“焔(も)” の例文
おのおのが、その身辺の地上で焔(も)えているベトベトした油のかたまりのようなものに蒲団やら、土やらをかぶせて退治して、また一休み。
薄明 (新字新仮名) / 太宰治(著)
非常に冷たきものにふれた時熱き感触を味わうように、探偵小説の運ぶものは冷たい熱情、焔(も)ゆる冷厳であるであろう。
また能く火と変じ、その竜火湿を得ればすなわち焔(も)ゆ、水を得ればすなわち燔(や)く、人火を以てこれを逐えばすなわち息(や)む、竜は卵生にして思抱す〉
原動機(げんどうき)は廻転し、ベルトはふるえ、軸(シャフト)は油をなめまわし、攪拌機(かくはんき)はかきまわし、加熱炉(かねつろ)は赤く焔(も)え、湯気(ゆげ)は白く噴き出し、えらい騒ぎが毎日のように続いた。
坪内君その前に出でて名を成したがために文学上のアンビションを焔(も)やしたのでさもなければやはり世間並の職業に従事してシャレに戯文を書く位で終ったろう。
残暑焔(も)ゆるがごとき炉の傍に、終日屹坐(きつざ)して思いに沈みぬ、その日の夕、にわかに戸を敲(たた)くものありき、彼は愕として飛び立ちしが気を静めておそるおそる戸を明けしに
空家 (新字新仮名) / 宮崎湖処子(著)
抜いた刀を肩に担(かつ)ぎ、ヒラリと庭へ躍り出たが、見れば庭園(にわ)の四方八方蟻(あり)の這い出る隙間もなく鎧武者(よろいむしゃ)ヒシヒシと取り囲み、高張り提灯(ぢょうちん)、松火(まつ)、篝火(かがりび)、真昼の如く焔(も)え光り
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
この噂の虚実は別として、この新聞を見た若い美術家の中には椿岳という画家はどんな豪い芸術家であったろうと好奇心を焔(も)やしたものもまた決して少なくないだろう。
焔(も)えるような女の手であった。
銅銭会事変 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)