながら云(い)ふ。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
ああそれは好(い)い男よ。どうやらあたしも夢中になりそうだわ。でもどうだっていい、あたしブラシュヴェルに、あんたに惚(ほ)れてるって言っておくの。
今のうちに財産を残して死んだら、あんな好(い)い人とコンナ面白い生活が出来るんだけどナアとか……憎いアン畜生を
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
低い戸の側(そば)に、沢(つや)の好(い)い、黒い大きい、猫が蹲(うづくま)って、日向(ひなた)を見詰めていて、己が側へ寄っても知らぬ顔をしている。
冬の王 (新字新仮名) / ハンス・ランド(著)