“唯(ト)” の例文
唯(ト)見(み)ると、親父(ちやん)は湯玉(ゆだま)を拂(はら)つて、朱塗(しゆぬり)に成(な)つて飛出(とびだ)した、が握太(にぎりぶと)な蒼筋(あをすぢ)を出(だ)して、脛(すね)を突張(つツぱ)つて、髯旦(ひげだん)の傍(かたへ)に突立(つツた)つた。
銭湯 (旧字旧仮名) / 泉鏡花、泉鏡太郎(著)
唯(ト)、席(せき)に着(つ)くと、袖(そで)から散(ち)つたか、あの枝(えだ)からこぼれたか、鍋(なべ)の蓋(ふた)に、颯(さつ)と卯(う)の花(はな)が掛(かゝ)つて居(ゐ)て、華奢(きやしや)な細(ほそ)い蕋(しべ)が、下(した)のぬくもりに、恁(か)う、雪(ゆき)が溶(と)けるやうな薄(うす)い息(いき)を戦(そよ)がせる。
銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花、泉鏡太郎(著)
唯(ト)、其(そ)の橋(はし)の向(むか)う際(ぎは)に、淺(あさ)い岸(きし)の流(ながれ)に臨(のぞ)んで、束(たば)ね髮(がみ)の襟許(えりもと)白(しろ)く、褄端折(つまはしよ)りした蹴出(けだ)しの薄(うす)ら蒼(あを)いのが、朦朧(もうろう)として其處(そこ)に俯向(うつむ)いて菜(な)を洗(あら)ふ、と見(み)た。其(そ)の菜(な)が大根(だいこん)の葉(は)とは違(ちが)ふ。
みつ柏 (旧字旧仮名) / 泉鏡花、泉鏡太郎(著)
唯(ト)、夫人(ふじん)の居室(ゐま)に當(あた)る、甘(あま)くして艷(つや)つぽく、色(いろ)の濃(こ)い、唐(から)の桐(きり)の花(はな)の咲(さ)いた窓(まど)の下(した)に、一人(ひとり)影(かげ)暖(あたゝ)かく彳(たゝず)んだ、少年(せうねん)の書生(しよせい)の姿(すがた)がある。其(そ)の人(ひと)、形容(けいよう)、都(と)にして麗(れい)なり、と書(か)いてある。
みつ柏 (旧字旧仮名) / 泉鏡花、泉鏡太郎(著)
唯(ト)、犬(いぬ)は廊下(らうか)を、何處(どこ)へ行(い)つたか分(わか)りません。
雪霊続記 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)