“遣(や)” の例文
が、それが無謀な、不可能な、ただ快を一時に遣(や)る方法であることは、誰にもわかっていた。隣藩の亀山も、津の藤堂も勤王である。
乱世 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
番(ばん)ごと喧嘩(けんくわ)をして遣(や)り込(こ)めてやるのだが隨分(ずゐぶん)おもしろいよと話(はな)しながら、鐵網(かなあみ)の上(うへ)へ餅(もち)をのせて、おゝ熱々(あつ/\)と指先(ゆびさき)を吹(ふ)いてかゝりぬ。
わかれ道 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
(その内娘は左手の箪笥を開け探す。画家絵具入の抽斗(ひきだし)を抜き出(いだ)す。)ここだ、ここだ。(抽斗にある艶拭巾(つやぶきん)を二枚出(いだ)して投げ遣(や)る。 ...
お父様が古かね屋にでも遣(や)っておしまいなさるお積で、疾(と)うから蔵にしまってあったのを、引き出してお置になったのかも知れない。
ヰタ・セクスアリス (新字新仮名) / 森鴎外(著)
彼等の忠告のすぐその後で、すぐその場へ行くといふ事が、彼等に対する憤懣の唯一の遣(や)り場(ば)であり、彼等に酬(むく)いる唯一の道なんだ!
良友悪友 (新字旧仮名) / 久米正雄(著)
まず朝勃然(むっくり)起る、弁当を背負(しょ)わせて学校へ出(だし)て遣(や)る、帰ッて来る、直ちに傍近の私塾へ通わせると言うのだから、あけしい間がない。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
「勝負事もいいけれど、あの連中は腹を合わせて何をするかも知れやしないから、ここで遣(や)るのは不利益ですよ。」と諫(いさ)めてみるが
世間師 (新字新仮名) / 小栗風葉(著)
何がさて娘の頼みだ、聴いて遣(や)らん法はないと、ミハイロは財布の紐を解いて、稼(かせ)ぎ溜(た)めた金の中から、十銭丸(だま)を一つ出して遣つた。
椋のミハイロ (新字旧仮名) / ボレスワフ・プルス(著)
八畳の間で、庭の新緑に眼を遣(や)りながら四人が一と息入れているところへ、未亡人が挨拶旁〻(あいさつかたがた)嫁や孫たちを引き合せに這入(はい)って来た。
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
彼(かれ)は捕(とら)へられて家(いへ)に引返(ひきかへ)されたが、女主人(をんなあるじ)は醫師(いしや)を招(よ)びに遣(や)られ、ドクトル、アンドレイ、エヒミチは來(き)て彼(かれ)を診察(しんさつ)したのであつた。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
猶太(ユダヤ)心理学派の遣(や)り方だが、事実どう算(かぞ)えたって千法(フラン)には二法足らないんだから、やすいこた安いわけで、誰だって文句は言えまい。
時雄は黙って手紙を投げて遣(や)った、細君はそれを受取りながら、夫の顔をじろりと見て、暴風の前に来る雲行の甚だ急なのを知った。
蒲団 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
それもそうだ、一旦吐いてしまった自分の息は取り還せるわけはないからな。ではいっそ、何も彼(か)も初版どおりにまた遣(や)り直しだな。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
理解する事が出来ないのだ。どうかして具体的に分からせて遣(や)らなくてはならない。ちょいとこれを見い。ここになんと書いてある。
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
声をかけて見ようと思う、嫗は小屋で暗いから、他(ほか)の一人はそこへと見遣(や)るに、誰(たれ)も無し、月を肩なる、山の裾、蘆を裀(しとね)の寝姿のみ。
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
庄「旦那妙なもので、これは本当に真の友達で、銭が無けりゃア貸して遣(や)ろう、己(お)らが持合(もちあわ)せが有れば貸そうという中で有りますと」
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
内儀(かみ)さんは什麽(どんな)にしても救(すく)つて遣(や)りたいと思(おも)ひ出(だ)したら其處(そこ)に障害(しやうがい)が起(おこ)れば却(かへつ)てそれを破(やぶ)らうと種々(しゆじゆ)に工夫(くふう)も凝(こら)して見(み)るのであつた。
土 (旧字旧仮名) / 長塚節(著)
「そこですよ、私が心配して遣(や)るのは。旦那もネ、橋本の家で生れた人ですから、何卒(どうか)して私は……あの家で死なして遣りたくてサ」
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「震災でよごれたから手入れに遣(や)ったらこんなに白く塗りかえてしまった。弱く見え過ぎて困っているんだが……」と云いました。
所感 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
塾(じゆく)は家族的(かぞくてき)の組織(そしき)であるから各人(かくじん)共同(きようどう)の物(もの)である、塾生(じゆくせい)は此處(こゝ)を自分(じぶん)の家(いへ)と心得(こゝろえ)て何事(なにごと)も自分(じぶん)に責任(せきにん)を持(も)つて遣(や)らねばなりません。
女教邇言 (旧字旧仮名) / 津田梅子(著)
晶子君なども少(ち)ッと考えればすぐ解りそうな間違を平気で、遣(や)ッて居られるようだ、もしこの根本の誤解を反省せらるるの機会あらば
子規と和歌 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
味方の為に泣かず、敵の為に笑はず、天地に敵といふ観念なく、味方といふ思想あらざるなり。基督が世に遣(や)れる政治家は即ち彼なり。
最後の勝利者は誰ぞ (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
「あれはね、自働革砥(オートストロツプ)の音だ。毎朝髭を剃(そ)るんでね、安全髮剃を革砥(かはど)へ掛けて磨(と)ぐのだよ。今でも遣(や)つてる。嘘だと思ふなら來て御覽」
変な音 (旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
有力な弁護があったりして、一旦帰宅を許されていた好親は、ちょうど好い工合にそのとき、息子からの手紙を受取り、返事を遣(や)った。
日は輝けり (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
今夜だけはまあ泊めて遣(や)るから、あしたになったら何処(どこ)へでも勝手に出て行ってくれ。長く泊めて置くことは出来ねえぞ。いいか。
影:(一幕) (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
吐息に蒸されて滴(しずく)を結んだ羽根毛がつめたく鼻のあたりを湿(しめ)した。それが情感の遣(や)り場のない涙の感触に肖(に)てゐたのかも知れない。
青いポアン (新字旧仮名) / 神西清(著)
「君と二人で店の有象無象(うぞうむぞう)に勤勉の見本を示すんだそうだが、僕は何(ど)うも遣(や)り切れそうもない。頭がガン/\する。あゝ/\/\」
脱線息子 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
併(しか)し此(この)場を立ち上がって、あの倒れている女学生の所へ行って見るとか、それを介抱(かいほう)して遣(や)るとか云う事は、どうしても遣りたくない。
女の決闘 (新字新仮名) / 太宰治(著)
穏当(おとなしく)なって姪子(めいっこ)を売るのではない養女だか妾(めかけ)だか知らぬが百両で縁を切(きっ)で呉(く)れろという人に遣(や)る計(ばかり)の事、それをお辰(たつ)が間夫(まぶ)でもあるか
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
父のそのときの軽い苦笑には、相似るものをなつかしむと同時に嫌厭する遣(や)る瀬ない気持が陰になって唇を掠めたのを覚えております。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
だが特報は第一級であり、根深く、広範囲に拡(ひろ)まっていた。「幟もおっ立たない」ような息子に、嫁を遣(や)ろうという親はなかった。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
庭樹の茂(しげり)に隠れ行く篠田の後影(うしろかげ)ながめ遣(や)りたる渡辺老女の瞼(まぶた)には、ポロリ一滴の露ぞコボれぬ「きツと、お暇乞(いとまごひ)の御積(おつもり)なんでせう」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
それは折々私の遣(や)った薬がよく利(き)いた事もあるからですが、その薬は私の友達の広岡修造という医師から貰った薬も大分あります。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
そしてお客の持つて来た鱒の子は、悉皆(みんな)湖水のなかへ放して遣(や)つたら、幾年かの間に湖水は鱒で一杯になるだらうと言ひ/\してゐた。
これもバターが多過ぎてならず寡(すくな)くってもなりませんが先ず紙十枚位の厚さに塗るという心持(こころもち)で遣(や)っていると自然と覚えられます。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
第一、生れて一度も手紙の遣(や)り取(と)りなんかしたこともない。けれど私は信じていた。行けばきっと私を受け入れてくれるだろうと。
其処(そこ)をお考へ遊ばしたら、如何(いか)に好かん奴であらうとも、雫(しづく)ぐらゐの情(なさけ)は懸けて遣(や)らう、と御不承が出来さうな者では御座いませんか。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
思ひ遣(や)り又も泪に昏(くれ)し機(をり)丑刻(やつ)の鐘(かね)鐵棒(かなぼう)の音と諸共に松本理左衞門は下役(したやく)二人下男五六人召連自分(じぶん)獄屋(ごくや)に來り鍵番(かぎばん)に戸口を明けさせ九助を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
草花いぢりも夏の一得(いつとく)であらう。氣を換へるに非常にいゝ。筆の進まぬ時氣持の重い時、ひよいと庭の畑に出て、草をむしり、水を遣(や)る。
舞台の下手まで来て「あゝ、草臥(くたびれ)た/\」と腰を伸し、空を見上げて「まだ日が高けえや、一服遣(や)つて往(い)かう」と下手の床几(しょうぎ)に腰を掛け
大抵(たいてい)な人は財布(さいふ)の底をはたいて、それを爺さんの手にのせて遣(や)りました。私の乳母(ばあや)も巾着(きんちゃく)にあるだけのお金をみんな遣ってしまいました。
梨の実 (新字新仮名) / 小山内薫(著)
韓王(かんわう)始(はじ)め非(ひ)を用(もち)ひず、急(きふ)なるに及(およ)んで廼(すなは)ち非(ひ)を遣(や)りて秦(しん)に使(つか)はす。秦王(しんわう)之(これ)を悦(よろこ)び、未(いま)だ信用(しんよう)せず。李斯(りし)・姚賈(えうか)、之(これ)を害(い)み之(これ)を毀(そし)つて曰(いは)く
梅花(うめ)はもう眼を遣(や)る所に咲いていた。けれど山峡(やまあい)の冷気が肌身に沁(し)みて、梅花に楽しむよりも、心は人里にばかり牽(ひ)かれていた。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
... 仕て居るかナア、実に卓眼には恐れ入(いっ)た」谷間田は笑壷(えつぼ)に入り「フム恐れ入たか、爾(そう)折(おれ)て出れば未だ聞(きか)せて遣(や)る事が有る実はナ」
無惨 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
「国歌の人を鼓舞して忠誠を貫かしめ人を劇奨(げきしょう)して孝貞(こうてい)を竭(つ)くさしめ」云々「豈(あに)翅(ただ)に花を賞し月を愛(め)で春霞に思(おもい)を遣(や)り風鳥に心を傾くる」
人々に答ふ (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
植木屋を寄越したのではなくってあるいは家主自身で遣(や)ったものとしてもよいのである。いずれにしても感じは同じことである。
俳句はかく解しかく味う (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
之(これ)が俗(ぞく)に謂(い)ふ虫(むし)の知(し)らせとでもいふものであらうかと、後(のち)に思(おも)ひ當(あた)つたが、此時(このとき)はたゞ離別(りべつ)の情(じやう)さこそと思(おも)ひ遣(や)るばかりで、私(わたくし)は打點頭(うちうなづ)き
普通の目かくしでは、外から見て疑われる心配があるので、繃帯を使って怪我人と見せかけるのであろう。実に万遺漏(いろう)なき遣(や)り口(くち)である。
猟奇の果 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
所が困るのはその読合せだが、お前はどうか原書を見て居て呉(く)れぬか、私が写したのを読むから。実は昼遣(や)りたいが、昼は出来られない。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
暫くした時に、その前をズッシズッシと通ったのは、昨日、笹子峠の坊主沢のあたりで遣(や)り過ごした八州の役人という一隊でありました。
大菩薩峠:15 慢心和尚の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)