“呆(あ)” の例文
何やら、謎めいた言葉に、お小夜も、甚三郎もやや呆(あ)っ気にとられていたが、平四郎が逃げる気と勘づいたので、はっとしながら
夏虫行燈 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
新子は、夫人が更に何を云い出すのかと、呆(あ)っ気に取られて、夫人の顔を、ぼんやり見上げていると
貞操問答 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
「何(いづ)れ一度は御厄介(ごやつかい)になりますが聞いて呆(あ)きれらア、ハヽヽヽヽ」「ハヽヽヽヽヽヽ」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
鷺太郎が、呆(あ)ッ気(け)にとられている間(あいだ)に、もう畔柳博士は春生を連れて、漸(ようや)く濃くなって来た夕闇の中を、進んで行った。それは恰度、ゆうべの悪夢の復習のように、そっくりであった。
鱗粉 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
あの人を喰った顔をみてると、僕は呆(あ)っ気(け)にとられてしまいます。あまりみごとなとぼけ顔にぼんやりして了うのです。手も足も出なくなるって言う言葉がありますが、こんなんだと思いますね。
みごとな女 (新字新仮名) / 森本薫(著)
僕は呆(あ)っ気(け)にとられましたから、トックにその理由を尋ねようとしました。が、トックも興奮したとみえ、椅子の上に突っ立ちながら、「クラバック、弾け! 弾け!」とわめきつづけています。
河童 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
呆(あ)つ氣(け)にとられて百姓(ひやくしやう)は
鸚鵡:(フランス) (旧字旧仮名) / 福士幸次郎(著)
「落着きなさい。……痴情(ちじょう)の業(わざ)のするところだ、醒(さ)めた後では、己れの心が、己れでもわからないほど、呆(あ)っ気(け)ないものになってくる」
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
毛虫は薄いトタン屋根の上にかすかな音を立てたと思うと、二三度体をうねらせたぎり、すぐにぐったり死んでしまいました。それは実に呆(あ)っ気ない死です。同時にまた実に世話の無い死です。——
手紙 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
呆(あ)っ気(け)に取られたまま忘れてしまったものか、お帰りには誰か付けて送らせる——といった筈だが彼が門を去っても、送って来る者はない。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
僕は呆(あ)っ気(け)にとられたまま、しばらくは身動きもしずにいました。河童もやはり驚いたとみえ、目の上の手さえ動かしません。そのうちに僕は飛び立つが早いか、岩の上の河童へおどりかかりました。
河童 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
藤吉郎は、初めのうち、ちょっと呆(あ)っけにとられた顔をしていたが、ははアと何かうなずくと、図ぼしを指すようにいった。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
すでに、怯気(おじけ)に襲われ、最初の気勢を失ってしまった他の山伏たちは、呆(あ)っ気(け)にとられて、魔王弁円のすさまじい後ろ姿を、ただ見送っている。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
だから、ここではいい商(あきな)いも出来たが、来始めの二、三年は、この土地の人間の気質(きだて)というものが分らなくて、清吉は呆(あ)っ気(け)に取られてばかりいた。
春の雁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
千人の商人のうちには、ひとりぐらいはそんなのもあるだろうが、人間の本性は、そんな呆(あ)っ気(け)ないものじゃない。おまえにもその性根はあるだろう。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「あしたの朝になったら、さだめし呆(あ)ッ気に取られて、ゆうべ吹いた笛吹きの名人は、狐か狸じゃなかッたかと、大騒ぎをして戸惑いをしやがるだろう」
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
原士たちは唖然(あぜん)として、棒を飲んだようになっていた。一角も呆(あ)ッ気(け)にとられて、いうべき言葉を忘れている。
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
皆、呆(あ)ッ気にとられて、猿の顔を見まもったが、その日から何だか少しずつ、ここの闇が明るくなり出した。
茶漬三略 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
男は、呆(あ)っ気(け)にとられた顔をして、目や、鼻や、口を、異様に動かしたが、うんともすんとも言わなかった。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
呆(あ)っ気(け)にとられたような顔して、露八は、歩くことも、お菊ちゃんに答えることも、忘れているのだった。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、呆(あ)っ気にとられる博労の男の手へ、一枚の小判を落として、三人はぶらりと外へ出て行きました。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
場所が場所なので、満堂の人は呆(あ)っ気(け)にとられ、あれよあれよと興ざめ顔に見ていたが、禰衡はすましたもので、赤裸のまま、ふたたび鼓を取って三通(つう)まで打ち囃した。
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「はやくせい、女房。なにを呆(あ)っけにとられている。刻(とき)を争うほど、重い怪我人じゃ。手当次第で助かるかもしれぬ。寝床? ——どこでもよいわ、はやく静かな所へ」
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、叫んだ声や眼(まな)ざしのただならぬ烈(はげ)しさに、家臣たちが、呆(あ)っ気(け)にとられたこともあった。
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
符牒(ふちょう)の呼び値が懸(かか)りだすと、伊太利珊瑚の値は一躍百両を越えて百五十両の台になり、さすがな、買い方も呆(あ)ッけにとられて口を緘(つぐ)んでしまったと思うと、金吾のうしろから
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
玄蕃や近習が呆(あ)ッ気(け)にとられている間にである。つつつと、奥の一室へかくれてしまった。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして口へ持って来て横に咥(くわ)えると、初めて呆(あ)っけにとられている老小使へ返辞をした。
かんかん虫は唄う (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ここへ来て、彼らは初めて曹操の魏王宮を見、その華麗壮大なのに、呆(あ)っ気(け)にとられた。
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
番士たちは、呆(あ)ッけにとられた。眼のくらんだ蜻蛉(やんま)のように、武蔵は飛んでゆくのだ。
宮本武蔵:02 地の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして、彼らが呆(あ)っ気にとられた刹那に、妻の体を引っ抱えて、さっと廻廊の角まで身を避け、次に彼らがどんな陣容(じんよう)を盛り返してかかってくるかと、身構えをとって睨んでいた。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
すでにその権(けん)まくからして只ならないものがある。往来の者は、呆(あ)ッ気にとられて
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その自責からする折檻(せっかん)は、又八を撲った数よりも遥かに多い。又八は呆(あ)っけにとられていたが、青ぶくれになった虚無僧の額から血がにじみ出て来たので、止めずにいられなくなった。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
呆(あ)っ気(け)にとられているのを後にして、お光さんは活溌に、石段の降り口へ向って歩き出した。——そこへトム公が駈け上って来た。トム公を見るとお光さんは、姉のように手を伸ばした。
かんかん虫は唄う (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ほかの蛮将や土人の衛兵なども、事の不意に、ただ呆(あ)ッ気(け)にとられていた。
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
お蔦は、呆(あ)ッ気(け)にとられたように、庄次郎の背へ、眼をみはった。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
呆(あ)っ気にとられた友達の顔を下に措(お)いて、彼は起ち上っていた。
濞かみ浪人 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
呆(あ)っ気(け)にとられている四郎次を、やがて仲間の者が囲んで
梅颸の杖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
任原の弟子数百人は、一瞬、呆(あ)ッけにとられていたが
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
露八は呆(あ)っ気(け)にとられながらしみじみと感心した。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
羅門塔十郎は、呆(あ)ッ気(け)にとられた顔つきで
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)