“呀(あ)” の例文
呀(あ)ッと一同が首をすくめる遑(ひま)もあらばこそ、機関銃がパッと空中に跳(は)ねあがり、天井(てんじょう)に穴をあけると、どこかに見えなくなりました。
崩れる鬼影 (新字新仮名) / 海野十三(著)
しかも予期したことながらあまりにも醜怪なる現実に直面して「呀(あ)ッ!」と思わず、私は顔を掩(おお)わずにはいられなかったのであった。
陰獣トリステサ (新字新仮名) / 橘外男(著)
壇(だん)を落(お)ちるやうに下(お)りた時(とき)、黒(くろ)い狐格子(きつねがうし)を背後(うしろ)にして、婦(をんな)は斜違(はすつかひ)に其處(そこ)に立(た)つたが、呀(あ)、足許(あしもと)に、早(は)やあの毛(け)むくぢやらの三俵法師(さんだらぼふし)だ。
人魚の祠 (旧字旧仮名) / 泉鏡花、泉鏡太郎(著)
油断せる貫一が左の高頬(たかほ)を平手打に絶(したた)か吃(くらは)すれば、呀(あ)と両手に痛を抑(おさ)へて、少時(しばし)は顔も得挙(えあ)げざりき。蒲田はやうやう座に復(かえ)りて
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
彼はムックリ起き上って暖炉(ストーブ)の上へ手をかけた。と同時に呀(あ)ッ! と叫んだ。不思議、水晶の栓は跡形もなく消えて無くなった。
水晶の栓 (新字新仮名) / モーリス・ルブラン(著)
「呀(あ)と……思う間に、それがしの手を捥(も)ぎ離し、肩を離れて、激流のなかへ自ら溺れて行きました。呼べど、叫べど、もう影もなく声もなく」
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「呀(あ)ツ」と云ふ女の聲が聞えて、間もなく火光(あかり)がパッと消えた。窓を開けようとして、戸外(そと)の足音に驚いたものらしい。
病院の窓 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
剃刀を振ると、鼻梁(はなばしら)を横に切られた折助の一人が、呀(あ)ッと言って面(かお)を押える、紅殻(べにがら)のような血が玉になって飛ぶ。
で、その芸者の亡くなつた記事が目につくと「呀(あ)」と言つたが、直ぐ顔を揚げて忰(せがれ)の長三郎を呼んだ。
扉(と)が開かれると、真先に橘が飛び込んだが、入口の真正面の壁際に据えてある寝台の方へつかつかと駈(かけ)て行った橘は、そこで棒立になり「呀(あ)ッ」と微(かすか)な叫びを洩(もら)した。
火縄銃 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
呀(あ)ッと面を押えて退(の)け反(ぞ)った時に、今度は妻の方が再びもぞもぞと起き上る気配なので、我を忘れて駈け寄るが早いか、体と云わず顔と云わず滅多矢鱈(めったやたら)に殴りつけました。
陳情書 (新字新仮名) / 西尾正(著)
一気に扉を押し破りて窖(あなぐら)の中に躍り入り、呀(あ)つと逃げ迷ふ奈美女の白き胴体を、横なぐりに両断し、総身の黥(いれずみ)を躍らせて掴みかゝる馬十の両腕を水も堪まらず左右に斬り落す。
白くれない (新字新仮名) / 夢野久作(著)
呀(あ)ッ! 着剣(つけけん)をしているではないか! そして帽子の顎紐(あごひも)をかけている!
蟹工船 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
手拭を右の手に握り、甕から少しはなれた所に下駄を脱いで、下駄から直に大胯(おおまた)に片足を甕に踏み込む。呀(あ)、熱(あつ)、と云いたい位。つゞいて一方の足も入れると、一気に撞(どう)と尻餅(しりもち)搗(つ)く様に坐(す)わる。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎、徳冨蘆花(著)
「呀(あ)ッ、あぶないッ!」と叫んだが、既に遅かった。ダダダーン、ヒューッと、発射された銃弾は帆村たちのいる室内に撃ちこまれた。
蠅男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
あすこは狭い通りに混(ご)み混(ご)みといつも人が雑踏しているところですが、今店へ入ろうとした途端、呀(あ)っ! と思わず叫びを挙げました。
墓が呼んでいる (新字新仮名) / 橘外男(著)
呀(あ)? 茶釜(ちゃがま)でなく、這般(この)文福和尚(ぶんぶくおしょう)、渋茶(しぶちゃ)にあらぬ振舞(ふるまい)の三十棒(さんじゅうぼう)、思わず後(しりえ)に瞠若(どうじゃく)として、……唯(ただ)苦笑(くしょう)するある而已(のみ)……
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
客たちは、息をこらし、呀(あ)と、声を出す者もなかった。驚きと、感嘆と、恍惚(こうこつ)とだけが、そこにあった。
お和歌さんは「呀(あ)ツ。」と言つて顔をかくした様に記憶(おぼ)えてゐる。私は目を円(まろ)くして、梯子口から顔を出してると、叔父は平気で笑ひながら、「誰にも言ふな。」と言つて、お銭(あし)を呉れた。
刑余の叔父 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
「呀(あ)ッ」
すると運わるく石塊に躓(つまず)いた。そして呀(あ)ッという間もなく、身体は巴投(ともえな)げをくったように丁度一廻転してドタンと石畳の上に抛(ほう)りだされた。
棺桶の花嫁 (新字新仮名) / 海野十三(著)
日付も何もない! 途端に、呀(あ)っと私は吸い付けられたように行を逐(お)うた。見よ! このキャンプ陣営の中には物凄い椿事(ちんじ)が起こったのであった。
令嬢エミーラの日記 (新字新仮名) / 橘外男(著)
信吾を見ると、『呀(あ)。』と抑へた樣な聲を出して、膝をついて、『ようこそ。』と言ふも口の中。信吾はそれに挨拶をし乍らも、頭を下げた清子の耳の、薔薇の如く紅きを見のがさなかつた。
鳥影 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
綾子は照射入(さしい)れる燈火に射られて、呀(あ)と叫びて跳上りぬ。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「呀(あ)ッ」
大菩薩峠:10 市中騒動の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
いや、取出せばその筋(すじ)へ届けるつもりだった、本当です。しかし世間を呀(あ)っといわせたかった。そこで思いついたのが、赤見沢博士の研究だ。
鞄らしくない鞄 (新字新仮名) / 海野十三(著)
と、口々に騒ぎ立てている土人を制止して、私は近づいて行ってみたが、一眼見ると同時に思わず呀(あ)っ! と叫んで顔を掩(おお)わずにはいられなかった。
令嬢エミーラの日記 (新字新仮名) / 橘外男(著)
信吾を見ると、『呀(あ)。』と抑へた様な声を出して、膝をついて、『ようこそ。』と言ふも口の中。信吾はそれに挨拶をし乍らも、頭を下げた清子の耳の、薔薇(さうび)の如く紅きを見のがさなかつた。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
「呀(あ)ッ」
と思ったとたん、またひとしきりの風がふきつけて、呀(あ)っと思う間もなく、電線は博士の足首を身体からプツリと切り放してしまった。さあ大変!
空気男 (新字新仮名) / 海野十三、丘丘十郎(著)
途端に「呀(あ)っ!」と心臓でも突き刺されたような呻(うめ)き声を妻は挙げた。恐怖と絶望が見る見る顔色を変えさせて今にも倒れんばかりの喘(あえ)ぎであった。
陰獣トリステサ (新字新仮名) / 橘外男(著)
呀(あ)ツと思はず聲を出した時、かの聲無き葬列は礑(はた)と進行を止めて居た、そして棺を擔いだ二人の前の方の男は左の足を中有(ちう)に浮して居た。其爪端(つまさき)の處に、彼の穢い女乞食が摚(どう)と許り倒れて居た。
葬列 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
「待て……」と言って兄がふりあげた右手に、細身の短刀がキラリと光ったものですから、勝見は「呀(あ)ッ……」と驚いて壁ぎわに身をよせました。
赤耀館事件の真相 (新字新仮名) / 海野十三(著)
我らの動きを凝視している幾千幾万という人の群れ! 呀(あ)っ! と思わず我々は声を立てずにはいられなかった。
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
呀(あ)ツと思はず声を出した時、かの声無き葬列は礑(はた)と進行を止めて居た、そして、棺を担いだ二人の前の方の男は左の足を中有(ちう)に浮(うか)して居た。其爪端(つまさき)の処に、彼(か)の穢(きた)ない女乞食が摚(だう)と許り倒れて居た。
葬列 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
「呀(あ)ッ」と小さい叫声をたてた。この婦人は鬼村博士の一人娘の真弓子(まゆみこ)にちがいなかった。無論彼女は、いち早く、椋島の姿をみとめたのである。
国際殺人団の崩壊 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ともかく、その詰物を取り除くと同時に、一同呀(あ)っ! とばかりに悲鳴を挙げて、函の廻りから飛び退(の)いた。
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
呀(あ)っと叫ぶ間もなく、轟然、地軸が裂けるかと思うばかりの大音響と共に、四郎の乗っている櫓は天に沖(ちゅう)する真赤な火柱の中に包まれてしまった。
雷 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「どうしたのようトリステサ、ホホホホホホ駄目じゃないの、ホホホホホホあらまあ! 呀(あ)っうううううう」
陰獣トリステサ (新字新仮名) / 橘外男(著)
「うん——」真弓は、だしぬけに、男爵の首ッ玉に噛(かじ)りつくと、呀(あ)ッという間に、チュッと音をさせて、接吻(せっぷん)を盗んだ。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
八人思わず「呀(あ)っ」と叫んだきり、あまりの不気味さに顔色を変えぬものはございませんでした。
蒲団 (新字新仮名) / 橘外男(著)
その声のもとに逃げだすかと思った女は、逃げるどころか、呀(あ)ッという間に飛鳥の如く半之丞の懐に飛びこんで来た。
くろがね天狗 (新字新仮名) / 海野十三(著)
が一足その左へ折れた途端、我々は呀(あ)っ! と思わずそこに立ち竦(すく)まずにはいられませんでした。
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
さすがの帆村も、これを聞いて、呀(あ)っと愕(おどろ)いた。それではあの諜者連は彼の持っている短波通信機に用があったのか。
暗号数字 (新字新仮名) / 海野十三(著)
爪先(つまさき)上がりの草原を海岸へ足を向けて、娘たちの家からいくつの丘を越え林を越え、野を越えて来た頃でしょうか? 風致のいい赤松の丘の中ほどで、呀(あ)っ! と思わず私は立ち停まりました。
墓が呼んでいる (新字新仮名) / 橘外男(著)
「呀(あ)ッ。ありましたありました。肋骨が一本、ストーブの煙道(えんどう)のところからブラ下っていますよ。煙道の中が怪しい」
蠅男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
見覚えのある太い門柱が、陽(ひ)を浴びて立っているのが眼に入ってきました。叫びたいのを我慢して、一気に駈(か)け上って行った途端……呀(あ)っ! と叫んで、私はへなへなと崩おれてしまいました。
墓が呼んでいる (新字新仮名) / 橘外男(著)
だが暫くすると、警官たちは云いあわせたように、呀(あ)ッと悲鳴をあげると、将棋だおしに、後方(うしろ)へひっくりかえった。
恐怖の口笛 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「呀(あ)っ!」
グリュックスブルグ王室異聞 (新字新仮名) / 橘外男(著)
だが、もし誰かこの林の中を、なおも見ている人があったとしたら、その人はきっと、呀(あ)ッと声をあげて、びっくりしたかも知れない。というのは……。
地球盗難 (新字新仮名) / 海野十三(著)