“丈(た)” の例文
だが、山よ、出来得べくはなる丈(た)け育てて呉れ。翁はこどもを山の方に捧げ、ひょこひょこひょこと三つお叩頭(じぎ)をして、置いて帰った。
富士 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
亭主は家中(いへぢう)に有り丈(た)けのお金でお神さんの望み通りの馬車をこしらへて遣りました。お神さんは喜んでそれに乗つて方々を駈(かけ)まはりました。
金剛石 (新字旧仮名) / 夢野久作(著)
春の草は丈(た)け短く、地にがっしりと腰を据えたるが多く、花は紅を基調とする。夏草は中等に伸び上り、花は白が基調である。
この時期は成(な)る丈(た)け早く通過すべきである。日本探偵小説の如何に長くこの時期にウロツイていることか。笑う可(べ)きである。
思ったままを! (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
其夜の夢に逢瀬(おうせ)平常(いつも)より嬉しく、胸あり丈(た)ケの口説(くぜつ)濃(こまやか)に、恋知(しら)ざりし珠運を煩悩(ぼんのう)の深水(ふかみ)へ導きし笑窪(えくぼ)憎しと云えば、可愛(かわゆ)がられて喜ぶは浅し
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
主『然るを、初心(うぶ)の者に限ツて、合せと挙るを混同し、子供の蛙釣の様に、有るツ丈(た)けの力で、かう後の方へ、蜻蛉返り打せるから…………。』
元日の釣 (新字旧仮名) / 石井研堂(著)
久我大納言(こがだいなごん)を勅使として下向を命じた、と云う政府の趣意(しゅい)は甚(はなは)だ旨い、この時に政府は既(すで)に処分済の後だから、成(な)る丈(た)け平穏を主として事を好まぬ。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
薄緑のみずごけの毛氈の上には、ところどころに丈(た)けひくいいそつつじと木フレップとが、入り乱れて生えている。
ツンドラへの旅 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
何と云う気高い、何と云う無邪気な……彼は持ち合して居る有り丈(た)けの讃辞を投げ出そうと試みた位であった。
偽刑事 (新字新仮名) / 川田功(著)
ファラデーは身の丈(た)けは中位より少し低い。よく整っていて、活溌で、顔の様子が非常に活き活きしている。
晩秋の夕陽が芒(すすき)の穂や雑木(ぞうき)の枝に動いていた。そこには菊芋(きくいも)の丈(た)け高い麻のような茎も見えていた。
草藪の中 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
その低いのでは三、四尺位の丈(た)けのものもあるが、その高いものになると一丈余にもなっている。稈の上部は細長円柱形で葉から超出し衆草を抜いて高く聳えている。
植物記 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
その手入(ていれ)を加えた物置というのは、今の学生二人のいる表二階の一室(ひとま)で、人間の身の丈(た)けぐらいに白い光りの見ゆるのが、その大学生が縊死(いし)を遂(と)げた位置と寸分違わない。
白い光と上野の鐘 (新字新仮名) / 沼田一雅(著)
其処(そこ)から木立の入口まで、身の丈(た)け程の恰好な藪が続いて、手裏剣を防いでくれるのでした。
江戸の火術 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
その中で物慣れたらしい半白の丈(た)けの高いのが、一同に代わってのようにこう言った。「御苦労はこっちのことだぞ」そうその男の口の裏は言っているように彼には感じられた。
親子 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
公子 (衝(つ)と押す、闥(ドア)を排(ひら)きて、性急に登場す。面(おも)玉のごとく﨟(ろう)丈(た)けたり。黒髪を背に捌(さば)く。青地錦の直垂(ひたたれ)、黄金(こがね)づくりの剣(つるぎ)を佩(は)く。上段、一階高き床の端に、端然として立つ。)
海神別荘 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そこに方丈(ほうじょう)の壇をむすび、何かの符を書いてそれを焼(や)くと、たちまちに符の使い五、六人、いずれも身の丈(た)け一丈余にして、黄巾(こうきん)をいただき、金甲(きんこう)を着け、彫(ほり)のある戈(ほこ)をたずさえ
世界怪談名作集:18 牡丹灯記 (新字新仮名) / 瞿佑(著)
四人(よにん)まで投(な)げ倒(たふ)したが、第(だい)五番目(ばんめ)にのつそりと現(あら)はれて來(き)た露西亞(ロシヤ)の陸軍士官(りくぐんしくわん)、身(み)の丈(た)け六尺(しやく)に近(ちか)く阿修羅王(あしゆらわう)の荒(あ)れたるやうな男(をとこ)、力任(ちからまか)せに私(わたくし)の兩腕(りよううで)を握(にぎ)つて一振(ひとふり)に振(ふ)り飛(と)ばさんず勢(いきほひ)
身の丈(た)け五尺五寸あまり。顔色あくまでも黒く、眼大きく、鼻高く、一文字の口に太い眉、それに、肩幅が広くて体じゅうに瘤のような筋肉が盛れ上っている——この辺で有名な怪童、威丈夫、剣客。
平馬と鶯 (新字新仮名) / 林不忘(著)
丈(た)けは僅か二三尺に過ぎない、が年功は相当に経ているだけに、薪にすると火持がよい、併し、これを炭に焼けば一層結構なものになると、かねがねそれを心掛けていたが、最近の農業雑誌を見ると
蓮「成る丈(た)け催促をしないようにおしなさい」
政談月の鏡 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
岳神の息子夫妻の象徴のように一方は普通の峯かたちで、一方はいくらか繊細(きゃしゃ)で鋭く丈(た)けも高かった。山の祖神の老いの足でも登れた。
富士 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
そして、ありっ丈(た)けの力をこめて相手の頭上に恐しい一撃を加えた。鈍い骨の砕ける様な音と共に闖入者は蹌(よろ)めくと、そのまま床に倒れてしまった。
赤い手 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
珠運(しゅうん)命の有らん限りは及ばぬ力の及ぶ丈(た)ケを尽してせめては我が好(すき)の心に満足さすべく、且(かつ)は石膏(せっこう)細工の鼻高き唐人(とうじん)めに下目(しため)で見られし鬱憤(うっぷん)の幾分を晴(は)らすべしと
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
私の身の丈(た)けは五尺七寸三、四分、体量は十八貫目足らず。年の頃十八、九の時から六十前後まで増減なし、十八貫を出たこともなければ十七貫に下(くだっ)たこともない。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
この角柱の丈(た)けが低くなると(9)の厚板になり、更に低くなると(8)の模様入り角板となるのである。(10)のコップ型の結晶は氷の部分が非常に薄くなった場合である。
雪 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
ふと、夜中に目を覚すと、自分ともう一人の友達の寝ている間(ま)の、天井の上の方から、ボー……と白いような光りが、しかも恰度(ちょうど)人間の身の丈(た)けくらいな長さに射すのが目に見ゆる。
白い光と上野の鐘 (新字新仮名) / 沼田一雅(著)
ここから見渡すことのできる一面の土地は、丈(た)け高い熊笹(くまざさ)と雑草の生い茂った密林でした。それが私の父がこの土地の貸し下げを北海道庁から受けた当時のこの辺のありさまだったのです。
小作人への告別 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
紳士は凄じく景気の宜(よ)い大広間の様子を眺めた後、成(な)る丈(た)け人眼に立た無いようにと室の片隅の花瓶の蔭へこっそり腰を卸(おろ)してから、給事に料理を云い付けた。
闘牛 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
三百何十通の手紙又親子の間は愛情一偏で、何ほど年を取(とっ)ても互(たがい)に理窟らしい議論は無用の沙汰(さた)である。是(こ)れは私も妻も全く同説で、親子の間を成る丈(た)け離れぬようにする計(ばか)り。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
ところがその人間の身の丈(た)けくらいな天井から射す白光(はっこう)が、連夜続けて目に見ゆるのが叶(かな)わぬというので、或る朝起きると何だろうと、もう一人の友達に不思議を立てるようになった。
白い光と上野の鐘 (新字新仮名) / 沼田一雅(著)
芝生代りに校庭に植えられた牧草は、三番刈りの前でかなりの丈(た)けにはなっているが、一番刈りのとはちがって、茎が細々と痩せて、おりからのささやかな風にも揉まれるように靡(なび)いていた。
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
法官「必要に依って調べもしよう——何かお前に云うことがあったら成(な)る丈(た)け簡単に云うがよい」
死の復讐 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
恐らく山羊が鳴いたのでしょう……ところが、甚だ御迷惑でしょうが、凶行のあった其晩のことと、その前の日の出来事とを、成(な)る丈(た)け詳細に正直に——いやこれは失礼いたしました。
西班牙の恋 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)