“偃(は)” の例文
土塊(どくわい)の如(ごと)く動(うご)かぬ彼(かれ)の身體(からだ)からは憐(あはれ)に微(かす)かな煙(けぶり)が立(た)つて地(ち)を偃(は)うて消(き)えた。藁(わら)の火(ひ)を沿(あ)びた時(とき)其(そ)の火(ひ)が襤褸(ぼろ)な彼(かれ)の衣物(きもの)を焦(こが)したのである。
土 (旧字旧仮名) / 長塚節(著)
すると荒削りの山の肌が、頂に近く偃(は)ひ松の暗い緑をなすつた所に、小さく一匹の獣が見えた。それが青猪と云ふ異名を負つた、日本アルプスに棲む羚羊(かもしか)であつた。
槍ヶ岳紀行 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
岬(みさき)のやうな形(かたち)に偃(は)うて居(ゐ)る水田(すゐでん)を抱(かゝ)へて周圍(しうゐ)の林(はやし)は漸(やうや)く其(そ)の本性(ほんしやう)のまに/\勝手(かつて)に白(しろ)つぽいのや赤(あか)つぽいのや、黄色(きいろ)つぽいのや種々(いろ/\)に茂(しげ)つて
土 (旧字旧仮名) / 長塚節(著)
火(ひ)は乾燥(かんさう)した藁束(わらたば)の周圍(しうゐ)を舐(ねぶ)つて、更(さら)に其(その)焔(ほのほ)が薄闇(うすぐら)い家(いへ)の内(うち)から遁(のが)れようとして屋根裏(やねうら)を偃(は)うた。それが迅速(じんそく)な火(ひ)の力(ちから)の瞬間(しゆんかん)の活動(くわつどう)であつた。
土 (旧字旧仮名) / 長塚節(著)