“一(い)” の例文
例えば彼等(ら)の女性観を聞くと自分自身が女性でありながら一(い)ち一ち傾聴(けいちょう)せずには居られない位(くらい)に深刻に女性を解剖(かいぼう)しています。
新時代女性問答 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
仮初(かりそめ)にも一匹(いつぴき)の男子たる者が、金銭(かね)の為に見易(みか)へられたかと思へば、その無念といふものは、私は一(い)……一生忘れられんです。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
笹村よりかむしろ一歩先に作を公にしたことなどもあり、自負心の高い深山が、一(い)ッ端(ぱし)働き出そうとしている様子がありあり笹村の目に見えた。
黴 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
ほんの一(い)っ時(とき)違いで、すでに弘前の某氏が売約されたために、藤田さんの手にはいらなかったのです。
虹と感興 (新字新仮名) / 上村松園(著)
また漸く口にのぼせた文句だけはあのやうに一(い)つ端(ぱし)偉さうな美辞麗句に富んでゐる見たいであるが、それを吐き出す様子の切な気に見ゆると云つたらない! 躓いたり、途切れたり
歌へる日まで (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
「そうよ。民さんなんざあ腰が低いんじゃねえ、頭(ず)が高(た)けえんだ。それだからどうも信用されねえんだね」「本当によ。あれで一(い)っぱし腕があるつもりだから、——つまり自分の損だあな」
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「さあ、こっちから押すんだぞ。一(い)チ、二(に)イ、三(さ)ン。そら、よいしょ」
火星探険 (新字新仮名) / 海野十三(著)
一(い)ッそネネを殺ってしまっていたでしょう、ふッふふふ……ネネは僕に何一つ思い出を遺(のこ)してはくれなかったんですが、こんどの女は、こんなに消えぬ思い出を与えてくれたんです、久劫(くごう)に消えぬ
腐った蜉蝣 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
(椅子を落つ。侍女の膝にて、袖を見、背を見、手を見つつ、わななき震う。雪の指尖(ゆびさき)、思わず鬢(びん)を取って衝(つ)と立ちつつ)いいえ、いいえ、いいえ。どこも蛇にはなりません。一(い)、一枚も鱗はない。
海神別荘 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それが少しでも傾(かし)ぐと世界の運命が狂ひ出すと云つたやうな無形の核心を貴方が感じられないなんて、人類や個人は無論の事、万物の幸福と安穏とが一(い)つにそれに係つてをり、それに従へば平安を得
王 一(い)っ時じゃ、ただの——
胚胎 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
二人は、一(い)チ二(に)イ三(さ)ンで、左右へ別れて、山を下りはじめた。
少年探偵長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「ぱらいぞは確かだ。光栄な一(い)つ時(とき)を忍べ!」