“輝(て)” の例文
サアお出(いで)だというお先布令(さきぶれ)があると、昔堅気(むかしかたぎ)の百姓たちが一同に炬火(たいまつ)をふり輝(て)らして、我先(われさき)と二里も三里も出揃(でぞろ)って、お待受(まちうけ)をするのです。
忘れ形見 (新字新仮名) / 若松賤子(著)
ああすでにその炬火もいかに遠くなってることぞ! 彼はその光に道を輝(て)らされてたときには、もうほとんど絶頂に達したものだと思っていた。
ただ時々、憤怒の衝動が、過度の苦悩が、そして彼の魂のすみずみまでを輝(て)らす青白い急速な光が、彼自身からかまたは外からか突然に襲ってきた。
焚(た)き連らねられた篝火(かがりび)のため式の場は煌々(こうこう)と輝(て)りかがやき、ズラリと居流れた人々の衣裳の皺(しわ)さえ見えそうである。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
彼(かれ)は山茶花(さざんか)の葉(は)の上(うえ)に止(と)まりました。そこにも、あたたかな夕日(ゆうひ)の光(ひかり)が、赤々(あかあか)として輝(て)っていました。
寒い日のこと (新字新仮名) / 小川未明(著)
一粒の大麻実(おおあさのみ)と葉簇(はむら)の中で、日光の輝(て)るのと一緒に出来るだけ楽しくいつもふざけたり歌つたりしてゐて、人の注意から免れてゐるこれらの鳥は、大食の鵞鳥と同じ程
人は日の光の鮮かに輝(て)り渡る中に在つて占有と勞働との喜びに充ち溢れてゐる。余は霧の如きものの常に身邊を圍繞して晴れざることを嘆ずる。彼等は樂觀し余は悲觀する。
三太郎の日記 第一 (旧字旧仮名) / 阿部次郎(著)
星は月の御座を囲み月は清らかに地の花を輝(て)らす。花は紅と咲き黄と匂い紫と輝いて秋の野を飾る。花の上月の下、潺湲(せんかん)の流れに和して秋の楽匠が技を尽くし巧みを極めたる神秘の声はひびく。
霊的本能主義 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
両(もろ)の掌(て)に輝(て)りてこぼるる魚のかず掬(すく)へども掬へどもまた輝りこぼるる
雲母集 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
雲のために明滅するその薄明りは、足下を輝(て)らすには十分であって、ゆききする人影に妨げられるあなぐらの風窓から落つる一種の青白い光にも似ていた。
エマニュエルの灰色の猫は、パリーの空に輝(て)らされてる息苦しい屋根裏と不具の主人とに、よく調和していた。
蘭灯(らんとう)暗く室を輝(て)らし、閉め切った銀襖(ふすま)の銀箔も朦朧(もうろう)として影暗く、廊下を隔てた中庭の、竹の林の畔(ほとり)からザワザワと聞こえる風の音さえ、深更だけに物凄い。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
身動(みうごき)をなさる度ごとに、辺(あた)りを輝(て)らすような宝石がおむねの辺やおぐしの中で、ピカピカしているのは、なんでもどこかの宴会へお出(いで)になる処であったのでしょう。
忘れ形見 (新字新仮名) / 若松賤子(著)
┌輝(て)る日麗ら万劫経たる海亀のこの諦(あきら)めの大きなるかも (原作)
雀の卵 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
しかも彼には星とともに下界を輝(て)らす信念がある。
霊的本能主義 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
彼の眼には、理性の太陽は深淵(しんえん)の岩壁を輝(て)らすばかりであって、深淵から出る方法を示してもくれなければ、深淵の深さを測ることさえ得さしてくれないのだった。
それともいえぬ風窓からのほのかな明るみが、いつも彼の魂を輝(て)らしていたのみである。
童女像朱(しゆ)の輝(て)り霧(き)らひ今朝見れば手に持つ葡萄その房見えず
黒檜 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
岸の燈火が、河の漆黒な鎧(よろい)を輝(て)らして、暗い閃(ひら)めきを放たした。ガス燈の銅色の反映、電気燈の月色の反映、人家の窓ガラス越しの蝋燭(ろうそく)の血色の反映。そして河の囁(ささや)きが闇にいっぱいこもっていた。
大船の香取の海に潮(うしほ)とよみ弓弭(ゆはず)輝(て)りわたらす経津主(ふつぬし)の神
黒檜 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
輝(て)る日麗(うら)ら万劫経たる海亀のこの諦(あきら)めの大きなるかも
真珠抄 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
穏やかで、日が輝(て)り渡り、寂然(じゃくねん)としている。
山河に輝(て)れる今宵(こよひ)の望月の円(まど)けき思(も)へば我盲(し)ひにけり
黒檜 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)