“掃(は)” の例文
間もなく——もう雀の声が聞かれる頃、ガタン、蔵屋敷の閂(かんぬき)が鳴る、寝不足そうな仲間(ちゅうげん)が箒(ほうき)を持って掃(は)く、用人らしい男が出てゆく。
鳴門秘帖:06 鳴門の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
... その代り玉子は人工孵卵器(ふらんき)で孵化させなければなりません」老紳士「鶏小屋の掃除はどうします」中川「毎日一度ずつ中を掃(は)いて糞(ふん)を ...
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
「それに氣が付いたから、此處へ來る前に、鳥越へ廻つて見た。そんな樣子はねえ。宗太郎は小僧と二人で一生懸命雪を掃(は)いて居たぜ」
蚊帳を飛び出して、どうするかと思ふと、何もすることがないものだから、まだ星が出てゐるのに庭を箒(はうき)で掃(は)き始めたさうである。
続野人生計事 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
お米の手に持つ菊の花、飾(かざ)った菊の植木鉢、それから借金取が取って掃(は)き出す手箒(てぼうき)も、皆彼の家から若者等が徴発(ちょうはつ)して往ったのである。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎、徳冨蘆花(著)
少年は、見当り次第の商家の前に来て、その辺にある箒(ほうき)を持って店先を掃(は)くのである。その必要のある季節には綺麗(きれい)に水を撒(ま)くのである。
みちのく (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
襖(ふすま)、柱、廊下、その他片っ端から汚い汚いと言いながら、歯がゆいくらい几帳面(きちょうめん)に拭いたり掃(は)いたり磨いたりして一日が暮れるのである。
蛍 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
「毛だって? はッはッはッ。そうだ、ちぢれた毛が一本入ってたナ。その毛が何だ。毛なんてものは掃(は)くほどあるじゃないか」
見えざる敵 (新字新仮名) / 海野十三(著)
しばらく、雨(あめ)ながら戸(と)に敷(し)いたこの青(あを)い葉(は)は、そのまゝにながめたし。「晩(ばん)まで掃(は)かないで。」と、留(と)めたかつた。が、時節(じせつ)がらである。
十六夜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花、泉鏡太郎(著)
落葉を振うものは必ずしも庭を掃(は)く人とは限らない。浅井君はたとい内裏拝観(だいりはいかん)の際でも落葉を振いおとす事をあえてする無遠慮な男である。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その遣り方が実に酷(ひど)い。ちょっと門口(かどぐち)の掃(は)き方が悪いとか、あるいはそこに塵(ちり)が一本あったというて、百円の二百円のという罰金を命ずる。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
やがて彼等(かれら)は板(いた)の間(ま)の藁屑(わらくづ)を土間(どま)へ掃(は)きおろしてそれから交代(かうたい)に風呂(ふろ)へ這入(はひ)つた。お品(しな)はそれを見(み)ながら默(だま)つて待(ま)つて居(ゐ)た。
土 (旧字旧仮名) / 長塚節(著)
客——でもないが、鍛冶屋富五郎が来ているあいだに、ちょっと家のまえの往来でも掃(は)いておこうと、喜左衛門の女房は箒(ほうき)を持って表へ出た。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「それでは、ありがたいことにもう何も見られなかったのだな。馭者も雪のなかの足跡を掃(は)きならしてしまっていたし」
城 (新字新仮名) / フランツ・カフカ(著)
それに、あの村(むら)はずれのお寺(てら)は、荒(あ)れはててだれも境内(けいだい)を掃(は)くものがなければ、一日(にち)じゅう、御堂(おどう)の戸(と)が閉(し)まっていることを思(おも)ったのでありました。
いちょうの葉 (新字新仮名) / 小川未明(著)
大兄は遣戸(やりど)の外へ出て行った。卑弥呼は残った管玉を引きたれた裳裾(もすそ)の端で掃(は)き散(ち)らしながら、彼の方へ走り寄った。
日輪 (新字新仮名) / 横光利一(著)
伯母さんの奥さんと分担で座敷の掃除をさせられる。其が済むと、今度は私一人の専任で庭から、玄関先から、門前から、勝手口まで掃(は)かせられる。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
小僧は見えかくれにそのあとに従いて行って、自分は木の実を千切ったり、掃(は)き溜(だ)めを漁ったりして喰べて行った。
猿小僧 (新字新仮名) / 夢野久作、萠円山人(著)
飲んで其の上祝儀が貰えりゃあ、此れ程結構な商売はなかろうぜ。お前のような怠け者の掃(は)け場には持って来いだ。
幇間 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
門(もん)の前には彼(か)の七兵衛老爺(じじい)が、銀杏(いちょう)の黄なる落葉を掃(は)いていた。横手の材木置場には、焚火の煙が白く渦巻いて、鋸(のこぎり)の音に雑(まじ)る職人の笑い声も聞えた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
床はきれいに掃(は)かれているし、花瓶の水もまだ新しい。まるで、兵舎の舎室のような整然たるようすをしている。
キャラコさん:07 海の刷画 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
外に掃(は)き出されて、人に踏まれるだけです。汝ら、罪に関する感覚を常に敏感ならしめよ。罪の傷口に、塩のしむ痛さを感ぜよ。聖言は汝らの塩である。
さすが京都で育っただけに、肌の白さ美しさ、眼鼻立ちから姿から何んとも云えず﨟(ろう)たけて見え、こんな山家へ持って来れば、正に掃(は)き溜(だ)めに鶴である。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
あっちの家からもこっちの家からも人が出て通りを掃(は)いております。水がまかれ牛糞(ぎゅうふん)や石ころはきれいにとりのけられ、また白い石英(せきえい)の砂(すな)が撒(ま)かれました。
四又の百合 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
僕は掃(は)き溜(だ)めをあさる痩せ犬のように、鼻さきが鋭敏になって、あくまで耽溺の目的物を追っていたのである。
耽溺 (新字新仮名) / 岩野泡鳴(著)
プティー・バンキエ街の角(かど)の所に、腰の曲がった婆さんが、街灯の光を頼りに掃(は)き溜(だ)めの中をかき回していた。
部屋のゴミが一寸の厚さにつもっても、女がそれを掃(は)くよりは、ゴミの中に坐っていて欲しいと私は思う。
いずこへ (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
貝塚(かいづか)即ち石器(せきき)時代人民の掃(は)き溜(だ)めより宗教上(しうけふじやう)の物を發見(はつけん)すとは如何にも誠しからず聞こゆべしと雖も、一定(いつてい)の時日を經(へ)たる後、或は一定の祭祀(さいし)を終りたる後は
コロボックル風俗考 (旧字旧仮名) / 坪井正五郎(著)
鹽花(しほばな)こそふらね跡(あと)は一まづ掃(は)き出(だ)して、若旦那(わかだんな)退散(たいさん)のよろこび、金(かね)は惜(を)しけれど見(み)る目(め)も憎(にく)ければ家(いゑ)に居(を)らぬは上々(じやう/\)なり、何(ど)うすれば彼(あ)のやうに圖太(づぶと)くなられるか
大つごもり (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
秋雨(あきさめ)はしだいに冷やかに、漆(うるし)のあかく色づいたのが裏の林に見えて、前の銀杏(いちょう)の実は葉とともにしきりに落ちた。掃(は)いても掃いても黄いろい銀杏の葉は散って積もる。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
美佐子は急(せ)きたてるようにして言った。そして、彼女は大急ぎで顔の白粉(おしろい)を掃(は)き直(なお)しにかかった。
秘密の風景画 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
その時(とき)、黒装束(くろせうぞく)に覆面(ふくめん)した怪物(くわいぶつ)が澤村路之助丈えと染(そ)めぬいた幕(まく)の裏(うら)からあらはれいでヽ赤(あか)い毛布(けつと)をたれて、姫君(ひめぎみ)の死骸(しがい)をば金泥(きんでい)の襖(ふすま)のうらへと掃(は)いていつてしまつた。
桜さく島:見知らぬ世界 (新字旧仮名) / 竹久夢二(著)
四月下旬の淡い雪代水が奥山から流れてくる時が、我が地方では春蚕の掃(は)き立ての季節であった。
利根川の鮎 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
仕方なく掃除だけは病人のうち比較的健康な一人が外に出て掃(は)いたり拭(ふ)いたりするのである。衣替えなどを請求してもかつて満足なものを支給されたためしはなかった。
癩 (新字新仮名) / 島木健作(著)
祖母(おばあ)さんは古(ふる)い苔(こけ)の生(は)えたお墓(はか)のいくつも並(なら)んだ石壇(いしだん)の上(うへ)を綺麗(きれい)に掃(は)いたり、水(みづ)をまいたりして
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
塵(ちり)を廊下に掃(は)き出すと、かれはバケツに水を汲(く)んで来て、寝間(ねま)と事務室とに雑巾(ぞうきん)がけをはじめた。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
貝塚(かひづか)といふのは、前(まへ)にも申(まを)したとほり、昔(むかし)の人(ひと)が海岸(かいがん)だとか、あるひは湖邊(こへん)だとかに棲(す)んでゐて、平常(へいじよう)食(く)つてゐた貝殼(かひがら)やその他(た)の不用物(ふようぶつ)をすてた掃(は)き溜(だ)めの跡(あと)であります。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
雨戸(あまど)をさす間(ま)もなく、今(いま)まで遠(とほ)くの林(はやし)の中(なか)に聞(きこ)えてゐた風(かぜ)の音(おと)は、巨人(きよじん)の手(て)の一煽(あふ)りのやうに吾(われ)にもない疾(はや)さで驅(かけ)て來(き)て、その勢(いきほ)ひの中(なか)に山(やま)の雪(ゆき)を一掃(は)き捲(ま)き込(こ)んでしまつた。
日の光を浴びて (旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
あれこれ考えながらお座敷を掃(は)いて、それから、お風呂をわかす。お風呂番をしながら、蜜柑箱(みかんばこ)に腰かけ、ちろちろ燃える石炭の灯をたよりに学校の宿題を全部すましてしまう。
女生徒 (新字新仮名) / 太宰治(著)
時には、両肢(りょうあし)をかがめその長い手で、地上を掃(は)きながら疾風のようにはしる——ゴリラだ。私は、それと分るとぞっと寒気がし、顎(あご)ががくがくとなり、膝がくずれそうになった。
人外魔境:01 有尾人 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
橋廊下から母屋(もや)の方の台所へ出て行くと、年増(としま)のと少(わか)いのと、女中が二人で昨夜(ゆうべ)の膳椀や皿小鉢の始末をしていた。筒袖(つつそで)に三尺を締めて、土間を掃(は)いている男衆の姿も目に着いた。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
おやじの栄吉があの娘を可愛(かわい)くって手放せない、娘はあのとおりのきりょうよしだから、縁談は掃(は)いて捨てるほどあるんだが、おやじがうんといわないためいまだに白歯のまんまです
醜聞 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
一日に二、三度、通り雨が森と水を掃(は)いて過ぎた。私たちは朝早く分水線(リッジ)を渡って、一日ボウトを漕(こ)いだ。どこへ行っても人っ子ひとり会わなかった。水は澄み切って底が見えていた。
踊る地平線:05 白夜幻想曲 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
もし霜月としなば已に落葉の時候も過ぎたるからに、たとひ落葉せし処も吹き散らし掃(は)き除けたるかも測(はか)るべからず。さありては松の木ばかりの禅寺といふ意を現はすに足らざるなり。
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
筒井は貞時と話しているときに何かはたらき甲斐(がい)のあるものを感じ、できるだけ毎日を愉(たの)しく美しく掃(は)ききよめたいと、仕えの女の遊ばぬように心をくだいて、それぞれ整えるものを整え
津の国人 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
「水竹居」はその父竹渓が文政八年歳晩「掃塵」の作中に「先生閑居号水竹。不洒不掃守老屋。」〔先生閑居シテ水竹ト号シ/洒(ふ)カズ掃(は)カズシテ老屋ヲ守ル〕というより考えてそのままこれを
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
こういう風に挙げてくると、女の黄楊櫛(つげぐし)から、さては菓子型の類、庭を掃(は)く棕櫚帚(しゅろぼうき)などに至るまで、仕事のよいのを色々と拾うことが出来ます。京都は今も手仕事の都といわねばなりません。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
百姓家とは違って、庭は綺麗(きれい)に掃(は)き浄(きよ)められ、植木や飛び石の配置にも雅致(がち)があった。私には無論、そうしたことの味わいはわからなかったのだが、ただ、何とはなしに「いいな」と思った。
雑巾(ぞうきん)がけをする、床を掃(は)く、母ちゃんを床の上に寝かしてやる——ところが、そのお母さんは気ちがいときて、涙っぽい女で気ちがいなんでございますよ! こういうわけでございますから
「満蔵、今日は朝のうちに籾(もみ)を干すんだからな、すぐ庭を掃(は)いてくれろ」
隣の嫁 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)