“杼(ひ)” の例文
與吉(よきち)は獨(ひと)り死(し)んだお品(しな)の側(そば)に熟睡(じゆくすゐ)して居(ゐ)た。卯平(うへい)は取(と)り取(あへ)ずお品(しな)の手(て)を胸(むね)で合(あは)せてやつた。さうして機(はた)の道具(だうぐ)の一(ひと)つである杼(ひ)を蒲團(ふとん)へ乘(の)せた。
土 (旧字旧仮名) / 長塚節(著)
彼は流れの中に既に我を喉まで引入れ、今己が後(うしろ)より我を曳きつゝ、杼(ひ)のごとく輕く水の上を歩めるなりき 九四—九六
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
きさらぎや多摩の山方(やまかた)、まだ寒き障子(あかりど)の内、人影の、手に織る機の、ていほろよ筬(をさ)うつらしき。立ちどまり、うつらに聴けばからりこよ、杼(ひ)の鳴るらしき。
海阪 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
今多く結つて居る髷(まげ)は毛を小(ちひさ)く分けて指の先でふうわりと一寸程の高さの輪に巻いてピンを横に差して押さへた、機(はた)を織る杼(ひ)の中の管糸巻(くだいとまき)の様なのを、多いのは二十程
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛、与謝野晶子(著)
路に梭(をさ)の音(おと)の高く聞ゆる家ありければ眼(まなこ)を転じて見るに、花の如き少女(むすめ)ありて杼(ひ)を用ゆること甚だ忙(せ)はし、わが蓬莱曲の露姫が事を思ひ出でゝなつかしければ、能く其面(おもて)を見んとするに
三日幻境 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
クラウストンの『俗話小説の移化(テールス・エンド・ポピュラル・フィクションス)』一に引いたカシュミル国の譚に織工ファッツ一日杼(ひ)を一たび投げて蚊七疋殺し武芸無双と誇って、杼と手荷物と餅一つ裹(つつ)んだ手巾を持って武者修行に出で
目を挙げて経済世界のありさまを見れば、秋風寂寞(せきばく)、満目荒涼、ただ黄面痩骨(そうこつ)、人鬼相半ばするの老若男女が犂(すき)を揮い、杼(ひ)を握るを見るなり。その従事する職業はもとより自由の職業にあらず。
将来の日本:04 将来の日本 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
院長先生医学博士は、過ぎし日あたしが持った杼(ひ)と同じように
泥沼呪文 (新字新仮名) / 細井和喜蔵(著)
あの杼(ひ)の音箴(おさ)打つ音にも驚くのだよ。
須賀爺 (新字新仮名) / 根岸正吉(著)
猫(ねこ)が死人(しにん)を越(こ)えて渡(わた)ると化(ば)けるといつて杼(ひ)は猫(ねこ)の防禦(ばうぎよ)であつた。杼(ひ)を乘(の)せて置(お)けば猫(ねこ)は渡(わた)らないと信(しん)ぜられて居(ゐ)るのである。
土 (旧字旧仮名) / 長塚節(著)
我も姿、詞(ことば)によりてまたかくの如くになしぬ、こは彼がいかなる機(はた)を織るにあたりて杼(ひ)を終りまで引かざりしやを彼より聞かんとてなりき 九四—九六
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
きさらぎや多摩の山方(やまかた)、まだ寒き障子(あかりど)の内、人影の、手に織る機の、ていほろよ筬(をさ)うつらしき。立ちとまり、うつらに聴けば、からりこよ、杼(ひ)の鳴るらしき。
篁 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
運転中杼(ひ)を替え得る程に
織工 (新字新仮名) / 根岸正吉(著)
針、杼(ひ)、紡錘(つむ)を棄てゝ卜者となりし幸なき女等を見よ、彼等は草と偶人(ひとがた)をもてその妖術を行へり 一二一—一二三
神曲:01 地獄 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)