“兀(は)” の例文
ここに照る月、輝く日は、兀(は)げた金銀の雲に乗った、土御門家(つちみかどけ)一流易道、と真赤(まっか)に目立った看板の路地から糶出(せりだ)した、そればかり。
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
頭が兀(は)げるから、食ふ事、飲む事、寝る事、頭の兀げる事、その外そんな馬鹿らしい事を、一々のべつに考へてゐなくてはならないと云ふのですか
またその横の卵屋では、無数の卵の泡の中で兀(は)げた老爺が頭に手拭を乗せて坐っていた。その横は瀬戸物屋だ。
街の底 (新字新仮名) / 横光利一(著)
久「へい/\恐入ります、惜しい事に周囲(まわり)がポツ/\兀(は)げて居りますナ、些(ち)とお茶がお温(ぬる)いようでございます」
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
蝶よ花よと育てた愛女(まなむすめ)が、堕落書生の餌(えば)になる。身代を注(つ)ぎ込んだ出来の好い息子が、大学卒業間際に肺病で死んで了う。蜀山(しょくさん)を兀(は)がした阿房宮が楚人(そびと)の一炬(いっきょ)に灰になる。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎、徳冨蘆花(著)
蝶よ花よと育てた愛女(まなむすめ)が、堕落書生の餌になる。身代を注ぎ込んだ出来の好い息子が、大学卒業間際に肺病で死んでしまう。蜀山(しょくさん)を兀(は)がした阿房宮(あぼうきゅう)が楚人(そびと)の一炬に灰になる。
地蔵尊 (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
ここに至って客の老人(としより)は徐(おもむ)ろに頭(こうべ)を擡(あ)げた。艶やかに兀(は)げた前頭からは光りが走った。其の澄んだ眼はチラリと主人を射た。が、又忽(たちま)ちに頭(かしら)を少し下げて、低い調子の沈着な声で
雪たたき (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
捨てんか捨てんか、捨てたりともしろかねの猫にあらねば門前の童子もよも拾はじ。売らんか売らんか、売りたりとも金箔(きんぱく)の兀(は)げたる羽子板にも劣りていたづらに屑屋(くずや)に踏(ふ)み倒されん。
土達磨を毀つ辞 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
兀(は)げたる眉を隠すきぬぎぬ 芭蕉
芭蕉雑記 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
頭髪あたかも銀のごとく、額兀(は)げて、髯(ひげ)まだらに、いと厳(いか)めしき面構(つらがまえ)の一癖あるべく見えけるが、のぶとき声にてお通を呵(しか)り
琵琶伝 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
台所から出入りの牛乳屋(ちちや)の小僧が附ぶみをした事のあるのを、最も古くから、お誓を贔屓(ひいき)の年配者、あたまのきれいに兀(は)げた粋人が知っている。
灯明之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
半纏着は、急に日が蔭ったような足許(あしもと)から、目を上げて、兀(は)げた老人(としより)の頭(つむり)と、手に持った梨の実の白いのを見較べる。
白金之絵図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
追従笑(ついしょうわら)いの大口を開くと歯茎が鼻の上まで開(はだ)けて、鉄漿(おはぐろ)の兀(は)げた乱杭歯(らんぐいば)の間から咽喉(のど)が見える。怯(おび)えたもんですぜ。
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
何地(いずち)行(ゆ)きけむ。久しくその名聞えざりしが、この一座に交りて、再び市人(いちびと)の眼に留りつ。かの時の俤(おもかげ)は、露ばかりも残りおらで、色も蒼からず、天窓(あたま)兀(は)げたり。
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
藥(くすり)を煎(せん)じて、盆(ぼん)は兀(は)げたが、手(て)は白(しろ)い。お艷(つや)が、納戸(なんど)へ持(も)つて行(ゆ)く、と蒲團(ふとん)に寢(ね)て居(ゐ)ながら手(て)を出(だ)した。
一席話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花、泉鏡太郎(著)
上が兀(は)げて、土がきれいで、よく見ると、誂(あつら)えた祭壇の……そこへ天狗が集りそうで、うそ寂しい。
五十恰好(かっこう)で、天窓(あたま)の兀(は)げたくせに髪の黒い、色の白い、ぞろりとした優形(やさがた)な親仁(おやじ)で、脈を取るにも、蛇(じゃ)の目(め)の傘(かさ)を差すにも、小指を反(そら)して、三本の指で、横笛を吹くか
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「さてまたさぞ苦(にが)る事だろう、ほうしょは折目摺(ず)れが激しいなあ。ああ、おやおや、五つ紋の泡が浮いて、黒の流れに藍(あい)が兀(は)げて出た処は、まるで、藍瓶(あいがめ)の雪解だぜ。」
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
桜草をお職にした草花の泥鉢、春の野を一欠(ひとかき)かいて来たらしく無造作に荷を積んだのは帰り支度。踵(かかと)を臀(しり)の片膝立。すべりと兀(は)げた坊主頭へ縞目(しまめ)の立った手拭(てぬぐい)の向顱巻(むこうはちまき)。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
馬の沓形(くつがた)の畠やや中窪(なかくぼ)なのが一面、青麦に菜を添え、紫雲英を畔(くろ)に敷いている。……真向うは、この辺一帯に赤土山の兀(は)げた中に、ひとり薄萌黄(うすもえぎ)に包まれた、土佐絵に似た峰である。
瓜の涙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
色は兀(は)げたが、活(い)きているようで、——(先には店頭(みせさき)にあったのだと後で聞いた)
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
爪の黒ずんだ婆さんの、皺頸(しわくび)へ垢手拭(あかてぬぐい)を巻いたのが、乾(から)びた葡萄豆(ぶどうまめ)を、小皿にして、兀(は)げた汁椀を二つ添えて、盆を、ぬい、と突出した。片手に、旦那様穿換(はきか)えの古足袋を握っている。
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あの親仁(おやじ)も大分百姓を痛めて溜込(ためこ)みましたね。そのかわり頭が兀(は)げた。まあ、皆(みんな)が図書様を取巻いて、お手柄にあやかるのかしら。おや、追取刀(おっとりがたな)だ。何、何、何、まあ、まあ、奥様々々。
天守物語 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
紅葉(もみじ)の中に著(いちじ)るく、まず目に着いたは天窓(あたま)のつるりで、頂ャ兀(は)げておもしろや。耳際から後(うしろ)へかけて、もじゃもじゃの毛はまだ黒いが、その年紀(とし)ごろから察するに、台湾云々というのでない。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
衣(きぬ)ずれの音立てて、手をあげてぞ指さし問いたる。霞ヶ峰の半腹に薄き煙めぐりたり。頂の松一本(ひともと)、濃く黒き影あざやかに、左に傾きて枝垂(しだ)れたり。頂の兀(は)げたるあたり、土の色も白く見ゆ。
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
五分刈(ごぶがり)のなだらかなるが、小鬢(こびん)さきへ少し兀(は)げた、額の広い、目のやさしい、眉の太い、引緊(ひきしま)った口の、やや大きいのも凜々(りり)しいが、頬肉(ほおじし)が厚く、小鼻に笑(え)ましげな皺(しわ)深く、下頤(したあご)から耳の根へ
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
きびらの洗いざらし、漆紋(うるしもん)の兀(は)げたのを被(き)たが、肥って大(おおき)いから、手足も腹もぬっと露出(むきで)て、ちゃんちゃんを被(はお)ったように見える、逞(たく)ましい肥大漢(でっぷりもの)の柄(がら)に似合わず、おだやかな、柔和な声して
二、三羽――十二、三羽 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
兀(は)げ天窓(あたま)の小男の一言は、いうまでもなく大いなる力があったのである。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
彼処(かしこ)に、尾花が十穂(とほ)ばかり、例のおなじような兀(は)げた丘の腹に、小草(おぐさ)もないのに、すっきりと一輪咲いて、丈も高く莟(つぼみ)さえある……その竜胆を、島田髷のその振袖、繻珍(しゅちん)の帯を矢の字にしたのが
お止し遊ばせば可いのに、お妖怪(ばけ)と云えば先方(さき)で怖がります、田舎の意気地(いくじ)無しばかり、俺(おいら)は蟒蛇(うわばみ)に呑まれて天窓(あたま)が兀(は)げたから湯治に来たの、狐に蚯蚓(みみず)を食わされて、それがためお肚(なか)を痛めたの
湯女の魂 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
兀(は)げたのだらう。月に青道心(あおどうしん)のやうで、さつきから黙(だんま)り家(や)の老人(としより)が
光籃 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
雲おじいは眩(まば)ゆそうな顔をして、皿の兀(は)げた天窓(あたま)を掻く。
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
兀(は)げた紺足袋(こんたび)を穿(は)いて居(ゐ)ます。
艶書 (旧字旧仮名) / 泉鏡花、泉鏡太郎(著)