“裡(り)” の例文
そして平和裡(り)に、事をきめたい考えであることが分った。が、このとき火星人たちは、何思ったものか、急に密林から姿を現わした。
火星探険 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ある午後、僕は博士の不在を見すまして、猛然と彼女に迫つた。阿耶は拒まなかつた。二人は黒眼鏡(めがね)をかけて、白熱光裡(り)の人となつた。
わが心の女 (新字旧仮名) / 神西清(著)
拝啓愈(いよいよ)御多祥奉賀候(がしたてまつりそろ)回顧すれば日露の戦役は連戦連勝の勢(いきおい)に乗じて平和克復を告げ吾忠勇義烈なる将士は今や過半万歳声裡(り)に凱歌を
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
彼等はことごとく家族を後(あと)に、あるいは道塗(どうと)に行吟(こうぎん)し、あるいは山沢(さんたく)に逍遥(しょうよう)し、あるいはまた精神病院裡(り)に飽食暖衣(ほうしょくだんい)するの幸福を得べし。
馬の脚 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
かれの心の冒険と暗々裡(り)に合流して、かれの情熱を漠とした無法則な希望ではぐくんでいる、あの外界の冒険に対してである。
「それがしに、使いをお命じ下さるなれば、敵をも救け、味方の一兵をも損ぜず、平和裡(り)に、高岡の一城を、主君(との)のお手に収めて参ります」
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
氷光(ひょうこう)明徹(めいてつ)裡(り)の寒月 を見てそぞろに故郷を懐(おも)い、あるいはその凄じき清らかなる状態を想うて幾つかの歌が出来ましたが、その中の一、二を申せば
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
彼は売色塲裡(り)に人と成り、此も好色修行に身を抛(なげう)ち、彼も華奢豪逸を以て心事となし、此も銀むくの煙管を路傍の狗(いぬ)に与へて去るの傲遊(がういう)を以て快事となす。
恋人の一身をすっかりわが物にしたということを空想裡(り)に感じて、彼は喜びの戦慄(せんりつ)を覚えた。どんな仕事も、これほどたやすくまた嬉(うれ)しいものはなかった。
「発見までには二十億ドルを費(ついや)」し「六万五千を超える」技術作業員を擁(よう)した大工場の作業が、極秘裡(り)に進められていようとは夢にも考えていなかったのである。
原子爆弾雑話 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
婦人(おんな)が黒い目で睨(にら)む数の重(かさな)るに従うて、次第に暗々裡(り)に己(おのれ)を襲うものが来(きた)り、近(ちかづ)いて迫るように覚えて、今はほとんど耐難(たえがた)くなったと見え、知らず知らず左の手が
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そのうちにまた野呂の泣き上戸が始まって、れいの如く、神も仏もないものかと泣きわめく始末で、九時頃には大叫喚裡(り)にこのヤケッパチの酒宴は終りを告げました。
ボロ家の春秋 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
吾人(ごじん)は今この光明中よりして松陰を見る、あたかも水晶盤裡(り)において、氷雪を見るが如し。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
小首は傾(かし)げながらもまた夫人は、生き生きとして来客たちの接待に余念もなく、当夜の客にいささかの不快も与えず会は成功裡(り)に終ったのであったが、殿下が御帰館になったのは
グリュックスブルグ王室異聞 (新字新仮名) / 橘外男(著)
斯くて明治四十三年一月第九日目の土俵場裡(り)へ、大剛太刀山と駒ヶ嶽との雄姿が出現する事になつたが、此立合は凄じい勢を以て立上ると、一二合突合つてカツキと四つに引組んだ。
八百長くづれ (新字旧仮名) / 栗島山之助(著)
征衣(せいい)のまま昼夜草鞋(わらじ)を解かず、またその間にはしばしば降雪に遇(あ)い、ために風力計凝結(ぎょうけつ)して廻転を止(とど)むるや、真夜中に斫(き)るが如き寒冽なる強風を侵(おか)して暗黒(あんこく)裡(り)に屋後(おくご)の氷山に攀(よ)じ登り
江戸の通客粋人が四畳半裡(り)に浅酌低唱(せんしゃくていしょう)する、ここは辰巳(たつみ)の里。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
引かれるままの夢中裡(り)の彷徨(ほうこう)だ。
人外魔境:03 天母峰 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
彼は人目に触れやすい社交場裡(り)で、同じ所作(しょさ)をなお二三度くり返した後、発作のために精神に狂(くるい)の出る危険な人という評判を一般に博し得た。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
というのは、それぞれの部にある局部長らの人物もみな一トかどの人物だし、それらの者との談笑裡(り)の会飲(かいいん)やら話のおもしろさといったらない。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
行くものをして行かしめ、亡びるものをして亡びしめよ。こういう悲壮な心境をもって、この日常のするどい緊張裡(り)に、僕らは毎日生きているのです。御憫笑(ごびんしょう)下さい。
ボロ家の春秋 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
「そうだ。けしからん話だ。せっかく平和裡(り)に、高度の文化のめぐみをうけてくらしている、われら海底都市住民の生存をおびやかすなどとは、許しておけないことだ」
海底都市 (新字新仮名) / 海野十三(著)
知りたいともかつて冀(こいねが)わなかった印度の細かい事情がすっかり飲み込めて、ギラギラするような熱帯の風物下、英国の暴圧裡(り)に生きる望みを失って酔生夢死の生活を送っている印度大衆の姿が
ナリン殿下への回想 (新字新仮名) / 橘外男(著)
友だちを皆引き止めてその皆を満足させるの技倆(ぎりょう)をもっていなければならない者に必要な一種の技術に、子どもの時から馴(な)らされてる社交裡(り)の若い女性特有の、みごとなかわいい自然さをもって
およそ、お城普請(ぶしん)には、三つの法がある。第一が秘速(ひそく)。秘密裡(り)に迅速ということである。第二には堅粗(けんそ)、堅固にして粗なるもよしということである。装飾や美観は泰平になってからやれば宜しい。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
人々はこのやさしい小さな芽生(めば)えを、社交裡(り)に引き入れたり芝居に連れていったりした。彼女はもう子どもではないのに、皆から子どもとして取り扱われ、自分でもやはり子どものように思っていた。
この長い籠城(ろうじょう)と猛攻の根くらべが、平和裡(り)におさまって、波多野氏の旧領も安堵(あんど)となれば、領民もどれほどありがたく思うであろうか——などと巧みに扱うと、ようやく、双方の心体もほぐれ出して
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)