“赫(か)” の例文
話のすむのをもじ/\して待っていた署長は年の割に毛の薄い頭から湯気でも立てるように赫(か)っとして、早口の北陸訛りで怒鳴った。
支倉事件 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
そして赫(か)っとした弾みに、姉に発射はしたものの、やっぱり大学生からは何の音沙汰(おとさた)もなく、父も姉もいなくなった淋(さび)しさに堪え切れずに
墓が呼んでいる (新字新仮名) / 橘外男(著)
赫(か)っと焔のように染めている、陽の反映を頭上に浴びながら、法水は犯人クリヴォフを俎上(そじょう)に上(のぼ)せて、寸断的な解釈を試みた。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
「いいや、今更やめることは出来ないぞ、」とノズドゥリョフは、赫(か)っと急(せ)きこんで言った。「勝負は始まったのだから!」
と臙脂(えんじ)と匂(にお)い袋(ぶくろ)の強い薫(かお)りが、新九郎の若い血を嵐のように騒がせた。赫(か)っとした熱い顔を伏し眼にして、彼は現(うつつ)な目を絵具皿に吸わせていた。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
殊(こと)に此の赫(か)ッと怒(いか)りますと、毛孔(けあな)が開いて風をひくとお医者が申しますが、何(ど)う云う訳か又極(ご)く笑うのも毒だと申します。
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
と両手で控帳の端を取って、斜めに見せると、楷書(かいしょ)で細字(さいじ)に認(したた)めたのが、輝くごとく、もそりと出した源助の顔に赫(か)ッと照って見えたのは、朱で濃く、一面の文字(もんじ)である。
朱日記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
思わず赫(か)ッとなってスティックを握った儘、二人の前へ飛び出たのであります。……
陳情書 (新字新仮名) / 西尾正(著)
少しでも距離を大きくすることは、それだけ孤独に近づくことであった。見通しも利(き)かないほど濶(ひろ)い原野の夕暮れは、ひととき赫(か)ッと輝いて、あとはたちまち時雨(しぐ)れるようなうす墨であった。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
この忘られ掛けた余燼(よじん)が赫(か)っと炎を上げたと云うのは、荒廃し切った聖堂に、世にも陰惨な殺人事件が起ったからである。
聖アレキセイ寺院の惨劇 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
やがて、砂丘の向うが、赫(か)っと明るくなったと思うと、天に冲(ちゅう)した、光の帯が倒れるように落ちかかってきた。
潜航艇「鷹の城」 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)